ここどこ?
体中に痛みを感じる。
勢いよく壁に叩きつけられたからな。
頬にヒンヤリとした感触がする。
うん?機械生命体に感触って物はないのだが?
確認しようと目を開けようとするが瞼が重い。
瞼を開けるだけでも労力が要る。
やっと開けた視界は薄い赤い世界だ。
ゲームの瀕死エフェクトじゃない。
世界が薄い赤色に染まったかのようだ。
打ちっ放しのコンクリートが見える。
どうやら通路で倒れているみたいだ。
少し視界を動かすと奥の通路の角で大型の爬虫類が見えた。
荻田さんのような海洋生物特有のツルンとした肌じゃなく爬虫類のゴツゴツとした肌だ。
物影に隠れたり頭を出したりと忙しいそうに口をパクパクと動かしてる。
段々と音が聞き取れるようになってきた。
(あぁ爬虫類さん、何か喋ってる。
なんて言ってる?)
頭を持ち上げ聞き取れるように耳を傾ける。
「花の道、生きてるのは分かったけん頭下げろ!」
忠告通り頭を下げる。
下腹部が思い出したかのように熱くなり強烈に疼き出す。
体がこの状況を楽しんでるかのように。
他の音も聞こえるようになってきた、爬虫類さんの反対側からも声が聞こえ出した。
「花ちゃん、あなたはその化け物達に騙されてるの、サージェリーは地球人の事なんて考えてない。
少し待っててね、騙されてるのを証明するから」
「そんな事言っても俺の半分はサージェリーだよ?お前の言う化け物なんだよ?」
俺は聞き取れない程の小声で呟く。
言葉が終わると同時に頭上を肌を強烈に焼く程の熱量が通り過ぎ、爬虫類さんの側で爆ぜた。
(あれ?爬虫類さんは俺を心配してくれてるのに俺を騙してるのか?サージェリー最近何処かで聞いたような?)
思考が纏まらない。
下腹部の熱量、うずきも最高潮だ。
ズボンのポケットに手を入れ中の機械の遠隔スイッチを押すと下腹部に仕込んだ機械が快感が発生させ一瞬で絶頂に達する。
体を二度、三度痙攣させる。
「こんな体もう嫌だ」
また小声で呟く。
(何が?)
「花、そのままで寝てろ、化け物はすぐにぶっ殺すから」
またも、熱量が通り過ぎ着弾、爆散する。
爬虫類さんがまた顔を出し。
「花の道、リキャストタイムや、今のうちに走れ!」
爬虫類さんが物影から叫ぶ。
自分の意思に反して手足に力を込めてヨロヨロと立ち上がり爬虫類さんに向かって二本の足で歩き始める。
ハイヒールが歩きにくい。
「花ちゃん!」「花!」
背後から悲痛なる声が上がるが、俺は何故か振り返りもせず歩みを止めない。
「人類の敵が!」
耳元で怨嗟の声が聞こえたと同時に背中から腹部に鋭い痛みが走る。
同時にありえぬ快感も走る。
驚き腹部を見ると赤くて細長い板状の何かが生えていた。
理解出来ぬまま膝の力が抜け崩れ落ちる。
視界が急速に狭く暗くなる。
頬にベチャッと生暖かい物が触れ、そこで意識を手放した。
挿された!!
お腹から生えてたのは刀の刃ではなかったか?
挿された!!
補修キットを。
じゃねぇ、生身だから回復キットだろ。
アイテムボックスに回復キットって有ったか?
左のはさみでアイテムボックスの口が開くと右はさみを突っ込み注射器の形状の回復キットを取り出し腹部に勢いよく押し当てる。
バキッと音と共に回復キットが砕け散った。
「は?」
赤色の毒々しい液体が腹の上に撒き散らされた。
混乱に拍車が掛かる。
手足をばたつかせもがくが虚しく空を切る。
視界の片隅に仰向けになり手足をばたつかせている昆虫型のロボットが見えた。
(ん?あれ?あのテントウムシみたいなの?
・・・動きを止めてみる。
見えている昆虫型ロボットも動きを止める。
・・・あれ俺やん。
天井が鏡の様になっており、俺を映し出していた。
じゃぁ先っきのは・・・夢か?)
