23話 約束と副作用
「もう、まったくもう!」
とりあえず毛布をはおり、ベッドの上に正座する。
クルトは大変お怒りのようだ。
ここは素早い対応が求められる。
「ごめんなさい」
俺は即座に日本の伝統的謝罪、秘技『DOGEZA』を披露した。
ベッドの上なので微妙に頭が高いが。
「頭上げてよ、別にそんな怒ってるわけじゃないからさ」
そういわれて、頭を上げる。
クルトは困ったような顔でこちらを見ていた。
「ちょっと待ってね、いま服つくるから」
「つくる?」
そういうとクルトはさっと手を振った。
すると、桜吹雪が舞い、真っ白の服が現れた。
「うわ!?」
「ほら、これ着て」
驚く俺とは対照的に、クルトは何でもないかのように俺にそれを手渡す。
「いまのは...?」
「私の魔法。ほら、ぼーっとしてないで早く着てよね」
そう言ってクルトは後ろを向いた。
魔法のことはとても気になるが、この世界ならそういうこともあるだろうと無理やり納得し、クルトから受け取った服に袖を通す。
さらさらとした肌触りは、まるで絹のようだ。
「着れた?たサイズとか大丈夫?」
「あぁ、ぴったりだ」
「うん、似合ってるね」
クルトはこちらに向き直ると、頭から指先までじっくりと観察して、満足げにうなずいた。
そして、いやに真剣な顔でこちらを見つめてくる。
「ねぇ、バラ。これからは私が守るから。だから、トラスについていこうとするのはやめて」
「え...急に何言って...」
「トラスは私が代わりに助けるから。だから、バラはここで安全に暮らして」
「クルト、それはできn...」
「私は!もうバラにいなくなって欲しくない!危険な目にあって欲しくないの!
だからたくさん修行して強くなった。バラを守れるように!
だからお願い、もうトラスについていくのはやめて!」
トラスは俺の答えを遮って、涙を流しながら叫んだ。
嗚咽を漏らしながら俯く彼女の手をよく見ると、いたるところに傷や豆があり、とても少女の手とは思えないものだった。
俺が眠っていた間、ずっと修行していたのだろう。
彼女の手には、日々の努力がにじみ出ていた。
「ごめん、心配かけて。でも俺は大丈夫だから」
それでも、俺の答えは変わらない。
「どうして?私が弱いから?頼りないから?ならもっと修行して強くなるから…」
「違うよ。俺はただ、トラスを守りたい。クルトを守りたいんだ。だから俺はここで止まる訳にはいかない。クルトがそうしたいと願ったように、俺も2人を守りたいんだよ」
そう言うと、クルトはハッとしたように顔を上げた。
「そっか。わかった。でもお願い、絶対に死なないでね」
「大丈夫。俺は死んだりしない。まぁ、もし死にそうになったら、その時はクルトが守ってくれよ」
「うん、絶対守る」
クルトはそう言って腫れた目をこすり、力強く頷いた。
ーーーーー
「ただいま~。クルト、バライムはどんな感じ~?」
しばらくクルトを慰めていると、トラスが気の抜けた声をあげながら帰ってきた。
「ぁ...トラス、おかえり」
「うん、ただいま。バライムは...って、もうマスターしたのか」
トラスは俺のほうを見ると、なぜか少し呆れたような感心したような口調でそういった。
「初めて魔法を使ったときから思っていたけど、ほんとバライムの魔法のセンスには脱帽するよ。身体強化も初級魔法も、普通の人間は何年もかけて習得するものなんだよ?」
そういえば、俺が魔法を使ったときの母様の喜びようは凄かったな。
しかし、その割にクルトは俺がすぐに身体強化を使えるようになっても、喜びはしても驚いてはいなかったようだが...
そう思い、クルトのほうに目をやる。
まるで今までそのことを忘れていたかのような表情だ。
「そうだった」
どうやら本当に忘れていたらしい。
そんなに期待されても、俺はそこまで優秀な人間ではないのだが...
「まぁ、早く動けるようになるに越したことはないか。それじゃバライム、いろいろと調べるからこっち来て」
トラスはそういうと、玄関のほうに歩いていく。
俺とクルトもその後を追って外に出る。
太陽がさんさんと照り付け、そよ風が吹き抜ける。
久しぶりの外は、心地のいい快晴だった。
「それじゃ、ちょっと光初級魔法を使ってみてよ」
「光初級魔法だな。了解」
体内のマナを意識し、手のひらに集める。
そして、いつかの母様の魔法を思い出しながら魔法を発動した。
「フラッシュ!」
魔法を発動した瞬間、身体強化で体中に満ちた魔力が濁流のようにうねりながら身体中を駆け巡る。
手のひらからは際限なく魔力が吸い出され、俺が発動した魔法は、かつて襲撃者を一瞬ひるませただけの魔法と同じものとは思えないほどの光を発して周囲を真っ白に染め上げた。
「雪雫之盾!」
同時に、トラスの魔法が俺とトラスたちを包み込む。
光が収まると、周囲の草木は焼け焦げ、俺たちと家だけが丘の上にポツンとたっていた。
「なんだ...これ...?」
「なに...これ...」
俺とクルトは、驚きのあまり目を見開いて固まってしまった。
「いやー、すごいねこれは。まさかここまでとは」
トラスだけがこうなることがわかっていたかのように、陽気な声で笑う。
「トラス、どういうことだ?俺が今使ったのは光初級魔法のはずだ」
「そうだよ、それで間違いない。ただ、その威力が強かっただけだ」
トラスの言うことが理解できない。
光初級魔法は、せいぜい一瞬相手を怯ませる程度の魔法のはずだ。
だが、今のは明らかに殺傷力があった。
トラスが防いでくれなければ、俺もクルトも周囲の草木と同じく丸焦げになっていただろう。
「簡単に言えば、長い間眠っていた後遺症みたいなものだよ。この11年間、バライムは全くマナを排出していない。取り込むだけ取り込んで体内にため込んでしまった。
もちろん、普通なら器がマナに耐え切れず崩壊したはずだ。だけど、バライムの器は元から規格外の大きさなことに加えて、私の神性が混じりあったことでとても頑丈になっている。
結果的に、バライムが魔法を使えば、11年分の膨大なマナを動かすことになる。そのマナの流れが、制御を振り切って魔法に上乗せされたんだ」
つまり、魔法を制御できなくて爆発した、ということか。
あれ?魔法を発動するたびに暴発するのなら、俺は今後魔法を使えないのではないだろうか?
「なぁトラス、それって、俺は一生魔法を使えないってことか?」
「まぁこのままじゃまず不可能だろうね」
そんな...
「そんなに絶望した顔しないでよ。このままじゃ、っていったでしょ?ちゃんと私が制御の仕方も教えてあげるからさ、一緒にがんばろ」
「そういうことなら、頑張るしかないな。よろしくな、トラス」
「うん!」
そういって、トラスは俺に手を差し伸べた。




