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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
アレク編
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午後の授業

 ワプールから話を聞いた余は、昼食の時間にもなっていたこともあって一度城に戻り食堂にさ向かった。

 だが今日はいつもと違い、いつもなら先に食堂に来て余を待ち構えている母上の姿が無かった。


「母上がまだ来ておらぬようだな。何かあったのか?」


 母上は余と過ごせる時間を異様なほどに重視している。

 それこそ緊急性が無い用件なら全て後回しにして余との食事を優先するぐらいには、母上にとって優先順位が高いことらしい。


「アニエス様は通信室に籠もられました。先に御食事を召し上がられらようにと言付けを預かっております。」


 余の問いに部屋に控えていた使用人の一人が答えた。

 通信室というのはその名の通り遠方との通信を可能とする魔導器を備え付けた部屋のことで、母上が帝位を奪還した後に珍しくわがままを言って最新の設備を導入して作らせた物だ。


「あぁ…不定期で来るいつもの通信が入ったのだな。では遠慮なく先に食事としよう。」


 実は今回のように母上が通信室に籠もるのは初めてではなく、タイミングはいつもバラバラだが月に何度か通信が入った時にこうして通信室に籠もることがある。

 現時点では誰と通信しているのかは分からないないが、おそらく傭兵の国に居る誰かだろう。

 今日の夕食の時にでも誰からの通信で何の話をしたか話してくれると思うので、今は気にしないことにして昼食を済ませることにした。






 昼食を済ませた後は乗馬用よ服に着替えて再びワプールの元へ向かう。

 ワプールが準備を済ませてくてれいるので、余が到着した時には既にワプールが馬を引いて待っていた。


「アレク殿下、それじゃあ早速始めるっすよ。」

「ああ、わかった。お前も今日はよろしく頼むぞ。」


 今回余が乗ることになる馬に、安心させるつもりで可能な限り優しい声色で語りかけたが、やはりいつものように馬の動きが硬く緊張しているのが見て取れた。

 明らかに落ち着いた状態とは言えない様子だが、この状態から興奮して暴れ出すようなことには今までなったことはないので、自然な感じで動いてくれないこと以外に弊害はでていない。

 なので、今回もいつもの調子で軽く鞍に飛び乗って足で指示を出して歩行を開始させる。

 この一連の動作には余も慣れているので淀みなく行える。

 細かいことを言えば馬が緊張しているせいか変な所に力が入っていて動きが硬く、歩行のスピードもやや早いぐらいなので余がイメージしている通りの動きとは違っているので完璧とは程遠い。


「ここまではまずまずっすね。じゃあ次に…ちょっと走らせてみるっすか。」


 歩行までの動きを確認したワプールが次の段階の指示を出した。

 それを受けて余も足で馬に指示を出し走らせる。

 余としてはそこまで速く走らせるようなイメージで指示を出したわけではないのだが、指示を受けた馬はいきなりトップスピードまで加速し全速力で走り出した。

 実はこうなるのはほぼ毎回のことなので余としては心構えができていた。

 馬の背で冷静にバランスを保ちながら馬の首の後ろを撫でで全力で走る必要は無いと落ち着かせる。

 すると余の意識が伝わったのか、ようやく馬は走る速さを緩めて全力疾走を止めた。


「やはり調整が効かんか…」

「アレク殿下側には落ち度らしい落ち度は無かったっすよ。前にもちょっと言ったっすけど、これはやはり馬がアレク殿下に慣れていないのが原因っぽいっすから、これからも定期的に乗って慣らすしかないっすよ。」


 余達を追ってきたワプールが追いついてきて、余の呟きに答える。


「馬にも色々な性格があるだろう?どこかに余を前にしても物怖じしないような性格の馬が居らぬものか…」

「物怖じしない馬…普通の馬じゃ厳しい気がするっすね。いっそ馬の魔獣とかの方がアレク殿下には合うかもしれないっすね。あっ…でも、魔獣は結界がある空間に居るだけでストレスを感じるみたいだからそれも難しいっすね。」

「魔獣か…話では聞いたことがあるがそんなに数がおるものでもないだろう?」

「傭兵の国にはけっこう色々な種類の魔獣がそれなりの数居たっすよ。なんなら一部は普通の動物と掛け合わせることで品種改良して家畜化してる半魔獣みたいなの居たっすからね。」

「半魔獣…そんな者がおるのか?聞いたことが無いぞ?」

「半魔獣は魔石こそ無いですけど、親からの遺伝で魔力の残滓みたいなのが身体に残っているらしいっす。その分普通の動物よりも身体能力とかが高かったたりするんすけど、そのせいで結界の影響をわずかに受けるから結界の効果範囲内で飼育するには向いてない動物なんでポピュラーな家畜ではないんすよ。」

