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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
ロア編
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一難去ってまた一難

 状況は最悪の一言だ。

 どうやら【星零獣】はわざわざ俺達のことをナワバリの外まで追ってきたらしい。

 対する俺はクリスの光線の二連撃を真正面から受け止めたことで消耗しきっている。

 クリスの状態はわからないが、俺と同様に消耗しているだろうし、この状況を打破できる策があるとは思えない。

(ヤバい…詰んだ。)

【星零獣】が攻撃してくれば、防御も回避もできない今の俺達ではあっさり殺されて終わりだ。

 だが、この状況で【星零獣】は特に攻撃してくるでもなく、ただじっとこちらを観察するように見つめるだけだった。

 下手に動いて刺激したくないので俺達も地面に転がったまま動くことができない。

 …奇妙な沈黙の時間が流れる。

 できることが無いので、せめて【星零獣】の目的について考えることにする。

 思えば最初から【星零獣】は不可解な行動をとっていた。

 自分のナワバリに侵入してきた俺達のことを確認しにあの場所に現れたのは理解できる。

 だがその後、明確な敵対の意識も無いのに攻撃してきた。

 その上で、今もナワバリの外に出た俺達を追跡し、今度は攻撃することもなく俺達のことをただじっと観察している。

(ダメだ…まるで目的が見えてこない。…というか、この【星零獣】俺のことを見てない?)

 羊のような姿をしたこの【星零獣】は目の位置が俺達とは違うからので、視線がどこに向いているか読みづらい。

 だが、どうにもこの【星零獣】の視線は俺に向いて気がする。

 このままでは埒が明かないので、意を決しゆっくりと【星零獣】の視線の先を確認する。

【星零獣】の視線の先には、僅かに身を起こしたクリスの姿があった。

 クリスの方も【星零獣】を見つめ返しているようで、まるで一人と一体は目線で会話しているかのようだった。

 そのな様子でしばらく見つめ合っていた一人と一体だったが、ある瞬間に同時に弾かれたように同じ方向を向いた。

 一人と一体は少しの間その方向をじっと見つめると、不意に【星零獣】が見ている方向に向かって態勢を変え、そちらに向かって大きく跳躍しながら去っていった。


「………助かった…のか?


 結局何がどうなっているのかわからないまま状況が変わり、俺達はなんとか生き残ったようだ。




「クリス、何があったのかわかるか?」


 疲労によりダルさが残る体に活を入れ、気合で起き上がりながらクリスに問う。


「向こうの方角から強い魔力を感じた。おそらくだが、魔王が侵攻を始めたんだと思う。」


 クリスも起き上がりながら答える。


「なるほど。それで【星零獣】は俺達にちょっかいを出すのを辞めて魔王とドンパチやりに行ったってことか。」


 俺達にちょっかいを出してきた理由はわからないままだが、【星零獣】が去った理由はそれで説明がつく。

 だが、魔王が侵攻を開始したのが事実ならかなりマズイ状況になったかもしれない。

 ここが何処なのかわからないが、場所によっては侵攻により発生する魔物の波が来る可能性があるからだ。

 俺もクリスもさっきの騒動で少なからず消耗しているので、この状態で魔物の波に呑まれれば命は無いだろう。


「とにかく、この場を離れよう。」

「ここに留まっていてもいてもしかたないだろうし、離れるのは賛成だが何処へ向かうつもりだ?侵攻による波でこの辺全域はどこもかしこも戦場になるんじゃないのか?」

「確かにどこもかしこも戦場になるが、その戦場において難攻不落を誇る場所が一つだけある。傭兵の国本隊だ。あそこなら防衛のために戦力が整っているから休むこともできるし、なにより魔王の動向についての情報がある。」


 魔王の軍勢とバチバチにやり合っている傭兵の国には、斥候集団である『先触衆』によって集められた戦場の状況が集まっている。

 この情報を利用して自分の力に見合った戦場で魔物を狩ることごできるので、魔王の侵攻が起こっているときは俺達のような傭兵の国の者達にとっては稼ぎ時になるのだ。

 態勢を整える事もできるし、当然俺もこの機会を逃すつもりはない。


「傭兵の国に向かうのはわかったが、肝心の傭兵の国の本隊とやらはどこにあるんだ?」

「待ってろ、今調べる。」


 俺は懐から自分のプレートを取り出して重心の部分を支えるようにして指の上に乗せる。

 するとプレートがゆっくりとひとりでに回転し始め、ある所で回転が止まる。


「あっちだな。」

「それで方角がわかるのか。どういう仕組みなんだ?」

「詳しい仕組みは俺も知らない。このプレートは傭兵の国の象徴でもある亀龍から採れた素材からできているそうで、こうしてコンパスのようにして使うことができる。ただし、このやり方でプレートが示す先は北ではなく亀龍がいる方角だ。それで傭兵の国の本隊は常に亀龍と共にいるからこれで方角がわかるってわけだ。」


