表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
アレク編
92/104

南方への旅路ー4

 姉上の訪問から一夜明けた朝。

 どうやら姉上はあの後上手く逃げ遂せたようで、朝食の席に縛り付けられていたりはしていなかった。

 今日の予定ではカムスの街を出た後に丸一日馬車で移動し、いよいよ南方領の首都であるオデュンに到着する予定だ。

 道中はやはり何の問題もなく進んでいたのだが、昼過ぎ頃に突如として馬車の動きが止まった。


「む?止まったな。どうかしたのか?」

「はっ!前方に南方伯軍所属の騎士団の旗が見えます。おそらく、こちらの出迎えに来たのかと思われます。」


 窓を開けて馬車と並走していた騎士団に問いかけると簡潔に状況説明をしてくれた。

 窓から少し身を乗り出して余も前方を確認すると、彼が言う通り南方伯の紋章が入った旗が掲げられているのが見えた。

 そしてしばらくすると、その一団の代表と思わしき人物がこちらまで馬を走らせて来るのが見えた。


「あらあら、あの子ってもしかして…ペルシュちゃん?ちょっと見ない内にすっかり立派になったのね。」


 余と同じように窓から外を見ていた母上はどうやらその人物のことを知っているようだった。

 やがてその人物は余達の馬車の前まで来ると、そこで馬から降りて膝を付き頭を垂れて口を開く。


「訪問を聞き及び馳せ参じました。南方伯軍防衛騎士団第一部隊で御座います。ここより先は我々も護衛として合流させて頂き、道中の道案内を務めさせて頂きます。」

「出迎えご苦労様、ペルシュちゃん。第一部隊で隊長職に抜擢されたって聞いてたけど、しっかり務めているようでわたくしとしても鼻が高いわ。」


 母上が出迎えに来た騎士に親しげに応対する。

 母上はどうも自分が面倒を見ていた子供をちゃん付けで読んでいるようなので、このペルシュと呼ばれた第一部隊の隊長の男も傭兵の国に居た頃に面倒を見ていた子供の内の一人なのかもしれない。


「はっ!これからも幼少期からアニエス様に目をかけて頂いた者の一人として、アニエス様が誇れるように精進して参ります。それでは私は部隊の指揮がありますので一旦下がらせて頂きます。」


 どうやら余の予想は当たっていそうな雰囲気だ。

 それにしてもこのペルシュという男は母上にちゃん付けで呼ばれたにもかわらず、動揺せずに上手い具合に流して堂々としていたので少し感心させられた。

 去っていく後姿を見ながら、興味が湧いたので母上にペルシュ隊長について聞いてみることにする。


「母上、先程の南方伯軍防衛騎士団の者と親しげでしたね。もしやあの者も母上が?」

「そうよ。あの子はペルシュちゃんっていってね、エルクちゃん達と一緒にわたくしがお母さんをさせてもらった子の一人よ。あの子は今の南方伯になってもらっているオーロックさんって人がいるんだけど、その人の所に養子として迎えられて騎士団に入隊した子なの。元々エルクちゃん達と一緒に傭兵の国でブイブイいわせていた子だったから騎士団に入ってからもエルクちゃんと同じでグイグイと実力を見せていってあっという間に今の地位まで昇りつめちゃったみたい。あの子のお母さんとしてわたくしも鼻が高いわ。」


 話を聞くにエルク隊長と同期で傭兵の国にいた人物のようだ。

 年齢的にもエルク隊長と同年代のように見えるので、あの方もエルク隊長と同様に兄上の兄貴分だったのかもしれない。

 それはそうと今少し話題に出てきた南方伯についてだが、今まであまり接点が無かったこともあってどんな人物であるか何も知らないことに今になって気がついた。

 母上が帝位を奪還した後に任命した人物であるはずだから、当然母上は今の南方伯についても知っているはずだ。

 ベルシュという人物についての話ももっと聞きたいところだが、今は先にこれから会うことになるであろう現在の南方伯について聞くことを優先するべきだろう。


「母上、話は少し変わりますが今の南方伯に母上が任命したオーロックという人物はどのような方なのでしょうか?」

「オーロックさん?あの人はわたくしのお父様が護衛として遺してくれた当時の皇族近衛騎士団の一人で、わたくしと共に傭兵の国に亡命してまでわたくしの味方でいてくれた信頼できる人よ。帝位を奪還したばかりの頃のわたくしには真の意味で信頼できる人が帝国内にあまり居なくてね、それでも南方伯の地位を空席にするわけにはいかなかったから無理を言って南方伯になってもらったという経緯があるの。」

