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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
ロア編
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魔王の侵攻は稼ぎ時

 遠くの方で聞こえる戦闘音で目が覚めた。

 ボンヤリした頭で辺りを見渡すと、多種多様な戦士達が雑魚寝しており、クリスの足が俺の胸の上に乗っていた。

 いつものように『獣氣活性』で頭をスッキリさせると、少しづつ何故こんな場所で寝ていたのかを思い出してきた。

 ここは防衛戦に参加する戦士達に一般開放される仮眠用のテントだ。

 昨日、命からがら傭兵の国本隊に合流できた俺達は開戦中でも変わらず店を出している屋台で適当に飯を食った後、クリスのモロモロの手続きは明日やることにしてこのテントで眠りについたのだった。

 安眠のために遮光性が強い布地で作られたこのテントの中は薄暗く、今が何時ぐらいなのかわからない。

 だが、体にダルさは残っておらず、体力も氣力もしっかり回復している感覚があるのでけっこうガッツリ寝ていた気がする。

(ひとまずは俺はクリスを起こしてからギルドでクリスの傭兵の国登録…今は開戦中だから仮登録になるのか?…とにかく登録、その後は…)

 ぐぅ~

 考えをまとめている途中で腹が鳴って自分が空腹であることを自覚した。

 色々考えていたがまずは飯を先にしたほうがよさそうだ。

 俺はクリスの肩を揺すって起こしにかかった。




 クリスを起こして二人で傭兵の国の本隊の中を歩く。

 今いるのは多様な料理の屋台が並ぶ区画だ。

 今は開戦中で少し離れた場所では魔物達と戦士達が死闘を繰り広げているのだが、一方でこの区画は普通にこうして商売をしている。

 建前上は、「防衛戦で体を張って闘ってくるた戦士達が腹を空かせて帰って食う物一つ準備できないのは料理人としての沽券に関わる」とかなんとか言ってるよえだが、実態は単純に稼ぎ時だからだろう。

 これから一戦交えに行く戦士達が腹ごしらえとして立ち寄るし、一戦交えた後の戦士達が勝利を祝して立ち寄ったりもする。

 前者は最後の晩餐になる可能性もあるので奮発して良い物を食べることが多いし、後者は闘いに勝利して魔物の素材を得て懐具合が良くなっているので財布の紐も緩んでいて金払いが良い。

 食材も討伐された魔物の素材で食べられ物が大量に出回るので尽きることはない。

 防衛線を突破して来た魔物に襲われるリスクはあるので、店を出すかどうかは自己責任なのだが多くの屋台が立ち並んでいる。


「昨日きた時も思ってたんだけど、ここは活気が凄いな〜。見てるだけで何か楽しくなる。美味そうなもんが多すぎて何食うか迷うぜ。」

「…昨日は色々あったから言い忘れていたが、飯は別に奢りってわけじゃないからな。」


 なんとこのクリスは金銭の類いを一切持っていなかったのだ。

 だから昨日は仕方なく俺が一旦立て替えて飯を食ったのだが、どうにも言動からして俺の奢りだと思っているフシがあるので釘を刺しておくことにした。


「えぇ~奢りじゃないのかよ!?」

「当たり前だ!ここで生きていくなら自分の食い扶持ぐらい自分でなんとかできねぇと話になんねぇぞ。」


 案の定だった。だが傭兵の国は他人を頼って生きていくなんてヌルい考えが通用するような場所じゃない。


「とっとと食って登録を済ませたら稼ぎに行くぞ。」

「稼ぎに行くって…なんかあてがあるのか?」

「今は開戦中だぞ?どこかの防衛戦に参加したら魔物なんて探さなくても向こうから来てくれる。」

「へぇ、けっこう自由なんだな。そういうのはあらかじめ誰がどこで闘うか決めてあって、ナワバリみたいなのがあるもんだと思ってた。」

「最低限の誰がどこを護るかっていう役割分担はあるぞ。でもそれは防衛戦を専門にしている『防人衆』ってヤツ等の仕事だ。だからそれ以外のヤツ等がどこで闘うのかは自由で自己責任だ。」

