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1.歪んだ愛を持った婚約者から逃げた落ちこぼれ令嬢

こちらは短編小説で書いたものと内容がほぼ同じです。

次が続きのお話です。

あの話を偶然聞かなかったら、おそらく屋敷から逃げ出すことなんてなかったと思う。


私は、ギルア公爵家の次期公爵とされていたアレス様の婚約者だった。赤い髪に綺麗な緑の瞳を持っていて優しいお方だった。

成人を気に、ギルア公爵家へ嫁いでいったものの

嫁いだ後は苦痛しかなかった。

嫁いだ当初からアレス様の妹であるレティシアや沢山の侍女達から、何故か嫌われて陰湿な嫌がらせを受けるようになっていた。

わざと聞こえるように陰口を言ったり、食事に生ゴミを入れたり時には食事を1日持ってこない時もあったり、階段から突き飛ばされたりなど毎日、嫌がらせをされて精神がボロボロになる日々。

けれど、逃げることができなかった。

両親にも蔑ろにされていた私には帰る場所も居場所もない。

だからギルア公爵家に居続けるしかなかった。

でも、それ以上に私は…

『ティアナ、僕は君のことがこの世で1番大切なんだ。』

精神がボロボロになろうとも、耐えれたのはアレス様のおかげだった。侍女に嫌われて嫌がらせを受けていたとしてもアレス様はたった一人の味方だった。

アレス様が前に言っていたことを思い出して私は頑張って耐えようとしていた。

そうすれば、いつかはレティシアや侍女達も私のことを嫌いじゃなくなるかもしれないとあの時は思っていた。

ある日のこと、アレス様に会いにいこうと部屋から出ようとした時侍女2人の会話を耳にしてしまった。

『アレス様って悪趣味な人よねぇ?』

『ねぇ?あんなに、ティアナ様に優しくしておいて

裏で私達にティアナ様に嫌がらせをするよう命じるなんてね。』

(え…?)

最初は嘘だと思っていた。あのアレス様が裏でそんなこと命じるはずがない。アレス様はそんな悪いお方じゃないと。

『アレス様ってティアナ様が傷つく姿を見るのが好きなんですって?傷ついて悲しむ顔で僕に泣きついてほしいって。』

『すごい悪いお方。もし、逃げ出したらどうするのかしら?』

『逃げ出すことなんてできないらしいわよ?ティアナ様帰る場所も居場所もないんだから。』

『ふうん。』

話を聞けば聞くほど、嘘だと否定したものが全て本当のことになっていく。今までのことを考えれば、嫁いだ当初から侍女達から嫌われて嫌がらせを受けていた、嫁ぐ前にアレス様がそう命じたのなら辻褄が合う。

「…っ」

さすがに気づいてしまった。

嫌がらせなど全てアレス様が命じていたものだった。

私の傷ついた姿が見たいがために…。

(ずっと、信じていたのに…っ)

子爵家にいた時は家族から蔑ろにされて、心の支えとなって愛していた人にも既に裏切られて…。

最初から…いや、生まれた時から私に味方なんて1人もいなかった。

絶望して私の心は完全に壊れて

その後の記憶は曖昧だけれどただ食事も取らず誰とも会わず、ひたすらこの屋敷から出ていくことを考えた。

ここにいて、歪んだ愛情を持ったあの人の傍にいるくらいなら田舎で平民になって生きていく方が断然いいと思って。

趣味でやっていたものだけれど、香水作りを利用して

私は徹夜で気配消しの効果がある花を元にした香水を完成させた。


香水を開発させた次の日の深夜

私はせっせと荷造りをして、平民の服装に着替えローブを羽織る。

この屋敷から出て田舎で平穏に暮らすために

荷造りと言ってもお金とかお金になりそうな服とかアクセサリーや開発した香水のみだけど。

今日は運良くアレス様はいない。遠征の交流会で屋敷を留守にしていた。そして何より深夜は、レティシアも眠っているし侍女たちもいない。

残るのは屋敷の見張りをしている人達のみ。

公爵家の見張りをしつつも私を厳重に見張っているから

逃げ出すにはこの気配消しの効果のある香水を使うしかない。

効果はアレス様が帰ってくるまで。

それまでに色んな手段を使って田舎まで目指す。

(よし、香水を身体中に振りまこう。)