「なるほど、現在の南方伯は昔から母上の支援者だったのですね。人柄などはどのような方なのでしょう?」

「そうね…一言で言うとしっかりとした大人って感じかしら。わたくしはあの人の在り方を尊敬しているし、こんな大人になりたいって目標にさせてもらっている人なの。」


 どうやら母上は南方伯のことを非常に尊敬しているようだ。

 母上が尊敬しこれほど評価している人物ともなれば俄然興味が湧いてくる。

 これから会えるのが楽しみになってきた。





 南方領の首都であるオデュンに到着すると、既に夕暮れ時であるにも関わらず街の門から領主の城までの道程をズラリと並んだ騎士団が固めた道ができており、余達の馬車はその中を整然と行進していく形で領主の城まで行くこととなった。

 窓から外の様子を覗いてみると街中の至る所で明かりを灯しているようで、建物と建物の隙間から見えた余達が通り道とは別の通りでは、出店のような物も出ているようだった。

 余達の訪問というイベントにかこつけた盛大な市でも開かれているのかもしれない。

 まるでお祭りのような賑わいをみせるオデュンの街を馬車の窓から眺めながらぼんやりと考える。

 次期皇帝という立場上仕方がないのだが余は祭りというものに参加した事が無い。

 そのことについては既に割り切っているつもりなのだが、こうして街の明かりに照らされた出店と賑わう人々の姿を見ると、少しだけあの和の中に余も入れたのならどんな感じなのだろうと思ってしまう。


「アレクちゃん…お外が気になるの?」

「……外の喧騒が祭りのようで珍しいと思っただけです。」

「お祭?確かに随分と賑わっているみたいね。…もしかしてアレクちゃんも行きたいの?」


 ワガママを言ったところで母上を困らせるだけでしかない。

 余は窓の外の見るのをやめて座席に座り直して改めて口を開く。


「一度ぐらいには行ってみたい気はしますが余は帝国の次期皇帝です。行きたくとも無理でしょう。」

「…アレクちゃん。」

「もう城に着くようですよ。この話はここまでにしましょう。」


 言葉の通りに余達が乗る馬車は城下町を抜けて南方伯の城の前まで来ていた。

 このまま南方伯の城に到着すると、そこでも門から城の入り口までをズラリと並んで埋め尽くす使用人総出の歓迎を受けた。


「「「「「「「「「「「「「「ようこそいらっしゃいました。」」」」」」」」」」」」」」


 声を合わせた挨拶と一矢乱れぬ動きで礼をするその様は、もはやそういう訓練を事前にしていたようにしか見えないほど見事なものだった。

 城の中の中庭で馬車を降りると今度は大柄で筋骨隆々といった感じの男に出迎えられた。


「アニエス様、アレクサンドリウス殿下、ようこそいらっしゃいました。」

「オーロックさん、出迎えありがとう。急な訪問だったから無理をさせてしまったわね。」


 どうやらこの筋骨隆々の男が現在の南方伯であるオーロックという人物のようだ。

 元皇族近衛騎士団の一員だったという話だが、その体格からして現在も身体を鍛えることを辞めていないことが伺えた。


「なんのなんの、そもそもこの帝国の領土全ては皇族の方々が統治されている土地。ワシのような者は皇族の方々の目がいき届かない土地を代わりに統治させて頂いているだけにすぎません。それゆえ本来、皇族の方々が帝国領の何処に行こうとも自由であり、その意思は何よりも優先されるべき事なのです。まぁ、立ち話はここまでしまして奥へどうぞ。まずは部屋にご案内しましょう。その後はささやかながら歓迎の宴を準備をさせていただいきましたので会場までお越しください。」


