17話 崩壊
「それでは、始めましょう」
母様の声で皆がグラスを軽く上げる。
今日は大勢を呼んでのパーティーではなく、あくまでトリス家とソケリア家の親睦パーティーなのであまり大仰な挨拶はしない。
家族パーティー的なものだ。
伯爵や伯爵夫人が母様にあいさつに行く。
ああやって夫婦がそろっているところを見ると、父様と母様が少しかわいそうだな。
父様は最近王都のごたごたで、ほとんど家には帰ってこない。
最後に顔を見たのは3か月前になる。
「バラ?寂しそうな顔してる」
おっと、クルトに悟られてしまった。
クルトは敏い子だ。
せっかくのパーティーで俺が落ち込んでいたら、クルトも察してつまらなくなってしまうだろう。
なにか明るい話題はないか...
「大丈夫。そういえばクルト、僕昨日初めて魔法使えたんだ!」
「ほんと!?すごいバラ!」
「正直あんまり実感はないんだけどね...」
「そうなの?でもすごいよ!おめでとうバラ!」
うん、クルトは素直でいい子だな。
悟られずに済んだようだ。
そのあとは最近あったことやおいしい料理の話等、それとない話題が続く。
そうして、パーティーも半ばに差し掛かった時のことだった。
『バライム!襲撃だ!殺意を持った奴らが屋敷に侵入した!隠れて!』
突然、トラスから叫ぶような念話が届いた。
『は!?襲撃!?どういうことだ!?』
俺は状況が把握できず、トラスに聞き返す。
『いいから、早く隠れて!殺されちゃう!!』
『わかった、隠れればいいんだな!?』
『早く!!!』
トラスの悲鳴のような警告を信じ、クルトを無理やりテーブルの下に押し込む。
「バラ!?どうしたの!?」
「いいから!静かに!」
俺がクルトの口を押えた瞬間、広間の窓ガラスが割れる音が響いた。
「ーーー!」
クルトが何か叫ぼうとするが、絶対にこの手を離すことはできない。
今叫べば、俺もクルトも間違いなく発見されるだろう。
「な、なんだ貴様ら!」
伯爵の怒号、母様と伯爵夫人の絶叫が響き渡る。
しまった、クルトと隠れるのに夢中で、母様たちに情報を伝え忘れた。
カチャ...と、メイドたちが武器を構える音が聞こえる。
しかし次の瞬間、ドサッという音とともに、広間に静寂が広がった。
は...?
「ちっ、念のためにガスを撒いておいて正解だったぜ。まさかメイドたちまで武装しているとは...さすが”元”魔法団長様のお屋敷だな」
ガス!?まずい、早く息を...
「おい、口より手を動かせ」
「はいはい...」
襲撃者の会話が聞こえる。
そして...
ドスッという音が聞こえ、俺たちのもとまで液体が流れてきた。
思わず体が震える。
これは血だ。
誰かが刺されたのだ。
次々にドスッという音が聞こえ、広間は赤く染まっていった。
「あなた...たちは...必ず...グレップが...」
母様の声が聞こえる。
「グレップ?あぁ、”元”魔法団長のことか?そいつならもうこの世にはいないぜ。ついさっき処刑されたからなぁ!」
「そん...な...」
そして、母様もまた、目から光を失った。
父様が...処刑...?
襲撃者...?
どうして...?
母様は...
「おい、余計な事喋ってんじゃねぇ。まだガキが2人いたはずだ。屋敷内しらみつぶしに探し出せ!」
まずい、ここにいてはすぐにばれる。早く逃げないと...
...どこへ?
もう父様も母様も、ヤウラ達もいないのに...?
どうして...?
視界が絶望に埋め尽くされる。
もう、どうなったって...
『バライム!バライム!』
そのとき、頭の中にトラスの声が響いた。
同時に、隠れていたテーブルが破壊される。
見つかった。
もうだめだ、助からない。
「ーーー!ーーー!」
クルトが声にならない悲鳴を上げる。
「見つけたぜクソガキ。背が低いからガスを吸わずに済んだってとこか?ガスで眠っていれば何も感じることなく死ねたのに、運の悪いやつらだ。じゃあな!」
襲撃者が剣を振り上げる。
『お願い、生きて!』
その時、トラスの言葉が脳に響いた。
まだだ。まだ死ねない!
俺はとっさに目をつむった。
これが、この世界で唯一大人に対抗できる必殺技だ。
「光初級魔法ゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!」
世界が光に満たされる。
「グァ!?!?」
襲撃者が光にやられよろめく。
「いまだ!クルト!逃げよう!」
俺はとっさにクルトの手を引き、ここから逃げようとする。
しかし、そこまでだった。
「クソガキィ!!」
襲撃者はすぐに回復し、剣を振り下ろす。
やはりただの初級魔法では、ほんの一瞬時間を稼ぐことしかできない。
こんな一瞬しか...
再び、絶望が襲う。
そして、襲撃者の剣は俺めがけて加速する。
あぁ、俺はここで死ぬんだ。
今度こそ無理だ...
「させない!!!」
剣が俺の首に届く直前、トラスの声が赤く染まった広間に木霊した。
襲撃者は大体5人くらいで、全員マスク的なので顔隠してます。なんで目くらまし食らったかって?...目まではカバーしてなかったんじゃないすかね?シランケド