29話 龍と虎と決別と
ガイア、トラス視点での回となっています。時系列、視点ブレ頻発して申し訳ありません。
1/13 会話を追加。違和感あれば教えてください
酒瓶ももう空になりかけたころ。
眼下に広がるススキ林を、白い影が閃光のように切り裂いた。
影はそのまま塔の外壁を駆け上り、空高く舞い上がった。
月と重なり、月光がその白い毛並みを妖しく照らし上げる。
影を見上げたガイアはニヤリと笑い、口を開いた。
それが当たり前のように、端的に、フレンドリーに、自然に。
「よぉトラス。こんなところで何してんだ?クルトたちが心配するぜ」
白い影——トラスが、音もなく静かに着地する。
既にそこに獣の面影はなく、そこには可憐な少女が佇んでいた。
「こんなところで何を...?それはこっちのセリフだよ。ガイア」
そういったトラスの声は、凍えるほど冷たく平坦だった。
だが、ガイアは一切気にしていないとばかりに言葉を続ける。
「今日は月が良く見えるからな。ちょっと眺めのいい場所で晩酌してただけだぜ」
「嘘だね」
だが、トラスがぴしゃりと言葉を被せた。
そして、怒りと困惑のにじむ声で冷たく問いかける。
「ガイア、消える気なんだ?」
「まさか。俺が消えるわけねぇだろ」
ガイアはひょうひょうとその追及を否定するが、トラスはその反応を見て確信に変わったように顔をゆがめる。
「やっぱり...そうなんだ」
「だから俺が消えるわけねぇって...」
「ガイアはごまかしたい時ほどそうやって強気に振る舞うよね。そのくらい知ってるよ」
ついに泣き出しそうになりながら、トラスは声を震わせる。
その言葉で、ガイアはついに観念したように酒瓶を置いて立ち上がった。
「あーあー、わーったよ。全く、お前の泣き虫は一体いつになったら治るんだ?」
「うるさい……」
ガイアはそのままトラスに歩み寄り、頭をガシガシと撫でる。
トラスはガイアの胸に顔をうずめ、されるがままに撫でられていた。
「なでんなよぉ...」
トラスの弱弱しい声がこぼれる。
しばらくそうしていたが、やがてトラスがガイアを押しのけた。
ガイアは小さく息を吐くと、諭すような声色で語り始めた。
「トラス、よく聞けよ。お前に託すからな」
「消えるのはダメ。許さない」
「明日、あいつらにすべて託す。それが俺の最後の仕事だ」
「ダメ」
トラスがそういってガイアを睨みつけるが、ガイアはトラスの言葉に一切耳を貸すことなく喋り続ける。
「俺と同じように異階に逃れ、隠れている神がいる。そいつらを頼れ。お前らが最後の希望だ。俺たちにはその手伝いしかできない」
「ダメ。ガイアも一緒に来るの」
トラスは駄々をこねる子供のように、ガイアの言葉を全て否定する。
大粒の涙がボロボロと零れ落ち、足元を濡らしていた。
「お前がいいだしたんだぜ。必ず希望を見つけるからって。俺らはそれを信じて待った。次はお前が俺らを信じる番だ」
ガイアの声に優しさと厳しさが同時に含まれる。
「……っでも!」
「トラス」
トラスの痛々しい叫びを、ガイアが遮る。
ガイアはトラスの顔をまっすぐ見つめると、トラスの頬を伝う涙をすくい上げると、小さく呟く。
「頼んだぞ……トラス」
「うん…」
その声で、トラスの中で何かが変わったのだろう。
ガイアに諭され、トラスは弱弱しくうなずいた。
だが、その拳は固く握られて赤く染まり、小刻みに震えていた。
「俺はお前たちに希望を託す。お前は希望を最後まで届けて見せろ。俺らが間違っていなかったと証明して見せろ」
「うん...わかった......」
「それでいい」
トラスはしゃくり上げながらもガイアをまっすぐ見つめ、今度は力強くうなずいた。
大粒の涙の奥で、覚悟がその瞳に宿っていた。
ガイアがトラスの震える肩を抱きしめる。
「あとは任せたからな、トラス」
「ガイアの...バカ......ありがと.........」
その言葉が、トラスとガイアが交わした最後の会話だった。
二人は互いに無言でうなずくと、くるりと背を向けあう。
秋口の冷えた風がひとつ、ススキ畑を撫でるように吹き抜けた。
次の瞬間、月夜に一閃の雷撃が落ちる。
轟音とともに閃光が走り抜け、あたりが白く明滅した。
振り返れば、トラスのいた場所にはすでに何もおらず、ただ雷撃の焦げ跡だけがひっそりと残されていた。
「あいかわらずなやつだ...。さて...しっかり気合入れねぇとな......」
ガイアのつぶやくような独り言が、夜空に虚しく吸い込まれていった。




