27話 依頼
ギルドホームの喧騒から隔絶された静寂が部屋に張り詰める。
机に置かれた依頼書に書かれているランクAの文字。
とても「簡単な依頼」には思えない。
警戒した俺とは正反対に、クルトは目を輝かせて机に置かれた依頼書を凝視していた。
こいつまさか、やる気じゃないだろうな……
「君たちにやってもらいたい依頼じゃ。誰も受けたがらず、長いこと放置されていてのぉ……
あまりに受注されないんで、ギルド職員で軽く偵察に行かせたりもしたのじゃが、あまり深くまでは調べられんくてなぁ……
結局、こうして君たちにお願いしてるのじゃ。どうか受けてはくれんかのぉ……」
俺の質問を受け、爺さんが申し訳なさそうな表情で説明する。
事情は分かるが、どう考えても危険が伴うだろう。
そう考え、クルトにやめておくべきだと言おうとした瞬間。
「やります!」
「あ、おい」
ギルドにクルトの声が響いた。
俺の制止も間に合わない。
彼女は、こういった表情にはとても弱かった……戦闘狂の血が騒いだだけかもしれないが。
「おぉ、引き受けてくれるか!」
クルトの言葉で、爺さんの表情がみるみる明るくなっていく。
まずい、このままでは本当に断れなくなってしまう。
「ちょっっっっと失礼!」
慌てて立ち上がると、強引にクルトを引きずり部屋の隅に移動する。
お偉い様の前でとんでもない無礼かもしれないが、俺はギルド所属でもないし、この際気にしない。
「バカ!あんなのどう考えたって危険に決まってるだろ!なに受けようとしてるんだ!」
「私とバラなら大丈夫だって」
ギルマスに聞こえないよう、小声でクルトにやめるよう説得する。
だが、彼女の中であの依頼を受けることは決定しているようだった。
いいじゃんかとでもいいたげに口をとがらせている。
「あのなぁ…そもそもこんな依頼時間がかかるに決まってるだろ。帰りが遅くなってトラスたちにばれたら面倒だぞ」
「う、それは困る…」
トラスたちにばれるかもという脅しはなかなか効いたようで、悩みながら黙り込んでしまった。
だが、しばらくすると何か決心したかのようにこちらに向き直った。
「でも、おじいちゃん困ってそうだし。やっぱ受けるよ。バレたらその時考えればいいや」
それでもやはり受けるというのなら仕方がない。
無理に止めるよりも一緒に行ったほうがいいだろう。
どうせここで俺が断ってもあとで一人で行くに決まっている。
それならまだ見える範囲で守れるようにしたほうがいい。
「はぁぁぁぁ……わかった。どうせダメって言っても行くんだろ」
「やった!」
クルトの歓声が小さく響く。
クルトはそのまま満面の笑みを浮かべながら席に戻ると、依頼書を手に取った。
「この依頼、私たちで受けます」
クルトの言葉を聞いた爺さんは静かに俺のほうに目線を向けると、改めて俺の意思も確認する。
「バライム君も、それで構わないかね?」
「先ほどは失礼しました。この依頼、受けようと思います」
俺が受ける気でいることが分かると、爺さんはこれで一仕事終えたとばかりに深々とソファーにもたれかかった。小さくソファのきしむ音が鳴る。
「感謝する。ギルドでも可能な限りのサポートはしよう。おい、オルカ」
爺さんはそういうと、そばに控えていたお姉さんを呼んだ。
お姉さんはコクリとうなずくと、一歩前に進み出て、深々と頭を下げた。
「オルカと申します。今回の依頼、案内役としてご一緒させていただきます」
彼女は顔をあげると、短く切りそろえられた髪をすくい耳もとへ流し、こちらを見る。
吸い込まれそうな紺碧の瞳と髪。
揺れる髪が窓から差し込む日差しに反射して、夏の海のように青く輝いた。
「よろしくお願いします…」
その吸い込まれるような美しさに気圧され、気の抜けた返事を返した。
「バライム様、依頼の協力感謝いたします。ギルド員登録の手続きがありますので、こちらにお越しください」
そのままオルカに連れられ、一階に降りた。
冒険者登録と聞いて少しわくわくしたが、名前と職を記入するだけの簡単なものだった。
もっと、水晶に手をかざしたらステータスばん!周囲ざわ!天才だ!みたいなのを想像していたが、全くそんなことはなかった。
拍子抜けだが、ゲーム世界でもないのにステータスなんてものがあるほうがおかしいだろうと思い直す。
「ありがとうございます。登録完了しました」
なんてことを考えながらボーっとしているとオルカに声を掛けられた。
どうやら冒険者登録の手続きが完了したようだ。
これで例の依頼を受ける準備が整った。
「じゃあ、明日の昼にギルドホーム前に集合で」
「かしこまりました。お待ちしております」
オルカと明日の予定を確認し、家に帰る。
今日はいろいろあったから、熟睡できそうだ……




