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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
ロア編
79/104

やられっぱなしは主義じゃない

 なんとか地上に戻ってくることができた俺達は、氣力が回復するまで地面に寝転びながら言葉を交わし合う。


「それにしても、さっきのアレは何だったんだ?」

「………あれは…たぶん〝アーゲイル・ガントオルグ〟だと思う。」

「知ってるのか!?」

「知ってるって言えるほど正確な情報は持っていないし、現物を見たのも今回が初めてだよ。ただ、オレの故郷である浮遊島〝アーク〟ではさっきのヤツのことを〝アーゲイル・ガントオルグ〟って呼んで恐れている。高く飛び過ぎたものに破滅をもたらす空に潜む」

「ちょっと待て…いろんな情報が一気に出てきて混乱している。浮遊島?そんなのがあるかのか?」

「そういえばお前は翼人種についての伝承とかはほとんど知らないたいだったな。翼人種ってのは元々この世界に降臨した神によって創られた種族だ。」

「神って…それはアレか?壁の中に引き籠もってるヤツ等がやたらありがたがってるあの神か?」

「その神だな。この世界で一般的に信仰されている宗教の主神でもある。〈人々を憐れんだ神が降臨し魔物達が入れ込めぬ聖域を創り出す奇跡を授けた。この奇跡の管理者として神に選ばれた存在こそ王家の血筋である。〉これは地上で語り継がれているはずの創世神話の中で一番有名な一節だと思うんだが、お前は聞いたことないか?」

「あ~…スマン。たぶん子供の頃に親父がその手の話をしてくようとはしてたんだが、俺は親父の冒険譚の方が好きだったから途中で飽きて親父の冒険譚をせがんでいた記憶がある。」

「やっぱお前が特殊なだけだったか…話を続けるぞ。で、そんな神話で語られている伝説の種族の住処がさっきちょっと名前だけ出した浮遊島〝アーク〟だ。名前の通り空に浮かんでいる島で大陸の上空を雲を纏って飛び回っている。さっきオレが利用した仕掛けってのも〝アーク〟の防衛システムの一部で魔力を持つ者の接近を感知して自動で迎撃するものだ。」

「さっきの不自然な雷はそういうことだったか…浮遊島ってのにもかなり興味をそそられるが、今一番知りたいのは〝アーゲイル・ガントオルグ〟ってヤツについてだ。」

「今からそれについて話すから焦るなよ。えーっと…翼人種の住処が〝アーク〟っていう浮遊島だってどこまでは話したよな。その〝アーク〟には決して破ってはならない掟がいくつかある。その中の一つにある一定以上の高さを超えて飛んではならないって掟がある。その理由が〝アーゲイル・ガントオルグ〟だ。あれは常に空を監視していて一定以上の高さまで上昇したものを攻撃する習性があるみたいなんだ。」

「つまりナワバリ意識が高いってことか。」

「ナワバリ意識とはちょっと違うと思うぞ。少し話がそれるが、魔王が結界に護られた場所を一番簡単に破壊する方法ってどんなだと思う?」

「ん……そうだな…大量の魔物を揃えて畳み掛けるのが王道だろうけど、そういう話じゃないんだろ?なら…内通者を作って内側から壊させるとかか?」

「それも悪くない方法だろうが、もっと簡単な方法がある。結界の効果範囲よりも高い位置から岩でも持ち上げて落としまくればいい。」

「ちょっと待て!空の上って結界無いのか!?」

「あ〜…お前等その辺のこと知らないのか。結界ってのは王都の中心にある神が遺した宝具によって創り出されている。この結界は元々は球状に展開されているが、各国の東西南北にある砦街が護っている別の宝具によって結界の補助と範囲の調整がされている。これにより本来球状であるはずの結界を上下から潰したような形にしてその分横幅を拡げているんだよ。だから空の上空付近には結界は無いんだ。まぁ、これは〝アーク〟を浮かせている力と結界が干渉し合う可能性があるからそうしたらしいんだけど、明らかに構造的な欠陥だよな。さっき言った方法で攻撃すれば結界を創り出されている宝具なんて簡単に壊せる。でも魔王は誰もそんな方法を取らない。いや、正確には取らなくなった。その理由ももう察しがついてると思うけど、そうしようとして高いところまで飛ぶと必ず〝アーゲイル・ガントオルグ〟によって阻止れるからだ。このことから一部の翼人種は〝アーゲイル・ガントオルグ〟のことを結界の欠点を補う為に神が遣わした聖獣であるって主張している連中もいる。」

