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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
アレク編
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祭りー2

 姉上の方から絡んできたのだが、余はこの姉上に対してどんな態度で対応すべきか悩んでいた。

 というのも、現在余の周りにエルク副隊長とペルシュ隊長が護衛としてついている。

 この二人は母上に育てられたという経緯があるので、当然ながら姉上とも面識があるはずだが、姉上に対してどんなスタンスで対応してくるのかがわからない。

 余がどう返答しようかと迷っていると、エルク副隊長が何かを察したように小さく「あっ」と声を漏らした。

 その様子を見て疑問符を浮かべていたペルシュ隊長だったが、エルク副隊長が急にどこかよそよそしい態度になったのを見て何かを察したようだ。


「おいペル、向こうから何か美味そうな匂いがするぞ。」

「本当だ。これはたぶん串焼きのタレの匂いだな。」


 露骨に明後日の方向を向いてこっちに気付いていませんアピールを始めた。

 その最中にチラチラとこちらに目配せをして来たので、今のうちに話をしろということなのだろう。


「姉上…なにやらコスい商売の仕方をしているようですが、ぼったくりはあまり感心しませんよ?」

「誰のせいでこんなことしなくちゃならなくなったと思ってるのよ!」


 諌めたところに予想外の返答が返ってきた。

 そんなことを言われても余には身に覚えが全くない。


「えっと…僕達、なにかやっちいましたか?」

「したわよ!…関節的にだけど。アンタ達が来る日にあわせてオーロックおじさんが祭りの日を調整したでしょ。そのせいであたしは今日泊まる宿が確保できなかったの!この街の宿を片っ端から渡り歩いたけど空いてる宿が一軒もみつからなかった…あと泊まれる可能性があるのは、ちょっとお高い貴族とかを相手するような宿ぐらいしかなくて、でもそこに行くにはお金が…」


 思ったよりも切実な理由でぼったくり商売に手を染めていたようだった。

 仮にも余の姉で帝国の姫君なのだが…と思いながら複雑な気持ちになっていると、どうやらそう思っていたのは余だけではなかったようでペルシュ隊長が動いてくれた。


「そういえば部隊で使う傷薬が切れかかっていたな。店主、少し傷薬を貰おう。効能が良いならまとまった数の購入も検討する。」


 少しわざとらしいが姉上の薬を買って売上に貢献してくれるようだ。


「この紙に記した場所に訳ありな人物を匿うためのセーフハウスがあります。滞在中はここを使って下さい。」


 かと思えば、料金の受け渡しの際に小声でそう告げて小さなメモを渡していた。

 どうやらもっと直接的な形で姉上を助けてくれるようだ。


「流石、ペル兄ぃは頼りになるな~。」


 姉上は姉上でペルシュ隊長のことをガッツリとペル兄ぃ呼びをしていた。


「あのなぁ…私にも一応立場ってものがあるか本来ならカゲを見つけたら連れ戻さないといけないんだけど…」

「でもベル兄ぃもエル兄ぃも、そんなことはしないでしょ?」

「…まぁ、確かにやらないけど。私とエルだけじゃカゲを捕まえられるか怪しいし、そもそもここで大立ち回りなんてしたらアレクの祭り体験が台無しになっちまう。」


 姉上とペルシュ隊長が普通に会話しているのを見て、自分だけ知らないふりをしているのが馬鹿らしくなったのかエルク副隊長も会話に入ってくる。


「なんだよ、もう普通に話てるじゃん。でもまぁそういうことなら俺も傷薬を一つ貰おうか。カゲが作った薬は昔からよく効くって評判だし。」


 ペルシュ隊長に続いてエルク副隊長も姉上の薬を購入した。

 なんとなくみんなで薬を買う流れになったので余も適当に姉上の薬を適当に見繕うことにする。


「肩こりなどに効く軟膏とかはありますか?」


 政務等の机仕事が多い母上へのお土産用だ。

 姉上が作った薬であれば母上は確実に喜んでくれるだろうし丁度いい。


「コレとコレと…あとコレも。」

「…多くないですか?」

「はぁ…アンタは女心ってものがわかっていないわね。お母様へのお土産でしょ?だったらついでに美容に良い乳液とかも買っていきなさい。その方が喜ぶから。」


 そう言われるとぐぅの音も出ない。

 姉上の選ぶままに商品を購入することになったが、ぼったくり価格てアレやコレやとつけられてしまい、最終的にかなりの金額になってしまった。


「…姉上、宿はもう見つかったのでは?」

「ソレはソレ、コレはコレよ。お金を稼ぐ時は取れる所から取れる時にカッポリやるのが流儀なの。」


 正直なところ、祭りに行く前に母上から「楽しんで来てね。」と言って結構な額のお金を渡された。

 余もあまり人のことを言えないが、母上は余に輪をかけて金銭感覚がオカシイのでこの時点で過剰なぐらいの軍資金があった。

 そこから更に、いざ出かける時になってオーロック殿がお小遣いと称して一般庶民の子供が渡されたら膝がガクガクするくらいの金額をポンと渡された。

 母上からも軍資金を貰っているので返そうとしたのだが、ガッハッハと笑いながら「軍資金は多くに越したことはありませんぞ!」と言われてしまい、結局そのまま押し切られてしまったのだ。

