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26話 冒険者 

  森からの帰り道。

 もうすぐ家に着くというところでクルトが「あ」と声を上げて立ち止まった。


「どうした?」

「ギルドに寄らないといけないんだった。私行ってくるから、バラは先に帰っててよ」


 クルトにそう言われ、あぁ…と返事をしかけたところで、ふと思いなおす。

 ギルド、行ってみたいな。

 異世界転生の定番だしな。


「それ、俺もついて行っていいか?」

「うぇ?ま、まぁいいけど……」

「けど?」


 だが、クルトの返事はどうも歯切れが悪い。

 俺が詰め寄ると、クルトは観念したかのようにため息をついた。


「その…私は冒険者たちの間では孤高のソロ冒険者ってことになってて、だから、バラが急に私についてきたら変な噂になっちゃうかもと思って……」


 ごにょごにょと言葉を並べると、クルトは恥ずかしそうにそっぽを向いた。

 よく見れば、髪の隙間からのぞいた耳が少し赤く染まっている。

 たとえそれがただの通り名のようなものでも、さすがに「孤高の冒険者」なんて厨二ワードを自称するのは恥ずかしかったようだ。

 その反応が面白くて、自然と笑いが漏れる。


「あ、ちょっと!笑うな!」

「いや、ごめん......ふふっ」

「もう!」


 クルトは軽く俺を蹴り飛ばし、さっさと行ってしまった。

 そしてギルドまでの道中、俺はもっぱらクルトの機嫌回復に努めることになったのだった。



 ――――――



「ついたよ!ここがギルドホーム!どう?すごいでしょ」


 クルトが自慢げに胸をはる。

 眼前には、一つのそこそこ巨大な建物がそびえ立っていた。


「あぁ。早く中にはいろう」

「さめてるなあ...もっと驚いてくれてもいいんだよ?」


 期待通りのリアクションではなかったようだ。

 あいにく地球のビル群を見慣れた俺にとっては君らほどの衝撃にはならなかったよ。すまんね。


 ドアを開けると、チリーンという小気味いい音とともに、無数の視線が突き刺さる。

 実力を吟味するもの、ねめつけてくるもの、一瞬だけ目をやりすぐに興味をなくすものなどなど...

 まさに冒険者の定番といった感じだ。

 そしてその中の一人、いかにもチンピラといった風貌の男が声をあげた。


「おいおい孤高の女神様よぉ、そのひょろそうなのはなにものだ?てめぇにツレがいるなんて知らなかったぜ?」


 チンピラは見下したような声でこちらに歩みより、そのまま俺のほうに近づくと肩に手をかけてきた。

 どちらが上でどちらが下か、今までもこうして自分よりも弱そうな相手を威圧してきたことが容易に想像できるような妙に慣れた動作だ。


「てめえみたいなひょろっちい雑魚はここには不釣り合いだぜ。さっさと消えな」


 チンピラはそれだけ言うと、さっさとギルドを後にしてしまった。


「ふぅ、THE・定番って感じの輩だったな......ヒェッ」


 チンピラが完全に見えなくなったのを確認して、クルトのほうに目をやる。

 クルトさんは、それはもうお怒りだった。

 どす黒いオーラが見えるかと思うほど、それはもうご立腹だった......


