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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
アレク編
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歴史の裏側

 余が産まれる前に起こった帝位簒奪事件とそのれに続く奪還劇。

 余はそのことについて興味を持ちどのような経緯で何があったのかを知るべく事件の当事者である母上に話を聞くことにした。

 この時間ならば母上は皇帝代理として職務室で政務に励んでいるはずだ。

 余談であるが母上は帝位を奪還した後は皇帝代理という地位につき、次の皇帝である余が正式に即位するまでの空席を埋めるだけに留めている。

 余は当初、帝国の歴史上で一度として女性が皇帝の地位に就いた前例が無いようなので貴族などの反発などがあって女帝の座に就けなかったのかと思っていのだが、どうも母上は意図的に女帝という地位を蹴って皇帝代理という立場を選んでいるらしい。

 余の名前は母上が付けてくれたもので、御爺様と同じ〝アレクサンドリウス〟であることを考えると母上なりの考えがあってのことなのだろう。

 そんなことを考えながら城の中を進み母上の職務室に着いた余はノックして母上に訪問を知らせる。


「母上、今少しよろしいでしょうか?」

「あらあら、どうしたのアレクちゃん?あなたが訪ねてくるなんて珍しいわね。もちろん、わたくしはアレクちゃんのためならいくらでも時間を作るから何時でも歓迎よ。」

「アニエス様、政務が滞りますので〝いくらでも〟はお控えください。」


 職務室に控えていた文官がすかさず釘を刺してくるが、政務で忙しいはずなのに母上は笑顔で余を向かい入れてくれた。

 そして母上は普段のおっとりとした雰囲気からは想像できない程の素早さを発揮して余を捕まえると、膝の上に乗せてご満悦の表情を浮かべた。

 正直、余が本気で逃げれば母上に捕まりはしないのだが、以前そうして逃げたら母上が本気で泣いてしまったのでそれ以来逃げることは諦めている。


「…母上、話を…」

「ハッ…そうだったわね。それでわたくしに何か聞きたいことでもあるのかしら?」

「はい。今日歴史の授業を受けていたのですが帝国歴三百七十二年に母上が行った帝位の奪還について教師に聞いても答えてくれなかったのです、それで当事者である母上に何が起こったのかを直接聞こうと思い立ちまして。」

「帝位の奪還…懐かしいわね。あれは十二年前の…いえ、正確に言えばもう十三年前のことにになるのかしら。当時わたくしはロリクテット叔父様に命を狙われる立場になっていて傭兵の国に亡命していたの。」

「傭兵の国…話には聞いております。確かに余の父上も傭兵の国の者だと以前話してくださいましたよね。」

「そうよ。わたくしと旦那様は亡命した先の傭兵の国で出会ったのよ。あれは今でも忘れもしないわ。亡命の道中で心身ともに限界まで追い詰められたわたくし達が、とある魔物のナワバリに足を踏み入れてしまい絶体絶命の危機的状況に陥ってしまった時に…」

「母上、その話にも興味はありますが、今は帝位奪還の時の話を聞きたく思います。」

「そうだったわね。それで…どこまで話したかしら?」

「母上が当時傭兵の国に亡命していたというところまでです。」

「そうそうそれで、その時のわたくしは当時の南方伯だったチョモス・サウザールという男の手によって厄介な毒を盛られたせいで本来ならとっくに死んでいたはずの人間だったわ。そういう事情があったから何年かはわたくしが生きていることをロリクテット叔父様に知られずに過ごせていたの。でもどこからかわたくしが傭兵の国で生き延びているという話を聞きつけたみたいで、ロリクテッド叔父様は傭兵の国に対してわたくしを引き渡すように迫ってきたの。それこそ最悪の場合は傭兵の国と戦争することになっても構わないというくらいの高圧的な態度でね。でもその高圧的な態度が良くなかったみたいで…傭兵の国にはナメた態度で来るヤツはわからせろって文化があるから…傭兵の国は帝国が売った喧嘩を買っちやったの。」

