表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
ロア編
82/105

エピローグ

 次の日には魔王の討伐が確認されウリーカの街の厳戒態勢も解除された。

 これに伴い傭兵の国の商人達が持ち込んだ他国の珍しい物品を求めて、ウリーカの街の商人達が我先にと傭兵の国の本陣を目指してい馬車を走らせていく。

 そんな商人達の護衛兼案内役として多くの傭兵の国の者が同行し戻って行く中、俺達は予定通り星鈴花を届けるためにデニスさんの屋敷を訪ねていた。

 デニスさんはこの街の商人の中でも立場が上の方の人だったことを考えると、今頃魔王の侵攻によって発生したゴダゴダを解決するために忙しくしていることが予想される。

 俺達は俺達で色々と忙しかったこともありアポイントを取れなかったため、突然の訪問となってしまったので会ってくれるか少し不安だったが門前払いされることもなくせんなりと客間に通された。


「すぐに旦那様がこられます。お客様はこちらでしばしの間、こちらで御寛ぎ下さいませ。」


 そう言って出された高級そうな茶菓子を朝食代わりに食べながら待つことしばし。


「失礼、遅くなりました。」


 屋敷の主であるデニスさんがやって来てた。


「そちらにも立場があるだろうから仕方がないことだ。色々と忙しいだろうこらさっそく本題に…コレが俺達が採取してきた星鈴花だ。数はこれで足りるか?」

「おぉ!こんなに多く…大変だったのでは?」

「ああ、流石に苦労したし死にかけた。」

「それはそれは…苦労に見合うかどうかはわかりませんが、報酬には色をつけさせてもらいます。」

「まぁ、くれるってんなら断るのもおかしな話になるな。素直に貰っておこう。数が足りてるなら俺達は報酬を受け取り次第たたせてもらおう。」

「そんな!もう少しゆっくりされも…」

「長居しても迷惑だろ?この時間を作るのにもだいぶ無理をしたんじゃないか?」

「…忙しいのは事実ですが、それを理由に恩人に対する礼節を欠くようなことがあっては人の上に立つ者として失格です。どうか遠慮なさらずに私の屋敷でごくつろぎ下さい。」

「いや、遠慮とかじゃない。クリスの本登録とかもあるし早めに傭兵の国に戻っておきたいだけだ。…そういえばチックがどこにいるか知ってるか?傭兵の国へ連れて行くって約束してるから合流したいんだけど。」

「チックですか、それなら彼女は今私の屋敷で働いてもらっていますので呼べばすくまに来てくれると思いますよ。」


 そう言うとデニスさんはパンパンと手を叩き人を呼び、音もなく現れた執事風の男にチックを呼んでくるように指示を出した。


「実はあの後、念の為にチックを家で預かっておいたのですが、その際にただで世話になるのは気が引けると言って家の手伝いを買って出てくれたのです。そしてその流れで私の娘とも会ったようでして、歳が近かったこともあってか仲良くなったようで。娘の話し相手兼家事手伝いとして雇うことにしたのです。」


 どうやら知らないうちにチックの方にも色々あったようだ。

 元々チックが傭兵の国に来たがっていたのはそれしか生き残れる選択肢が無かったからだ。

 クリスのように冒険がしたいとかいうポジティブな理由ではなかった。

 別の道が開けたならば無理に傭兵の国に来る必要もない。

 少しすると客間の扉が小さくコンコンとノックされた。

 デニスさんが入室を促すとサイズが直されたメイド服をきて小綺麗になったチックが部屋に入ってくる。


「旦那様なにかオイラ…じゃなくてワタシに御用でしょうか?……ってロアにいちゃん!もう戻って来てたのか!」

「チック、お客様の前ですよ。」

「!…失礼しました。」

「ちょっと見ない間に言葉遣いまで変わって…いや、そんなに変わってないか?なんにしても変えようと努力している最中みたいだな。その様子じゃ聞くだけ野暮かもしれないけど、本人の意思確認だけはしとくのが筋だろうから一応聞いとく。チック、お前はまだ俺達と一緒に傭兵の国に行く気はあるのか?」

「……せっかく迎えに来てくれたのに、ごめんなさい。本当は昨日まではついていくつもりだったんだけど、昨日傭兵の国の人達が相手をしてる怪物の姿を見ちゃって…それで…」