 こうして傭兵の国に所属している者達は本隊がいる方角をどこにいても知る事ができるので、自分の現在地がわからなくても帰還する場所の方角だけはわかるのだ。


「そのプレート、そんな機能があったのか。そういうことならさっさと行こう。動けるか?」

「なんとかな。ただ、疲労感が凄いから昨日と同じようにとはいかないだろうな。」

「あ〜…さっきはかなり無茶させちまったみたいだしな。…今度はオレが踏ん張る番だな。」


 そう言うとクリスは俺の手を取るとふわりと飛び上がり、俺達は傭兵の国の本隊を目指して移動を開始した。




 空を飛んでの移動はやはり地上を移動するよりも効率が段違いに良い。

 しばらく進むと遠くの方に傭兵の国の目印でもある亀龍の巨大が薄っすらと見えてきた。

 このまま順調に行けば今日中には本隊に合流できそうだ。

 そんな事を考えていると傭兵の国の本隊が見えた方角と別の方角から土煙の壁がこちらに向かって来ているのが見えた。

 おそらくあれは魔王の侵攻の一つ目の波、魔王からの直接の支配を受けていない雑魚魔物達が魔将が率いる魔物達に追われて大移動しておこる土煙だろう。

 土煙は凄い勢いでこちらに迫ってくるが、俺達は今空の上だからあの魔物の波に呑まれる心配はないだろう。

 一つ目の波の魔物は追われて逃げているだけなので、逃げるのに必死だから飛んでいる俺達を攻撃してくる余裕はないはずだ。

 問題はその後に続く第二の波、魔将に率いられた魔物の波だ。

 こいつらは魔将の命令で動いているので魔将からの指示があれば普通に攻撃してくる。

 ただでさえ多勢に無勢の闘いになる上に、この波とやり合っている間に魔将まで参戦してきたら生き残れる保証は無い。

 俺達が生き残るには第二の波に呑まれる前に傭兵の国の防衛戦力がいる所まで行かなければならない。


「おい!もうすぐ波が来る!呑まれたら一巻の終わりだ!後先は考えなくていいから全力のスピードを出せ!」


 昨日は飛行中に声が届かなかったので今回は大きな声で話しかける。

 今回は声が届いたようでクリスの飛行速度が上がった。

 ここからは先はいよいよ時間との勝負になる。

 クリスが全力で飛んでくれている今は俺の出番はない。

 クリスがバテ上がってしまったら今度は俺がクリスを担いで傭兵の国まで走ることになるので、今の内に精神を落ち着かせ体力と氣力が少しでも回復するように努める。

 程なくして第一の波が俺達の下を通過した。

 第一の波の魔物を追いたてている第二の波の魔物達も間を置かず俺達のすぐそばまでやってくる。

 案の定第二の波の魔物達は俺達のことは捕捉すると敵とみなして攻撃を始めた。

 流石に周囲にいる第二の波の魔物達全てが攻撃してくるということはなく、一部の遠距離攻撃が得意な魔物達が残り俺達を攻撃を仕掛け、それ以外のそのまま魔物は第一の波の魔物達を追いたてているようだ。

 クリスは回避しながら傭兵の国を目指して飛ぶが、回避行動によって最短距離を進むことができなくなっている。


「クリス!回避は最低限で良いぞ!俺が下から来る攻撃を防御する!」


 今はまだ第二の波の魔物達だけが攻撃を仕掛けてきているだけだが、そのうちこの群れを操っている魔将が現れる。

 そうなってしまえば魔物達の攻撃はもっと苛烈で正確なものになるだろう。

 なんとしてもその前に傭兵の国の防衛線まで行きたいところだ。

 だがそんな俺の考えも虚しく、飛んで来る攻撃に洒落にならない威力の攻撃が混じるようになった。

 魔将が俺達を攻撃するのに加わったようだ。

 魔将からの攻撃を受けると一発で致命傷になりかねないが、クリスはここまで全力で飛んでいるのでスピードが落ち始めている。


「クリス!もういい!このまま飛んでいたらそのうち魔将からの攻撃をくらっちまう!こっから先は俺が担いで行く!」


 地上の方が障害物がある分俺達を狙い辛いはずだ。

 クリスもこのまま攻撃を躱し続けるのはムリだと悟ったのか大人しく俺の提案に乗り降下する。

 地上に降りた俺はクリスを背に担ぐと回復した分の氣力を全て足に注ぎ込み全力で走り始める。

 第二の波の魔物が俺達に追いすがってくるが、背中にいるクリスが光線を撃ち援護してくれる。


「おいロア、いざとなったらオレを置いて行け。」

「はぁ?こんな緊急事態になに下らないこと言ってやがる!」

「いいから聞け、魔物達が狙っているのはオレの方なんだ。お前も気付いているだろうがオレは普通の人間じゃない。古くから魔王と敵対している〈翼人種〉って種族の生まれだ。魔物は本能に魔力を持たない生物を殺せと刷り込まれているが、その刷り込みよりも上位の本能として〈翼人種〉は優先して殺せという命令が刷り込まれている。だからオレを背負っている限り魔物も魔将も諦めずに追ってくる。」