「そうなのか。ワプールは馬以外に家畜にも詳しいんだな。」

「まぁ、自分は傭兵の国に入る前から動物の世話してたんで普通の人よりも詳しいのは確かっすね。」

「ほぅ、そうであったか。…そういえばワプールはなぜ傭兵の国から帝国に移り住むことになったのだ?」

「自分っすか?自分は辺境の開拓村で家畜の世話をして暮らしてたんすけど魔王の侵攻でその村がなくなっちゃたんすよ。それで傭兵の国に流れ着いたんすけど、闘う才能が無かったもんで家畜の世話とかして暮らしてたっす。そしたらある時アニエス様が傭兵の国に亡命して来て、その時にお供の方々が連れていた軍馬の世話を任せられることになったっす。それでアニエス様の帝位奪還が成功した後にその人達が帝国に戻ることになったんすけど、その時のお供の方々に一緒に来ないかって誘われて今に至るって感じっすね。」

「なるほど…ちなみに出身はどこになるのだ?」

「自分の産まれはグレルカイトっすね。」

「グレルカイト…大陸の西にある国であったな。やはり帝国とは色々と違うのか?」

「そうっすね。まずそもそも気候が違うっすから…」


 余の最大の課題は馬に慣れてもらうことなので、これより後はこのような感じで適当に雑談しながら馬を歩かせて今日の乗馬訓練は終りとなった。






 乗馬の訓練を終えたら次は城に戻って軽く汗を拭いた後に着替えてダンスレッスンの準備だ。

 ダンスの基本的な動きは既に習得しているが、ダンスとは一人で完成させるものではなく共に踊る者と呼吸を合わせて行うものだ。

 だが余の体格的にも大人を余のダンスパートナーにすることはできない。

 なので年頃が近い北方伯の御令嬢をダンスパートナーとして招きダンスレッスンを行なう。

 …といううのは全て建前で、実際のところは婚約者候補の筆頭である北方伯の御令嬢と顔合わせをするのが目的の授業だ。

 現在帝国内に皇帝の血を引き結界の管理者となれる者は母上と余しか居ない。

 それゆえ、余は成人と共に即位と結婚して妻を迎えることが決まっている。

 だが厳密にはまだ国内の政治的なバランスもあって、余の妻となる者は正式に決まっていない。

 これは母上が政治的な思惑で余の婚約者を決めず余の意思を尊重してくれたからだ。

 だがそれはそれとして、母上は帝位の奪還の前から多くの献身を捧げてくれた北方伯一族に強い感謝の念を抱いているので、余と北方伯の御令嬢が懇意になることを応援してもいる。

 そのような裏の事情があって今日のような行事が定期的に行われている。

 ダンスのレッスン部屋に余が到着すると、そこには既に北方伯と御令嬢が待機していた。


「アレクサンドリウス殿下、お待ちしておりました。」

「ア…アレクサンドリウス様、ほ…本日はよろしくお願いいたします!」


 余の入室に気が付いた二人が順番に挨拶してくる。

 普段は二人共自身の領地である帝国北部に居るのであまり接点がなく、こうして会うのは数ヶ月ぶりになるので名前が一瞬出てこななかったが北方伯の方はコンラッド・クシュルダ・ノーティスという名で、その娘の御令嬢はテファーニア・クシュルダ・ノーティスという名だったはずだ。


「コンラッド北方伯、テファーニア嬢、今日はよろしく頼む。」


 余も挨拶を返したところでテファーニア嬢がおずおずと余の前に歩み出た。

 その様子からは緊張の色が見て取れる。


「そう緊張する必要はないぞ。一度大きく息を吸い込んでみよ。……そうだ。ではテファーニア嬢、余と踊っていただけますか?」

「はい。喜んで。」


 余の誘いにテファーニア嬢が答えたのを合図に部屋でスタンバイしていた音楽家達が演奏を開始し、ダンスのための音楽を奏で始める。

 こうしてダンスレッスンが始まった。




 数曲踊った後、テファーニア嬢の動きに違和感を覚えるようになったので合図を出し演奏を止めさせた。


「今日のところはこの辺りにしておこう。」

「そんな!アレクサンドリウス様、わたくしでしたらまだ大丈夫です。」


 どうやらテファーニア嬢自身にも不調である自覚があるようだ。

 違和感の正体は左足の動きだ。おそらく今日のために新しい靴をおろしたのであろうが、履き慣れていない靴であったために痛めてしまったのであろう。


「余のために着飾ってくれておるのは嬉しく思うが、慣れぬ靴で踊るのは良くなかったな。」

「あぅ…申しわけありません。」

「よい。」


 足を怪我しているレディを歩かせるわけにはいかない。

 ということで、気落ちしてしまったテファーニア嬢を抱えて少し離れた場所で見守っているコンラッド北方伯の元まで連れて行くことにする。

 いわゆるお姫様抱っこという体勢だ。


「はぅ…アレクサンドリウス様、そんなふうにしていただかなくてもわたくしなら大丈夫です。」

「なに、大した距離ではない。それに、余は将来伴侶となる者にもこうしてやりたいと思っておる。その予行練習だとでも思って付き合ってくれ。」


 ちなみにこれは気を使わせないための社交辞令というわけではなく、母上が父上との思い出について語る時によく逞しい腕でお姫様抱っこされて嬉しかったと語っていたので、そんなに喜ぶなら余もやってみようと本当に思っていることだ。

