表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
アレク編
90/105

南方への旅路ー2

 不覚にも母上の子守唄で快眠してしまった昨晩から明けて目覚めると、昨日挨拶をしてきたホモンとかいう代官が皇族への不敬罪を筆頭に公金の横領や未成年監禁等、その他モロモロの罪の疑いをかけられ拘束されていた。

 どうやら余が母上に寝かしつけられた後にエルク副隊長を中心とした騎士団が動く大捕物があったようだ。

 既に証拠も出揃っているようで、誰かに罪を被せられたり何かの間違いだったということもない状態らしい。

 この件に関して余も何かしらの形で関わっていそうだが、蚊帳の外にされ過ぎて状況を飲み込めきれないでるので母上に説明を求めることにした。


「あのホモンとかいう代官が挨拶にきた時に、わたくしのアレクちゃんを一瞬だけだけどいやらしい目で見ていたように感じたの。それで、そのことがどうしても気になってしまったわたくしはエルクちゃんにあの男の身辺調査をお願いしたの。」


 あのホモンとかいう代官が余達に挨拶しに来た時に小さく漏らした「なんと…美しい。」という言葉。

 あの言葉が母上にではなく余に向かって言っていた言葉であったとするなら、余に対して何かしらの行動をおこしたとしても不思議ではない状況だった。

 心配した母上は信頼できる者、自分が育てた自慢の息子の一人であるエルクにホモンの身辺調査を依頼し、エルクが行動を開始しようとした矢先に出くわしたのが、部屋で感じた違和感について誰かに相談しようと部屋を出た余だったらしい。

 余の相談により隠し通路を使って余の部屋に侵入を試みている可能性が浮上したため、先手を打って隠し通路への騎士団の突入が行われることとなったようだ。

 なお、どうやらあの隠し通路には出口に行く途中に作られていたちょとした小部屋があったらしく、ホモンはその部屋に居たところを捕縛されたとのことだ。

 尋問の結果、ホモンは数年前に隠し通路の出口を発見し、その先に隠し通路の小部屋があることを知ったらしい。

 この小部屋は皇族専用区画に近い壁の中にあるので防音性を高く、多少大きな音がしたとしても誰に届かない上に掃除の者以外が近づく恐れもない。

 それゆえ人の目があるのような場所では憚られるようや行為をする時に非常時に都合が良い隠れ家として使えてしまう。

 そのことに目をつけたホモンは普段からその隠し部屋を悪用していたようだ。

 つまり余が部屋で感じていた違和感の正体は、壁の中の人がいるはずがない空間から僅かに感人の気配がしていたこと、だったようだ。

 なお、ホモンが隠し部屋で何をしていたのかについては母上は頑として教えてくれなかった。

 だがホモンの罪状に未成年監禁があったことや、ホモンが捕縛された時の状況の報告を受た母上が、見たことがないような怒り方をしていたのでなんとなんく想像はつく。

 おそらく監禁していた子供を使って己の欲を満たしていたということなのだろう。

 そして母上は己の欲のために子供を平気で犠牲にするような輩を最も嫌っている。

 まだ罪状に対する判決は下されていないらしいが、母上が温情を与えるとはとても思えなかった。

 そんな余の予想はやはり当たっていたようで、朝食を食べ終わるころには驚きの速さで判決が下され、私財没収の上で事実上の死刑宣告にも等しい帝国領内からの永久追放刑が言いわされることになった。






 ホボロでは到着した翌日に街の代官に任命していた者を断罪するという出来事があったが、余達はホモンの処罰を帝都から呼びつけた役人達に丸投げして昼前には南方領を目指してホボロの街をたっていた。

 街を出た後の道中では今のところこれといったハプニングもなく順調に進んでいる。

 …ハプニング自体はないのだが余は馬車の中で少々困った事態にみまわれていた。

 余達が乗る馬車は皇族専用の物であり、当然ながら馬車の内部は道中を快適に過ごせるように工夫されている。

 車内の空間も広くて寝転がっても問題無いような創りになっているのだが、そんな車内の広い空間を有効活用することなく、余は現在母上に捕まって膝の上に座らされているのだった。