「はァァァ」
一気に力が抜け虚脱感が体に広がる。
虚脱感と共に平常心も帰ってきた。
どうやらいつの間にか寝落ちしてたみたいだ、色々と可笑しい部分に気づく。
なんやあの夢、笑う、荻田さんが爬虫類になってたわ、それに俺が女性キャラだったわ。
それに戦闘で発情って変態やん。
一頻り笑った。
さて、逆さまのままでは頭に血が上る訳では無いが何時までもこうしているわけにも行かない。
「よっこらせっと」右足と右手を同時に振り子にしてひっくり返る。
「ふぅ」一息付き、周りを見渡せば光源も無いのに室内は意外と明るい。
室内はドーム型、床と天井は鏡面仕上げ、恐らく材質は石。
しかし、異様なのは壁だ。壁一面に扉、扉、扉。
扉が所狭しと並べられている、しかも上下に2段。
多分、飾りの扉だろう。
恐らく何らかの作品なのだろうが芸術の品性の欠片も持っていないから、これがどれだけ素晴らしい作品なのか分からない。
ま、問題なのはそんなことじゃなくて、何故、俺はこんな所にいるのかって事だわ。
先ほどまで荻田さんの船内にいたのに別の場所に居ることが問題。
だって、このゲームに瞬間移動とか移動の為のポータルゲートとかは一切存在しない。
恐らくバグ技。
扉に押し付けられた時に聞こえた声、女性の声に聞こえたけど口調は竜巻だった。
竜巻が何らかのバグ技を使ってこちら側に移動させてきたんだと思う。
さてと、動かずじっとしててもどうしようも無いので適当な扉の前に立つ、どれかが出入り口だろうから。
ドアノブに手をかけ一気に回す。
あ、飾りの扉でも開くんだ。
キィィィと軋む音を立てながら扉を開くと一切の暗闇の世界が扉の向こうに広がっていた。
(いきなり当たりか?)
波の音がする、浜辺か?
カチッと音がすると暗闇なのに浜辺に打ち寄せる波を観ることができる様になった。
あれ?視覚の切り替えは意識しないと切り替え出来ないのに自動で切り替えた?。
頭に疑問符が浮かぶ。
そう言えば、体を動かすのもやたらとスムーズだわ。
そう思うのは理由が在る、機械生命体を動かすのは少しコツがいるから。
行動一つ一つに意識を向け、命令するかのように動かすから。
特に人間の身体構造からかけ離れている者は。
思案にふけっているとピッと電子音で現実に戻された。
視界に2つに重なったサークルが波打ち際辺りに現れた、生体反応だ。
「うわ!、マジか」
独り言が出るほど異様な生物が見える。
一見するとヒラメだが。魚らしい頭、蛇の様にやたらと長い胴体、尻尾には尾ビレ。
ここまではいい、問題は頭部下から尻尾の先までムカデの様な足がびっしりと生えてる事だね。
はっきり言っておぞましいわ。
こんなのデザインして、実装にOKした奴の気がしれない。
このゲームには惑星や衛星のフィールド、ダンジョンに配置されてるモンスターだ。
研究所から逃げたした生物兵器、移民達と一緒に連れてこられ逃げ出した危険な牧畜等、様々な設定のモンスターがいるが、基本的にグロテスクな印象だわ。
お互いの視線が交差する。
それを合図かの様にお互いが行動を起こす。
魚野郎はムカデの様な足を小刻みに動かし一直線に向かって来た、俺は扉を閉めようとするが一瞬で距離を詰められた。
「ぎゃぁぁぁぁ」
「キシャァァァ」
魚野郎くっそ速ぇえ、全力で扉を閉めるが間に合わなかった、グチャッとした音がする、魚野郎の尖った口を扉と扉枠で挟み込む。
体をくねらせ扉をこじ開け様とするが、こちとら伊達に機械生命体だ、力だけは強い、しかも
疲れ知らずだ、魚野郎が諦めるまでずっとこのままで居れば、と思ってたんだがあっさりと打ち砕かれた。
魚野郎がゆっくりと口を開けると、舌らしき物が出てきた。
そして、その舌が上下左右4つに分かれ、そのうちの1本が先端が針の様に鋭くなった。
残り3本が俺を逃がさぬように体や手足に絡みつく。
見えていないはずなのに正確に頭を狙っているように見える。
そして勢いよく頭を貫くつもりなのだろうが何時まで経っても動かない。
「あれ?」
「やっぱり動いとるやんけ、これだからグーレイ製は信用ならんのや」
後ろから聞き覚えの有る声がしたと思ったら体がフワッと浮き上がった。
扉の圧力が無くなり魚野郎がゆっくりと入って来たが、部屋の中央あたりまで浮いて動かされいた俺が凄い勢いで扉にダイレクトアタックを決めさせられた。
グゴンッ!!
音と衝撃は凄まじく魚野郎の胴体が扉に挟まれ千切れる程だった。
魚野郎は頭だけになり口を数回動かした後すぐに事切れた。
俺の衝撃も凄まじく視界にノイズ、砂嵐が一時的に発生した。
「痛った!」
反射的に口走る。
実際は痛覚があるわけではないのだが。
体が自由になり声の主を探そうと頭を動かそうとすると今度は上から頭を押さえ付けられた。
手足を動かしもがくがびくともしない。
ペタッペタッと何かが近づいてくる。
「花の道の背中の物取りに来たら案の定やな。魂が抜けるとと自立AIが起動するようになっとんかね?」
聞き覚えの有る声、我らの兄貴、荻田さんが其処にいた。
魂?自立AI?ゲームの世界で何を言ってるんすか?
