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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
ロア編
74/105

南南東方面の防衛戦線ー2

 新手の魔物の出現によって俺達は一瞬で追い詰められてしまった。

 今戦闘中のレッサーデーモン達も増援が来ているのを感じ取ったのかこちらの牽制だけを行い、あからさまに時間稼ぎのような動きをしている。

 これは俺にとっては一番やられて嫌な行動だ。

 俺の戦闘スタイルは相手の攻撃を捌いてからの反撃で致命傷を狙うカウンター主体のものだ。

 当然ながら敵が積極的に攻撃してこないのならカウンターは狙えない。

 そうなると俺の方から攻撃を仕掛けに行かなければならなくなるのだが、下手に動くとクリスと分断され各個撃破される可能性が上がるのでリスクが高い。

 かといってこのまま動かなければ増援が到着して不利な闘いを強いられることになる。

 最善手模索しながらも迂闊に動けずにいると、こちらに向かって来くる足音を追いかけるような別の足音が聞こえてきた。

 この足音の正体がさらなる敵の増援だった場合はいよいよもって戦闘継続は難しくなる。

 そうなれば速やかに撤退戦に切り替えなければならない。

(最悪はクリスに抱えてもらって空中から逃げて、追撃を俺が防御すればなんとかなるか…だが、新たに聞こえてきた足音…リズムが凄まじく速い。ひょっとするとこの足音の正体は…)

