16話 クルト
夕方、トリス家の紋章を掲げた馬車が屋敷に前に到着した。
「レモニア様、本日はお招きいただき、誠にありがとうございます」
「トリス伯爵、本日はよくお越しくださいました」
伯爵は馬車から降りると帽子をとり、母様に軽く礼をする。
伯爵の髪は深い緑色だ。
その時、トリス家の馬車から緑の塊が飛び出した。
俺は塊の正体に気づき、思わず笑みがこぼれる。
「バラ!久しぶり!」
「クルト!久しぶり!元気にしてた?」
「うん!バラも元気だった?」
塊の正体=クルトは俺のほうに一目散に駆け寄ってくると、俺に飛びついた。
俺は勢いに負け、思わずしりもちをつく。
「ちょ、クルト、苦しい」
首が...首が閉まる...早く腕をほどいて...
クルトは、俺のことなどお構いなしではしゃいでいる。
よほど久しぶりに会えたのがうれしいのだろう。
...苦しいしぬぅ!
「クルト...クルト...!」
「ん?...ああ、ごめんごめん。バラも元気そうでよかった」
クルトはようやく気付き、腕を離す。
あぶなかった、感動の再開が地獄の殺人現場になるところだった...
「はっはっは、相変わらずクルトとバラ君は仲がいいな」
伯爵はそんな様子を見て笑っている。
助けてくれてもよかったんですよ?
「相変わらずクルトは元気だね...」
「だって、久しぶりにバラにあえたから、うれしくてつい...ごめんね?」
「大丈夫だよ。ほら、早くたたないとせっかくのドレスが汚れちゃうよ」
「うん!」
そういって、クルトが立ち上がる。
クルトの髪も伯爵と一緒の緑だが、クルトのほうが明るい色で、夕日に照らされてエメラルドのように輝いていた。
「それでは伯爵、お部屋までご案内しますわ」
母様がそういうと、伯爵たちはトグリの案内で控室に向かった。
俺も立ち上がり、一度自分の部屋に戻る。
『バライム、あの子誰?』
『うお、びっくりした。なんだトラス、見てたのか?』
『ばっちり見てたよ。何さ、女の子に抱き着かれてニヤニヤしちゃって。変態。ロリコン』
『ニヤニヤなんてしてないって...あの子が今朝言ってたクルトだよ。久しぶりに会えたから向こうのテンションが振り切れてただけだ。俺は抱き着こうなんて...』
『はいはいわかりました~』
なんなんだ、クルトの話をするたびに拗ねるなんて...
全くこいつの感情が読めん。なんでこんなに怒っているんだ?
『今朝からどうしたんだよトラス。クルトはただの友達だって言ってるだろ』
『うるさいなぁ、バライムはあの子とよろしくやってなよ』
『あのなぁ...何度も言うが、クルトはあくまでも友達で...』
『わかったってば。ほら、パーティーあるんでしょ。早く行きなよ』
『あ、おい!トラス!』
トラスはそういうと窓から近くの木へと飛び移り、そのまま屋根へと登って行ってしまった。
本当になんなんだ、トラスのやつ...
俺が茫然としていると、扉を突き破らん勢いでクルトが飛び込んできた。
「バラ!パーティーの準備できたよね!行くよ!」
「あ、ああ...」
そして俺は、茫然としたままクルトに引きずられ、大広間へと向かったのだった...
伯爵の髪色はイナズマ〇レブンの壁山くらいの色です。佇まいとかのイメージはもっとダンディな感じですが...