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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
アレク編
96/104

模擬戦ー2

 戦場の中心で睨み合うエルク副隊長とペルシュ隊長。

 彼等が陣取っている場所の周囲は他の騎士団員達が不用意に踏み込めない空白地帯と化していた。


「さて…これなら少しは広く動けそうだな。」

「得意の『跳梁』だな。いいぞ、全て完璧に捌き切ってやる。」

「お前と会ってない間に磨きをかけておいた。ちゃんと付いてこいよ?」

「ぬかせ!それはこちらとて同じことよ。」


 そんな短いやりとりの後にエルク副隊長が本格的に動き出す。

 エルク副隊長が最初に仕掛けてきた、跳び上がった後に何もないはずの空中を蹴って鋭角に加速しながら強襲した技と同種と思われる動きで、ペルシュ隊長の周囲を高速で動き周り始めたのだ。

 余は離れた位置から俯瞰して闘いを視ているのでエルク副隊長が視界から消えることは無いが、実際に相対しているペルシュ隊長からすれば高速で縦横無尽に移動し視界の外に消えていくエルク副隊長の正確な位置を把握するのはかなり困難なことだろう。

 こうしてエルク副隊長は何時、何処から、どんな速度で強襲してくるかわからない状況を作り出し、自分が闘いの主導権を握るれる状況を作り出した。

 対するペルシュ隊長は完全に目で追うことを諦めているようで、目を閉じてエルク副隊長が移動することで生じる音でエルク副隊長の状況を捕らえようとしているみたいだった。

 そんな状況の中、遂にエルク副隊長が攻撃を開始した。

 強襲の基本とも言える背後からの攻撃でペルシュ隊長を襲う。

 ペルシュ隊長は直前の地を蹴った音を正確に捕らえていたようで即座にこれに反応し、幅広の大剣を盾のように構えてこの攻撃を防御した。

 エルク副隊長の方は攻撃が防がれたとみるや、即座に転身し離脱して仕切り直し改めてペルシュ隊長の死角を狙って再び強襲を仕掛ける。

 最初は初撃のぶつかり合いで繰り出した技と同じように『跳梁』というのも何かの攻撃技の名前かと思っていたが、おそらくこの縦横無尽に立体機動しながらのヒットアンドアウェイ戦法そのものが『跳梁』という技なのだろう。

 圧倒的な速度で息もつかせぬ連撃を繰り出し続けるエルク副隊長だが、一向にペルシュ隊長の防御が崩れる様子は無い。

 エルク副隊長の動きが速すぎて防御以外の選択肢を全て封殺されている様ではあるが、全ての動きを正確に捕らえて最小限の動きで攻撃を防御し続けている。

 傍目に見るとエルク副隊長が一方的に攻撃し続けペルシュ隊長は防戦一方に見えるが、エルク副隊長はこの状況を維持するために常に動き続ける必要があるため体力を消耗し続けているはずだ。

 このままペルシュ隊長の防御を掻い潜る手段が無ければ、エルク副隊長は体力を使い果たし一気に不利な状況に追い込まれることになる。

 そう考えると、攻めているのに追い込まれているのはエルク副隊長の方と言えるかもしれない。

 一種の膠着状態になっていた戦局だが、ここでエルク副隊長が膠着を破るべく新たな一手を繰り出した。

 攻撃を仕掛けるところまでは今までと一緒だ。

 当たり前のように安々と防御されてしまうが、攻撃後の離脱前に一瞬だげペルシュ隊長の耳元に近付いた。


「ーーーッ!」


 そしてすれ違いざまに、もはやなんと言ったのかさえわからないような大声をあげた。

 相手が音で動きを特定してくるなら聴覚を麻痺させればいい。

 単純な解決手段だが極めて効果的だ。

 事実、その次の強襲に対してペルシュ隊長の反応が僅かに遅れ、今までは余裕を持って行えていた防御がギリギリのタイミングでなんとか間に合わせた、という感じになっている。


