侵攻の終わり
魔将の体を両断した俺は、真っ二つになって泣き別れとなった魔将の体と共に落下していく。
(やべっ…そういえば着地のことを何も考えていなかった。)
無我夢中だったので自覚していなかったが、最後の攻防の時にクリスの光球を足場にしての連続跳躍と奥義である『異力響交叉』の使用といったペース配分を考慮しない無茶な動きをしてしまっている。
おまけに、思い返してみれば落ちないことと威力に意識がいき過ぎたせいで力み過ぎ『闘氣』を過剰に消費してしまった気がする。
(俺もまだまだだな…体がダルいけど最低限受け身だけは取っとかないと死ぬ高さだな、これは。)
ダルい体を気合で動かし受け身を取ろうと姿勢を変えしたところで、クリスが飛んできて俺を受け止めてくるた。
「やるじゃねーか!流石はオレの相棒だ!」
「……前から言おうと思ってたけど、俺がお前と組んでるのは星鈴花を届ける依頼を一緒に受けているからで、今回の件が片付いた後までお前とコンビを組むとは限らないからな?」
「なんだよケチくさい。オレ達息も合ってきたしいいコンビだと思うんだけどな。」
「だとしても俺は銀プレートでお前はまだ仮登録の木プレートだろうが。コンビを組むならある程度実力が近い者同士で組むもんだ。」
「そんなもん、すぐに上がってやるさ。」
クリスは軽く言うが階級を上げるには相応の実力が求められるので本来ならそんなに簡単な話ではない。
だが、実際のところクリスは戦闘経験が未熟なところはあるがセンスは良いしなによりも地力がある。
現状で軽く見積っても銅プレート以上の実力はありそうなので、少なくとも銅プレートまではすぐに上がって来るだろう。
「おーーーい、そこのアンタ達!まだ近くに魔物の群れがいるだろ!飛べるなら外壁を超えてこっちに来てくれ!」
無駄話をしていると街の防衛戦力の指揮官と思しき男がこちらに向けて声を上げてきた。
確かにあの男の言う通り魔将を倒しはしたが、魔将が率いていた魔物の群れはそのまま残っている。
一応、魔将を倒したことで指揮する存在がいなくなったので現在は魔物の群れの進行は止まっている。
おそらくこの状況は指揮させていた魔将が死んだことを感知した魔王が、指揮する者がいない状態で悪戯に戦力を使い潰してしまうことを嫌って遠方から思念を飛ばし進行を停止させた状態だと思われる。
この後に俺達が倒した魔将の後任となる魔将が派遣され指揮を引き継ぐことになるだろうが、逆に言うとそれまでの間は今いる魔物共が攻めてくることはないだろう。
というわけで少しの間休む余裕ができたので、指揮風の男の言う通りにして街の中まで飛んで休ませてもらうことにした。
「あんた達は傭兵の国の者か?」
「そうだ。俺がロアでこっちがクリスだ。」
「ロアにクリスか、まずはあの魔物を倒してくれたことは感謝する。」
「気にするな。俺には俺の目的があってやったことだ。」
「だとしてもだ。正直な話、お前達が来てくれなかったらこの街は壊滅していた可能性が高い。感謝ぐらいはさせてくれ。…ところで、傭兵の国からはお前達以外にはこっちに来てないのか?」
「オレ達は先行して一番乗りで来ただけだ。もう少ししたらオレ達の後を追って来ている連中達が追いついて来るんじゃないか?」
「援軍がもうそこまで来てるのか!?侵攻が始まってから悪い話しか聞こえてこなかったから久々に良い話が聞けた!…そうだ!腹とか減ってないか?」
「そういえば腹減ってるな。」
「傭兵の国を出てからぶっ通しでここまで来たしな。」
「よし来た!食料を持って来てやるから休んでてくれ。」
隊長風の男はそう言い残すと走ってどこかへと行ってしまった。
「なんかさっきの人、えらくサービスが良いな。」
「感謝してるのはホントなんだろうが、おそらくこの後に魔物の侵攻が再開した時に戦力として協力してもらう腹づもりなんだろう。」
「算段ありきってことか。まぁ、この後もひと休みしたら魔物狩りで一稼ぎしようと思ってたからこっちにしても損はないか。」
「そうだな。…腹一杯になり過ぎて動けなくなる程は食うなよ?」
「わかってるって。」
こうして思わぬ歓待を受けた俺達はしばしの間、休息の時間を過ごす事となった。
事態が動いたのは腹を満たし少しだけ仮眠をとっている最中だった。
