9話 夢
夢を見ていた。
溢れんばかりの緑と、美しい水面。
その傍らに、美しい少女がたっている。
少女は振り返ると、俺に向かって笑いかけた。
場面が切り替わる。
荒廃した世界の片隅。
俺は、巨大なクレーターの中にいた。
その中心に、美しい毛並みの白猫が横になっている。
俺が近づくと、猫は待っていたかのように身を起こす。
その体は大きく、俺とほぼ変わらない。
猫はついて来いと言わんばかりにこちらを一瞥すると、クレーターの外側に向かって歩き始めた。
「ーーーーーーーー」
猫に呼びかけようとするが、俺の口から出たのはかすれた呼吸音だけだった。
世界丸ごとミュートになったようだ。
仕方なく猫を追いかける。
猫は、俺がクレーターから出たことを確認すると歩みを止める。
俺が猫に近づくと、猫は俺に向かって前足を差し出す。
俺は迷わずその手を取った。
瞬間、世界は先ほどの光あふれる光景に舞い戻る。
目の前のクレーターだった窪みには美しく澄んだ湖が広がり、荒廃した大地は緑に覆われる。
そして巨大な猫は、少女へと姿を変えたのだった。
ーーーーー
『おはよう、随分とねぼすけさんだね。』
目が覚めると、目の前にトラスの顔が映る。
「トラス...?」
...?トラスの顔がやけに近い。
それに、頭の下のこの感触は......
「!?」
寝ぼけていた意識が完全に覚醒する。
俺は、全力でその場から飛びのいた。
膝枕じゃねーか!!!
『いきなり飛びのくとは失礼な。寝心地はいかがだったかな?』
トラスはそういうと立ち上がり、俺のほうへ歩み寄る。
『ほら立って。あんまり余裕がないんだ。』
「それはどういう...」
『こう見えても、だいぶ無理をしてるんだよ。』
「そんなむりに膝枕なんてしなくても...」
『ち、違うから!時間がないって話!!!』
「じゃあ膝枕は...」
『いいから!時間がないんだってば!!』
トラスは強引に話題をそらした。
よく見ると耳の先が少し赤くなっている。
お前も恥ずかしいんじゃねぇか!
これ以上つつくと藪蛇になりそうなので、話題を合わせる。
「わるいわるい。それで、時間がないってのは?」
『もう......。私の神性は、ほぼすべてきみに流れた。今私に残っているのは、私の存在を保つ最低限だけ。肉体を維持するのもそろそろ限界が近い。だから、きみを人階に送り返さないと。』
「なっ...お前それ、やべーんじゃ...」
『大丈夫。存在が消えることはないし、人階まで送るくらいは大したことじゃないから。』
トラスが手を前に伸ばと、その先に魔法陣が現れた。
『乗って。君が魔法を発動した直後に送るから。怪しまれないように、それっぽいリアクションしてね。私もあとで合流するから。それじゃ!』
言われるがまま魔法陣に乗ると、トラスは矢継ぎ早に言い残し、魔法陣を発動する。
『降階!』
そして、視界が光に染められた。
いいよね、ヒロインの膝枕。夢が詰まってるよね。