「クソッ!コスい手を…だがお前がそうしてくるのも想定の範囲内だ!」


 一気に形勢が傾いたかに思えたがペルシュ隊長は即座に対応してみせる。

 ペルシュ隊長が何かをした次の瞬間、自身を中心にしてドーム状に見えない何かが広がったのが視え、その直後から再びエルク副隊長の攻撃に対して完璧に防御始める。

 …おそらく、今ペルシュ隊長が自身を中心にして展開した見えない何かは魔導術によるもので、展開したドームの内部にいる者の存在を術者に伝える探知系の術式だと思われる。

 この推測には何の根拠もないのだが見た瞬間になんとなくそうなんじゃのかと直感で感じた。


「探知術式!そういうお前は小癪だな!」


 再び攻撃を防御され始めたエルク副隊長が攻撃を仕掛けながら吐き捨てる。

 こうして一瞬エルク副隊長の側に傾きかけた天秤は再び均衡を保った状態へと戻ることになった。


「やっぱり小細工が通じる相手じゃないか…なら、正面から技術でねじ伏せる!」


 このままでは攻めきれないと判断したとエルク副隊長は動きを変えた。

 縦横無尽に跳ね回るその動きに絶妙な緩急をつけ始めたのだ。

 これにより攻撃のタイミングをずらされたペルシュ隊長はエルク副隊長が攻撃を繰り出すよりも早すぎるタイミングで剣を構えてしまった。

 エルク副隊長はこのペルシュ隊長が構えた剣を蹴って足場として利用し、跳び上がるとペルシュ隊長の頭を超えた辺りで再び空中で跳んで軌道を変える。

 一方でペルシュ隊長は剣を蹴られた影響で構えを崩されているので防御が間に合いそうに無い状態に視える。

 ペルシュ隊長も防御が間に合わないと即座に判断したようで、姿勢を低くして転がるようにその場から逃げ出しエルク副隊長の攻撃をなんとか回避した。


「…磨きをかけておいた、ってのは本当みたいだな。今の動きは初見だったぞ。」

「そいうお前は特に変わってないみたいだな。部隊の指揮に集中し過ぎて自己鍛錬に時間が割けなかったのか?」

「お前と違って忙しい立場だから否定しきれん部分はあるが、私は私で何もしてこなかったわけでもないぞ。今度は私の方からその成果を見せよう。」

「わざわざそんなのに付き合うはずないだろ!」


 ペルシュ隊長が反撃に転じようとしたがエルク副隊長ノ方が先に動いて潰しにかかる。

 エルク副隊長からすれば自分が攻めている今の状況を維持まま防御を崩して勝ち切る展開が理想的だから当然だろう。

 だが攻撃を仕掛ける前に何かに気が付いたようで、ペルシュ隊長に突っ込む動きを辞めて横に跳び、その直後にエルク副隊長がいた地面がはじけ飛んだ。

 状況からしてペルシュ隊長の攻撃だろうが、攻撃のための予備動作の類をしていた様子は無かったはずた。

 どんな攻撃を繰り出しのか確かめようと目を凝らすと、ペルシュ隊長の周囲の風が不自然に渦巻いているのが視えた。


「魔導術…防御しながら術式を組んでいたのか!?…にしては探知術式を組んでから今の魔導術を撃つまでのスパンが短すぎる。…どうやってこんな短時間で術式を組んだんだよ?」

「教えるわけ無いだろ。」


 さっきの意趣返しのようにペルシュ隊長がそう返してぼかしているようだが、このカラクリはおそらく二つの魔導術を並行して組んでいたのだろう。

 余も魔導術についたは座学で基礎を学んでいるのである程度の知識だけはある。

 その中で講師から「魔導術の術式の構築は理論上、幾つでも同時に構築することができます。ただしこれは非常に難しい技術で、例えるなるなら二つ同時に構築するのは右手と左手で同時に別々の文書を書くようなものです。三つならさらにそこから足も使うみたいなものです。」と教えられた記憶がある。

 魔導術の術式は構築に失敗すると正しく発動しないし、下手をすると暴走して制御不能になる可能性すらある。

 加えて術式の並行構築というのは二つの術式の相性次第では干渉し合って歪んでしまうこともあると聞いたことがある。

 つまりペルシュ隊長は術式同士が干渉し合わない組み合わせで組める術式を探しだし、それをほとんど実戦と言っても差し支えないような今回の闘いで切り札として使えるまでに研鑽を重ねていたことになる。


「チッ…狙いを定めてるように見えねぇのに嫌に正確に撃ち込んで来やがる。…この魔導術もしかして探知術式と連動視点中!?」

「正解だ!」


 しかもペルシュ隊長の魔導術による攻撃は単発では終わらなかったようで、同じ魔導術による攻撃を何度も繰り返し撃ち出し続けている。

 一度構築した術式の原型を触媒に記憶させたままにしてそこに何度も『導氣』を正確に流すことで連射を可能としているのだろう。

 これでエルク副隊長は攻撃のためにペルシュ隊長に接近する際に、魔導術の攻撃を掻い潜らなくてはならないという新たな制約を課せられることになり再び膠着状態に入った。




 今まではエルク副隊長とペルシュ隊長の一騎打ちが見応えありすぎて他の騎士達の闘いに注視できていなかったが、チラリと戦場全体に目を向けるとジリジリと皇族近衛騎士団の方が南方領防衛騎士団を押し込んでいっているようだった。