「いろんな情報が一気に入ってきて混乱し始めたぞ。……じゃあ〝アーゲイル・ガントオルグ〟ってのは神とやらが作った防衛のための機構みたいなものなのか。それなら正直納得だ、さっきのあれは完全に人智を超えた何かって感じだった。」

「いや、たぶんアレはそういうのじゃない。実はオレ、アレについて調べたことがあるんだよ。〝アーク〟は地上よりも神についての情報が記された書物が多く遺っているからな。それでアレが本当に神が創った存在なら、何かしらの書物が遺されていると思い書庫に忍び込んでチョチョイとな。それで調べた結果、何もわからないということがわかった。」

「は?どういうことだよ?」

「〝アーゲイル・ガントオルグ〟について記された書物が一つも無かったんだよ。」

「情報が隠されているとかの可能性は?」

「禁書庫まで忍び込んで調べたが〝アーゲイル・ガントオルグ〟についての記述は一文すら無かった。浮遊島〝アーク〟について言及している書物にも〝アーゲイル・ガントオルグ〟のことは何も書いてなかったんだ。過去に〝アーク〟が高く飛び過ぎて〝アーゲイル・ガントオルグ〟から警告として島の一部を壊されたって記録があったのに、肝心の〝アーゲイル・ガントオルグ〟が何なのかって記述は一切ないんだぜ?流石に不自然だろ?だからオレはアレの存在と神は無関係なんじゃないかと思ってる。」

「あぁ、それで知ってると言える程の情報はないって言ってたわけか。なんにしても結論としてアレについては何もわからないってことか。なら、わからないことをグダグダと話し合っててもしょうがないからこの話はここで終わりだ。」


 話をしている内にだいぶ氣力が回復してきたので、ここで一度言葉を切って体を起こす。

 そして未だに寝転んだままのクリスの目を見て問いかける。


「それより今はこの後の話だ。単刀直入に聞くぞ、お前はまだ魔将の首を狙う気はあるか?」

「…余計なところでだいぶ余力を持っていかれはした。でも正直、ここで引き下がるのはシャクだとは思ってる。」


 思わぬところでとんでもない存在と遭遇し心が折れてないかと心配していたが、その瞳にはしっかりとした闘う意思が感じられた。


「奇遇だな。俺もここでビビリ上がって逃げ帰るのはシャクだと思ってたところだ。もう立てるか?」

「立つさ。寝てたら一番乗りを取られちまうからな。」

「なら行くぞ。まずは、この前みたいに俺が走って引っ張るから疲れてきたら抱えて飛んでくれ。……跳ぶ時は低空飛行で頼むぞ?」

「わかってるよ。」


 クリスも身を起こしたので俺達は改めて最前線を目指して移動を再開した。




 ここからの移動は最初程順調な移動とはいかなかった。

 地上を進む上ではさっきの着地で余計な力を使ってしまったこともあり、ゴブリン等の瞬殺てきるような低級の魔物は別として、倒すのに少し手こずりそうな魔物は極力交戦を避けて進む方針になったからだ。

 何度か面倒そうな魔物に遭遇し、その度に迂回したり少しだけ飛んで飛び越えたりを繰り返して進み、ようやくウリーカの街の外壁が見えてきた。


「やっとか…ここまで来るのに思ったよりも時間がかかったな。チンタラしてたら後から追って来ているヤツ等に魔将の首を持っていかれちまう。さっさと探して倒そうぜ。」

「そう焦るな。結界の影響で弱体化しているとはいえ魔将は無策で倒せる程甘い敵じゃないぞ。まずは魔将を探して、見つけてもすぐには仕掛けずできるだけ魔将の手札を暴いてから仕掛けた方が勝算は高くなる。」

「一理あるな。ならまずは魔将がどんなヤツか探して見極めるところからだな。」

「やけに素直だな。」

「ここで確実に魔将の首をとっておきたいからな。」


 ということで俺達はさっそく近くにいるはずの魔将を探すために手分けしてあっちこっちを見渡し始める。


「……おい、あっちに魔力密度がやたらと高い魔物が居るみたいだぞ。魔将じゃないのか?」


 クリスが空中を指差し俺の肩をトントンとしながら確認を促す。

『遠見』を使いクリスが指差す方向へと視線を向けると確かに普通の魔物とは一味違う存在が街の外壁の周りを旋回しているのが見えた。


「…アレか…お前が言う通りアレがここいら一帯の魔物を操っている魔将で間違いなさそうだな。魔晶角も生えてるみたいだし。」


 魔晶角というのは魔王が低級の魔物を魔将に改造する際によくやる強化方法の特徴の一つで、魔将の肉体に内包しきれない魔力を結晶化させて角のように生して外付けすやることで、その個体の限界を超えて魔力を与えられるようにする外法らしい。