 現在この戦域にいて凄まじいスピードを誇る戦士の存在が脳裏によぎった。

 その予感を肯定するように聞こえてきていた足音の片方、四足獣の足音と思われる方が不意に消えた。

 一方で残った足音の方はそのままのスピードを維持してこちらに向かって来ている。

 段々と大きくなる足音に混じって不規則に鳴る何が弾けるようなパチッという音が聞こえ始めたので、俺は予感が当たっていたことを確実した。


「アンタ達ッスか!オレっちの獲物を誘引で惹いたのは?」


 足音の正体はあっという間に俺達の前にまで来ると開口一発そう言った。


「スマン『雷獣』、だがこっちにもやむを得ない事情があってな。」

「ん?アンタは確かお義兄さんの友人の…」

「ロアだ。お義兄さんってお前…あいつまた泣くぞ。」

「最近はそういうのも楽しくなってきちゃったんッスよ。…それで、オレっちとしてはそっちの獲物一体で手打ちにしようと思ってるッスけど、どうッスか?」

「…全面的に悪いのは俺達側だからな。どれでも好きなヤツを持っていけ。」

「交渉成立ッスね。そんじゃ…そこの無傷のヤツをこっちで引き受けるッス。」


 話がまとまるやいなや『雷獣』はまだほとんどダメージを受けていないレッサーデーモン一体に狙いを定めて凄まじい速さで攻撃をしかける。

 すかさずもう一体のレッサーデーモンが味方の援護に入ろうとするが、いいタイミングでクリスの光の槍が飛来しこれを妨害する。

 文字通りの意味で横槍を入れられ下がることを余儀なくされたレッサーデーモンの前に俺が立ち塞がり、完全に分断に成功した。

 数の上での不利もなくなり再び余裕が生まれたところで、俺のやや後方上空に位置取りし直したクリスが話しかけてくる。


「あいつ、知り合いか?」

「あいつは『雷獣』の通り名で呼ばれるシャッハってヤツだ。この前少し話しただろ?」

「あぁ、あの時の話に出てきたヤツか……強ぇな、あいつ。もうレッサーデーモンを倒しちまったぞ。」


 俺がレッサーデーモンを牽制しながら少しクリスと話している内に『雷獣』の方はもう終わったらしい。

『雷獣』の戦闘スタイルは凄まじい速さから繰り出される連撃で反撃を許さずに相手を倒しきる速攻制圧型だ。

 一対一の状況を作ってやったのだからそれぐらいは当然のようにこなすだろう。


「クンクン…『誘引』の影響でまだこっちに来ている魔物がいるみたいッスね。そっちはまだ手が離せないみたいッスからオレっちが貰うッスよ!」


 レッサーデーモンを瞬殺した『雷獣』はそう言い残すと、来た時と同様にあっという間に走り去ってしまた。

 なにはともあれ、『雷獣』が周囲の魔物を殲滅してくれるならこれ以上横槍が入ることはそうそう無いだろうから目の前のレッサーデーモンに集中できる。

 むしろ、早急にレッサーデーモンを倒してしまわなければ『雷獣』に獲物をドンドン持っていかれてしまう。

 最初のクリスの攻撃で負傷したレッサーデーモンは何故かまだ戦線に復帰してこないようなので、今なら二体一という数の有利がある。

 ここは一気に畳み掛けて次の獲物を探すべきだろう。


「クリス、速攻で終わらせるぞ!」

「了〜解!」


 クリスの援護が期待できる状況なので俺から攻撃を仕掛け盾を前面に構えての突進、いわゆるシールドチャージで突っ込もうとする。

 だが、相手の方が一瞬速く攻撃の準備を終わらせていたようで、走り出そうする前にレッサーデーモンの手の中に炎の球が出現した。


「構わねぇから突っ込め!」


 それを見て一旦防御の姿勢に移行しようとした俺だが、クリスからの指示が聞こえたので防御は辞めてそのまま突っ込んで行くことにした。

 俺に突っ込めと言った以上はクリスに何かしらの策があるのだろう。

 一応盾を構えているのであの炎の球が爆発したとしても致命傷にはならないはずだ。

(クリスのヤツ、これで無策だったら後で吐く程文句を言ってやるからな!)

 内心でそう思いながらシールドチャージをしながら距離を詰める。

 レッサーデーモンが手の中の炎を俺に投げつける姿勢に入り俺も腹を括ったところで、クリスの光槍が俺の股下をすり抜けながら飛来しレッサーデーモンの作り出した炎の球と激突した。

 一瞬の拮抗の後クリスの光の槍が競り勝ち、激突前から半分程の大きさにまで縮んだ光の槍が炎の球を貫通してそのままレッサーデーモンの胸板に突き刺さる。

 ここで完全に距離を詰め切った俺が盾ごとぶつかり、クリスの光の槍を盾に纏わせた力場を使って深く押し込む。


「弾けろ!」


 この攻撃が決定打になり光の槍がレッサーデーモンの胸を貫通したとろころで、クリスが光の槍を炸裂させ眩しい閃光がレッサーデーモンを体の内部から灼く。

 俺もこの光を間近で浴びることになったのだが、不思議と俺は熱いと感じなかった。

 だがレッサーデーモンは違ったようで、光が収まった後には全身から煙を噴いて崩れ落ちたレッサーデーモンの姿があった。


「爆発させるなら先に言えよ。」

「わりぃ、でも魔力を持たないお前なら聖氣を浴びたとこでたいしたダメージは無かっただろ?」

「それでもだ!連携する以上は相方が混乱するような動きはしないのが鉄則で……」


 俺が連携の何たるかを説いていると最後に残った負傷していたレッサーデーモンが今更のそりと動き出した。

 最後のレッサーデーモンはクリスの光の槍を受け止めていた方の腕を無理矢理引き千切っており、かなりの血を流したのかただでさえ血色が悪いように見える肌の色から血の気がなくなり瀕死のように見えた。


「内部から聖氣で魔力の流れを掻き乱してやってたんだが、聖氣が残留した腕そのものを元から切り離して無理矢理復帰しやがったか…でもここからお前一体でオレ等に勝つのは無理だろ?」


