魔将討伐戦
魔将の元に向かいながら簡単に作戦について話し合う。
「飛び出したはいいが、お前具体的にどう闘うつもりだ?言っておくが俺の攻撃は当たる当たらないとか以前にそもそも届かないのがほとんどだ。一応、盾の機構を使えば中距離ぐらいまでなら届く攻撃はできるが、おそらく一度見られたら二度と俺の攻撃射程範囲内には入ってこなくなる。そうなると、お前の攻撃で最低でも翼に傷を与えるぐらいして高度を下げさせないと俺はなにもできないぞ。」
「オレが飛んで背中に盾を構えるからそれを足場にして跳べば届く技は増えるじゃないか?」
「確かに距離は詰められるだろうけど、それも通じるのは精々初見の一回だけだろうな。魔将側にとって近接戦に付き合ってくれるメリットなんて一つも無い。俺達を排除するなら距離を取って遠距離からチクチク攻撃しつつ、今は下げさせている手下の魔物達をけしかけるって戦法を取ってくると思う。だから俺達が勝つには短期決戦しかない。」
「攻撃を躱されるだけで詰む可能性があるってことか…あれ?もしかしてこの闘いって結構分が悪いのか?」
「下級魔物がベースになっているとはいえ相手は魔将だ。自力が勝っているでもない限りそうそう分が良い闘いになんてならないものだ。」
「なら初手から奇襲をしかけて連撃で一気に攻めるのがベストか。」
「それができればベストなんだがな。アクロバットは耳が良いから探知能力が高いから探知を掻い潜って奇襲を仕掛けるのはかなり難しい。おまけに空中にいるから俺は攻撃手段が限られている。」
本当ならアクロバットの探知を掻い潜れるような奇襲の方法について話し合ってから仕掛けたかったが、あのまま傍観し続けていては街の防衛部隊が壊滅しかねない状況だったので作戦を練る時間が無ったのだ。
「アクロバットってのは蝙蝠の魔物なんだよな?さっきの様子からして反響音を感知して敵や攻撃との距離を探知しているのか…ならやりようはあるか。よし、オレがあの魔将の探知能力をなんとかする。だからまずは跳べば届くぐらいの距離まで詰めよう。」
「何とかするって…どうするんだよ?」
「聖氣で魔将が放っている音を相殺する。こうすれば音が反射しないから見つからないはずだ。」
「は?何を言っているんだ?」
「あ~もう!詳しく説明している時間が無い。オレが魔将から知覚されにくくするバリアみたいなのを張るとでも思っててくれ。」
「お前そんなことができるのか!?」
「あの魔将限定でな。で、ある程度近づいたらそこからお前が跳び込んで行ってオレの射線を隠しつつ攻撃を仕掛けてくれ。」
正直な話、あまり期待していなかったのだが思いの外良さそうな案が返ってきた。
クリスの放つ光線は発射する時に音がしないし光線の速さはかなり速いので、いかにアクロバットととえども撃たれる前から回避に入っておかないと避けるのは難しいはずだ。
だから俺が壁になって射線と撃つ瞬間を隠せば攻撃を当てられる公算は高い。
「それができるなら悪くないな。接敵までもう時間も無いしお前を信じよう。ぬかるなよ!」
イマイチ理解できない部分もあったが一応作戦と呼べるものも決まった。
俺達はこの流れで魔将との交戦に入っていった。
驚くべきことに俺達の接近は魔将のかなり近くまで接近するまで知覚されなかった。
だが流石に完全な形で不意打ちができるという都合のいい展開にはならず、全力で跳躍すれば攻撃が届く程度の距離まで接近したところで俺達の接近は魔将にきづかれてしまった。
「チッ、いくら反響音を相殺しても姿までも隠せるわけじゃない。普通に見られて見つかっちまった。」
「だがかなり近くまで接近することはできた。盾を構えろ!作戦通り俺が跳ぶからその後にデカいのを一発叩き込んでやれ!」
クリスが上昇し盾を構えたところに俺が大きく跳躍し、構えた盾を足場にして二段跳躍の要領で跳び魔将の眼前まで迫る。
場合によってはこのまま奥の手である盾の機構を使って一気に攻め落とすつもりだったが、クリスが光線を放つタイミングが少し早かった。
俺は背後から光線が迫る感覚がしたの奥の手を使うのを断念し、ギリギリのタイミングで身を捻って光線の射線から逃れる。
跳んで来た俺に対して回避と迎撃をしようとしていた魔将に対し、不意撃ちとなったクリスの光線が迫る。
至近距離まで魔将に迫っていたこともあり、魔将の目に驚愕が浮かんだのが見えた。
(やったか!?)