 要するに、今の余の懐事情は潤沢どころではないぐらいに余裕がある。

 なのでここで姉上にガッツリとぼったくられたところでこの後祭りを楽しむのに支障はない。

 それにこんな感じだが姉上はこれでも帝国の皇女なので、いくら周りの人に知られていないといってもあまり貧困な生活をされては色々と問題がある。


「はぁ…わかりました。全ての言い値で買います。」

「気前がいいお客さんは大好きよ。おまけでコレもつけておくわ。」


 そう言って商品と一緒に小さな石のような何かを渡してきた。


「何ですか?コレは?」

「旅先で見つけたイイ感じの石よ。」


 それはただのゴミでは?という言葉が喉まで出かかったが、渡された石ころに何か不思議なものを感じたので結局口にしなかった。


「多分そのうち役に立つと思うわ。持っときなさい。」

「わかりました。頂いておきます。」


 受け取った石コロを何処にしまっておこうかと少し悩んだが、ついさっき手に入れたペンダントに丁度入りそうなサイズ感だったのでそこにしまっておくことにする。


「これ以上話し込んでると遠巻に護衛している連中にも流石に怪しまれるわね。用は済んだしさっさと行きなさい。」

「…わかりました。もう行くことにします。…姉上もこの売り上げで皇女らしいとまではいかなくとも、まともな生活をしてください。」

「一言余計なのよ!」


 なんやかんやあったがこうして余達は姉上と別れ、露店を後にすることになった。




 その後の祭りで余は純粋に産まれて初めての祭りというものを楽しむことができていた。

 見るもの全てが新鮮で刺激的だった。

 いつも口にしている食べている物に比べれば大した味ではないもののはずなのに不思議と妙に美味しく感じる食べ物や、冷静に考えればたいして面白くないはずの遊びが妙に楽しく感じ、それほど品質が良くないはずの大したことない景品が宝物のように思えた。

 そんな中でふと周りに目を向けると、余と同じように祭りを楽しむ市井の者達が当たり前のように近くにいることに気が付いた。

 オーロック殿が語っていた余と民達の間にある世界は決して別の次元にある遠い場所などではなく、地続きで繋がっている場所にあるという言葉の意味を頭ではなく心で理解した。


「スリだっ!誰かそいつを捕まえてくれっ!」


 そんな風に少し感傷に浸っていたところで余達から少し離れた人混みからそんな声が上がった。

 これだけで多くの人達が集まると中には善からぬことを考える輩も混じってくるということなのだろう。

 犯人と思われる男は余達の方へは逃げてこなかったようで、騒ぎの中心は余達から離れて行っているようだった。

 この場には優秀な騎士団員が二人もいる。二人のうち一人でも確保に向かわせればすぐでもスリぐらい確保してくれることだろう。

 そう思い声をかけようとしたがペルシュ隊長が先手を打ってくる。


「心配ない。我々が行かなくてもあれぐらいなら直ぐに確保されるはずだ。」


 その言葉を証明するようにスリが逃げた先にいた兵士達が即座に反応して騒ぎは直ぐに収束した。


「直ぐに解決して良かったです。そう言えばこの祭りで見回りをしている兵士の人達って結構な数がいますし、オーロックおじさんはこういうことも予測して警備の兵士を増員させていたってことなんでしょうね。」


 感心して思わず感想を口にしてしまった。

 民達の楽しみを護るためにしっかりと対策に力を入れているその姿勢は、余も未来の統治者として見習うべき点が多くあるように感じた。


「もちろんそれもある。今回の祭りにはアレク達のような特別なゲストも居るからな。だけど警備の兵を増員した一番の理由は、やはり前南方伯の隠れた支持者達が何か動くならこういう機会が一番狙われやすいからって理由が大きいだろう。」


 返答を期待した言葉では無かったのだが、ペルシュ隊長から予想していなかった返答が返ってきた。

 前南方伯は既に数年前に処刑されていたはずだ。


「前南方伯の支持者…ですか?」

「…アレクはこれから先に帝国を担う者だから知っておいた方がいいかもしれん。言葉の通りで、親父殿の前の南方伯であったサウスワールという男がいたのだが、実は未だにコイツのことを支持してた連中の残党いるんだ。」

