運命の相手
僕には誰にも言えない秘密がある。
それは幼い頃から未来に自分が結婚する相手の事をずっと知っていたということだ。
今、隣に居る最愛の妻の事を僕は幼い頃から知っていた。
幼稚園も、小学校も、中学校も、高校も、大学も……全てが違ったのに、僕は妻の事をずっと知っていた。
いや、見えていたと言うべきだろうか。
名前さえも知らない妻の幻に心を奪われた僕はいつしか彼女を愛していた。
だからこそ、僕は『本物の妻』を見つけた瞬間に声をかけて言ったのだ。
「僕と結婚してください」
突然の告白に固まっていた妻に僕は尚も言う。
「一目惚れです」
声を出せないままパクパクと口を動かしていた妻は、やがてため息と共に答えた。
「あっ……あなたは……誰です……か?」
思えばここからよくぞ結婚まで持って行けたものだ。
「とっ、とりあえず……友達か…ら?」
妻の言葉に僕は飛び跳ねんばかりに喜んだものだ。
そうして付き合ってみた妻はまるで僕の全てを知っているとでも言えそうなくらいに僕の性格や好みの食べ物、些細な癖までも把握しており、また僕ととても話が合う素敵な女性だった。
幸せな僕の隣で妻もまた幸せそうに過ごしている。
だからこそ、僕は年甲斐もなく今でも信じているのだ。
運命の人は存在する……なんて。
私には誰にも言えない秘密がある。
特に、愛しいほどに純粋な夫には絶対知られてはいけない秘密が。
それは幼い頃に私が一目ぼれしてしまった夫を密かにストーカーをし続けていたということ。
隣町という絶妙な距離のせいで夫と同じ学校に通う事は出来なかったけれど、それでも私は出来る限りの時間を使って彼をこっそり見つめていた。
奥手な私は彼に声をかけることさえ出来なかったのだ。
だからこそ、ある日、彼の姿を見失い呆然としている時に夫から声を掛けられた時は人生が終わったと思った。
「僕と結婚してください!!」
冷汗を滝のように流しながら固まっている私に告げられた突然のプロポーズ。
「一目惚れです!!」
直後、全てを理解した私は出来る限り平静を装いながら言った。
上手く……ここで上手くやり切ればきっと私はとんでもない幸福に満たされると確信をして。
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妻の腹に宿る命を撫でながら夫は幸せそうに言った。
「この子は君に似てほしいなぁ……」
その言葉に妻は微笑みながら答えた。
「私はあなたに似てほしいかな。あなたみたいに純粋な子になってほしいの。絶対。間違っても私に似てほしくない。お願いだから本当にあなたに似てほしい。絶対。お願いだから、本当に」