緊急救援要請
昨晩は一人行動で挨拶回りをしたついで預かり所から回収しておいた自分のテントで寝たので、いつもよりリラックスしてゆっくりと寝ることができた。
適当な屋台で朝飯を済ませその足でギルドに向かう。
ギルドは今日も景況のようで色々な人達で賑わっていた。
クリスとはギルドの入り口近くで落ち合う手筈だが、まだクリスは来ていないようだ。
手持ち無沙汰になったので今の内に耳をそば立てて喧騒の中から有益そうな情報を拾っておくことにする。
「上級悪魔の魔将が討伐されたらしいですぞ!目玉商品になるでしょうし、なんとかしてその素材を競り落したいものですな。」
「だからぁ!このヨーグルトを朝に食べれば驚く程便通が改善されるんだって!騙されと思って一回試してみろよ!」
「傭兵の国側の防衛線に進入してくる魔物の数が減りだしたらしい。魔物の数も無限ってわけじゃないはずだから今回の侵攻も終盤にさしかかっているのかも。」
「北の方の防衛線に正体不明の謎のマッチョが空から降ってきたらしいぞ。」
「商国の防衛部隊はほとんど壊滅状態らしい。残存戦力が最終防衛ラインで踏ん張っているらしいが、このままなら近い内に前線が押し上げられるんじゃないか?」
「たった今、オーク肉を仕入れた!昼には美味い串焼きにして売り出すからぜひ食いに来てくれ!」
「西の方の前線に近い場所には【星零獣】が倒したと思しき魔物や魔将の素材が大量に落ちているらしいぞ。リスクは高いが拾った者勝ちのお宝だ。回収に行こうと思うんだが誰か一緒に来ないか?」
どうでもよさそうな情報から真偽がわからない情報、少し役に立ちそうな情報まで色々な情報が飛び交っている。
その中で特に気になる情報があったのでその話に意識を集中する。
「聞いたか?魔王の〈城〉の付近に強力な新種の魔物が現れて『攻城衆』の数人が負傷したって話だ。」
「なにかの間違いじゃないのか?あの人外の領域に片足どころか全身ずっぽりイッてるヤツ等がゴロゴロいる『攻城衆』の連中が、魔将でもない普通の魔物にやられるなんてちょっと想像できないぞ。」
「だよな。でも話はそれだけじゃなくて、なんとその後にその魔物はオオロ様を相手にして逃げ遂せたらしいぞ。」
「いやいや…それこそ流石になにかの間違いだろ。オオロ様を相手に逃亡を成功させるって…とんでもないことだぞ。」
『攻城衆』は傭兵の国でもトップクラスの武闘派集団だ。
そしてそんな人達を束ねている攻城衆頭目のオオロ様は総大将様を除けば傭兵の国で一、二を争う強者として名前が挙がる人物である。
そんなオオロ様を相手にして逃げ切ったというのが本当なら、その新種の魔物とやらは下手をすると上級種の魔物がベースの魔将よりも強いということになる。
ベースになっている魔物の種によって魔将の力は決まるため、下級種の魔物を魔将に改造した場合なら上級種の魔物よりも弱い魔将ができあがることもあるらしい。
だが、上級種の魔物がベースになっている魔将を超える強さを持つ魔物の存在は今まで確認されていない。
そんなことを考えているとクリスが到着したようで話しかけてきた。
「おーす!もう来てたのか。早いな。」
「そういうお前は遅いぞ。…昨日は早めに解散したのになんか少し眠そうだな?」
「昨日はあの後、ギルドに行って『光翼刃』って人についての情報がないか調べに行ってたんだよ。仮登録の人に機密ほ教えられないって言われて完全に無駄足になっちまったけどな。」
「登録だけして個人情報を盗もうとする輩もいるからな。ギルドからある程度信頼されなければその手の情報は教えてもらえないだろうよ。」
「くっそー、やっぱそうか。」
「とっとと中に入るぞ。」
クリスを促してギルト本部に足を踏み入れる。
本部の中は相変わらずの盛況で外以上に色々な人達でごった返している。
昨日と同じように列の流れが早い受け付けを探すが、どの受け付けも処理の速さそれほど変わらなさそうだった。
仕方がないので適当な列に並んで大人しく待つことにする。
「なぁ、『光翼刃』って人もギルドには来るよな?今ここに居たりしないかな?」