「買っちゃったって…それはつまり帝国と傭兵の国は戦争をしたってことですよね!?でも歴史書にはそんことは一文も書かれていませんでしたよ?」

「帝国の歴史として遺したくなかったんでしょうね。なにせ、今アレクちゃんが次期皇帝の座に着いていることから想像はつくでしょうけど、帝国はこの闘いで傭兵の国にコテンパンにされて負けちゃたから。そしてそのことを誤魔化すために、表向きはわたくしが一部の傭兵の国の者達に協力を仰いで帝位を奪還したってことにしたみたい。」


 藪をつついて蛇を出すみたいなことになったが、そういう事情があったのなら歴史の教師が自分の口からは話せないと言ったのも納得できる。

 言わばこれは帝国の恥部とも言える歴史だ。真実をずっと隠し続けることはできないにしても、余がもう少し大人になって色々な事情を加味できる年頃になるまで話さずに秘匿しておきたかったのだろう。


「…アレクちゃん、帝国の情けない実態を知ってがっかりしちゃったかしら?でも一応擁護しておくと、傭兵の国と闘って負けたのはロリクテット叔父様に従った帝国の一部の軍隊だけで、帝国の全軍が負けたってわけじゃないのよ。」

「いえ、むしろ逆に興味が湧いてきました。余はこれからの帝国を治める者として歴史の真実を知っておくべきでしょう。」

「そう…それなら次は何が知りたいの?」

「そうですね…では…」

「御歓談中のところ失礼致します。恐れながらアレクサンドリウス殿下、城内で働く者の中には

 様の帝位奪還を期に傭兵の国より帝国に流れて来た者達が複数おります。そちらの者達から話を聞くのも一興かと存じます。」


 母上は全く気にしていないようだが、職務室に追加の書類が届いたのを期に部屋に控えている文官からの〝アニエス様に政務をさせて下さい〟という無言の訴えを乗せた眼差しを余に向けてくる。

 余としても母上の政務の邪魔となるのは本意ではないので文官の話に乗ることにした。


「母上以外からか?」

「はい。ちょうど午後からアレクサンドリウス殿下に乗馬を教えることになっているワプール殿もその一人だったはずです。話を聞いてみる価値はあるかと。」

「そうであったか。では母上、お邪魔しました。余はこれからワプールの所に行ってみようと思います。」

「ぜんぜん邪魔じゃないのに…アレクちゃんもう行っちゃうの?」

「はい。母上も政務を頑張って下さい。」


 こうして次は乗馬の指導者であるワプールの所に行くことにしたのだった。




 ワプールは城の馬番の代表のような立場なので、基本的に城内の厩舎の近くに建てられた小屋に常駐している。

 厩舎にいる可能性もあるので小屋に居なかったらそちらも覗いてみるつもりだったが、幸いなことに小屋の中いるようだった。


「ワプール、少々邪魔をさせてもらうぞ。」

「おや?アレク殿下、乗馬の訓練は午後からじゃなかったっすかね?」

「うむ、午後からの予定で合っておるぞ。今来たのはおぬしに少々聞きたいことがあってのことだ。」

「午後の訓練の時にも会うのに今来たってことは急ぎの用件っすかね?」

「いや、それ程急ぎでもないのだが…少し時間ができたのでな。」

「自分に聞きたいことっすか?この前みたいに乗馬に関することっすかね?」


 余は自慢では無いが大抵のことなら一度経験すれば要領を掴んで上手くやれるようになれると自負している。

 だが、そんな余にも上手くできないことがいくつかあり、乗馬もその中の一つだ。

 馬に限った話ではないが、余はどうにも動物の類を近づいただけで萎縮させてしまう体質らしい。

 なので余を前にした馬は動きが硬くなり、余を背に乗せようものなら自然な動きができなくなるのだ。

 しばらく背に乗って慣らせばある程度は動きもスムーズになるし、暴れ出すようなこともないのだが余がイメージしている通りの動きとは程遠い。

 それゆえに、以前このことをワプールに相談したとことがあったので今回も同じような相談をしに来たと思ったようだ。

 ちなみに、その時のワプールの返答は「そうすっね…乗馬っていうのは一人でやることではなくて、馬と一緒にやることなんすよ。だから馬がアレク殿下に慣れるようになるべく一緒に居ることが近道っすかね。」だった。