「はぇ~、けっこうテキトーなんだな。でもそれなら戦力が偏ってどこかの防衛線が突破されることとかあるんじゃねぇの?」

「無いことはないな。でもそういう時は中央で待機している予備戦力が動く手筈になってる。具体的には、理由は様々だが前線で闘うのを引退した戦士集団の『先達組』や総大将様の側付きであふ『近衛衆』とかだな。この辺の人達は強さの次元が頭一つ二つ飛び抜けている人が多いから、防衛線を突破してきても本隊の奥深くまで抜けてこれる魔物なんて滅多に現れない。」


 説明を終えたところでお気に入りの料理を出す屋台を発見した。


「飯はあれにしよう。」

「えぇ~、でもオレあっちのも気になるぞ。そっちのも美味そうだし、向こうからは何か美味そうな匂いが…」

「そうやってるとキリが無いだろ。いいから来い。」


 色々な屋台に目が行って迷いに迷っているクリスの首根っこを掴み飯を買って屋台の区画を離れる。

 クリスが未練タラタラでごちゃごちゃ言っていたが全て無視して食事を終わらせ、クリスの登録をしにギルド本部に向かった。




 開戦の真っ最中のギルド本部周辺は多くの人でごった返していた。

 本部の隣に臨時で建てられた大きなテントには、次々と戦士達によって倒された魔物達の素材が運び込まれ解体されてされている。

 その素材を目当てに商人や職人、薬師や料理人などが集まっているからだ。


「昨日運び込まれたマンティコアの魔将個体の解体が終わったらしいぞ。なんとかツバを付けておきたいが希少素材になるから競売に出されることになるか…」

「魔将個体ともなると毛皮が手に入れば貴族共に高値で売りつけられる。ぜひ欲しいがこの後にもそれ以上の希少素材が入って来る可能性もある。我々の財源も無限ではないから悩ましいところだ…」

「ヒヒッ…魔将個体のマンティコアの毒腺…それがあれば……ヒヒッ…」


 喧騒の中から気になっていた情報を拾えた。

 どうやらあの後スレイさん達はしっかりと魔将を仕留めたようだ。

 このように、この辺では意外と有益な情報が噂されていることが多いので、雑談を雑音として聞き流してもったいない場合があったりする。

 仮設テントの前を通り過ぎ、そのままギルド本部に足を踏み入れると、こちらは外以上の人混みとなっていた。

 受付の人数を最大限に増やしているようだが、それでも捌ききれない人達が列を成している。

 その中から回転率が良さそうな列を一つ選び俺達も並ぶ。

 待っている間は暇なのだが、こういう時こそ聞き耳を立てて情報収集しておくのが肝心だ。


「南方の方の防衛戦で金冠角牛が出たらしいぞ。」

「マジかよ!たしか、採れる素材が全て高額で取引される希少な魔物だったよな?今から行ってももう狩られた後だろうし…いや、近くに二体目が出る可能性もあるから今からでも行った方がいいのか?」

「北西の方で負傷者が多く出たらしいぞ。今から向かえばライバルが少ない狩場を独占できるかも…」

「西の方の防衛戦はもうダメだな。さっき血が騒ぎ出してしまった『先達組』のじぃさんが数人向かって行ったのを見た。あの調子じゃ稼ぎが良い魔物はほとんどじぃさん達に持っていかれるだろうな。」


(南はこれから人が増える。北西は負傷者が多いようなら予備戦力組が動くだろうかその後に俺達が行ってももう遅い。西は論外。昨日の波が来た方向からして魔王側は本隊から南西方面に〈城〉を構えていそうだから当然ながら南西の防衛戦力は厚くしてある。となると…いっそ南南東辺りの戦線が無難か?)

 聞き耳を立てて得られた情報を元に、クリスの登録が終わった後の防衛戦でどこに行くべきか思案していると、いつの間にか受付の列が進み俺達の番になっていた。


「次の方、どうぞ。」


 うなされて前に進み出ると受付に立っていたのは知っている人物、ギルド本部情報監理部部長補佐のダグラスさんだった。


「おや?貴方は…ロアさんでしたね。」

「ダグラスさん?なんでまた受付業務なんかを?」


 ダグラスさんはギルド職員でも割と上の方の立場の人なので、受付業務でカウンターに立つことは非常に珍しい。


「先程まで上がってくる討伐報告と報酬の計算でずっと算盤を弾いていたのですが、頭の中で数字が肩を組んで踊り出し始めたのでこれ以上は危ないと判断し、ここに避難して来たのですよ。」

