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25話 魔狼討伐

 初の下位魔狼との戦いから一週間が経過した。

 あれからというもの、俺とクルトは毎日のように森に通っている。

 午前の修行を終えたら森に向かい、疲れるまで戦っては撤退し、翌日また森に向かう。

 そんな生活を続けていた。


 クルト曰く、下位魔狼は本来俺たちが苦戦するほどの魔物ではない。

 狡猾で力が強く十匹前後の群れを成して行動する、中型の魔物。

 しかし、単体の強さは大したことなく、いまの俺たちならば十匹倒すのに一分もかからないだろうと言っていた。


 しかし、あの森の下位魔狼はその数が異常だ。

 どれだけ倒そうと、無限に湧き出て襲い掛かってくる。

 こんなことは初めてだが、魔物の種類自体は確かに下位魔狼で間違いはなく、依頼の取り消しもできそうにないとボヤいていた。

 普通に依頼失敗としてやめてしまえばいいと思うが、それはプライドとメンツが許さないそうだ。


「なあクルトさんや」

「なに?早くしないと置いていっちゃうよ」

「今日も行くの?たまには休まない?」


 その行為が完全に無駄だとは知りつつも、一縷の望みに賭けて休養を提案してみる。

 だが、返ってきた言葉は予想通りの出撃命令だった。


「当たり前でしょ!今日こそ全滅させてやるんだから!」


 そういって、クルトはフンスと鼻息を鳴らす。

 どうやら、今日も休みはとれなさそうだ。



 ___



 森につくと、待っていましたとばかりに下位魔狼の群れが押し寄せる。

 大量にはびこる魔狼の群れで、周囲一帯が黒く染まっていた。

 しかし、今日はいつもと少し様子が変わっている気がする。

 だが、その違和感の正体を突き止める暇もなく、魔狼との戦闘が始まった。


 迫りくる魔狼をさばきながら、違和感の正体を見つけ出そうと周囲を観察する。


 違和感の正体はなんだ?

 魔狼の数か?

 それとも色?

 もしくは形?


 いや、魔狼は数こそ多いが特に変化は感じられない。

 ならば風景か?

 いや、木々の形、土の感触、空の色、すべていつもと変わらない。


 ただの思い過ごしだったかもしれない。

 今日はいつも以上に気乗りしなかったから、何となく感じ方が変わっていただけだろう。

 そうに違いない。


 そう思い直し、広範囲魔法の構築に集中しようとした時だった。


 ふわっとそよ風が肌を撫でた。

 いつもだったら何も気にしない、ただのそよ風。

 その風が、妙に鮮明に感じられた。


 風上のほうを注視する。

 木々で遮られていて、先まで見通せない。


 何となくその先が気になったので、魔狼を倒しながら、ゆっくりとそちらに向かう。

 歩いていくうちに木々がだんだんと細くなり、ついに視界が開けた。


 そこには、枯れて倒れ伏した草木と、凍り付いている湖が広がっていた。

 そしてその湖の中心に、煌々と光を放つ水晶が浮かんでいる。


「なっ......」


 その異様な光景に、思わず声が漏れる。

 さらに近くで観察しようと、一歩踏み出した時だった。

 水晶がより一層輝いた。


 まぶしさで目がくらむ。

 視界が戻ると、目の前の光景が一変していた。


 凍り付いた湖だったはずのその場所は、真っ黒な魔狼に埋め尽くされていたのだ。

 驚いている暇もなく、魔狼たちが襲い掛かってきた。


 距離が近すぎて魔法の構築が間に合わない。


 体制を立て直すため、いったん緊急離脱しようと、力を込めた時だった。

 また水晶が光ったかと思うと、さらに魔狼が出現し、四方を魔狼が埋めつくした。


 ここまでくれば、さすがに俺でも気が付く。

 あの水晶が無限に魔狼を呼び出しているのだ。


 魔狼の攻撃を躱しつつ、空高く飛び上がる。

 水晶と魔狼の大群を眼下に捕らえ、小手調べのように光中級魔法を放つ。


「……シャインアロウ!」


 迫り来る魔狼を掠め、水晶を光の矢が貫いた。

 すると、水晶はパリンと音をたてて崩壊する。

 それと同時に、巨大な氷の湖を埋め尽くしていた大量の魔狼たちが、忽然と姿を消してしまった。


「へ......?」


 一人ポツンと取り残された俺は、現状を理解することができず、しばらく茫然とその場に立ち尽くしていた。


「おーい!バラー!どこにいるのー?」


 しばらくそうしていると、クルトが俺を呼ぶ声が聞こえた。


「バラ、こんなところにいた」


 そういって、クルトが駆け寄ってきた。

 そのまま俺に覆いかぶさるように抱き着いてくる。

 先ほどまで魔狼と戦っていたからか、少し土と汗の香りがした。


「ちょ…」


 どうしたんだよ。


 そう言いかけた時だった。


「よかった、無事で。魔狼が急に跡形もなく消滅するし、気が付いたらバラがいないし、すごい心配したんだから」


 クルトが、心底安心したような声でつぶやいた。

 その言葉で、体から緊張が抜けていく。

 同時に、ひどい脱力感と倦怠感に見舞われた。


 めまいがした思うと、視界が黒く点滅する。

 抱き着くクルトの重みに耐え切れず、俺は体の制御を手放した。

 勢いよく地面に倒れこむ。


「わっ!」


 俺に全体重を預けていたクルトも、俺と同時に倒れることになった。

 湖畔に寝転がり、互いに顔を見合わせる。


「よくわかんないけど……討伐完了……で、いいのかな?」

「うん…まぁ…いいんじゃないかな」

「そっか……なんかどっと疲れたな」

「ふふ、そうだね」


 張り詰めていた緊張がほぐれ、自然と笑いがこぼれる。


「ははっ……」

「あはは」

「ははははは」



 ―――しばらく笑いあった後、また互いを見合う。



「クルト、帰ろう」

「うん」


 そうして、俺とクルトは森を離れた。




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