何か訳分からん事言ってるが、荻田さんの姿を見ると安堵感が体に広がる。
「さぁ?、バラして視ないと何とも」
くぐもった知らない声が頭上から聞こえた。
「許可するわ、バラせ」
「了解、では、そのまま押さえててくださいね」
ハァ?バラす?ゲームの世界でも生きたまま解体はダメだろ。
直接触れられているのでもないのに押さえられている、更に手足をバタつかせて足掻くがびくともしない、しかも何故か声も出せない。
「こっちの会話も理解しとるな」
「ボディはどこの製品か分かりますか?」
「花の道が使ってたのはグーレイ製や」
「悪名高きグーレイ製ですか。ブラックボックスは頭だったかな?」
コン、コン、ココン、コココン、カシャ
リズムよく頭を叩かれると何かが開いた音がした。
「うを?そんなんで開くかいな」
「ゲームで使用する機体ですからメンテナンスは比較的簡単に出来てますね、で、端子規格はD1865規格か」
カチッと音がすると体に何とも言えない感触が沸いてきた。
「まずログから視てみましょうか、しばらくお待ちください」
何かモヤモヤする感触がある、上手く説明出来ないが。
「それにしてもグーレイは、ほんまろくな事せんなー」
「ログに異常は無さそうですね。グーレイはお嫌いですか?」
「嫌いやね、あのでっかい瞳がイヤや」
「システムチェック入ります。
まぁサージェリー単体とは言え、100年近く戦争してれば色々とありますよね」
今度は何かチクチクとする。
(グーレイってゲームの中に出てくる神聖グーレイ覇権国の事だよな?
と、サージェリー?サージェリーって荻田さんの事なのか?
けど、自分でサージェリーって言ってたよな?
荻田さんのアバターってそんな名前だっけ?
それに荻田さんの国とグーレイが戦争中?サイドストーリーか?)
「ん?なんか言ったか?」
「いいえ?どうされました?」
「いや?何処かの誰かがテレパスでぼやいてるわ」
コツッコツッコツッとまた誰か近づいてきた。
「食事の準備出来たよ~って呼びに来たんだけど~何してるの~?」
「諜報ロボット捕まえた」
「ふ~ん、生きたままの花の道を?」
この口調は竜巻か、女性の声だけど。
「竜巻ちゃうで、これは花の道が使ってた機体なだけであって花の道ではないんやで」
(ん?ん?何言ってんの?意味分かんないんですけど?)
「何処かの誰かさん、五月蠅いな」
「え~手足動いてるし~魂も見えるよ~」
「は?なに言うてるん?こっちの世界に来る時は肉の体を持ってないと来れんのとちゃうんか?」
「そうですよ竜巻さん、こちらの世界にはニュープライズ状態での異世界移動つまり、本来の肉体と魂だけの入れ物、アバターが繋がっている状態での異世界移動はできません。我々も何回も実験していますし」
(ん?異世界?何言ってんの?)
「ちょっと、いい加減キャラ名で呼ぶの止めてくれる~ちゃんと『ラファティ』って名前あるんですから~」
「いやいや、今大事なのは其処ちゃうねん」
「そうですよ、機械に魂が付属して異世界移動出来るとなれば、今までの実験が全て見直しになるんです。いや、新たなる可能性だからいいのか?」
「じゃぁ~花の道って証明すれば~いいのよね~」
そんな事言いながら、また腹の上に乗りやがった。
(重い)
腹を振って振り落とそうとする。
「花の道ってお腹に乗るとすぐに振り落とそうとするよ~」
「う~ん、理由としては弱いな、AIが花の道の行動パターンを学習しとるだけかもしれんしな『シャッキン』の見解は?」
「私は太陽系領有権プロジェクトに関わっていませんので仕様が分かりませんが、システムチェックも問題ありませんから、一般的な機械技師の見識では正常だと思います」
「まぁ、暴れ出してもこんな所やしなんとかなるか」
フッと今まで押さえ着けていたていた力が消えた。
周りを見渡すと地球外生命体の荻田さん。
「恩に着ていいよ~」
いつの間にか腹から降りた、水色の髪、黒のブラとショーツに黒いパーカーらしき物を羽織った竜巻の口調の女性。
カチッと音と共に頭に繋がったケーブルが引き抜かれた反動で天井からぶら下がる物が視界に入った。
糸らしき物でぶら下がっている全長2メートルはあろう甲羅を纏う蜘蛛。
そんな者達が周りに居た。
「さて、AI君改め花の道(仮)君、お前をAIじゃないと証明する簡単な方法があんねん。それやるわ」
「ちょっ、ちょっと待って荻田さん、さっきから、魂とか異世界とか証明する方法とかなんなんすか?」
体が自由になり、疑問なのか抗議なのか分からない言葉が口から滑り落ちる。
「を?会話までできるんかいな、明確な国際条約違反やな、グーレイとっちめたる材料増えたわ。
まぁそれは置いといて。
お前が花の道って証明出来れば説明したるわ。
ほないくでー!音声コマンド、ソル系ダイソンスフィア管理観察総統官、オギャ・タ・ソウ・ジュの権限において秘匿項目1条18項、ニュープライズ強制停止を即時実行せよ」
言葉が終わる前に反射的に逃げだそうと体を動かすが言葉が終わると、また世界が闇に包まれた。
何かがヌルんと動いた気がした。
最後までお読み頂きありがとうございます。
4/12後半加筆