「……ギルド職員も大変なんだな。」

「いえいえ、戦闘職の皆さん程ではありませんよ。それより、貴方が来たということは、例の件が片付いたということでしょうか?」


 ダグラスさんはギルドの中でも中堅のエリートみたいな立ち位置の人で、俺が所属している『獄卒衆』とも情報のやり取りで繋がっている人物だ。

『獄卒衆』は傭兵の国の治安維持組織だが、名前と所属を明かして警邏することで悪事を抑制する表の者と俺のように極秘裏に活動して行動が目に余る者を始末する裏の者がいる組織なのだが、こうした裏の活動には『獄卒衆』以外にも協力してくれる者の存在が不可欠となる。

 俺が今回受けた任務も元々はギルドによつまてもたらされた情報から与えられた任務だったはずだ。

 ダグラスさんは『獄卒衆』の裏の活動について知っている側の人間なので、俺が任務を受けて傭兵の国を離れてたことも知っていたのだろう。


「例の件か…ある程度は解決したんだがまだ完遂したわけじゃないって感じだ。申し訳ないが色々バタバタしててまだ報告書もできていない。だか、傭兵の国から抜けて裏家業に身を落としていたやつらがいたからそいつ等のプレートを回収した。」


 俺は懐から本物のクリスのプレートと実は密かに回収していたラットのプレートを取出しダグラスさんに渡す。

 プレートに刻まれた名前を確認したダグラスさんは手元のメモに素早く何かを書き込む。


「ご苦労様です。確認が取れたらロアさんの口座に報酬を振り込みます。ご要件は…他にもありそうですね?」


 さっきまでギルド内をもの珍しそうにキョロキョロ見回していたクリスだったが、今は興味がこちらに移ったのかさっきから俺の隣で無言のアピールをしてきている。

 正直に言ってちょっとウザい。


「あ〜…こいつは任務の途中で知り合ったヤツなんだが、どうも傭兵の国に興味があるみたいでな。登録の手続きをしてやってほしいんだが。」

「なるほど、新人さんでしたか。ではこちらの用紙に名前と希望の職種をご記入下さい。」

「職種は戦闘職一択だが…まだ名前を考えていなかった!」


 用紙を受け取って意気揚々と書き込もうとするクリスだが最初の欄でクリスの手が止まる。

 忠告したのが二日だし、昨日は色々あり過ぎて考える時間が無かったのでまだ考えていなかったとしても不思議ではない。


「今回の登録は仮登録になりますので最悪の場合、名前は後で変更できますよ。」

「そうなのか?」

「ええ、魔王の侵攻の後は多くの新人が入ってきますからね。今は他の業務で手一杯ですのでそういった方々とまとめて登録することになりますので、そのタイミングでならスムーズに名前の変更が行えます。」

「そういうことなら…今回は一旦、クリスでいいか。」


 クリスは用紙に必要事項を書き込み始めたので、その間に俺はダグラスさんから情報を仕入れておくことにする。


「ダグラスさん、今回の防衛戦で南南東あたりを守っている『防人衆』が誰だかわかりますか?」

「今の時間で南南東ですと…たしか、主だった人はジョゼットさんを筆頭にシャッハさん、カイトさん、プリスさん、ハルバーさん辺りが担当していたはずです。」


『大地鎧』のジョゼットさんを始め、『雷獣』『嵐弓』『魔笛』『剣角』といったそこそこ名の知れたメンバーが布陣しているようだ。

 だが、ジョゼットさん以外は銀プレートなので俺達が参戦しても魔物を狩る機会はありそうだ。


「よし、書けたぞ。これで頼む。」

「はい、承りました。」


 クリスの手続きも終わったようだし、俺達も防衛戦に参加して一稼ぎすることにしよう。


「クリス、終わったなら行くぞ。お前は来たばかりでまともな防具とか武器とか何かと必要な物が多いはずだ。ここで稼いどかないと先行きが悪いことになるぞ。」

「広域の殲滅戦は得意だ。荒稼ぎしてやるぜ。」


 俺達は予定通り南南東の防衛戦に参加すべく戦場に向かった。

今回の更新で一周年になりました。

今後ともお付き合いただけたら幸いです。

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