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バーシリーズ

寿命

作者: 通りすがり

カウンター席しかないバーでオカルトが好きな常連客の3人がインテリジェンスデザインの真偽について話をしていたが、議論が尽きたのか、みな次第に口数が少なくなってきた。

そんな時、常連客の一人、40代くらいで身なりの良いスーツ姿、皆から”先生”と呼ばれる男が、知り合いの男性から不思議な力の話を聞いた、と話を始めた。



その男性の名前は宮下といいます。

彼には、人の寿命の残り日数が見えるという不思議な力がありました。相手の顔をじっと見つめると、頭の中に数字が浮かんでくるのです。それが、その人の命が尽きるまでの日数でした。

幼い頃、宮下さんはその数字の意味を理解していませんでした。しかし、数字の小さい人が次々と亡くなっていくのを目の当たりにし、その残酷な意味に気づいてしまいました。以来、彼はその力を恐れ、できるだけ人の顔を見ないようにして生きてきました。

やがて大人になり家庭を持った宮下さんでしたが、不況の煽りを受け家計は苦しくなる一方でした。本業の傍ら、何か簡単にできるアルバイトはないかと考えた末、彼は自身の不思議な力を使って商売をすることを思いつきます。幸いなことに、彼の力は写真に写った顔に対しても有効だったため、インターネットで寿命を占うという商売を始めました。

彼の占いは驚くほど正確だったため、数年も経つ頃には「ネットでよく当たる占い」として評判になっていました。

ちなみに、宮下さんはご自身の寿命も知っていました。生活する上で、自分の顔を見ないわけにはいかないからです。しかし、彼の寿命は50年ほど先だったため、特に気にはしていなかったそうです。

アルバイトは順調でした。ですが、多くの人の寿命を見ていくうちに、宮下さんは奇妙な事実に気づき始めます。それは、自分と寿命が尽きる日が同じという人が、少なからず存在することでした。偶然にしては、その人数があまりにも多かったのです。

さらに不可解なことに、宮下さんはこれまで占ってきた誰一人として、ご自身の寿命が尽きる年月日よりも先に寿命がある人がいないことにも気づきました。

そこで彼は恐ろしい想像に至ります。もしかしたら、自分の寿命が尽きる日、それは人類が滅亡する日なのではないだろうか、と。だからこそ、その日に寿命が尽きる人が大勢いて、それ以降まで生きる人がいないのではないか、と考えたのです。



「それっていつなの?」

常連の中で一番若い、皆から「坊ちゃん」と呼ばれる男が不安そうな表情を浮かべながら訊いた。

「もしかして、今の話を信じてるの?」

常連客の一人、派手な赤色の服を着けた年齢不詳で皆から「ミセス」と呼ばれる女が、揶揄うように笑った。

「別に信じてる訳ではないけど、人類滅亡と言われれば気になるし、やっぱり」

坊ちゃんが不貞腐れたように言うのを見て、先生は微笑を浮かべた。

「この話は所謂、終末論と言えなくもないです。当然信じるか信じないかは個人の自由ですが、直接いつ何時に世界が終わるっていう直接的な予言よりは、なんとも不気味な感じはしますよね」

ミセスは口をへの字に曲げながら肩を竦めた。

「先生には悪いけど、私は予言とかはあまり信じる気にはならないのよね。どうしても眉に唾つけて聞いちゃう」

先生は相変わらず微笑みを湛えながら、ミセスを見て頷いた。

「それでいいと思いますよ。ただ、実はこの話には少しおまけがあるのですが、それが面白いのですよ」



恐怖に駆られた宮下さんは、もう人の寿命を占うのはやめようかと思い始めていました。

そんな矢先、ある一人の男性の寿命を占う機会がありました。しかし、その結果は意外なものでした。その男性の寿命は、宮下さんご自身の寿命が尽きる日よりも、さらに先だったのです。

初めて自分より長く生きる人を見つけ、宮下さんは安堵しました。人類は滅亡するわけではなかったのです。ですが、それも束の間、彼は別の問題に気づきます。その男性の寿命が尽きる日を計算してみると、なんと今から150年も先のことでした。男性は現在28歳だと言っていました。ならば、彼は178歳まで生きるということなのでしょうか。

宮下さんは、その男性の寿命を占ったのを最後に、もう二度と人の寿命を見ようとはしませんでした。

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