模擬戦ー1
祭りを楽しんだ次の日。
昨日は純粋に祭りを楽しんだ祭りの余韻に浸りながら眠りについたので、今日の目覚めは心なしか爽やかなものになった気がする。
なお今日の余の予定なのだが、実のところ予定らしい予定は無いので暇である。
朝食を終えた後に今日はどうやって過ごすかと考えたのだが、やはり昨日感じた次期皇帝としての見識の浅さについてが心に引っかかっている。
少しでも改善していきたいと思ったので、手始めにこの南方領が抱えている問題についてより深く知るところから始めるのがいいかもしれない。
南方領が抱えている問題について一番詳しいのはとちろんオーロック殿であろう。
昨日の祭りにしても余が祭りに参加することがより良い帝国を創る良いきっかけになると信じて、反抗勢力の脅威がある中でリスクを承知で余を送り出してくれたような人だ。
人柄的に笑って余のために時間を作ってくれそうではあるが、政務などで忙しい人でもあるのでこれ以上余がワガママを言って振り回すのは気が咎めるのでできるなら避けたいところだ。
次に詳しそうなのはペルシュ隊長だろう。
ペルシュ隊長も忙しい立場ではあるだろうが、オーロック殿とペルシュ隊長ならペルシュ隊長の方が時間を作りやすいはずだ。
それにペルシュ隊長は昨日余の兄としてふるまってくれたので、余としても心理的な抵抗が少なくなっているのでなんとなくワガママを言いやすい感覚がある。
ペルシュ隊長なら昨日祭りに同行してくれた礼を言いに行く、という立派な理由があるので余が会いに行っても何の問題も無い。
こうして色々と考えたが余はひとまずペルシュ隊長に会って話を聞いてみることにした。
ペルシュ隊長を訪ねてやって来たのは南方伯の城の一角にある騎士団の訓練所だった。
訓練所には多くの騎士団の者達が集められているようで、パッと見ではペルシュ隊長が何処に居るのか見当もつかない状況だ。
あちらこちらに視線を向けてペルシュ隊長を探していると、帝都の城でも見かけたことがある騎士がこの場に来ていることに気がついた。
見覚えがある騎士達は皆共通して皇族近衛騎士団に所属している者達であったはずだ。
つまりこの場には南方領防衛騎士団の他に皇族近衛騎士団の者達も居るということになる。
何かしら催しがあるのだろうと思いながら辺りを見渡していると、余が来ていると報告でも受けたのかペルシュ隊長の方から余に会いに来てくれた。
「これはこれはアレクサンドリウス殿下、ようこそいらっしゃいました。今日はどのようなご用件で?」
「ペルシュ隊長、昨日は世話なったな。余は世間知らずなところごあるから色々と迷惑をかけてしまっただろう。改めて礼を言わせてもらいに来た。」
「いえいえ、迷惑など何もかけられていませんよ。…そうだ、実はこの後、皇族近衛騎士団の方々と合同訓練をすることになっています。お時間があるのならぜひ見ていかれて下さい。」
礼を言い終わり余の用事は済んでしまったのだが、思わぬところで向こうから面白そうな提案をしてもらえた。
本題の南方領が抱えている問題とそれに対する実情などは、あまり公の場で話すような内容ではないため話を振るタイミングを伺おうとしていたので渡り船だ。
「ほう、面白そうであるな。ぜひともそなた達の力を見させて貰おう。それと今更ではあるが一度はそなたを兄と呼んだことだし、今度は余のことをアレクと呼んでほしい。」
「わかりました。…実はまだ昨日の感覚が残っていてアレクサンドリウス殿下のことをアレクと呼んでしまいそうで内心ヒヤヒヤしていたのですよ。改めてまして、今後はアレク殿下と呼ばせて頂きます。」
「ペルシュ隊長、御歓談中に失礼します!両部隊の準備が整ったので御報告に参りました!」
