こうして、そう死ぬか。
ダダダダダダッ!
「「グエァア」」
銃声と呻き声だけが空っぽのビルに響く。
少女の目は微かに希望に燃えていた。
随分と風通しが良くなったこの都市は再び活気を取り戻す事はないだろう。期待はしてはならないと……彼女は分かっている。それでも……
目標を打ち殺し、ひたすらに一掃する。
ーーーーーーーーーッッッ
朝焼けが目に差し込み、朝が訪れた事を知る。薄暗く青かった世界は、徐々に色を取り戻し始め………外のゾンビが活動を停止した。まるで石像の様に……。
「ふぅ…………」
全てのゾンビが床に伏せた時、ただ溜め息を一つする姿は仕事終わりの人の様で…どこか悟っていた。
「弾は………あとこれだけ」
さて、明日はどう生きようか。
ひとりぼっちの、されど希望の呟きである。
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ーーーーー
ゾンビに噛まれた人は…ゾンビになる。そういうのはゾンビ系の映画ではもはや常識になっていた。それはあくまで仮想の話であった訳だが……
「噛まれ………た………」
現実となっていた。
やっと全てのゾンビを殺して、歩き出そうとした大人の視線が集まる。その目は穢らわしいものを見る様で……いや、もう彼らにとっては穢れそのものであったのだろう。顔を顰め、そして目的地へと歩き出す。
足取りが早い。わざとだろう。
だってもう切り捨てるべき存在なのだから。
「……待って…!!………ねぇ、待って!!」
片足を引き摺りながら必死に着いていくが追いつかない、追いつけない、離れていく…。
置いてかないでと、少女は叫んだ。誰も振り返らない。
日の光がビル群の隙間から差し込み始めて、希望の朝がやってくる。それでも、少女は失望の表情を変えなかった。希望の朝?いや、希望だった朝なのだ。やがて少女はゾンビになる。
そして少女は悟った。着いていく意味がない。…ゾンビになった時、どうせ殺されるのだから。
『もういい。疲れた。』
ふと周りを見た時、道の傍らに誰かが生活していた跡があるのに気がついた。
行く当てがないので、徐にそこまで歩いていく。
着くまでに、ゾンビになる時は苦しいのだろうか、ゾンビになった時に意識はあるのだろうか、なんて考えた。…直に分かる。
ベットがあった。……寝ようかと考え、そして寝転ぶ。
日の下ではまるで石像の様に動かないゾンビは夜に活動を始める。戦わなくてはならない、逃げなくてはならない。そして白昼は生きるためのあらゆる作業。まともに寝る暇がなかったのだ。だから非常に眠たい。
「……ここが、私の死に場所なの………かな…………」
せめて寝ている間にゾンビになってしまえば、苦しくないのではないか。そんな淡い期待で眠りにつく。
静かに………涙を流した。
ーーーーそして目が覚めた。覚めてしまった。
「…………ゾンビになってない」
ゾンビになるまでにそんなに時間が掛かるものなのだろうか?いや、ない。初期症状すら出ていないのは、流石に異常である。
ただ、分かった事が一つ。
「生きて良いんだ生きて良いんだ生きて良いんだ!私は生きてる!」
生きれるってこと。
そして、気がついた事が一つ。
「「「「グエァァァァァァァァ!!!!!」」」」
既に日が沈んでいたってこと。
「………ぁ」
希望、絶望、嗚呼、もう嫌だ。やっぱり生きたくない。
…………………………それでもやはり
「死にたくもない!!!!!!!!!!!!!!!!」
少女は叫んだ!抵抗の雄叫びをここに。
ベットから飛び降り、足が痛いのを思いだす。
「…………ック!」
食いしばれ。
机の上に銃が転がっている。アサルトライフルなんてものは持った事がない。それでも少女は持ち上げる。大人が扱っていた姿を思い出す。
そうこんな感じで…………
引き金に手をかけた少女の目は光が宿っていた。
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