「…サウスワール、確か母上が帝位を奪還した後に南方伯の地位を剥奪され、その命に背いた結果征伐軍が動いて処刑された人でしたよね。」

「そうだ。流石にその辺りは勉強しているようだな。…でもアレクはそのサウスワールという男が実際にどんな奴だぅたのかは知らないよな?」

「はい。僕が知っているのはあくまでも歴史書に書かれていた記録だけですね。」

「…アレクはそもそもサウスワールがどうしてアニエス様に南方伯の地位を剥奪されたかは知っているか?」

「確かサウスワールは帝位を簒奪した前皇帝であるロリクテットの側に付いていたから…だったはずです。」

「正解だ。あの野郎はあの腐れ皇帝の側に付いていたし、その時あろうことかアニエス様に毒を飲ませやがった張本人だ。アニエス様が許す道理も無かった。」

「!?…ちょと待って下さい。毒!?母上は毒を飲まされたのですか!?」

「…あ〜…その辺は知らないのか。サウスワールはアニエス様の帝位奪還に力を貸すと偽って懐に入り込み、最悪のタイミングで裏切って毒杯をアニエス様に呷らせるという暴挙に出たらしい。」

「そんな!?母上は大丈夫なのですか?」

「落ち着け、大丈夫じゃなかったらお前は産まれてないだろ。」


 動揺して冷静さを失っていたが横で話に加わっていなかったエルク副隊長の冷静なツッコミで我に返った。

 確かに余が普通に産まれている以上、母上が毒杯を飲んだ件は一応もう大丈夫になっているということだ。


「話を続けるぞ。そんなわけで取り返しがつかないような裏切をしたサウスワールは、アニエス様が帝位を奪還した後に当然のように南方伯の地位を剥奪されることになった。そしてこの命令に大人しく従うようなヤツじゃなかったサウスワールは自身の手勢を率いて抵抗し、親父殿を筆頭にした征伐軍の前にあえなく玉砕した。その後、親父殿はこの時の功績の褒美として南方伯に任命されたってのが大まかな流れだ。そしてここからが本題になる。この時に処刑されたサウスワールはアニエス様からしたら最悪の裏切者で間違いないんだけど、それはそれとして統治者としては優秀な男だったんだ。特に今のこの南方領の肥沃な土地をどんどん開拓して農地化していったことで南方領全体の経済状態を良くしていった手腕は見事の一言だった。他にも南方領全体の利益に繫がるなら多少の犠牲も必要であるという、ある種合理的な判断も冷静にできる人物であったため、法のグレーゾーンを上手く利用して貪欲に南方領全体を豊かにしていった実績があった。それゆえ、南方領の領民にとっては総合的言えば良い領主ではあったわけで、彼等からすれば皇族の政治的思惑で失脚されられた憐れな領主様って扱いになっている。」


 ここまで話を聞いてようやく全貌が見えてきた。

 つまりオーロック殿は領民達からすると、優秀だった前の領主が失脚した後に新しい皇族が送り込んできた後釜という認識だ。

 おまけにオーロック殿は豪快ではあるが悪事を見逃すような人ではない。

 だから今までサウスワールのやり方で大目に見られていた法のグレーゾーンでの悪事を商売として生きていた者達にとってオーロック殿は完全に目の上のたん瘤だ。

 現状の南方領はトップの首がすげ変わっただけで組織そのものの改革はまだまだできていないはずだ。

 それゆえサウスワールの統治の方が都合が良かった者達がオーロック殿の部下として紛れ込んでいても不思議ではない。

 その他諸々のサウスワールのおかげで利益を得ていた者達が裏で繋がり、一つの勢力となってオーロック殿の統治を脅かしているということなのだろう。

 確かに余達が直ぐ近くに居る今の状況で、オーロック殿の統治能力に疑問をもたざるを得ないような事件が起これば、母上も何かしらの動きをする必要が出てくるので今の時期はこれらの反抗勢力が動くならうってつけの時期になる。

 どうにかして解任させる事ができたのなら大金星、そこまでできなくとも敵対勢力が一定以上の脅威であることを示せれば、オーロック殿からある程度の譲歩を引き出させることもできると考えてもおかしくはない。

 南方領は皇族の直轄区ではないとはいえ、帝国国内であることは間違いないのだ。

 それなのに余は南方領がこのような問題を抱えているということを知らなかった。

 余は既に将来は帝国という国の頂点に立つことが決まっている立場だ。

 だが、それゆえに今まで自身の足元というものが見えていなかったのかもしれない。

 それを含めてこの地で余が学ぶべき事は多くありそうだ。

 祭りの喧騒の中で、余はそんなふうなことを考えさせられるのであった。


実はこの祭りの裏でサウスワール派の残党達が暗躍して起こそうする事件と、オーロックの部下達の兵士達による攻防とかが起こっています。

なお、肝心のアレクが事件の現場にいないので描写や何があったかは直接語られることはないです。

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