話をしている内に騎士団の伝令役と思しき者が現れ、敬礼と共にそう報告をあけだ。
「了解した。下がっていいぞ。」
「ハッ!失礼します。」
キビキビとした動作で戻って行く伝令の者を見送るとペルシュ隊長は改めて余に向き直り、どこか真剣そうな面持ちで口を開く。
「それではアレク殿下、これより南方領防衛騎士団と皇族近衛騎士団の合同訓練を始めます。どうか我々の動きを良く観ておいて下さい。」
「…わかった。しっかりと見届けよう。」
ペルシュ隊長の真剣な声につられて余も自然と真剣な口調になりながらそう返答した。
騎士団の合同訓練はどうやら連携訓練などではなく、両陣営による実戦形式の旗取り合戦を行うようだった。
両陣営が別々の出入り口から展開していき距離を取っての睨み合いの様相をていしているところから訓練は始まった。
「いいか!今日の訓練は皇族近衛騎士団の者達との実戦形式の旗取り合戦だ!皇族近衛騎士団は騎士団の中でも選りすぐりのエリート集団だが、我々とて南方領の護りの要として常に研鑽を積んできた精鋭である!中央のエリート共に辺境の実戦の中で培われた〝本物〟ってやつを見せつけてやれ!」
「野郎共!最近は行進ばっかりしてて身体が訛ってたんじゃねぇか?そんなお前達に朗報だ!今日は久しぶりにたっぷりと暴れられるぞ!相手は南方領防衛騎士団だ!地方の者達には一部で中央の騎士団は安全地帯に引き籠もっていて実はまともに闘えないハリボテ集団だ、とか陰口を言われているのは知ってるよな?それが大きな間違いだってことを証明すっぞ!」
どうやら両陣営の指揮官はそれぞれペルシュ隊長とエルク副隊長が務めるようでお互いに自分の騎士団の者達に激を飛ばして気合を入れているようだった。
そして双方の騎士団の闘志が十分に高まったところでラッパの音が響き渡り合同訓練という名の模擬戦が始まった。
最初の激突は皇族近衛騎士団による突貫から始まった。
皇族近衛騎士団は鋒矢の陣と呼ばれる矢のような形をした隊列を組み、南方領防衛騎士団が隊列を組組み終わる前に強襲を仕掛けたのだ。
元々鋒矢の陣は突破力に優れた陣形であるが、皇族近衛騎士団は更に今回の攻撃ではこの陣形の鏃となる部分を騎士団の中でも特に体格に優れた騎士達を中心にして突発力を更に上げているようだった。
これを受けた南方領防衛騎士団の方は最初の突撃の勢いを殺しきれず、陣地内に大きく入り込まれてしまった。
だがやられっぱなしでは終わらない。
すぐさま中央の守りを固めて後退しながらも突撃の勢いを殺しかかる。
これによりグイグイと南方領防衛騎士団の旗の元へ迫っていた皇族近衛騎士団の進撃が鈍り始める。
更に南方領防衛騎士団はしたたかさを見せ皇族近衛騎士団の進撃をただ受け止めるのではなく、その進路を少しずつ逸らしながら受け止めていた。
余はこの様子を全体を俯瞰できる場所から視ているので皇族近衛騎士団の進路が少しずつ逸らされていることに直ぐに気付けたが、実際に今前線で闘っている皇族近衛騎士団の者達は自分達の進路が旗からずらされていることに気付けないだろう。
このままでは皇族近衛騎士団はいくら敵陣を切り開いて進んだところで南方領防衛騎士団の旗まではたどり着けない。
そして南方領防衛騎士団は進路を逸らしつつも鋒矢の陣の弱点である側面から攻撃を行うべく包囲陣形も同時に形成し始めてもいる。
最初の奇襲こそ成功したがその後の展開で南方領防衛騎士団の方に軍配が上がり、戦局は南方領防衛騎士団の方に傾きつつある。
このまま何も無ければ皇族近衛騎士団は包囲殲滅されて勝負ありだろう。
何が打開の一手があるのかと思っていると、鋒矢の陣の最後尾にいたエルク副隊長が動き始めた。
大きく跳び上がったかと思うと何もないはずの空中を蹴って鋭角に方向転換し、一瞬で鋒矢の陣の鏃を受け止めている南方領防衛騎士団の元へ迫り勢いのままに周囲の騎士達を強襲した。