 どうやら最後のレッサーデーモンが戦闘に参加してこなかったのはクリスが何かを仕込んでいたせいらしい。

 何にせよ俺もクリスに同意見で、この瀕死のレッサーデーモンが何をしようと俺達に勝つのは無理だ。

 そう思って油断していたせいか、レッサーデーモンの口元に嫌な笑みが浮かんでいるのに気づくのが一瞬遅れてしまった。


「ヤベェぞ!こいつ魔力を暴走させて自爆するつもりだ!」

「なんだと!なら爆発する前にトドメを…」

「ダメだ!今更殺したところで爆発はたぶん止められない!あーーークソ…しゃあなしの奥の手だ!」


 そう言ったクリスの手にはいつの間にか半透明の羽根が握られていた。

 クリスが何かするつもりのようだが、クリスに全てを任せてその様子を傍観しているわけにいかない。

 俺は俺でできることをすべきだろう。

 クリスの前に出て盾を構え、盾に『闘氣』を纏わせて爆発に備える。

 レッサーデーモンの自爆の威力がどれ程のものかわからないが、レッサーデーモンはほとんど瀕死のような状態だった。

 だからさすがに俺が全力で防御に徹すれば二人まとめて御陀仏にはならないと思う。

 衝撃に備え盾に纏わせている『闘氣』の出力を最大レベルまで引き上げておこうとした時、背後から激しい閃光が瞬いた。

 そしてその後はいつまで経っても衝撃はやってこなかった。


「もう大丈夫だ。あいつの魔力はオレの力で相殺して対消滅させたから爆発させるエネルギーはもうレッサーデーモンには残ってない。」


 盾の隙間からレッサーデーモンの姿を見ると血色が悪過ぎる顔を呆然とさせながら座り込んでいた。

 レッサーデーモンにもう脅威は感じなかったが、とりあえず盾の機構を操作して仕込み刃を出しレッサーデーモンの首を落としておく。


「クリス、最後のアレはなんだ?魔法を消す魔導術なんて聞いたことがないぞ?」

「オレはちょっと特殊な技が色々使えるんだよ。お前のことはそれなりに信用しているから少しは詳しく話してもいいが、こんな戦場のど真ん中で話すことじゃないだろ?だから今は面白い術が使えるぐらいの認識で納得しとけ。」


 クリスの技は気になるが、確かにこの場で話し込むようなものではない。

 それに俺は魔導術には詳しくないので説明を聞いても理解しきれない可能性もある。

 なにはともあれこれでレッサーデーモンは全て倒せた。

 ならば次の獲物を探してさらなる稼ぎを狙うべきだろう。


「わかった、今は何も聞かない。まだ余力へあるな?さっきの闘いでお前の防御力の低さという弱点が露呈したから次の闘いまでに最低限の防具ぐらいは揃えたい。そうなると、ここでもっと稼いでおきたいところだ。」

「防具…防具かぁ。翼さえ封印されてなけりゃそれぐらいは自分で創れるから、そこに金を掛けるのはもったいない気がしちまうんだよな。でも冷静に考えると今のオレには必要な物か。」

「封印?お前なにか力を制限されてるのか?」

「そんなところだ。その件を含めて後で話す。それより今は他の獲物についてだろ?」

「そうだな。さっきまでは探さなくても魔物の方から来てくれていたが、今は『雷獣』が暴れまわっているせいでこっちにまで魔物が来なくなってるみたいだ。場所を変えねぇとな。」

「移動するのは構わねぇが、倒した獲物はどうすんだ?置いてくのか?」

「あ〜…お前はその辺のことを何も知らないんだったな。傭兵の国にはこういうのを専門で回収する部隊の『集荷衆』って連中がいるんだ。獲物の取り分の一部を渡すことにはなるが、こうやって『集荷衆』に場所がわかるように特殊な匂いがする香を炊いておと回収に来てくれる。」


 こういうのは実際に見せた方が早いので懐から『集荷衆』に場所を知らせる香を取り出しさっそく焚いてみせる。

 ちなみに、この香の匂いは大抵の魔物が忌避するような匂いに調合されており簡易的な魔物避けの効果もあったりする。


「思ったよりも変な臭いはしないんだな。というかほとんど臭いが無い?」

「嗅覚を強力でもしてないと匂いはほとんどわからねぇよ。…それよりもさっそく誰か来たみたいだな。」


 話をしている間に誰がこちらに向かって来くる気配がした。

 来るのが早すぎな気もするが、この辺りは『雷獣』が暴れまわっているので魔物の素材がその辺に大量に転がっているだろうから、それを回収してまわっていたのかもしれない。

 そう思っていたがそれにしてはどうも様子がおかしい。

 足音は一つしかしないがどうもそのリズムが何かから逃げているような必死なもののように感じた。


「戦闘職の方〜!誰でもいいんで居るなら助けてくだせぇ〜。」


 俺の予想は当たり、こちらに向かって来ている人物は宙を浮く半透明の魔物に追われていた。

気付いたらレッサーデーモン戦だけでほぼ一話分書いていました…。

ここでの戦闘はそんなに長く書くつもり無かったのに。

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