「今回は違う。ワプール、おぬし昔は傭兵の国におったそうだな?」

「そうっすよ。もう八年ぐらい前の話っすね。」

「八年前か…であれば母上の帝位奪還の際のことも知っておるな?」

「あ〜…その話っすか。アレク殿下、申し訳ないけどそのことに関しては武官の連中に口止めされてて…」

「帝位奪還の裏に傭兵の国が大きく関わっていることは既に母上から聞いた。武官に後で何か言われても余が話せと命じたことだと言って構わない。」

「ん〜…ならまぁ、話ちゃってもいいっすね。それで何が聞きたいんすか?」

「まず一番知りたいのは帝国軍が敗北した理由だな。余は今後の帝国を担う者として魔王との闘いを避けられぬ立場だ。敗北という教訓からきちんと学び対策を講じる責務がある。」

「敗北の理由っすか。そなら単純に…相手が悪過ぎたってところっすかね。」

「相手が悪過ぎた?…その説明ではイマイチ分からなんな。」

「実のところ、あの時の闘いではまともな戦闘って起こってないんすよ。ほとんど総大将様が一人でズンズンと進んで行って片をつけちまったようなもんなんで。」

「なに?ではたった一人相手に帝国軍は負けたということか?にわかには信じがたい話だか…」

「まぁ、こんな話を信じろって方が難しいっすよね。でも本当のことなんすよ。もっと信じられない話をするなら…アレク殿下、城から帝都の北門まで一直線に伸びている大通りがありますでしょ?」

「ああ、確かにあるな。」


 帝都は中心部の城を囲むような創りで広がっており、その外周を大きな外壁で守るような創りになっている。

 そして外壁には東西南北にそれぞれ大門があり、城に常駐している兵が直進するだけで通れるように真っ直ぐに伸びた大通りが城とそれぞれの大門を結んでいる。


「それで北門と、そこから城までの大通りの道だけが他の大通りの道と違って妙に新しい創りになってるってるっすよね?」

「ふむ…確かに北門とそこから城まで続いている大通りの道だけは何故か新しい創りになっておるようだったな。大通りはどれもだいぶ古い物のようだったから順番に少しつづ改修していっておるのかと思っておったのだが、それと今の話に何の関係が……待て、まさか!」

「そうっすよ。当時の闘いでは北方伯殿の協力を得て北側から進軍して行ったわけなんすけど、アレは総大将様が閉ざされていた北門もぶった斬ってこじ開けた時の余波で破損したのを修理した後なんす。」

「バカな!北門から城までかなりの距離があるのだぞ!?ただの一閃で北門から城までの大通りのほとんどを破壊したというのか!?」

「噓だと思うなら他の人にも聞いてみるといいっすよ。確か…ちょうど乗馬訓練の後にダンスレッスンが入ってたっすよね。それでダンスパートナー役として北方伯殿が御息女を連れて来るって話だったはずっすからその時に北方伯殿にでも聞いてみるいいと思うっすよ。」


 ワプールを信じていないわけではないが鵜吞みにするのはあまりにも荒唐無稽な話だ。

 北方伯とは何度か会ったことがあり、ある程度は人となりを知っている。

 この手のことで冗談を言うような人物ではないので北方伯からも同じ話が聞けたのなら間違いだろう。

 日々習い事をこなすだけの退屈な日常が続いていたところだったが、午前中だけでも中々に興味深い話を聞くことができた。


「ふむ…これは面白くなってきたかもしれん。」


 自分でも意識していなかったが思わずそう呟いていた。

今回の章はこんな感じでアレクがプロローグで語られた物語の真相を色々な人から聞いていくことから始まります。

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