「前も一回見た気がするけど、お前のその遠くを見る技は便利そうでいいな。……手で作った輪っかの内部の光の屈折率を弄ってるのか…工夫すれば聖氣でも似たようなことができるか?」


 何やら隣でクリスが何かし始めたようだが、今は魔将についての情報が知りたいのでそちらに集中する。


「にしても、あの魔将…図体はかなりデカくなってるけどよりにもよってアクロバットかよ。」


 今回のターゲットである魔将は蝙蝠型の魔物、旋空蝙蝠が元になっているようだった。

 旋空蝙蝠は空中での旋回において異常な程に小回りが利くことからその名が付けられた魔物だ。

 空中でちょこまかと動き、点ではなく面で攻撃しなければまともに攻撃が当たらないことから傭兵の国ではアクロバットなどという通称で呼ばれるようになった厄介な魔物だ。

 ちなみに、通常の個体は体がそんなに大きくないので可食部が少なく肉はほとんど取れない。

 一番人気がある素材は翼膜で、薄いのに丈夫なので色々と使い道があるらしく常に需要がある。

 ただ、空中というただでさえ攻撃しにくい場所でちょこまかと動くので、やたらと倒しにくく好んで狩りにいく者もほとんどいない魔物でもある。

 また攻撃方法が、耳が良い者ににか聞こえないような音を魔力で収束させて放つ不可視の攻撃で、それを常に遠距離を保ちながら撃ちまくるという非常にウザったい戦法をとってくる魔物だ。

 それゆえ、俺のような近接戦を主体としていて遠距離攻撃の手段が乏しい者とは相性が最悪である。


「アクロバット?それがあの魔将の元になっている魔物の名前か?」

「通称な。正確には旋空蝙蝠って魔物だが、空中で今の攻撃すら避けるのかってなる程の回避能力を見せることから俺達はアクロバットって呼んでる。回避能力全振りの分、防御力は紙みたいなもんだから攻撃さえ当てられたら簡単に倒せる相手ではあるが、魔将個体だと勝手が違うかもしれない。……というかお前、『遠見』を使えるようになったのか?」

「色々と試してたらできたぞ。…ところでさっきからあの魔将は街の外壁の周りを飛び回って何をしてるんだ?」

「試したらできたってお前……まあいい、おそらく街の外壁の脆い所を探しているんだと思う。他の魔物は下がらせて魔将単独で外壁を破壊し、その後に魔物を突撃させるってのが魔王軍が拠点を制圧するのによくとる常套手段だからな。」

「なるほどな……おっ、街の防衛戦力も動いたみたいだぞ。」

「弓兵を並べての掃射か…防御力が低い魔物には効果的だが魔将レベルの魔物には無意味だぞ。ダメージを与えるには普通の矢じゃ役不足だ。」


 話をしている内に弓兵は準備を終えたようで攻撃が始まる。

 どうやら街の防衛戦力の指示管も無策で攻撃を仕掛けたわけではないようで、掃射を始める一拍前に魔導術に閃光が発生する魔導術を撃たせ、その上で一斉に放った矢に本命の魔導術の攻撃を紛れさせる作戦のようだ。

 中々悪くない作戦だが、今回は相手が悪かったようだ。

 アクロバットは閃光よって視覚を麻痺させられているにもかかわらず、空中でその通称の由来にもなったアクロバティック動きで自分にダメージを与えられそうな攻撃をことごとく回避し、回避しきれない雑兵が放った矢は防御が硬い部位で受けてこの攻撃を完璧に捌いて見せた。

 そしてすかざす、魔導術が攻撃を撃ってきた場所に反撃として収束させた音を放ったようだ。

 情報収集のために『獣氣』で五感を強化していたため、魔将が攻撃のために放ったよく響く高い音が耳に響く。


「…今の魔将の反撃で街の防衛戦力は沈黙したみたいだな。立て直したとしても、さっきのあの策でまともにダメージが通らないなら街に残っている防衛戦力じゃ魔将を倒すのは絶望的だろう。つまり、いよいよ俺達がどうにかするしかないってことだ。」

「元から首を取るつもりで来てるんだ。予定通りってことだろ。それよりまだ情報収集を続けるつもりか?これ以上魔将に時間をやると街が先に落ちるぞ!」

「…そうだな、本当ほもう少し魔将の手札を暴きたいところだったんが…行くしかなさそうだ。」

「うっし!やってやるぜ!」


 気合十分なクリスの声を合図に俺達は魔将に挑むべく足を踏み出した。

次回、四章のラストバトル開始です。

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