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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
ロア編
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南南東方面の防衛戦線ー4

 少しずつ土が一ヶ所に集まり始め、その動きはドンドンと雪だるま式に大きくなっていき最終的にはまるで雪崩のような勢いになった。

 そして一ヶ所に集まった土はそのまま小山のように盛り上がり、ある程度大きくなったところで噴火したように上空に土が噴き出し始める。

 そして噴出した土が地面に降り注ぐかに思えたが、土は重力に逆らいながら塊となって連結し始め巨大な人の上半身のような形を創り始める。

 最終的に完成したのは神話の世界から抜け出してきたような巨人の上半身だった。

 そして完成したソレは自身がデカいだけのハリボテではないことを証明するかのように腕を振るい、内包する圧倒的な質量を活かして魔物の群れを薙ぎ払う。


「…あれが…『大地鎧』。」


 一緒に撤退して来た傭兵の国の一員と思しき一人が代表するようにゴクリと喉を鳴らしポツリと呟く。

 見覚えが無い者なので最近傭兵の国に来てどこかで『大地鎧』さんのことを話でだけ聞いてたのかもしれない。

 大暴れし始めた『大地鎧』さんの様子に唖然としていたクリスが、この呟きを聞いてようやく我に返ったようで騒ぎ始める。


「なんだよアレ!アレはもう鎧っていう次元じゃなくてもはや巨人だろ!」

「…気持ちはわかる。俺も最初に見た時は同じ感想を抱いた。だが、一応補足しておくと流石にあのサイズを普段使いしてる訳じゃないみたいだぞ。あのサイズの鎧を着て暴れるとあまり長くは動けないって話らしい。」

「そっ…そうか。…ちなみになんだが、あそこで大暴れしている『大地鎧』ってヤツは傭兵の国では強い方なんだよな?」

「そうだな。あの人レベルなら流石に傭兵の国全体でも上から数えた方が早いはずだ。具体的に強い人から順番に名前を挙げていくなら上から数えて五十人……には入れないな。でも、百人ぐらいには入るはずだ。」

「…アレと同等以上が百人ぐらいいるのか。…だとしたら天兵師団全軍より総戦力が上ってことになるのか?…傭兵の国ヤバ過ぎだろ。」

「何と比べてるのか知らんが、傭兵の国は伊達に全方面の魔王にケンカ売って廻ってるわけじゃないってことだ。自惚れでもなんでもなく、地上で一番強い組織は俺達だ。」


 俺はこのことには確信を持っているし、自分がその一員であることに誇りを持っている。

 だからこそ、傭兵の国の一員でありながら高みを目指すことなく弱者を貪るようなことをするようなヤツのことが気に入らないので『獄卒衆』なんて組織に所属している。

 思考が横道にそれそうになったところで『大地鎧』さんが大暴れしている辺りからひときわ大きい轟音が聞こえ思考が中断した。

 目を向けると巨大な土の鎧が最後の攻撃として自壊しながら倒れ込みボディプレスで猛攻を生き残った魔物にのしかかっているところだった。

 この一撃で防衛線に侵入して来ていた魔物のほとんど殲滅されたことだろうから、今の内に後から来た交代の戦力が陣形を構築するはずだ。

 ここで重要になってくるのは後から来た交代の戦士達にどんな面子がいるかということだ。

 名が知れ渡った強者が来ていると狩場としては美味しくなくなってしまう。

 というわけで交代で来た面子の方に目を向ける。


「…うわぁ。」


 交代で来た面子を見て思わず声が出てしまった。

『炎羅』、『軍狼』、『女帝蜂』『二重螺旋』の双子などなど、粒揃いの面子が揃っていたからだ。

 今名前を挙げた面子は全員が金プレートなので戦力的には白金プレートである『大地鎧』さんより一段も二段も劣るが、全員共通して広域殲滅が得意な面子だ。

 交代したばかりでスタミナも十分なこの面子が闘いだせば、俺達に稼げる魔物がまわってくる可能性はかなり低くなる。

 あと、噂で聞いた程度だが『炎羅』と『女帝蜂』は仲が悪いらしくなにかと張り合っているらしいので、この戦場でも競い合うようにしての魔物を倒していくことだろう。


「クリス、狩りはここまでにして一旦戻ろう。」

「なんでだ?オレはまだ余裕あるし、お前もまだ余力を残してるだろ?」

「余力の問題じゃなくて効率の問題だ。それと、さっきの闘いでお前の防御力の低さという課題が露呈した。お前ってあの周囲に浮かべている光球を輪っかにしている時は光の槍を一本しか出せないんじゃないか?」