 概ね予想通りの答えが返ってきた。

 昨日の怪物というと恐らくは魔王のことだろう。

 あれ程の巨体なら街の外壁越しでもすこは見えただろうし、一般人が存在感に気圧されてるのも頷ける話だ。


「そうか。お前が自分の意思でそう決めたのなら俺がとやかく言う筋合いは無い。お前のことはそれでいいとして、なんかあの時の口ぶり的に他にも連れていってほしいヤツ等がいるみたいだったよな?そっちはいいのか?」

「それについては私の方から。ご存じのことかもしれませんが、今回の侵攻で多大な人的被害がありました。」


 説明を買って出たデニスさんの言葉を聞いて、傭兵の国を出発する前に商国の防衛戦力が壊滅状態だと噂されていたことを思い出した。


「そんな話はチラッと聞いたな。」

「ええ、防衛隊のメンツなどという誰の命も救えないものにこだわったせいで救援要請が遅れ、この街も陥落一歩手前までいく大惨事になりました。…本当に度し難い…すみません。話がそれてしまいましたね。それで、今後どこもかしこも人手不足になることが予想されるのですよ。こいういう場合は他の地域から余っている人達が流れて来るのですが、それだけでは補填しきれない可能性が高いのです。ですのでこれを期にスラムの住人に対しても雇入れの門戸が広く開かれ、それは子供とて例外ではない環境になる見通しです。」

「なる程、つまりもう本格的に俺達が出る幕は無いってことか。そういうことなら長いは無用だな。クリス、報酬を受け取り次第傭兵の国に帰るぞ。」


 これで、この街での用事は全て終わった。

 帰り支度を始めようとしていると、何やら客間の外から賑やかな声が聞こえ始める。


「お嬢様、この先はただいまお客様来ておられます。どうかお部屋にお戻りください。」

「知っていますわ!その方達がわたくしの為に星鈴花を取って来てくださったのでしょう!ならばわたくしからもご挨拶とお礼を申し上げるのが礼儀というものですわ!」

「いけません。お礼ならば旦那様の方で十分になされているはずですし、なによりもお嬢様はまだ病み上がりです。」

「いいえ、病み上だとかは問題ではありません。調子が良く身体が動くのならば後悔がないように行動するべきなのですわ。」


 声はどんどんこちらに近づいて来て、とうとう客間の扉の前までやって来る。


「失礼しますわ!」


 その声の後に扉が勢い良く開き、少し痩せ過ぎだがそれでも十分可愛いく将来は美人になりそうな顔立ちの少女が入室してくる。


「お初にお目にかかります。わたくしはカロリーナという者ですわ。この度はわたくしの為に御尽力頂きまして誠に感謝申し上げますわ。」


 そう言ってスカートの端をチョンと摘んだどこか優雅さを感じられる姿勢で挨拶してみせた。

 どう反応していいか分からず固まっているとデニスさんがいち早く動き出す。


「こっ…こら!カロリーナ、寝ていなくてはダメじゃないか!」

「いいえお父様。寝るのは何時でもできます、でも恩人へのご挨拶とお礼は今しかできないことですわ。病床のベットの中で明日をも知れぬ身でいる時に決めたのですわ!後悔が無いように生きると!」


 どうやらデニスさんの娘らしい。

 なんとなく儚げな少女を勝手にイメージしていたのだが、実際はたくまし…細い身体に強い意思を宿した御令嬢だったようだ。

 挨拶と一悶着を終えたカロリーナ嬢が改めてこちらに向き直ると、何故か俺達を見たカロリーナ嬢が真っ赤になった。


「…ポッ」

「ポ?」


 カロリーナ嬢から意味がわからない若干間抜な声がして、俺も思わず聞き返してしまった。

 そして何かを察したような顔をしたデニスさんが急速に動き出す。


「ハインツ!お客様がお帰りだ。」

「はい旦那様。報酬の準備は整っております。」

「ロア殿、クリス殿。改めてお礼を言わせていただく。こちらが報酬だ。忙しい身をこれ以上引き留めるのは逆に無作法になるだろう。今後はまたいつでも私ことを頼ってほしい。ではさらばた。」