「あのなぁ!そんなもんが仲間を見捨てて逃げる理由になるわけないだろ!そんなダセェやつに成り下がるぐらいなら、このまま死ぬ直前まで諦めずにみっともなく足掻く方が何億倍もマシだ!」

「ロア……お前…馬鹿だろ!?」

「仲間見捨てて逃げるのが賢いってんなら俺は馬鹿で上等だ!馬鹿なりに足掻いて生を掴み取り、そんで今日の事を武勇伝にしていつかガキに語ってやるんだ!俺が選んだ生き方はそういう生き方なんだよ!」


 キッパリと宣言してやると流石にクリスも口を噤んだ。

 だが、話している内に猛スピードで追跡して来た魔将がすぐそこまで迫ってきていた。

 一瞬だけ振り返り確認すると、俺達を追跡してきた魔将はどうやらマンティコアがベースになった魔将のようだった。

 マンティコアは人に似た頭部を持ち、身体は獅子、尾が蠍のようになっている上位の魔物だ。

 通常のマンティコアであれば闘えばギリギリで勝てると思うのだが、今回の相手は魔王によって改造されて魔将になった個体だ。

 正直に言って闘っても勝ち目は全く無い。

 クリスが光線を放ち牽制しているようだが、ほとんど効果が無いようで追跡のスピードは少しも落ちていない。

 絶望的な状況だが俺は諦めずに走り続ける。


「ロア…やっぱり…」

「黙れ!問答はもう終わってる!お前もいい加減腹をくくって、何があっても生き残るって意地を持ちやがれ!俺は絶対こんなところで終わらねぇぞ!」

「良く吠えた!若者はそうじゃねぇとな!」


 弱気になっているクリスに喝を入れていると、不意に良く通る第三者の声が響き、同時に後方で爆発音と魔将のものと思われる悲鳴が聞こえた。


「ありゃ?お前よく見たらロアじゃねぇか。」


 聞き覚えがある声に思わず足を止めて振り返えると、そこには世話になっている傭兵の国の先輩戦士のスレイさんの姿があった。


「おいスレイ、先行し過ぎだぞ。」

「お前、後衛タイプのくせして前衛の俺達よりもガンガン先行するその悪い癖をいい加減治せよ。」


 俺が何か言葉を発するより先に別の声が聞こえ、既に戦闘を開始しているスレイさんを援護するように新たに現れた戦士達が闘い始めた。

 どうやら魔将を狩りに来たスレイさんを含む傭兵の国の一団に助けられたようだ。

 仲間の援護が入り戦闘に余裕ができたのか、スレイさんが一度俺達の所まで下がって来た。


「スレイさん、危ないところを助けて頂きありがとうございます。」

「別に構わねぇよ。俺達は魔将の首を殺りに来ただけだし。ロアはこんな所で何をやってたんだ?」

「話すと長くなるんですが、簡単に言うと色々あってこの背負ってるヤツと一緒に外で野暮用を済ませていました。そしたら魔王の侵攻が始まって、そこの魔将に追いかけられてるハメになりまして。」

「よくわからんが大変だったみたいだな。だいぶ疲れてるみたいだし、とっとと本隊の所まで下がりな。」

「ありがとうございます。」


 礼を言って踵を返し再び走り出す。


「安心しろ。後ろには通さねぇからよ。」


 そんな俺に向かってスレイさんの頼もしいセリフをかけてくれて、ここのところ張り詰めっぱなしだった緊張の糸がようやく緩んだ気がした。

後書小話


「なにが〝安心しろ。後ろには通さねぇからよ〟だよ。口元緩んでるぞ?闘いに集中しろ。」


パーティーを組んでいる前衛のガナットが魔将のとりまきの魔物を屠りながら小言を言ってくる。

だが、どうにも口元が緩むのを止めるとことができない。

ロアが成長してダインさんの志をしっかりと受け継いでいるところを見られたからだ。


「でもさっきのセリフはどっかで聞いたようね覚えがあるな。」

「あれじゃないか?昔酒の席で目標にしている戦士の話題になった時にスレイのヤツが熱く語ってた話だよ。たしか…ちょうどさっきのアイツ等みたいに、魔物の群れに囲まれて絶体絶命って時に助けに来てくれた戦士が背中を護って闘ってくれた時にかけてもらったセリフがあんな感じだったっはずだぞ。」

「……うるせぇ。お前等こそ闘いに集中しろよ。」


パートナーのもう一人の仲間のジゼルに図星を突かれてしまい、俺は自覚できるほど顔を赤くしながらそう返すのが精一杯だった。




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