「…一応、光輪にしている時はオレ自身の防御能力や機動性は上がってるぞ。」

「だとしても、だ。お前は飛べるから遠距離攻撃手段を持たない相手には一方的に攻撃できるが、逆に言うと遠距離攻撃をメインにしている相手にはアドバンテージを失う。ましては、自分が攻撃している時は本体が無防備になるなんて弱点を抱えていたらそこを突かれて一瞬で潰されるぞ。」

「う〜ん…封印さえなければ聖氣で遮断結界を張りつつ穿光槍を複数展開するぐらい楽勝なんだけどな…」

「お前なぁ…今できないことを勘定に入れて戦略を立てるなんて無意味もいいとこだろ。今ある手札で勝てる戦略を練るのが闘いの第一歩だぞ。」

「ぐぬぬ……はぁ、確かにお前の言う通りだ。考えてみたらオレは戦闘訓練ばかりで実戦経験ってやつが圧倒的に足りてない。ここは大人しく経験豊富なお前の意見を聞いておこう。」


 こうしてクリスも狩りを切り上げることを承諾したので撤収していく『防人衆』の一団に続いて俺達も傭兵の国本隊に帰還することなった。




 傭兵の国の本隊に帰還する道すがらにこの後の予定について話をする。


「で?具体的にはこの後どうするんだ?防具とか買おうにもオレまだ無一文なんだけど?」

「まずは一度ギルドに寄って報告だな。そんでその後は、こういう時に便利な〝新人救済制度〟を使うといい。」

「新人救済制度?」

「簡単に言うとギルドに借金して武器や防具を調達できる制度だ。新人は金が無い、金が無いからまともな武器や防具を調達できない、装備を揃えるために無理をして早死するってことが無いようにできた制度だ。」

「借金かよ……」

「心配しなくても倒した獲物から一定額を天引きしていく制度だから食うに困る程の負担にはならない。俺も昔はこの制度に助けられたものだ。」


『闘氣』による装備のコーティングや立ち回りを洗練させていけば、装備の損耗を抑えることができるようになる。

 もちろん強者との死闘によって装備が壊れることはあるが、基本的に傭兵の国において装備を破損するのは当人が未熟であることの証明として認識される。

 思い返せば俺も今より未熟だった頃によく装備を破損させて、その度にギルドに借金して装備の新調や補修をしたものだ。

 今では『闘氣装甲』などの防御力を上げつつ装備の消耗も防げる便利な技を習得しているので、装備の消耗もほとんどしなくなりギルドへの借金も完済できている。


「なんかしみじみしてるとこ悪いが、話を続けてもいいか?」

「おっとスマン。で、他に何が聞きたいんだ?」

「そうだな…オレに合う防具ってどんなのだと思う?」

「お前は重さを消す妙な技を使えるよな?だった防御力が高い代わりに重い重鎧とかがいいんじゃないか?」

「あ〜……アレは重さを消してるんじゃなくて、厳密には対象に作用している力を聖氣で相殺しているんだ。オレが飛んでるのもそれを応用したものだし。」

「?…スマンが俺はあまり学がある方じゃないんでな、もう少しわかりやすく説明してくれ。」

「そうか、なら…お前、重力って知ってるか?」

「知らん。」

「そこからか………もういいや。重量が重すぎる物を持つとそれを軽くするのにリソースを使い過ぎるから動きにくくなる。だから重鎧は合わない。」


 なにか諦められた気がするが今はクリスの装備の方が重要なので話を続ける。


「要するに消せる重さの量に制限があるわけか。なら、基本的は回避を前提にして最低限急所だけは軽くて動きを阻害しない革鎧で護り、回避し辛い攻撃を凌ぐための大盾を担ぐのがいいかもな。」

