ジェームス・フー
「小娘一人捕まえれんのか!」
部下の報告に思わず声を荒げた怒号が響き渡り、俺のマッサージをしていた女達が一瞬で怯えの表情に変えてしまう。
祖国の資金とグーレイの技術により月軌道に建造された『軍事衛星チップス』の艦長室に強制的に集められた女達にマッサージさせていたのだが、部下の報告によりせっかくの至福の時間が台無しだ。
「気にするな、続けろ」
女達に再度続ける様にを命じる、最低限の衣服しか着ていない美女は細心の注意を払いながらマッサージを再び始めた。
体に伝わる振動が心地いい。
目も閉じ頭の中に再び意識を向ける。
意識を向けると別の景色が見えだした。
薄暗い事務室、重圧な木製の俺専用の事務机、2対の客用のソファーと机で部屋は狭く感じられる。
月面都市静の海の上空にゲームマスターのメルソレア星人が所有する軍港デルテニの一室だ。
事務机に座るもう1人の俺がピクリと体を震わし客用ソファーに座るタコ型星人に問いかける。
「小娘一人捕まえれんのか?」
もう一度問いかける。
先程は部下の報告により思わず本体で声を出してしまった。
「えろーすんません」
タコ型の知的生命体トロイドル星人は答える。
相変わらず南部訛りが酷く聞き取りづらい。
「見たこと無いモンスターがおったさかいに、一時撤退してきたんですわ」
「言い訳に費やす時間は無いの?
それにこれはグーレイ様から直々の依頼と教えたよな?」
珍しい事なのだが地球の次の支配者でほぼ確定しているグーレイから依頼があった。
女を一人保護しろと。
何故、保護しないといけないのかは知らないし、知ろうとも思わない。
だが、俺は立場上グーレイの依頼は断れない。
何故なら俺を外部の治安維持部隊のトップに据えたのはグーレイだからだ。
「ええ、わかっとりっます、けどな大佐、見たことも無いモンスターがおったさかいに最初の契約金では安すぎやわ」
なんだ、結局金か?それとも?。
「知るか、天の川銀河一頭の良い知的生命体トロイドル星人なんだろ?
それ位は自分達で対処しろ。
出来なければお前達の娘が死ぬだけだ」
お前達の娘は俺の本体のマッサージに励んでいるよ。
タコ星人の体色が一瞬だけ真っ赤になり普段の紫に戻った。
「ケチ臭いのぅ、保護出来たらボーナス弾んでや」
「お前達には相応の金額を払っているはずだが?」
実際に俺の年収ぐらいは貰っているはずだ、特にこんな汚い仕事をする奴はな。
「そもそも何故失敗の報告をあげている?
お前達だけで対処出来かねる懸念があるのか?」
「鋭いでんなー、いや、実はな、保護対象の側にサージェリーが居ったねん」
サージェリー?初めて聞く名だ。
いや、つい昨年まで地球外生命体など実在しているとは思ってもいなかったが、まだまだ知らない種族が居るみたいだ。
「サージェリー?初めて聞く名だな」
「あ、サージェリー知らんのかいな」
「有名処か?」
「知られ出した種族やな、サージェリーは個人の戦闘能力がやたらと高い種族や、ほんで技術レベルもそこそこ高いし、ほんで独自技術がやたらと多い。
弱肉強食のこの世界で手より先に口が出る珍しい種族や。
太陽系の恒星に光学エネルギー生成装置作ってるのもサージェリーの技術らしいで」
「何故サージェリー?他の種族は作らないのか?」
「太陽系に来てる種族ではサージェリーしか出来んのちゃうか?」
「・・・・・ようするにサージェリーが居るから自分達では無理だと言いたいのか?」
「ちゃいまんがな、ワイ等だけでも出来るけどな、保護対象とサージェリーを引き離さすとか目眩ましとかせなあかん、そうなると密かにとか、コソッとするとかは難しいねん。
そうなると大体的にやらなあかんのやけど、そんな事やるには地元の顔役とかに話しせなあかん。
話し合いの席でお土産も無いちゅう訳にはいかんやん」
言いたい事は分かる。
顔役、つまりその土地に根付く半グレやマフィアに金を握らせておかないと後々面倒くさい事になると言うことだ。
これは地球人でも地球外生命体でも一緒と言うことだな。
実際に悩む。
こいつらの言ってるお土産とは結構な金額だろう。
運営のメルソレア星人はケチ臭く金食い虫の治安部隊等には予算を付けたがらない。
治安部隊の台所は常に火の車だ、余分な資金等無い。
なれば有るところから出させればいい。
俺の祖国が喜んで出してくれるだろう。
理由は簡単だ。
俺は元々、祖国の国土安全保障省の、特殊安全保障室に在籍していた。
まぁ、要するに祖国に害が有ると判断された奴を暗殺とか恐喝などで処理するのを生業にしている部署だ。
そんな部署に配属され長年祖国の為に尽くしてきた。
階級など上がらずとも祖国の為にと思い、どんな汚い仕事もしてきた。
だが、祖国は俺を裏切った。
定年間近の俺に最後の仕事だと呼ばれたのは廃棄された科学薬品代工場だった。
厳重に密閉された試験室と銘打たれた部屋に案内されると、頭にはずた袋を被せられた3人の男女が転がされていた。
一目見て分かった妻と子供達だと。
慌てて振り返り出ようとするがドアは硬く閉められビクともしない。