『獣氣』によって強力していた聴覚がこちらに向かって来る足音を拾ったのだ。
『クリス、起きてるか?』
「起きてるよ。つーか、こんな状況じゃ流石にオレも寝れねぇよ。」
「どんな時でも心と身体を自身の意思の元におき、状況に応じて適切に力を発揮するのが戦士としての、理想形だぞ。そのために常日頃から…この話は今はいいか。それよりも、どうやらこっちに向かって来てるヤツ等がいるみたいだ。」
「それって…」
「ああ、おそらくは俺達と同時に出発してた連中だ。」
「なら早いとこオレ達も行かねぇと獲物をどんどん取られちまうじゃねぇか!」
「そういうことだ。というわけで俺達はちょっと行ってくる。あんた達、世話になったな。」
俺達は食事と仮眠場所を提供してくれた防衛戦力の人達に別れを告げて再び戦場へと戻って行った。
結局その後の闘いでは特に苦戦するような魔物はおらず、後から合流することとなった他の傭兵の国の者達と獲物を取り合うようにして下級の魔物を狩り続けることとなった。
新たな魔将が現れて魔物の群れを指揮すればもっと苦戦したはずだが今回の闘いではそういう展開にはならなかった。
後から合流した連中に聞いた話だが、俺達が倒した魔将の後任として魔物共を指揮するはずだった魔将は、どうやら前線まで来る道中で運悪く近くにいた『獣鬼姫』様と遭遇しそのまま戦闘となって討ち取られてしまったらしい。
話で聞いただけなのでその魔将がどんな魔物ガ元になっていたのかまではわからないが、激しい戦闘になったようなので魔王軍の中でも切り札的な魔将だったのかもしれないが闘った相手が悪い。
『獣鬼姫』様は総大将様の御息女の一人で複数の魔獣を従えている傭兵の国でも有数の実力者だ。
単独でも十分過ぎる程強い方なのに、従えている魔獣達と連携して闘うと手が付けられない程だと聞く。
なにはともあれ、殲滅するのに時間こそ掛かったが前線まで来ていた魔物共を一掃することはできた。
夕暮れ頃には倒すべき獲物達がいなくなったことで闘いは終わり、合流してきた戦士達は各々が自由行動を始める。
ある者はそのままの足で傭兵の国へと戻って行き、ある者はもうすぐで夜になることもあるので野営の準備を始めている。
その後、まだ魔王が討伐されたという報告は無いので街は厳戒態勢のままではあるのだが、近くに居る魔物共が一掃されたこともあって傭兵の国の者達限定で街への出入りが許可されることになった。
俺達はというとクリスと話し合った結果、このまま傭兵の国に戻っても二度手間なので今日のところは街の近くで野営でもして、明日デニスさんに星鈴花を届けに行くこととなった。
なので俺達も野営の準備をしている一団に加わり、テントを組み立てていると不意にクリスが手を止めて何かに気付いたように遠方に視線を向けた。
「どうした?」
「向こうの方に強力な魔力を発している何かが現れた。たぶん魔王だと思う。」
「そうなのか。そういえばお前って魔力とかを感知できるみたいな言動してたよな。」
「反応薄いな…魔王と聞いても驚かないのか?」
「おおかた、『攻城衆』が〈城〉を攻略して魔王を引きずりで出したんだろ。魔王相手の闘いを商売にしてる俺達にとっちゃ珍しい展開でもない。」
当然ながら魔王の侵攻は魔王が討伐されたら終わりである。
そしてクリスのように魔力を感知できるようなヤツはたまにいる。
ゆえに侵攻中はほとんどの魔王が自ら〈城〉の中に身を隠し魔力を探知されないようにしている。
なんでも、〈城〉の中は完全にこの世界とは別次元の空間になっているらしく、〈城〉の中にいれば外に魔力は漏れないので魔力の探知に引っかからなくなるらしい。
「〈城〉が攻略されたのなら今回の侵攻もいよいよ終わりってことだな。」
「…なんか当然のように勝つことを前提に話してるな。」
「そりゃあ勝つさ。自分が闘ってるわけでもないからあんまりデカい口を叩きたくないが、苦戦することぐらいはあっても傭兵の国が魔王に負けたことは今まで一度としてないからな。」
そんな話をしながら俺もクリスが示した方角を眺めていると、遠くの方にいきなり山が出現するのが見えた。
何かの見間違いかと思い一度視線を外して目頭を揉んでマッサージする。
そして再び目線を戻すがいきなり出現した山は依然としてそこに存在していた。