思わず内心でそう思ったが、ギリギリの状態で魔将は驚異的な反応を見せた。
空中で仰け反るように身を捻るアクロバット飛行でこの不意撃ちを躱して見せたのだ。
「マジかよ!」
命中を確信していたのであろうクリスから驚きの声が上がる。
俺は奥の手である盾の機構を使い駄目押しの攻撃を仕掛けようとするが、魔将はアクロバット飛行をしながらも準備していた迎撃のための攻撃は中断していなかったようで収束させた音が俺に襲いかかる。
出鼻を挫かれた俺は咄嗟に防御を優先してしまったので攻撃のタイミングを逃した。
こうして最初の攻撃は悪くないところまでは迫ったものの、魔将の驚異的な反応で躱されてしまう結界になった。
「今のを避けるのかよ…話には聞いてたがとんでもないな。」
「いや、今のは通常種なら当てられる攻撃だった。魔将個体だけあって反射神経も強化されているらしい。わかっていたこととはいえ、やはり一筋縄ではいかないようだ。」
「でもどうするよ?今のが避けられるなら普通にやっても絶対当たらないぞ。」
「こういう時は回避不能な面での攻撃か、連撃で詰めていって逃げられない状態を作るかの二択が相場だな。」
「それで面での攻撃手段が無いオレ達には後者の連撃で詰めるしか選べる択はないってことか。」
そんな話をしているうちに魔将は下げていた魔物を呼んだようで、こちらに迫ってくる無数の魔物の気配を感じた。
「魔物達がこっちに向かって来ている。横槍が入れば攻撃どころじゃ無くなる。つまり俺達が魔将の首を取れるチャンスはもう次の攻防だけしかなくなったってことだ。」
「攻撃されてるわけでもないのにもう後がなくなっちまった。…こういう闘いもあるのか。」
「しみじみしてるとこ悪いが魔物共が迫って来ている。時間も無いし、仕掛けるぞ!」
こうして最後の攻防が始まった。
最初の奇襲と同じように地を蹴り空中にいるクリスの所盾まで跳ぶ。
「連撃で詰め切るぞ!俺の動きに合わせろ!」
そう言い残しながらクリスが構えている盾を足場にしながら再び跳躍する。
俺達の攻撃を警戒した魔将は先程よりも高度を上げており、この二段階跳躍でも届かない高さまで上昇している。
このままでは俺の攻撃は届かずただ跳んだだけで終わってしまうところだが、奥の手である盾の機構を使えばリーチを伸ばせるので攻撃は届く。
だが逆に言うと奥の手を切らないと攻撃すらできない状況とも言える。
(どの道、魔物共が迫って来ている。出し惜しみは無しだ!)
覚悟を決めて左右の盾の機構を同時に起動し、まずは一つ目の盾を上段から盾を振り下ろす軌道で放つ。
上からの攻撃でこれ以上の上昇を阻止するのが目的だ。
魔将は上から振り下ろされる攻撃に対し、横にスライドするように飛んでこの一撃を回避する。
攻撃は当たらなかったが狙い通り上への上昇を阻害することはできた。
次に横薙ぎの軌道でもう片方の盾を投げる。
だがこの一撃も攻撃の起こりを見られていたこともあり、最初の攻防でクリスの不意撃ちを避けた時と同じ要領で仰け反って躱されてしまう。
俺の攻撃はこれて終わりだが本命はクリスの光線で、魔将は俺の攻撃を回避するために無理な体勢になっている。
そこにすかさずクリスの光線が放たれる。
魔将の今の体勢からでは回避する動きもかなり制限されるはずだ。
命中するかと思われたが、魔将はこの攻撃に対する回答を準備していたようだ。
拡散させた音を放ち自らの体を反動で動かした。
思えば俺が跳び上がってくる間に魔将は迎撃をしてこなかった。
迎撃にリソースを吐くのではなく回避のためにリソースを残していたということだろう。
だがクリスもこれで終わりではなかった。
本日二回目の切り札を切って急速に力を高めたクリスは間を置かずもう一発の光線を放ち魔将を狙う。
この光線を躱すための手札はもう魔将には残っていないはずだ。
俺もクリスも攻撃が当たることを確信するが、ここで魔将は意地を見せた。
体を無理矢理起こし光線に対して水平になる角度を取ってクリスの光線を受け止める姿勢を取る。
魔将に光線が当たる直前で光線は何かに阻まれ一瞬だけ停まった。
その一瞬を最大限に利用し魔将はクリスの光線の直撃軌道からギリギリで逃れてみせる。
「嘘だろ?!魔力瘴壁を攻撃が当たる面だけに集中させてダメージを最小限に減らして切り抜けやがった!」
下からクリスの驚愕の声が上がる。
(今のも避けるか!だがギリギリで回避しているなら…軌道を曲げれば当てられる!)