 .........。


「クルト、おさえておさえて。ほーら、大好きな肉まんだぞ~...」

「ニクマン...タベル...チンピラ...コロス...」

「ほれ食え!」

「むが!?」


 数分後、売店で買った肉まんをクルトの口に放り込み、どうにか正気を戻すことに成功した。


「落ち着いたか?」

「落ち着いたけどさ...あいつはゼッタイ後でシメル」


 あいかわらず物騒なフレーズが飛び出すクルトに苦笑しながら、俺も肉まんをほおばる。

 幸い、俺の少ない手持ちでも買える程度の値段だったので助かった。

 これが何もなかったらと思うと気が遠くなりそうだ。

 クルトは一度マジギレすると抑えるのに苦労するのだ。

 とはいえ、俺のために怒ってくれたのだから感謝している。


「俺じゃいやな気持ちになって終わりだったからな。クルトが怒ってくれてちょっとスカッとしたよ」

「別に...バラは凄いのにあんなふうに言われて腹が立っただけだし......」


 クルトはいまだ怒りが冷めないのか、肉まんをほおばりながらぶつぶつとつぶやいていた。


「まぁ、嫌なことは忘れてさ。完了報告するんだろ?」

「わかった。してくる」

「あぁ。ここで待ってる」

「ダメ。ついてきて」


 クルトに引きずられながら受付に入る。

 クルトが入った瞬間、受付職員全体の空気が変わったのを肌で感じた。

 どこかそわそわしたような、落ち着きのない空気が流れる。

 何か特別な事情があるのかと考えていると、クルトが話を切り出した。


「A級冒険者のクルトです。依頼番号No12.西方の森の下位魔狼討伐、全て完了しました」

「!?......受理...します」


 その言葉と同時に、受付内が一層ざわめきたつ。


「クルトさん、依頼完了お疲れさまでした......お疲れのところ申し訳ありませんが、ギルマスからお話があるそうですので、このまま少々お待ちいただけませんか」

「?...わかった」


 受付嬢のお姉さんは素早い手つきで書類の処理を終わらせると、小走りでその場を後にしてしまった。

 そしてその数分後、また小走りで戻ってきた。

 肩で息をしているのを見るに、相当焦って準備したのだろう。


「お待たせしました。ご案内します」


 お姉さんがクルトについてくるよう目配せする。

 俺は冒険者ですらないのだから、クルトだけで来いということだろう。

 だが、そんなことがクルトに通用するはずもなかった。


「待って。バラも一緒じゃなきゃいかないから」

「ですが...」


 クルトの言葉に困り顔のお姉さんと、俺。


「いや、俺は別にいいから...」

「いくの。わかった?」


 有無を言わせぬその圧に俺もお姉さんも従うほかなく。

 結局部外者の俺までがギルマスと対面することになってしまった。




「失礼します。ギルマス、クルト様とそのお連れ様がお見えです」

「連れ?...まぁ構わぬ。入れ」


 部屋に入ると、膨大な書類の山の中からハゲ頭に白髭を蓄えた好々爺が姿を現した。

 穏やかないでたちだが、その立ち振る舞いには隙がない。

 彼もかつて戦いの中にいた歴戦の猛者であることがうかがえた。


「初めましてかの。わしの名はベルモンド。ギルドマスターなぞというものをやらせてもらっているが、何ら才覚もないダダのおいぼれじゃ。そうかたくならんで構わんよ」


 ギルマスは俺らにソファーに腰かけるよう促すと、自分もむかいのソファーに腰かけた。


「さて...クルト君、そちが西方の魔狼討伐を完了させたと言っておったが、本当かの?」

「はい。私だけでなく、バラの力も借りましたが」

「あの森は無限に魔狼が湧き続ける死の領域じゃったが...それを全て討伐した、と?」

「そういっているつもりですが」

「なに、ちょっと確認させてもろうただけじゃ。そう熱くなるな」


 ギルマスはそういうと、いつの間にやら用意されていた茶をすする。


 この爺さん、なかなか老獪らしい。

 クルトの沸点を一目でみぬいたようだ。


「して、そちらの少年...君の名は?」

「え?あ、バライムといいます」


 ふいに話を振られ、おもわず声がつかえてしまった。


「ふむ。バライム君、君が討伐依頼を手伝ったと言っていたが、君は実際どれくらい強いのかね?冒険者登録をするでもなく、騎士のような職に就くでもない。全くの出自不明というのが少し気になっての」

「手伝ったと言っても、僕は一部の魔狼を引き受けただけですから。まだほんの子供ですし、ギルマスにおみせするような実力は持ち合わせておりませんよ」

「そう謙遜するでない。だが、そういうのなら無理に追及もせぬ」


 適当にはぐらかすが、爺さんの瞳の奥には確信にも似た光がともっているかのようだった。

 あまり向こうのペースで話されるとよくないかもしれない。


「それで、ギルマスからのお呼び出しと聞いていたのですが、どのようなご用件なのでしょうか」

「ん?おお、そうじゃったな。すっかり忘れておったわ」


 この場の主導権を握ろうと俺のほうから本題にきりこんだのだが、ぬらりとかわされてしまう。


「本来はクルト君一人に頼むつもりじゃったのじゃが、バライム君にも頼んでもよいかのう」

「内容によりますが...」

「なに、簡単な依頼じゃ。あの西方の森を制圧できたふたりならば何ら苦労もするまいて」


 爺さんは笑みを崩すことなくそういうと、一枚の茶色く変色した紙きれを取り出した。


【No,3/最果ての塔の調査、および周囲の魔物の掃討。Aランク】


 それは、長いこと誰からも見向きもされずにいたであろう古びた依頼書だった。







この世界は魔法の属性が髪色に反映される謎仕様ですが、体毛ってどうなるんでしょうね。あとハゲとか老化とか。



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