「それなら動きやすくて良さそうだ。欲を言えば大盾も軽い方が助かる。」


 軽さで選ぶなら革製が一番だが、大盾のような武装に求められるのは軽さよりも頑丈さだ。

 それゆえ、革製の軽さをウリにした大盾なんて物はそんなに出回ってない。


「なら、魔物の鱗を使った大盾はどうた?使っている素材によっては軽めで丈夫な物もあるはずだ。」

「鱗か…うん、良さそうだな。それでいこう。」

「ちなみに、革鎧なら今日狩ったレッサーデーモンの革はけっこうオススメだぞ。加工に数日はかかるだろうから今日のところは出来合いのを調整してもらうことになるだろうけど、素材を持ち込みにすればその分安くできるし、普通の新人じゃまず手が出ないような上質な一品になるから周りから一目置かれるようになるぞ。」

「いや、レッサーデーモンはなぁ……生理的に受け付けないからパス。」

「…贅沢なヤツめ。」


 そんな話をしている内に本隊のすぐ近くまで来ていた。

 このままクリスの装備の調達に付き合ってもよかったのだが、ここらで『獄卒衆』の一員としての報告書を作っておきたいし、少し留守にしていたので各方面に戻ったことを報告する挨拶回りもしておきたい。

 デニスさんからの依頼を一緒に受けたので、少なくともその依頼を完遂するまではパーティーメンバーとして一緒に行動するつもりだが、何もかもを俺に頼っていては今後のクリスの傭兵の国での活動に悪影響が出るかもしれない。


「戻ったら一旦別行動にしよう。で、晩飯を食った後にでも合流してクリスの力について話せる範囲で話してくれ。」

「え?一緒に来ないのかよ?」

「お前もガキじゃないんだから一人で大丈夫だろ。それにお前も傭兵の国を自由に見て回りたいんじゃないか?」

「それはそうをだが…さっきも言ったがオレ金持ってないぞ。」

「また俺にタカるつもりだったな。そういうと思ってコレをいくつか回収してやってたぞ。受け取れ。」

「なんだコレ?」

「お前が倒したレイスの素材だ。小さくてかさばらないから撤収前にいくつか拾っておいたんだよ。ギルドに行ったついでに換金すれば今日の晩飯と気になった小物を買うぐらいには十分な金になる。それと、明日の朝には『蟻塚』が回収した素材がギルドに届いてるはずだから今日の稼ぎも受け取れるはずだ。俺への借金はその時に返してくれればいい。」

「おぉ!そういうことなら…また後でな!」

「おう。」


 というとこで、ギルドへの報告後に合流場所だけ決めて一旦クリスと別れ別行動することとなった。





 報告書の制作と晩飯を済ませ、クリスとの合流場所に向かう。

 合流場所は本隊の喧騒から少し離れた静かな場所で、ここを合流場所にしたのは個人の能力の秘密は俺達のような戦闘職にとっては飯の種なので、人気が無い場所の方が話しやすいだろうと配慮してのことだ。

 合流場所に到着するとそこには既に真新しい革鎧と大盾を背負ったクリスの姿があった。


「来たか。どうよ!この装備!」

「ふむ…いいんじゃないか?」

「感想それだけかよ。まぁいいか…本題は装備のお披露目ってわけじゃないし。オレの力について話す前に、その根底となるオレの種族について話す必要がある。お前は翼人種って知ってるか?」

「〈翼人種〉?ん〜〜……ダメだ。どこかで聞いたことがある気がするが思い出せん。うん、知らんな。」

「そっ…そうか。…あれ〜…地上ではおとぎ話として広く伝えられているって聞いてたんだけど…知らないか。えーっとだな…オレは実はその希少種族である翼人種の生まれで、とある理由から罪人として力の大半を封印されて地上に追放されたんだ。」