 ついさっきまでのゆっくりしていってくれというムードから一変し、もの凄い早さで話が進んで気付いたら俺とクリは報酬が入った袋を持ってデニスの屋敷の外にいた。


「…最後のは何だったんだ?」

「お前って以外と罪なヤツなんだな。」

「何の話だ?」

「…わかってないなら話すのも野暮か……行こうぜ。」


 釈然としないものの、こうして俺達はウリーカの街での用事を全て終えて傭兵の国への帰路につくことになった。




 帰路の道中は周囲にいた魔物が全て殲滅されていることもあって何の障害も無く順調に進む。

 今回の旅では色々あったが、新しい仲間を得て俺なりに成長できた旅だった気がする。

 特に魔将との闘いでクリスのサポートを受けてとはいえ、親父が得意としていた『異力響交叉』を実戦でのキメ技として成功させられたことに強い手応えを感じている。

 その他にもいつか使えるようになりたいと思っている空中での跳躍を可能とする技『空踏み』。

 師であるセンスイ先生からは〝目に見えぬ力の塊を足元に置きそれを捉えて足場とする〟と説明されていたが今まではイマイチピンとこなかった。

 だが、昨日クリスの光球を足場にした経験で習得のための糸口のようなものが掴めた気がする。

 それにここ数日でクリスの光線を何度も受けたり曲げたりしたことで『闘氣』のコントロールもずいぶんと鍛えられた。

 クリスのおかげ…と言うにはなんかちょっと違う気がするが、きっかけになったのは間違いなくクリスだ。


「…そういえばお前って傭兵の国での名前の登録は結局どうするつもりなんだ?」

「あ~…それな、、お前からずっとクリスって呼ばれ続けたもんでなんかもうクリスって名前がしっくりき始めちまったんだよな。だからもういっそ、クリスって名前で登録しちまおうかと思ってる。」

「ふーん…いいんじゃないか。前にも言った気がするけど結局のところ自分が何者であるかなんて自分で決めればいいことだし。」

「…自分が誰であるかは自分で決めろ…か、確かにそうだな。ならもうオレは傭兵の国のクリスだ。たった今、そう決めた!」

「そっか、なら改めて…クリス、ようこそ傭兵の国へ。」

「おう!」







 今回、魔王が侵攻を起こした地域から少し離れた場所にある洞窟の中。

 洞窟の外から一見すると何の変哲もないように見えるが、奥まで進むとそこは明らかに何者かの手が加えられた何かの研究施設が広がっていた。

 そんな場所に傷ついた魔物がよろめきながら侵入してくる。

 傷の他にも疲労もあるようで、魔物は開けた場所の床まで来ると大の字になって横たわった。

 すると施設が稼働を始めここではない何処かとその研究施設を繋いだ。


「おやおや、その様子は…敗走してきた感じですね。その身体で並の相手に追い詰められるとは考えづらい。ということは、身体の試運転がてら傭兵の国に闘いを挑み、調子良く大暴れしていたところにその身体でもどうにもならない相手が出てきて逃げ出した…といったところでしょうか?」

「……ダマレ」

「正解のようですね。おっと、そんなに怖い顔をしないで下さいよ。」

「キサマニハカンケイナイコトダ」

「関係ならありますよ。私もその身体を作るのに手を貸した一人なんですから、どれぐらい闘えたのか興味があります。どんなふうに闘って、そしてどんなふうに負けて帰ってきたんですか?……わかりましたよ。もう聞きません。この場所にも好きなだけ居ていただいて結構です。」

「モトモトココハワタシガツクラセタバショダ」

「管理しているのは私ですよ。……ハイハイ、わかりましたよ。この場所はあなたのものです。ただ、廃棄すら検体は食べてしまっても構いませんが、まだ実験予定の検体は食べないで下さいよ。…それにしても言葉を話せるような口の構造ではないはずなんですが器用に喋るものですね。興味深い。」

「ムダグチヲタタクナ…ソレヨリモレイノモノハデキタノカ?」

「あぁ、アレですか。ある程度形にはなっていますよ。だだ、テストができていないのでどこかで試運転がしたいところです。」

「ナラバココヨリキタノチガイイダロウ、ドウホウガジュンビヲススメテイル」

「北というと…帝国ですか。面白い実験ができそうですね。」


 そこで会話は終わり静寂が訪れた。

ロアとクリスの物語はこれで一端終わりとなります。

次回は恒例のキャラ紹介と小話です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