24話 冒険
ドゴォォォォォォン......
のどかな昼前のひと時を、轟音が切り裂いた。
「あっははは!バラ、だいぶついてこれるようになったね!」
快活な笑い声をあげながら、轟音の元凶が山を走り抜ける。
「っく...っはあ!クソっ!」
彼女の行く手には、一人の少年が満身創痍で逃げ回っていた。
少年は最後の力を振り絞り、腕を振り上げる。
すると、少年と少女の間に10メートルを超える巨大な壁が姿を現した。
「わぉ!でも甘いよ!」
そういうと、彼女はその手に握られた巨大な大槌を振るった。
再びドゴォォォォォォンと轟音が響き渡り、壁はただの土くれへと姿を変える。
「おらぁぁぁ!」
次の瞬間、壁の奥から少女めがけて炎の虎が襲い掛かった。
少女は避け切れず、魔法に飲み込まれる。
「やった!」
「残念」
勝ちを確信した少年の耳元で、少女がそっとささやいた。
「なんで...!」
「そこまで!クルトの勝ち!」
師の掛け声で二人は動きを止める。
虎に飲み込まれたはずの少女の大槌は、少年の首筋をとらえていた。
ーーーーーー
「くっそ~、今日こそは獲ったと思ったのに...」
布団に寝転がりながら、先ほどの試合を思い出す。
新魔法まで投入したのにも関わらず、結果はいつも通りの敗北だった。
目覚めてから約半年。
クルト、トラス、ガイアさんの協力で、俺は劇的な成長を遂げていた。
枝のようにしわがれた腕や身体は、ムキムキとは言わないまでも、身体強化なしでもそれなりに動けるまでに回復した。
暴発していた魔法も制御のコツをつかみ、トラスの師事のもと様々な魔法を習得した。
それでも、クルトとの模擬戦をはじめて3か月の間、一度も彼女に勝てずにいた。
最近はだいぶ惜しいところまで行くようになったが、それでもやはり最後に立っているのはいつも彼女だ。
とはいえ、クルトは10年もの間修行していたのに比べれば、俺はたったの半年だ。
まだまだ勝てなくても当然だろう。
落ち込むことはない。
俺だって強くなっているのだ。
気楽にいこうじゃないか。
ーーーーー
その日の午後。
俺はクルトに呼び出され、街の近くの森に来ていた。
「それで、お願いしたいことってなんなんだ?いい加減教えてくれよ」
「まぁまぁ、もうちょっと待ってよ」
先ほどから何度聞いても返事はもう少し、もう少しの一点張りだ。
こんな場所まで呼び出して、いったい何のつもりなんだろうか。
「よし、ここだ」
そういって、クルトが立ち止まった。
どうやら目的の場所にたどり着いたようだ。
しかし、周囲を見渡しても特に変わったところはなく、木々が立ち並んでいるだけだった。
「なぁクルト、こんな場所に何が...」
何があるんだ?
そう言いかけた瞬間、過激な殺意が身体中に突き刺さった。
「来たよ!バラ、サポート頼むね!」
「は!?」
すわ何事かと身構える。
俺が警戒態勢に入ったのを確認したクルトは大槌を構え、正面を見据えた。
正面をよく見れば、大量の黒い影が木々の隙間を縫うようにこちらに迫ってくる。
その陰の正体は、真っ黒な毛皮の狼のようだった。
瞬時に身体強化のレベルを引き上げ、魔法を構築する。
敵の第一線がクルトに迫った瞬間、その魔法を解き放った。
「龍之怒号!」
魔法はクルトの横をかすめるように通り過ぎ、周囲の木々もろとも狼を吹き飛ばした。
同時にクルトもまるで重戦車のような勢いで群れに突撃する。
俺もそれに続き、群れに突っ込む。
そうして、魔法と返り血の飛び交う乱戦へと発展していった。
拳に炎と氷を纏わせ、狼を殴り倒す。
同時にマナを練り上げ、炎虎で群れを焼き尽くす。
木々を足場に、狼の攻撃を避け続ける。
足場にした木々は、俺が飛びのくと同時に狼たちの強靭な顎にかみ砕かれている。
殴る、殴る、殴る。
殴られた狼は、氷漬けになるか燃え尽きて灰なるかのどちらかの運命をたどっている。
戦闘中常に何かしら発動させている魔法は、森ごと破壊しつくさん勢いで狼もろとも吹き飛ばしていた。
殴り疲れれば逃げながら魔法を連打し、魔法がオーバーヒートしそうになればまた殴り倒す。
そうして体力を温存しながら、迫りくる狼を蹂躙し続けた。
狼たちの死骸が次々と増えていく。
しかし、その数が減ることは一向になく、倒しても倒しても次々と増援が現れる。
終わりのない戦いが続き、2時間ほど戦ったところで、先にクルトが限界を迎えた。
「バラ、無理!撤退!」
その声を受けて、すべての魔法構築を取りやめ、身体強化のレベルを引き上げる。
そして、狼たちの数十倍はあろうかという速さで群れの隙間をかいくぐり、空高く飛び上がった。
ーーーーー
「それで、今のは?」
安全を確認してから、クルトに詰め寄る。
クルトはばつが悪そうにこちらを見ると、ぽつぽつと話し始めた。
「今のは下位魔狼っていう魔物で...えっと......一人じゃキツイからバラに手伝ってもらおうと思い...ました.…..」
「はい。なんでそんな魔物を?」
そう聞くと、クルトはますますばつが悪そうな顔になる。
「言わなきゃダメ...?」
「はい。ちゃんと説明して」
「はい......実は私、トラスたちには内緒で冒険者をやってて、面白そうだと思って討伐依頼を受けたんだけど、一人じゃなかなか倒しきれなくて...バラなら集団戦は既に私より強そうだし、もしかしたらいけないかな~と、思いまして...ハイ......その、ごめんなさい...」
何のことはない。
要は、ただ親に内緒で遊んでいただけだった。
ちょっと命がけの遊びだが、クルトはその辺のラインはわきまえているほうだし、自身の力を過信したりもしていない。
今回がちょっと想定外だっただけだ。
それならば、トラスたちに報告するのも少しかわいそうに思えた。
「わかった。別にトラスたちに報告したりしないし、もう怒ってないから」
「ほんと!?」
そういうと、トラスが跳ね起きる。
希望を見つけたかのように、目に光が戻った。
わかりやすいやつだ。
「でも、次からは先に相談してくれよ、心配だしびっくりする」
「わかった!」
「それじゃ、帰るか」
「おー!」
そうして、ひとまずは帰路についたのだった。
この後悲劇が起こるとも知らずに...とかではないです、多分。