香水を振りまき、身体中に染みつかせる。

ふんわりとした甘い匂いが漂う。

これで今、私は気配消しの効果がついていて誰にもバレることはない。

「…よし、この屋敷から出ていこう。」

一応、婚約者であったアレス様に手紙を書いて後は

婚約破棄の書類も置いておこう。

きっとアレス様はビリビリに破るだろうから私ではないと破れない魔法もかけておこう。

簡潔的な手紙を書き、婚約破棄の書類を机に置いて

私は部屋を後にして、正面の扉から屋敷に出た。

見張りも香水の効果のおかげで私がいるのに気づいておらず屋敷の外にも問題もなく突破した。

これでようやく屋敷から出て田舎まで向かって平穏な生活を送ることができると思っていたのも束の間で…。


「クソっ…どこ行きやがった!?」

「俺はあっちを探してくるからお前はそっちを探せ!」

「分かった!」

気配消しの効果のある香水をつけているはずなのに、何故か

見張りに屋敷から出ていることがバレてしまった。

屋敷の外から出て、大して時間が経っていないぐらいの時に後ろから見張りが追ってきて私は城下町まで息が切れてしまうほど走り、物陰に隠れて息を殺す。

(どうか、違う場所へ行って頂戴…)

そう願っていたけれどやはりダメだった。

私が隠れていた物陰に見張りの1人がやってきて

私を獲物を見つけたかのように見てきて

「見つけたぞ!」

ともう一人の見張りを呼び出した。

まずい。このままでは捕まって屋敷にまた戻されてしまってまた同じことの繰り返し。

そんなの嫌よ。あの場所に戻ってまたあんな苦痛な日々を送るなんて…。

そう思って私はまた走り出した。

「おい!待て!」

そう言われても私は無視して逃げ出す。

けれど見張りだ。私よりも体力はあるのだからさっきよりもすぐに追いつく。

人があまりいない路地に逃げたけれど目の前には見張りがどんどん近づいてくる。

「…っ」

近づいてくると同時に後退っているとコツンと誰かと当たる。

(人だわ…!)

おそらく身長の高さの様子では男の人。

ローブを被っていて姿は見えないけれど

今は…どうか無礼を許してください。

私はローブの裾をギュッと掴んで

息を吸って大きな声で

「助けてください!!」

そう言うと、私の方を振り向く。

「助けてください…?」

彼は見張りの1人に目を見やる。

「こいつと何か関係があるのか?」

「そうなんですよ。こんな時間帯にいきなり外に飛び出すもんですから探してたんですよ!」

白昼堂々と嘘を述べる見張り。

「そう言っているらしいが、本当か?」

私の方へ向きそう言うけれど私は首を強く振った。

そうしていると今捕まえられると思ったのか見張りが私の方に走って手を伸ばしてきた。

「…っ!」

避けようとしたけれどすぐに、助けを求めた方が見張りの手を強く掴んだ。

「嫌がっているだろう。その様子ではどうやら先程の発言は嘘のようだな。何か理由があってこいつを追っていたな?」

相当な力で手を掴んでいるのか、見張りは顔をしかめる。けれど反論する。

「お前には関係ない…!とにかくその方を連れ戻さなければならないんだ!その方をこちらに渡さなければギルア公爵に報告するぞ!」

アレス様の名前を使って脅したけれど、なんの反応も示さず

「ほう…最後まで抗うとは…手荒な真似はしたくなかったがどうやら。」

余裕があるような雰囲気を出しつつ

見張りをギロりと睨みつけ

「"失せろ"」

と威圧感のある声で見張りに言うと

「なっ…なんだ…体が…うっ…」

見張りはパタリとそのまま地面に倒れ込んだ。

何もしていないというのに突然。

(助かったわ…。)

気絶したといえど、何とか私はあの屋敷に戻らずに済んだ。

安心した途端、体の力が抜けてぐらりと倒れそうになる。食事をまともにとっていなかったからか、頭がクラクラして視界がぼんやりとしていく。

そんな私を優しく支えてくれた彼。

支えてくれた時に、偶然彼の羽織っていたローブのフードが脱げ、おぼろげに彼の素顔が見えた。

月明かりで輝きなびいている息を呑むほどに美しい銀色の長い髪に、血のように赤い瞳。

支えてくれた時に微かに感じる温もりやとても優しい声。

おかしいな…。

怖い思いもすぐに薄れて、何故か安心して…

____どうしてこんなにも懐かしく感じてしまうの?

そう思いながら私は意識を手放した。

















読んでくださりありがとうございます!


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