しかもその山は見ている目の前でどんどんと大きくなっていく。
突然意味がわからない光景を見せられ混乱していると、今度はその山が立ち上がり始めた。
「おい!…なんだアレは?」
どうやら俺が見ている光景はちゃんと現実のものだったようで、俺と同じ光景を目にした一部の者が騒ぎ始めた。
あまりの光景にクリスも呆けていたようだが、その騒ぎの声を聞いて我に返ったようでゴクリと固唾を飲んで口を開く。
「間違いない…俺が感じている魔力はアレから発せられている。つまり…アレが魔王だ。」
正直、出現したタイミングからして薄々そうなんじゃないかと思っていたが、クリスが断言したことであの突然出現した山が今回の魔王そのものであることが確定した。
完全に立ち上がった魔王の全長は肩から上が雲に隠れて見えない程の大きさだった。
俺は傭兵の国に来てもう十年以上経っていて、色々と信じられないような景色を見てきたがこんな景色は流石に見たことがなかった。
「…本当にあんな存在に勝てるのかよ?」
半ば呆然としながらクリスが呟いだ一言にギクリとした。
今回の魔王はおまりにも大きさの桁が違いすぎている。
これ程の巨体に対してなら誰がどんな攻撃をしても規模が違い過ぎて致命傷になるようなダメージは与えられないんじゃないかと一瞬思ってしまったからだ。
だが改めて考えてみれば、俺が知る傭兵の国で上位の強さを持つ者達がいくら相手が圧倒的にデカいからといって敗北するような人達だとは思えない。
〈城〉が攻略されたのならすくなこともあの場には『攻城衆』頭目オオロ様はいるはずだし、最悪の場合には総大将様が出陣すれば敗北することはまずないだろう。
「勝てるさ…あの人達ならな。」
ただ、問題はあの人達が魔王を討伐するまでにどれぐらい時間がかかるかだ。
あれ程の巨体なら適当に地面をすくってこちらに投げるだけでこの街ぐらいなら壊滅させてしまえる。
その場にいる全員が固唾を飲みながら魔王の動向を見守っていると魔王がついに動いた。
腕を持ち上げ雲で見えない頭部付近に持ってくる。
何かしらの攻撃のために予備動作かと思わず身構えるが予想に反してその後の動きが無かった。
むしろその動きは上空からの攻撃に対して頭部を庇っているような動きに見えた。
〈防御の姿勢?雲の上から誰かが攻撃しているのか?)
そこまで考えて自然と先程の体験が頭をよぎった。
あの魔王は立ち上がった高さが肩の辺りに雲があるほどのデカさだ。
つまり頭部は確実に雲の上以上の高さに到達してしているはずだ。
そしてこの近くには一定以上の高さにいる存在を無差別に襲う〝アーゲイル・ガンドオルグ〟という未知の怪物がいる。
「なぁ…あの魔王は雲の上からの攻撃を防御しているように見えるよな…その攻撃してるのってまさか…」
「…オレも同じことを考えていた。」
俺達が話しているうちに魔王は意を決したのか防御を解いて腕を振り上げ攻撃に転じようとした。
だが決死の反撃は成功しなかったようで肩の先から切断された振り上げた腕が雲を割って落下している。
そしてその切断された腕は何故か空中でみるみるうちに短くなっていく。
〈なんだ?切断された腕が短く…いや、あれはもしかして中心あたりに向かって圧縮されていってる…のか。)
観察しているうちに思い出したのは俺達を追いかけてきた死影鳥の死に様だ。
あの死影鳥達も今の魔王の腕のように圧縮されて小さくなっていき最終的には何も残らなかった。
そうこうしているうちに雲の上の何かの攻撃は続き次の瞬間には腕だけではなく、魔王の全身のいたるところが切断されてバラバラにされたパーツが腕と同様に圧縮され始めた。
そして身体の大半を失った魔王は膝から崩れ落ち動かなくなった。
「倒れたぞ…死んだのか?」
「あんなデカさのを倒すとは…誰が闘ったのかここからじゃわからないが…凄まじい…。」
「やはり殺ったのはオオロ様か?今回の闘いでもご出陣なされていたようだし。」
魔王が倒れたことで同じ様に見ていた傭兵の国の者達が安堵の息を吐きながら口々に話し始める。
「魔王が発している魔力が消えた…死んだとみて間違いないと思う。」
そんな中でクリスがポツリと呟く。
こうして魔王は討伐され今回の侵攻は終わった。
次回のエピローグで今章は終わりとなります。