「…母上、重くはないですか?」

「そうね。アレクちゃんも毎日スクスク成長してくれてるからだいぶ重くなってきたわね。」


 余を膝に乗せたまま御満悦といった表情の母上が答える。

 なぜこんなことになっているのかというと、ホボロの街の代官だった男のせいでストレスにさらされた母上が、癒しが必要であると主張して余を抱っこして膝に座らせるという奇行に走ったためだ。


「そうですか。ちなみにいつまで余を抱えておくおつもりですか?」

「ずっとよ〜。」

「…それでは母上が潰れてしまいます。」

「アレクちゃんのこの重さはわたくしにとっては幸せの重さよ。だからこの重さで潰れるならわたくしは本望だわ。」


 どうやら余を解放する気は無いらしい。

 母上に潰れられては困るので膝の上からの脱出を試みることにする。


「母上、余は窓の外の景色が見たいです。降ろして下さい。」


 母上は余のやりたいと言い出したことに対して、それがよっぽど危険だったり難しかったりしない限り否定することはない。

 本当は景色に心躍らせるほど幼いつもりはないのだが、膝から降りるにはちょうどいい口実になるのでそういうことにしておく。


「お膝の上からでも見えるでしょ?」

「余は反対側の景色も見たいのです。ここからではこちら側の景色しか見れません。」

「わかったわ。でも景色に飽きたらいつでも戻って来ていいからね。」


 作戦は上手くいき母上の膝の上から逃れる事ができた。

 代償としてしばらく窓の外を眺めなければならなくなったが、余は帝都周辺以外の景色をあまり見たことがなかったので普段見れない景色を見るのはいい暇つぶしになりそうだ。






「お疲れ様で御座います。本日の移動はこれで終わりとなりまして、このカムスの街で御一泊していただきます。」


 今日の移動を終えた余達は今日の宿となるカムスの街まで来ていた。

 ちなみにこのカムスの街での宿もホボロの時と同様に街の庁舎にある皇族専用区画を使う予定だ。

 昨日は日が沈むまで移動してホボロの街に到着していたが、この先は進み過ぎると宿として使えるような場所がしばらくないので今日は日が沈む前で移動をやめてこのカムスの街で一泊することになっている。


「まずは御部屋までご案内させていただきます。」


 昨日と同じ流れで今日の寝床となる部屋に案内させることとなった。

 案内された部屋は昨日の部屋と同じような造りの部屋だったが、今度は特に違和感とかは感じなかった。


「ただいま御夕食の準備をしております。しばしの間にご自由にされて過ごされてお待ちください。」


 移動を早めに切り上げたこともあって、夕食まで少し時間があるようなので暇を持て余すことになってしまった。

 こういう時はさんぽか読書をして時間を潰すのだが、この時間ならまだギリギリ街の市場が開いている時間だと思われるのでそのあたりをさんぽすることにした。

 とはいえ、一国の次期皇帝ともなってしまえば一人で街をぶらつくわけにはいかない。


「母上、せっかく日が沈む前に街に入れたので余は市場の辺りを見て周りたいです。」

「あらいいわね。それじゃあ一緒にお散歩しに…」

「アニエス様、なりませんぞ。アニエス様いはこれからカムスの代官との面談がございます。ホボロの一件を受けてこれから行く先々の代官の面談をすると言い出したのはアニエス様です。」


 母上もウキウキでついてこようとしたが速攻でワースに止められてしまった。

 帝国中央区の代官の任命は皇帝の権限で選ぶことができるが、実はあのホボロの代官は母上が直接選んだ人材というわけではなく、先代の皇帝が任命した者の身内が後を継いだ形で代官の職に就いた者だ。

 前任の代官が死去した場合は新しい代官を皇族が任命しない限りその身内の誰かが後を継ぐことになっており、街の運営で特に問題を起こしていないのなら理由も無しに代官を変えるようなことはしないので、あんなのが代官になっていたのだ。