「少なくとも魔王の侵攻が終わるまでは来ないだろうな。白金プレートの人達は傭兵の国でも特級戦力として数えられるような人達だ。今頃は魔将とか上級種の魔物相手に大立ち回りしてるだろうし。」
「そっか…ちなみにオレじゃなくてお前が受け付けで聞いたら情報って教えてもらえたりするのか?」
「名前と所属ぐらいの簡単な情報なら話してくれると思うぞ。そんなに気になるのか?」
「当然だろ。同郷ってこともあるけど、もしかしたらその『光翼刃』って人はオレか知ってる人かもしれない。」
「会ってどうするつもりだ?」
「色々と聞きたいことがあるんだよ。それに、その人がもしオレが知ってる人だったらオレと同じように〈否在隔離の外法〉を受けている可能性が高い。その上で白金プレートってランクまで上り詰めてるってことは、どうにかして封印を解いてるってことだ。」
「なるほど、失っている力を取り戻すヒントがあるかもしれないってことだな。」
確かにそういう理由ならクリスにとっては死活問題かもしれない。
だが、信頼も実績も自らの行動で得ていかなければ意味が無く、それによって得られるものも自分で掴むのが傭兵の国の流儀だ。
「悪いが俺の口から聞いてやるなんてことはしないからな。」
「えぇ~ちょっとぐらいいいだろ?ケチ!」
「欲するものがあるなら自分の力で掴み取る。それができないならここではやっていけないぞ。」
「むぅ~……いや、確かにお前の言う通りだな。それなら、ギルドに信用されるにはどうすればいい?」
「俺に聞かれてもな…ギルドに来てるんだから直接聞けばいいだろ?」
「それもそうか。」
そんな話をしていると列が進み俺達の番になった。
「ようこそいらっしゃいました。本日はどのようなご要件でしょうか?」
「昨日討伐した魔物の料金を受け取りに来た。」
そう言いながら懐から自分のプレートを取り出し受け付けに提示する。
隣にいるクリスも俺に習って仮のプレートを提示した。
「確認いたしました。ロアさんとクリスさんですね。御二人の名義でオーク八体、レッサーデーモン四体、レイス十一体分の素材が納品されています。」
オークとレッサーデーモンは把握していたが、クリスがレイスを十一体も討伐していたのは把握してなかった。
昨日回収しておいたレイスの素材は五体分だったのでクリスは一撃で十六体のレイスを倒したことになる。
「俺の方はオーク三体半とレッサーデーモン二体分が俺の取り分で、残りはクリスの取り分だ。」
レイスの討伐に関しては俺は何もしてないのでクリスの総取りとなり、その分で大きく差がついてしまった。
稼ぎでクリスに負けてしまったのがちょっと悔しいので、今日は昨日よりも気合を入れようと密かに誓う。
「かしこまりました。報酬を準備しますのでしばしお待ち下さい。」
「半分は商国の通貨で頼む。残りはギルド通貨で。」
そして、傭兵の国は大陸を縦横無尽に移動していることもあって五つの大国全ての通貨で買物ができる。
ただ、基本的には傭兵の国内部ではギルドが発行する金券で買物ができる仕組みもあるのでわざわざ嵩張る金貨等で報酬を受取る人は少ない。
俺達はこの侵攻が終わった後に星鈴花を届けに行く必要があるので、ある程度街でも使える通貨を持っておかなければならない。
「クリスさんも同様ですか?」
「よくわからんがロアと同じでいいや。それよりも聞きたいんだけど、ギルドからの信頼を得るにはどうしたらいいんだ?」
「信頼…ですか?そうですね、やはり多くの魔物を討伐しギルドに利益をもたらしてくれるような方ならば、自然と我々も信頼をおくようになると思います。」
「多くの魔物の討伐かぁ…それって時間かかるよな?地道にやっていくしかないか…それなら、ギルドから評価されやすい魔物とかはいないのか?」
「評価されやすい魔物ですか?であればやはり一般的に希少だったり、上級種と呼ばれる強力な魔物の討伐は高く評価されます。」
「希少な魔物は遭遇率が低いし上級種の魔物は今の状態であり合うにリスクが高すぎるな…他には無いのか?」