やはり実力で副隊長の座に就いただけあって、その強襲は凄まじい威力を誇り吹き飛ばされた南方領防衛騎士団の面々が冗談のように空を舞った。
「野郎ども!進む先を逸らされているぞ!進行方向を二時方向の修正!俺の背中に付いて来い!」
ここからはエルク副隊長が直々に先陣に立って敵陣を切り開いてくようだ。
これまで鋒矢の陣の先鋒を勤めていた体格が良い重装の騎士達も力強く凄まじい突発力を見せていたが、エルク副隊長の突発力は軽くその上をいっている。
南方領防衛騎士団は包囲の陣形を崩してでも進行方向の層を厚くして対応しようとしているようだが、一向にその勢いを殺すことができずにいるようだ。
「エルクは私が止める。お前達は後続の騎士達の進行を止めることに注力しろ。」
そう言いながら前線へと躍り出たのはペルシュ隊長だった。
ペルシュ隊長はエルク副隊長の双剣を幅広の体験で受け止めてそのまま押し返す。
「指揮官がそう易々と前線に出てくるなよ。」
「易々とじゃねぇよ。今行かなかったらこっちは主力を削られて負け確だったからな。」
「…勝負勘は鈍ってないようだな。」
「腕の方も鈍ってないぜ?試してみるか?」
「面白い。お前との模擬戦は確か………何回やってたか忘れたな。だが、確かトータルでは私の勝ち越しだったはずだ。この一戦で更に一勝分引き離してやろう。」
「は?馬鹿言ってんじゃねぇよ。俺も何回やり合ったかは忘れちまったが俺の方が勝ち越してたはずだぜ?そんで、更に一勝分引き離すのも俺だ。」
「…水掛け論は無意味だな。ここで勝った方が真の勝者…ってことでどうだ?」
「わかりやすくて良いな。そんじゃ…やろうぜ!」
こうして両軍の指揮官同士が一騎打ちのような形で激突することになったこともあり、ここからは闘いは乱戦の様相となった。
統制の取れた部隊同士の闘いではなく、騎士個人達の闘いがあちらこちらで行われているような状況になったわけだが、その中でも最も目を惹くのはやはりエルク副隊長とペルシュ隊長の一騎打ちだった。
この二人の実力は他の騎士達から頭一つか二つぐらい抜きん出てで居るように見える。
そう見える理由はおそらく、二人が身体の表面に纏わせている力のようなものの密度と流れのスムーズさが他の騎士達に比べて段違いだからだろう。
二人はまだお互いに武器を構えて向かい合っている状態で剣を交えているわけではないのだが、実際に剣を交えてぶつかり合いっている他の騎士達よりもこちらの方が迫力を感じるぐらいだ。
無言のまま睨み合っている両者だったが、纏っている力の波のようなものが最高潮に達した瞬間、まるで示し合わせたかのように同時に動いた。
「『凶叉』!」
「『破衝閃』!」
轟音と共に互いが放った技と技がぶつかり合い、一瞬まるで空間が撓んだように歪んで、その中心でぶつかり合った力どうしが弾けた。
その衝撃によって発生した余波で二人の近くで闘っていた騎士達が吹き飛ばされ、荒れ狂った風が離れた場所で観戦していた余の所まで届き髪を揺らした。
これ程の激しい激突をした両者だが、彼等にとって今のはただの挨拶代わりだったようで既に態勢を立て直して次の攻撃を仕掛けるべく相手の隙を伺い合っていた。
こうして挨拶が終わり、本格的な闘いが幕を開けた。
何気にアレク編では初となる戦闘描写。
ちなみにエルクが放った技が凶叉でペルシュが放ったのが破衝閃。
凶叉は異力響交叉と同じ原理の技で、破衝閃は衝波削ぎと同じ原理の技。
技の名前が違うのはそれぞれ流派が違うためで、更に厳密に言えば武器に纏わせている力場の形状とかが若干違うので全く同じの技ではない…のだが、ぶっちゃけほとんど同じ技。