「ほー、なんか大変だったんだな。にしても罪人とは穏やかじゃねえな。何やったんだ?」

「…なんか想像してた反応と違うな。まぁいい、罪人って言ってもオレが何かしたわけじゃない。一言で言うと〝知ってはいけないことを知ってしまった〟ってのが原因だ。」

「〝知ってはいけないこと〟…か、何を知ったんだ?」

「話してもいいけど、ハッキリ言ってお前が知ったところで何の徳もないことだぞ?なんなら、そのことを知っているって翼人種の上の方の立場のヤツに知られたら抹殺対象に認定される可能性すらある。それでも知りたいか?」

「いや、そこまでの厄介ごとの種なら別に知らなくてもいいや。というか正直、お前の産まれとか種族とかはどうでもいい。話している途中で思い出したんだが、たしか白金プレートの戦士で種族が〈翼人種〉かもしれないって噂になってる人が居るって話を聞いたことがあったし、そんな感じで傭兵の国では希少種族とか古代種の子孫とかが普通にその辺を歩いてたりするぞ。だから、ここではお前が思ってるほど希少種族って存在は珍しくもんでもない。そんなことより俺が知りたいのは連携する上でお前に何ができて何ができないのかだ。」

「ちょっと待て!オレ以外にも翼人種が居るのか!?」

「そんな話を噂で聞いたことがあるってだけで、どの程度信憑性がある話しかは知らない。というか、今その話はどうでもいいだろ?」

「オレにとっちゃどうでもよくねぇんだが……あ〜…わかったよ!今は置いておく。オレの力の話だったな。お前もここまでオレと一緒に闘ってきたからある程度わかってると思うけど、オレは聖氣って力を使って光線を放ったり聖氣を収束させて槍みたいな形にして操ったりできる。あと、聖氣の使い道として触れている物に聖氣を染み込ませることで対象に作用している力を相殺することができる。ざっくり言うとそんな感じだな。他に何か聞きたいことはあるか?」

「一番気になってるのはアレだ。さっきも使ってたけどお前、なんか半透明の羽根?みたいのを握りつぶすかなにかすると急激にパワーアップできるよな?アレは何なんだ?」

「あー…アレか。簡単に言うと封印されている力の一部を無理矢理引き出してるんだよ。詳しく話すと、そもそもオレの力を封印しているのが〈否存隔離の外法〉っていう術で、翼人種の力の源である翼を〝確かにソコにあるのに存在していない〟状態にされているんだ。コレによりオレの背中には確かに翼があるのに見えないし、触れないし、干渉することもできない状態になっている。ただ、オレは賢いから過去の事例から自分が地上に落とされる時にはこの封印をされることを予想して対策を講じておいたんだよ。これによりオレは出力が九割近く制限されてはいるものの、聖氣の一部を翼を封印された状態でも使えるわけだ。で、お前がしりたがってかいる一時的なパワーアップだが、アレは一瞬だけ封印に干渉して力の源である翼から羽根を引き千切ってるんだ。翼は聖氣を貯蔵すタンクの役割も果たしているから、そこから聖氣をふんだんに含んだ羽根をちょろまかして聖氣を直接吸収することで一時的に出力をブーストしてる。ただ、封印に干渉することは日に何度もできることじゃないから一日にこの手段を使える回数は精々一、二回ぐらいが関の山だな。」

「…要するに一日に一回か二回は強力な攻撃ができると…緊急時の切り札にはなり得るか。」

「要点だけまとめるとそうだな。それより、オレの方からも一つ聞きたい。その翼人種かもしれないって人の噂はどんなのなんだ?」

「たしか…『光翼刃』って通り名の白金プレートの人が本気で闘うと背中には光る翼が出現するって噂だったと思う。」

「『光翼刃』…か、覚えておく。」


 この会話の後、明日またギルドで合う約束をしてこの日は解散となった。

ここで更に名前だけ登場のキャラクターを追加投入。

いつかスポットライトを当てたい。

ちなみにこの世界はニュートンのような閃きをした人間がいるので、重力の存在は認知られているがそれを教える学校が少ないので周知が進んでいません。

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