 こうしてようやく目的地である南方領に到着した余達は、あてがわれた部屋で一息ついた後に南方伯が準備した歓迎のパーティーに出席することとなった。




 南方領は帝国で最も肥沃な穀倉地帯が広がっており、帝国における食料の生産量が最も多い地域であると学んでいる。

 そのことを証明するようにパーティー会場には豪勢な料理がテーブル一杯に並べられていた。


「皇族の方々がいらっしゃると聞いてうちの料理長が張り切って腕を振るいました。さあさあ、どうぞお召し上がりください。」


 南方伯の手短な挨拶でパーティーが始まり、しばしテーブルに並べられた料理に舌鼓を打つながら雑談する流れとなった。


「アレクサンドリウス殿下、改めて御挨拶させて頂きます。ワシは南方領の統治をアニエス様より任命されたオーロックという者です。」

「うむ、母上から信頼が置ける人物であると聞いている。これからも帝国の未来のために奮闘を期待する。」

「おぉ、しばらくお会いしない内に随分と立派になられましたな。今は亡き先代のアレクサンドリウス様の面影を感じます。」

「む?余はそなたと以前どこかで会ったことがあったか?余は記憶力には自信がある方なのだが、お主と会った記憶はないぞ。」

「無理もないでしょう。ワシがアレクサンドリウス殿下とお会いしたのは、アレクサンドリウス殿下の誕生の知らせを受け馳せ参じた時のことで御座います。」

「赤子の頃であったか。」

「はい。ところで話は少し変わりますが、実はここオデュンでは明日年に一度の豊穣を祈願したお祭りがあるのですよ。」

「オデュンに入る時に目にした。賑わっていたので、てっきり余達の訪問に合わせて商人達が出店を出しているだけだと思っておったが、本当に祭りを計画しておったのだな。」

「ええ、今日はいわゆる前夜祭というやつで明日が本番になります。アニエス様達の訪問が決ま時点で開催予定日を調整して明日開催することにしたので、ある意味では皇族の御二人を歓迎するお祭りみたいなものです。」

「なるほど…面白い歓迎の趣向のようだ。」

「ハッハッハッ、喜んでもらえたなら計画した甲斐があったというものですな。この祭りは子供はお面を付けて参加するという趣向になっておりましてな、勝手ながらアレク殿下のお面と服を準備させて頂きました。明日はコチラの衣装を着て楽しまれて来て下さい。」


 続く南方伯の口から出た提案に驚愕させられた。

 この人は当たり前のように次期皇族である余を祭りに送り出そうとしているのだ。


「…心遣いは感謝するが余は次期皇帝の身だ。祭りに参加できるような身分ではない。」

「オーロック殿!アレクサンドリウス殿下の言う通りですぞ!祭りともなれば人の数も違うのです!もしその中に賊が潜んでいたとしても見分けることも難しいし、護衛がアレクサンドリウス殿下を見失う可能性だって否定できません!少し街をぶらつくのとはリスクの度合いが桁違いなのです!到底許可できませんぞ!」


 たまらず静かに側で控えていたワースも口を挟んでくる。


「…ワース殿、貴方は許可を出せないとおしゃいましたが、そもそも何の権限があって皇族の方々がなさる行動に認可を出していらっしゃるのですか?」

「グッ……確かに今の発言は皇族の方々に対する礼を逸しておりました。謝罪し撤回させてもらいます。ですが!私の意見は変わりません!護衛の者達に余計な負担を課すことになりますし、何かあった時にはそれで多くの者が責任を問われてることになるのです。たいして必要も無い事にこれ程のリスクをわざわざ負うことは無いはずです。」

「アレクサンドリウス殿下、ご安心を。明日は護衛兼案内役としてワシの息子のペルシュを側付きとして置きます。更に非番の騎士団の者達に小遣いを渡しておりますので、私服の騎士団の者達も祭りに多く参加することになるでしょう。我が領の騎士団達は非番であったとしても何かあれば即座に動けるように常在戦場の心構えを叩き込んであります。その上で何があり、誰かが責任をとる必要があるならワシが取りましょう。ですからどうか我が領の祭りを楽しんで来て下され。」

「…どうしてそこまでしてくださるのですか?」

「先程ワース殿はたいして必要でもない事とおっしゃっていましたが、ワシは必要なことだと思うからです。アレクサンドリウス殿下はこれから帝国を背負う御方。そうであるならば御自分が背負う帝国というものが、そこで生きる民達がどのようなものなのかを知っておく必要がありましょう。」


 そう言われてハッとした。

 確かに余は帝国の次期皇帝としての責務を果たし国を治めなければならない立場。

 だが余はその帝国という国の中身を酷く曖昧にしか認識できていない。


「庶民の暮らしなど知る必要は無い。そう言う者もいるでしょう。確かに皇族の方々と庶民では生きる世界が違います。ですが、その世界は決して別の次元にある世界ではなく、地続きで繋がっている世界なのです。そのことを知って頂ければ、きっとこの先アレクサンドリウス殿下が帝国を良い国に導く手助けになるとワシは思うのです。」


 母上が尊敬していると言っていた意味がわかった。

 確かにオーロック殿は母上が言うようにしっかりとした大人で尊敬するに値する人物のようだ。


「お気遣い感謝します。せっかくのおもてなし、楽しませていただこうと思います。それと、これからは余のことはアレクと呼んで欲しい。」


 こうして余は明日、産まれて初めての祭りに参加することとなった。

ちなみにこの日の夜、アレクは初めての祭りを前にワクワクが止まらなくなってしまい眠れなくなったので、恥を忍んでアニエスの所に行き子守唄を唄ってもらってすやぁしたという裏話があったりします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