クリスも俺も、既に攻撃の為の手札を切り尽くしている。
そんな状況ではあるが俺にはまだ切れる手札が残っていた。
俺は『闘氣』の力場でクリスの光線に干渉できるのだ。
クリスの光線は俺のすぐ近くを通って魔将の体にかするような軌道で放たれている。
「曲がれぇぇぇ!」
クリスの光線へと手を伸ばし、手に纏わせるた『闘氣』で軌道に干渉して光線の軌道を曲げる。
そうして軌道が変わったクリスの光線は、とうとう凄まじい回避能力を誇った魔将を捉えたて貫いた。
「よし!当ててやっぞ!」
「ダメだ!翼膜をブチ抜いただけで致命傷じゃない!逃げられるぞ!」
最終的にクリスの光線は魔将の翼膜を貫通し翼に大きなダメージを与えることには成功した。
だが致命傷には程遠く、この程度の負傷であれば魔将はまだ完全に飛行能力を失っていない。
戦闘継続は困難と判断した魔将はヨロヨロと飛びながら率いている魔物の群れの方へと向かって行く。
魔物共との合流を許してしまえば俺達がトドメを刺すチャンスは二度と来ないだろう。
だが現状で俺達が切れる手札は全て切り切ってしまった。
俺の体ほ既に重力に引かれ落下し始めているので盾を引き戻して再び投擲しても届かないし、クリスも奥の手を使用しての光線の二連射をしたばかりですぐには次の光線を撃てないはずだ。
(ちくしょう…流石にここまでか…)
「まだだ!道はオレが作る!ロア、オレを信じて跳べ!」
そう叫んだクリスは落下していく俺に向かって頭の上の輪っかを投げる。
輪っかは空中で三つの光の球に分裂し、それぞれが距離を置いて空中に留まった。
俺の足元から魔将の元へ向かう階段のように。
(コレを足場にしろってか!?確かに『闘氣』の力場で光線に干渉できるなら、反発するように力場を調整すれば理論上は足場にできるはずだが…ぶっつけ本番で無茶振りが過ぎるだろ!)
だがチャンスがあるなら全力で手を伸ばすのが俺の流儀だ。
「やってやらあぁぁ!」
半ばヤケクソで足に『闘氣』を纏わせて足元の光球を捉えにいく。
これまでに何度もクリスが放つ光線に干渉してきた。
その経験をフルに活かして調整した『闘氣』による力場は本来なら空を切るはずの現実を覆し、物質としては存在していないが確かにソコに存在する力の集合体を捉えた。
(捕まえた!)
しっかりとした足場を踏む感覚とは程遠く、しかし強く足を押し返してくる不思議な感覚がした。
その押し返してくる感覚に力場を合わせて一度均衡状態を作り出して落下の勢いを殺す。
そして足元の力場を爆発させるような勢いで光球と猛反発させ俺は空を跳んだ。
俺が追いかけて来ていることに気付いた魔将がどうにか距離を稼ごうと翼を動かすが、穴が空いた翼膜ではまともにスピードを出すことなどできない。
跳んだ先で二つ目の光球を捉えて再び跳ぶ。
魔将は苦し紛れに収束させた音を放って俺を迎撃しようとしてくるが、絶妙なタイミングで下から投げ上げられた大盾がこれを阻み攻撃を防ぐ。
更に跳んだ先で最後の光球を捉えて魔将の元へと跳ぶ。
驚愕に染まった魔将の瞳と目が合った。
(この一撃でキメる!)
そう決心してた俺がキメ技として選択したのは自分が使える技の中で最も火力が高く、そして親父が最も得意とした技で『断頭盾』という通り名の元になった技。
この技と親父のことを知りセンスイ先生にどうしてもと頼み込みんで教えを請い、それでもまだ完全に習得できておらず成功率はいいところ七割程度なのだが、この時はなぜか絶対に成功すると確信があった。
繰り出す技の名は『異力響交叉』。
左右で異なる力場を形成し挟み込むよえにして振るうことで異なる力場同士を干渉し合わせ、力場の渦に流れを作り出し間にあるものを圧倒的か威力で切断する奥義だ。
技を放つ前に感じていた確信は放った後に現実に変わり、俺の盾は易々と魔将の体を両断することに成功した。
一章と二章に登場した魔将もそうでしたが、今回の魔将も低級の魔物を改造した魔将です。
これは魔王にとって切り札になりうる強力な魔将を温存し、最悪捨て駒にしてもいい魔将に特攻させるのが魔王側の侵攻のセオリーで、結界によるデバフは強い魔物であればあるほど大きな影響を受けるので無闇に前線に特攻させると力を発揮しきれずに討伐される恐れがあるからです。




