13話 哀愁
「失礼いたします。バラ様、起きておられますか?朝食が...」
そういいながらヤウラが扉を開ける。
まずい、早く猫をどこかに…
「バラ様?」
「うん、おはようヤウラ...」
間に合わなかったあああああ
「バラ様、後ろに何か隠していませんか?」
「い、いやなにも?」
バレるのはやすぎ!?
『おいトラス、お前早く隠れろよ』
『そんなこと言ったって動いたらバレちゃうよ!』
『じゃあどうするのさ』
『えーーーーーっと』
黙り込んでしまった。
とりあえず猫を隠すためシーツを手繰り寄せる。
「えーと、ヤウラ、これは違くって...」
「あぁ。バラ様、私は何も見ていませんし知りません。大丈夫です。皆小さい頃はやってしまうものですよ」
「へ?」
すると、ヤウラが何か納得したように首を振った。
しめた。
どうやらヤウラは俺がおねしょを隠したがっていると誤解したようだ。
『おい、おいトラス、今のうちに…』
俺がヤウラから気をそらした瞬間。
「うにゃ!?」
猫の鳴き声が聞こえた。
見ると、ヤウラにがっちりと首根っこをつかまれて猫がうなだれていた。
『私神なのに...神なのに...こんな...』
『その、なんだ。ドンマイ?』
『にゃはは...』
首根っこをつかまれたトラスはなんというか、哀愁がすごかった。
トラスの哀愁漂う姿を見ていると、ヤウラが俺に質問する。
「バラ様、この猫は?」
困った。どうしたら丸く収まるだろうか...
「ええとヤウラ。その猫は昨日の夜に寒そうにしているところを見つけて、部屋に入れてあげたんだ。そしたら、なんか懐かれちゃって...」
「さようですか。それはよかったですね」
お、好感触か?
このままもう一押し...
「では、捨ててまいります」
「にゃ!?」
「ちょちょちょ待ってヤウラ!」
「バラ様、たとえ懐いていても、素性も知れぬ猫を屋敷に置いておくわけにはいきません」
『にゃはは...捨て猫...捨て猫の神...』
トラスがどんどんやつれていく。
...正直ちょっとおもろい。
じゃなくて、どうにかトラスを屋敷においてもらう方法を...
あ、これなら...
けどなあ...プライドが...
いや、いい。やってやろう。
『トラス、ちょっとあっち向いて耳ふさいでくれる?』
『動けない...』
『じゃあ今からのこと忘れてね。思い出したらポイだから』
『わかったから、助けてほしい…』
しゃーない、やってやりますか。
スッー...
「やだやだやだ!この猫ちゃんは大丈夫だもん!猫ちゃんじゃなきゃ嫌だ!やだやだやだやだああああああああああ!」
秘儀、駄々っ子作戦!
4歳だから許される作戦!
どうだ!俺のプライドをかけた作戦は!
「はぁ、仕方がありません。バラ様、奥様の許可が取れたら。ですからね。奥様がお許しにならなければ諦めてくださいね」
「やったあ!ありがとうヤウラ!」
よし、ヤウラ攻略!
駄々っ子作戦は大成功だ。
猫に向かってサムズアップする。
『バライムぅ...』
『大丈夫だから、泣くなって』
そして俺とヤウラ、首根っこをつかまれたまの猫は母様が待つ朝食の席へと向かった。