 母上はそのことを非常に悔いており、ワースが言った通りに代官に就いている者を面談して回ることを決意したのだ。

 このカムスの街の代官がその一発目なのでここで余と一緒にさんぽに行くわけにはいかない。


「…言ってみただけですよ。アレクちゃん、わたくしはこれからお仕事だから楽しんで来てね。誰か、アレクちゃんの護衛として付いていってあげて。」

「了解しました。…あんまりゾロゾロと後ろを歩かれても楽しめないでしょう。そうなると…すぐ近くに着くのは少数にして、その他の人員は周囲を広く網羅するような布陣で配置させましょう。」


 母上の呼びかけに応えた皇族近衛部隊がエルク副隊長を中心にしてがテキパキと余の護衛計画を立ててくれる。


「エルク副隊長、それではそのそば付きの護衛は私めが務めさせていただきます。」


 名乗りを上げたのは、エルク副隊長の下でその右腕のような立ち位置を務めているリュティスという名の女騎士であった。


「…まぁ、リュティスになら任せても大丈夫か。他の人員の配置も決めるぞ。アレク殿下、直ぐに段取りをつけますのでしばしお待ちください。」


 エルク副隊長がキビキビと動いてくれたので驚く程の速さで段取りが終わり、余は無事にさんぽに出ることができた。




 護衛を引き連れてではあるが市場のさんぽはそれなりに楽んでいた。

 やはり普段あまり見ない物に溢れた市場は面白く見ていて飽きない。

 辺りをキョロキョロと辺りを見回しながら歩いていると、ふと薬の類を売っている露店商に目が止まった。

 その露店商は若くはあるが特別美人というわけでもなく、良くも悪くもどこにでもいそうな顔立ちの少女だった。


「いらっしゃいませ。ちょっとした切り傷にちょうどいい薬から腹痛に良く効く薬、美容に良い薬とかも揃ってますよ。ぜひ見ていって下さい。」


 客の呼び込みをしている露店商の少女の近くに行き、その顔をまじまじと見つめる。


「あの…わたしの顔よりも商品の方をじっくり見て欲しいな〜って思うですけど……もしかしてわたしの顔に何か付いてます?」

「ふむ………やっぱり姉上ではないですか。こんなところで何をやっているのですか?」


 余の指摘でどこにでもいそうな少女の顔が引っつた。

 すぐ近くで話を聞いていたリュティスも突然の余の発言で目を白黒させているようだった。


「…あの、誰かとお間違えでは?わたしはしがない薬売りですけど?」

「今までどこで何をしていたのですか?…そうだ、ちょうど母上も近くに来ているのです。せっかくですし会っていかれてはどうでしょう?」


 母上も姉上と再会できればさぞやお喜びになることだろう。

 そして今晩は姉上と一緒に寝ると言い出すだろうから余は一人でゆっくりと寝ることができるはず……いや、母上のことだから余と母上を両手に抱いて寝ると言い出す可能性の方が高そうだ。


「…えぇ〜っと、その…わたしら本当にただの薬売りですよ?ほらっ貴方様のような高貴な方とは似ても似つかない顔をしていますでしょう?」

「失礼いたします。アレク殿下、こちらの店員が言う通りこの方はカゲツ様ではございませんよ。」

「確かに余が最後に見た姉上とは顔が違いますね。姉上は母上と瓜二つの顔だちをしていましたから順当に成長していれば貴女のような顔にはならないでしょう。ついでに言えば目の色も髪の色も違うし声も違います。端的に言えば貴女と姉上の共通点と呼べるのは性別が女性であることぐらいしかないと言えるほど貴女と姉上は似ていません。それは事実なのですが…それでも貴女は余の姉上でしょう?」


 余が自信満々にそう断言すると姉上は黙り込んでしまった。


「はぁ………アンタねぇ!人が必死でしらばっくれてんだから空気を読んで合わせなさいよ!」


 溜息を一つつくと姉上の態度と声が一変する。

 こうして余は数年前に突如として姿を消した姉上とバッタリ再会した。

ちなみにホモンが皇族が近くに居るにもかかわらず隠し部屋を使ってしまったのは、初めは皇族が居なくなるまで我慢するつもりでしたがアレクが好みドストライクの美少年ショタだったので辛抱たまらんくなってしまった、という経緯があります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