 皇族近衛騎士団の方が練度が高いたこんな差が生まれたかと思ったがどうもそうではなさそうだ。

 良く見ると南方領防衛騎士団の騎士達は皇族近衛騎士団に比べて回避の動きなどに大きな安全マージンを取っているように見える。

 どうしてこのような違いがあるのかと考えてみると、両軍の決定的な違いについて気が付いた。

 それは想定している敵の違いだ。

 南方領防衛騎士団が想定している相手は魔物だが、皇族近衛騎士団が敵として想定している相手は結界の範囲内でも奇襲を仕掛けてくる可能性がある相手…つまり人間だ。

 方や魔物との闘いを想定して訓練を繰り返しているのに対して、もう片方は対人戦を想定して訓練を繰り返してきたことになる。

 闘う相手が人間であるならばその訓練の内容がピッタリとハマる皇族近衛騎士団の方に軍配が上がりやすいのは当然と言えば当然のことだ。

 次第に戦闘不能になった騎士達も増えていき、皇族近衛騎士団の方が動ける騎士が多くなったことで自由に動くことができるようになった一部の騎士達が南方領防衛騎士団の旗に向かって動き出した。


「チッ…ゴンザ、そっちに近衛騎士団が行ったぞ!何としてでも止めろ!」


 ペルシュ隊長が南方領防衛騎士団の旗に最も近い場所で他の皇族近衛騎士団の騎士と戦闘中の騎士に命令を飛ばした。

 この命令を遂行すべくゴンザと呼ばれた騎士が競り合っていた騎士を強引に鍔迫り合いに持ち込んで強く突き飛ばし、旗に迫っていた皇族近衛騎士団の騎士の対峙した。

 だが、直ぐに突き飛ばした騎士が体勢を整えて戻って来たため二体一の状況に持ち込まれてしまう。

 このまま旗を守りながら二人の騎士を相手取っては長く闘えない。

 追い詰められこのままでは旗を守りきれないでと判断したゴンザは、咄嗟に旗を掴んで遠くに投げるというまさかの行動に出た。

 そして悪いことに、この投げられた旗は少し離れた場所で雌雄を決するべく最後の一撃を同時に放とうとしている騎士達の間に飛んで行ってしまったのだ。


「お前付き合うのもここまでだ。旗は貰うぞ!」

「チッ…やらせん!」


 先に旗を取った方が勝ちである以上、無理にペルシュ隊長を倒す必要はない。

 跳べば旗に手が届くと判断したエルク副隊長はペルシュ隊長を無視して旗の確保に向かうが、ペルシュ隊長が魔導術を放ってこの動きに待ったをかける。

 さたにここでのペルシュ隊長の動きはエルク副隊長の妨害だけにとどまらなかった。

 突如として手にしていた大剣を皇族近衛騎士団の旗に向かってぶん投げたのだ。

 そして勝敗が決する時が来た。

 ペルシュ隊長の妨害を受けたことで旗の確保に間に合わなくなったエルク副隊長の手が空を切り、最初のエルク副隊長とペルシュ隊長の挨拶代わりの激突を再現するように渾身の力でぶつかり合っていた二人の騎士の間に落ちた南方領防衛騎士団の旗は、二人の騎士の渾身の一撃に挟まれて粉々になってしまった。

 一方で皇族近衛騎士団の旗は旗を守っていた騎士がペルシュ隊長が投げた大剣を防ぎ損ねてしまったようで、こちらも大剣の直撃を受けて見るもの無残な姿になってしまっていた。


「あ〜〜〜!おい、フリップス!しっかりと旗を守れって言っといたよな!」

「無茶言わんで下さいよエルク副隊長!自分まだ見習いから昇格したばっかりッスよ!あんなの止めに入ったらミンチになっちゃいますって!」


 皇族近衛騎士団の旗を守っていたフリップスと呼ばれた騎士がエルク副隊長に必死の言い訳をする。


「両軍の旗がこれでは引き分けとするしかないな。まぁ、両軍共に死力を尽くして闘った結果だし、この闘いで見えてきた問題点などもあるだろう。ここは今日は有意義な合同訓練ができた、ということにしてお互いに遺恨を残さないことにしようではないか。」


 ほとんど負けみたいな状況から最後に無理矢理引き分けに持ち込んだペルシュ隊長がそう発言しこの場にをまとめた。

 こうして合同訓練という名の模擬戦ほ引き分けという形で幕を閉じることとなった。

今回の話ではペルシュVSエルクがほとんどを占めていますが、その周りで他の騎士達もしっかりとバチバチにやり合ってます。

ただ、主人公であるアレクの視点が二人に釘付けだったので描写はありません。憐れ。

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