「その他ですと…魔将個体の討伐でしょうか。」
「魔将はベースになった魔物によって強さが変わる。弱い魔物が基になっている魔将なら上級種の魔物を相手にするより勝ち目があるぞ。」
「魔将かぁ…どっかに都合のいい魔将はいないかな?」
受け付でそんなそんな話をしているとギルド本部に一人の職員が飛び込んできて声を上げた。
「速報!商国側の最終防衛ラインが陥落!これにより防衛軍より緊急救援要請が出されました!これに伴い以降は前線となるウリーカ周辺での狩りが解禁になります!」
一瞬の静寂の後、ギルト内にいた戦闘職の者達が一気に沸き立った。
「やっとかよ。待ちくたびれたぜ。」
「待ってぜぇ!この時をよぉ!」
「狩猟解禁!」
多くの戦闘職の者達が沸き立ち、一部の者達が我先にとギルトから飛び出して行った。
事情を把握できていないクリスが困惑しながら聞いてくる。
「なんか皆騒ぎだしたけど何があったんだ?」
「聞いての通り、商国の防衛軍がギブアップ宣言してきたんだよ。元々、五つの大国の領土内で俺達が狩りをした場合は狩りの成果の一部を国に納めなければならないという法がある。これは魔王の侵攻の時でも有効で俺達は商国の領土内、つまり結界がある場所で狩りをしても魔物の素材の所有権を商国側が主張できるわけだ。だが、さっきのギブアップ宣言がされると話は変わってくる。緊急救援要請ってのは要するに、領土内での魔物の素材の所有権を破棄し俺達が領土内で自由に狩りをすることを容認する代わりに魔物を討伐に協力してくれってことだ。」
「つまり簡単に言うと狩り場が増えるってことか。……ところで、最終防衛ラインってヤツが突破されたってことはそこを突破した魔物を指揮している魔将がいるはずだよな?」
「当然居るだような。」
「で、今からそいつを討伐しに向かう連中が今ギルトを出て向かって行ったってことだよな?」
「今出て行った連中の大半はそうだろうな。」
「そして空から行けるオレ達なら地上から向かう連中より先んじて魔将の元まで行けるよな?」
「緊急救援要請が出ることを読んで現地に先回りしてる連中もいるから一番乗りできる保証はないが、今出ていった連中よりも速く魔将の首をねらえるとは思うぞ。」
「つまり分は悪くないってことだ。オレとお前で魔将の首、取りに行かないか?」
話の流れで途中から予想できてはいたが案の定といった感じの提案だった。
だが、クリスが言う通り悪くない提案ではある。
全ての魔物は結界の範囲内では弱体化し、それは強力な魔物であればあるほど大きく弱体化する。
防衛線の奥まで切り込んできた魔物と魔将はそれなりに長い時間その結果の影響下にあるはずなので疲弊している可能性が高いので、結界の外で闘うよりも圧倒的にやりやすいので魔将の種類によっては俺達にも十分勝機がある。
あと、個人的な理由になるが最近ごく一部で俺の通り名が『二枚盾』になりつつあるのでここらで大きな活躍をしてナメた名前で呼ばれないように圧をかけておきたい。
「……悪くないな。傭兵の国の防衛線では魔物の数が減ってきているらしいし、今回の侵攻ももう少しで終わりそうだからな。」
「え?侵攻ってもう終わりそうなのか?なんでそんなことがわかるんだよ?」
「早めに来て情報収集をしていたんだよ。防衛線を越えようとしてくる魔物の数が減り出したって話を聞いた。経験上今回の侵攻も大詰めになってきてるんだと思う。お前もこれからマメに情報収集する癖を身につけておいた方が良いぞ。情報に疎いヤツはいつだって行動が一歩遅くなる。行動の遅さは稼ぎに直結する。」
「金言ってヤツだな、覚えとくよ。そんじゃ、報酬を受け取ったら早速い行こうぜ。」
こうして俺達の本日の戦場が決まった。
狙うは魔将の首。
俺達は報酬を受け取った後、再びウリーカの街に向かうこととになった。
先日初めての感想を頂きました。
やはり反応を頂けるとモチベーションが上がりますし嬉しいものですね。
まだまだ書きたい物語が頭の中にありますので今後も頑張って書き続けようと思います。