 コンラッド北方伯の所へテファーニア嬢を連れて行くと、気を利かせてくれた使用人が椅子を持ってきてくれたのでそこにテファーニア嬢をゆっくりと降ろす。


「アレクサンドリウス殿下、その…最近の娘は成長期でございまして、重くはなかったですか?」

「なっ…お父様!」

「なんの、余はこれでも将来帝国を背負う身だ。羽根のように軽いレディ一人に難儀するほどひ弱ではないぞ。」


 余のことを気遣っての言葉であろうが、テファーニア嬢に対して角が立ちそうだったので軽口で返して場を和ませておく。


「それにしても、アレクサンドリウス殿下は相変わらずお見事な足捌きで御座いましたね。」

「いや、真に褒めるべきはテファーニア嬢であろう。動きから今日のためにしっかりとダンスレッスンに励んでおったことが伝わってきたぞ。数ヶ月前に踊った時よりも確実に上手くなっておる。それに比べて余はそれなりに踊れてはおったと自負はしておるが、それは前からできておったことで進歩自体はさしてしておらぬからな。」

「なっ…そのようなことはけっして…」

「アレクサンドリウス様はしっかりとわたくしをリードして下さいました!進歩していないなんてことはないと思います!」

「テファーニア嬢がそう言ってくれるなら、余もテファーニア嬢と共に進歩できておるということだな。まぁ、それもテファーニア嬢がいてこそのことだ。これからもよろしく頼むぞ。」

「はぅ、アレク様……はっ、気安くお呼びしてしまい申し訳ないございません!」

「よい、いい機会だ。これからは余のことはアレクと呼ぶがいい。」

「そんな!恐れ多いです。」

「では、その代わり余もそなたのことはテファと呼ぶことにする。これでおあいことしよう。」

「アレク様…はい!」


 ここで、またまたま気を利かせてくれた使用人が茶菓子を準備してくれたので、本格的に座って雑談する流れとなった。

 いい機会なので北方伯に聞きたかったことを聞くことにする。


「そういえば、余は最近歴史の勉強で知った母上が成した帝位奪還について調べておる。コンラッド北方伯も母上の帝位奪還に際し多くの力を貸してくれたと聞いた。当時のことについて教えてくれぬか?」

「アニエス様の成した偉業に興味を持つのは至極当然の流れで御座いましょう。私で答えられる事なら何なりと御聞きになって下さい。…とは言っても、あの一連の闘いで私共がアニエス様のお役に立てたのは帝国奪還後の南方領の平定の時だけでしたが。」

「南方領の平定…たしか前皇帝派閥の重臣で最後まで前皇帝のために闘った当時の南方伯軍との闘いであったな。」

「ええ、…フフッ、それにしても今の歴史書ではそんなふうに書かれているのですね。モノは言いようと言うやつです。実際の当時の南方伯はアニエス様に毒を盛るという大罪を犯したことで引くに引けなくなり、最後まで悪あがきすより道がなかった憐れな小男でしたよ。」

「そうか…前任の南方伯を追い詰め討ち取ったのは北方伯であったと記録されておったな。」

「はい。正確に言えば討ち取ったのは当時はまだ現役であった我が父ぜバルですが、私もその時の別の部隊の指揮をとって闘いました。」

「ふむ…先の闘いでは傭兵の国の者も帝都の北大門を大通りごと斬るなどして大いに活躍したと聞いた。この時の闘いでも何か大きなことをやったのではないか?」

「いえ、かの者達が闘いに参加したのは帝位奪還の決戦まででした。帝国内に逗留こそしていましたが、その後の南方領での闘いに関しては一切手出しはしませんでした。」

「むっ…それは少し意外であるな。闘いとなれば勇んで参るイメージであったぞ。」

「私も彼等と轡を共にするまではそのようなイメージでおりました。ですが、どうやら彼等は彼等なりの闘いに対する流儀というものがあんようでした。」

「闘いの流儀か…ちなみにだが、北の大門と大通りをまとめて斬り開いたという話は真なのか?」

「あぁ…アレですか。はい、この目で見ましたので間違いございません。思えばアレは私が見てきた中で最も衝撃的の光景でした。」

「ほぅ…」

「…もう!お父様ばかりアレク様とお話してズルいですわ!」


 つい話に夢中になりレディを置いてきぼりにしてしまうという失態をおかしてしまっていた。

 本当はもう少し話を聞きたいところであったが、レディを悲しませてまで聞くようなことではない。

 ここからは他愛のない話題でテファと談笑し今日のダンスレッスンは終了となった。

ダンスレッスンのくだりはもっとあっさり流すつもりでしたが、気がついたらショタがロリを口説く展開になっていました。

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