足掻けば足掻く程に息が上がり意識が遠のいていく、必死に堪えながら足掻くが数分もしない内に意識を手放した。
最後に見たのは経過観察するた為に設けられたであろう頑強なガラスで隔たされた部屋でニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる若き直属の上司だった。
散々こき使った元上司の子供になる。
配属当初から衝突したから嫌われている自覚は有った。
エリート街道をひたすら走ってきた彼にはうだつの上がらないロートルは煙たかったのだろうね。
次に意識を取り戻したのは水の中だった。
正確には頭だけを入れた容器の中だ。
頭やら切断された首には様々なパイプが取り付けられていた。
声を出そうとしたが口をモゴモゴと動かすだけだった。
そんな様子を見ていたのは銀色の肌をした生物だった。
銀色の肌、頭は体に比べ大きく眼球も頭に比べやたらとデカい。
何故、頭を支えれているのか分からない細く貧弱な体。
体のラインが分かるほど密着したビニール製らしき服。
そう、皆が想像する生物がいた。
彼等のパソコンらしき物をから言葉が伝わってきた。
「祖国に裏切られた者よ、我等に従うならば奴等に復讐するチャンスをくれてやる」
即答したよ。
条件も聞かずにな。
彼等は何度もうなずき満足げであった。
俺はグーレイに拾われたのだ。
次に気が付けば見知らぬベットに横たわっていた。
鏡を見て一頻り笑った、顔も違えば年齢も違う、若返った肉体、誰が見てもイケメンと呼ばれる顔。
残すは余生を消化するだけだった人生に生きがいをくれたグーレイには感謝しかない。
妻と子供達も生きていた、顔や年齢は俺と違い同じだった。
それから俺は今まで培ってきた人脈、手に入れた情報を駆使してグーレイのシンパを増やしていった。
今では祖国の高官、政治家は俺に逆らえる者は居ない。
皆、すねに傷がある者ばかりだからな。
そんな訳でトロイドル星人に渡す金は祖国に出させればいい。
「次に失敗すればこの俺ジェームス・フーがお前達を殺さなければならない。
気をつけてくれ」
また、一瞬だけ赤くなった。
トロイドル星人は分かりやすい。
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夢と分かる夢ってあるよね。
その日見た夢は夢と分かる夢だった。
さっき、あんな事が在ったからなのか分からないけどね。
夢と分かった理由は簡単よ、昆虫型の異星人メルソレア星人と飲んでた。
まずあり得ないのよね、メルソレア星人ってゲームの運営をしている種族だからなのかも知れないけど、融通が利かない、正論大好き、遊び心が無い。
一言で言えば、相容れない堅物と、言えばいいのかもしれない。
そんな俺がメルソレア星人とサシで飲む訳がない。
「なんやなんや、盛り上がって無いなー」
荻田さんの声が後ろから聞こえてきた。
「遅い!」
メルソレア星人のだみ声が店内に響き渡る。
「悪い悪い、色々とやることあったねん」
座敷に座り込みながら謝るも悪びれた様子は無い。
「で、お前の所の報告書読んだわ、ぶっちゃけマジで言ってる?」
「大真面目だ」
「いつからメルソレア星人は他種族の命を軽んじる政策に変えたんや?
今までの政策と180°転換しとるやん」
「某もそう思っている、我々スィーティは原始知的生命体を保護する立場だったはずだ。
しかし、今回の決定は明らかに地球人の虐殺に繋がる」
「分かっとるやん、じゃあなんで承認した?」
「本国が決めたことに某が拒否など出来る訳が無い。
当初から某に拒否権など持っていないのだから」
「そうか、お前では止めれんか」
「某も今回の決定には反対だ、だが、表だって妨害するわけにもいかん。
何か手は無いのか?」
「いや、簡単やで。
地球人が自分達で戦えるようにしたらええねん」
「簡単に言うがな武器の提供なんぞしてみろスィーティとヒュードラとの代理戦争になるぞ」
「大丈夫や、ワイ等が提供するんはアバターの生成装置とデータクリスタルだけや。
アバター生成はクローン技術ちゅう名前で地球人は出来てる。
データクリスタルは地球人の技術ではリバースエンジニアリングは出来へん。
つか、ヒュードラ以外作れへんやろ」
「アバター生成装置?データクリスタル?まさか、ラストフロンティアを地球人に提供するのか?」
「ラストフロンティアのデバイスはもう提供してるんや問題あるか?」
「問題しか無いと思うが?それに荻田お前の一存で決めれないだろ」
「それも大丈夫や、ちゃんと枢機卿の許可貰ろうて来たで」
「どうやって?報告書渡したの2時間前だぞ、最寄り恒星系まで最低10日掛かるんだぞ」
「そこはヒュードラマジックと思うてくれや。
それよりもダンジョン生成装置『オルガネスト』か。
そんなん使われる地球人は不幸やな。
怨むなら自身の遺伝子を怨んでや」
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