18話 諦め
「死ねぇ!」
襲撃者が剣を振り下ろす。
「させない!!!」
しかし、振り下ろされた剣は俺の首に届くことなく、目の前で勢いを失った。
「バライム!無事!?」
「トラス!!」
トラス!来てくれた!
トラスは人の姿に戻っている。
見ると、剣はトラスの腕の前で障壁のようなものに阻まれて止まっていた。
「誰だ貴mp!?」
襲撃者は、質問を最後まで言い切ることなく力尽きた。
「うるさいな、君がバライムを殺そうとしたゴミか...この程度も耐えられないくせによくもバライムを...」
そうつぶやくと、トラスはこちらに振り返る。
「バライム、無事でよかった...。あと、一応クルトちゃんも...」
一応って...
「時間も力ももうない。逃げるよ!」
トラスが矢継ぎ早に指示を飛ばす。
「まてよ、逃げるったってどこに!父様も母様ももう...」
「いいから!ここにいたらみんな殺されちゃう!」
目の前の脅威が去り、少しだけ平静を取り戻す。
しかし、見えてきたのはもうどうしようもない悲惨な現実だけだった。
父様も母様も殺され、頼れる人ももうない。
どうにかここを乗り越え、逃げきることができたとしても、待っているのはどうしようもない現実だけなのだ。
それならばもういっそ...。
「殺されちゃう、か...。それもいいかもな...」
「なっ...バライム...」
トラスが泣きそうな顔で俺を見る。
「もう、一人になっちゃったし。もう、どうだって...」
俺がそう呟いたとき、胸に小さな痛みが走った。
「バラのバカ!」
「バラのバカ!」
「バラのバカ!」
「バラのバカ!」
「バラのバカ!」
「クル...ト...?」
「バラのバカ!死にたいなんて言わないで!生きることを諦めないで!」
クルトが泣きながら俺の胸をたたいていた。
その拳は小さくて、あまりにか弱い。
今にも消えてしまいそうなほど弱い拳なのに、胸はどうしようもないほどに痛かった。
「バライム。死にたいなんて言わないでよ。君は一人じゃない。私も、クルトちゃんだっているじゃないか。私は君を絶対に一人にしないから...だから、死にたいなんて言わないでよ...」
トラスが、後ろから俺とクルトを包み込むように腕を広げる。
「バラ...私もいるから。一人じゃないよ...だから、生きて...」
一人じゃない...か。
そうだ、俺は一人じゃない。
トラスがいる。
クルトのことも守り通さないといけない。
俺は、こんなところで死ねない!
「わかった。ごめんクルト、死にたいとか言って...」
「絶対に許してあげない!バラはちゃんと生きて!」
「わかったよ。ごめんな」
「全く。親友を泣かせるなんて、バライムはまったく...」
「トラスも。ごめん。俺は絶対に死なないから。だから...」
「しょうがないやつだな、君は。いいよ、許してあげる。ちゃんと世界救ってよね?」
「ああ。ありがとうな、相棒」
「相棒って...」
「いやか?」
「そんなわけないだろ!ほら、立ち直ったなら早く行くよ、相棒!」
トラスに促され立ち上がる。
確か、南の森に禁足の洞といわれている洞窟があったはずだ。
以前父様に狩りに連れて行ってもらったときに教えてもらった場所だ。
洞窟に隠れてやり過ごせるかもしれない。
「南の森の洞窟に向かう。そこなら追手を撒けるかもしれない」
「了解」
「わかった」
「よし、いくぞ」
まずは、屋敷内の襲撃者に見つからないように...
廊下に人がいないことを確認する。
「よし」
窓から、裏庭の細道に降りる。
細道を抜ければ、調理場のゴミ捨て場から外に出られる。
よし、順調だ。この調子ならうまく逃げ切れるかもしれない