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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
ロア編
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星零獣からの撤退戦

 日が昇り始めたので朝飯の準備を始めることにした。

 体質的に朝が弱い今は俺だが、クリスと交代で見張りをしながら夜を明かしたので、今の俺は数時間前から起きている状態だ。)

 なので完全に寝起きというわけではないので頭は比較的スッキリしている。


「おい、クリス。そろそろ起きろ。」


 自分の荷物をあさり食料を探しながらクリスに声をかける。

 乾燥させた果物の瓶があったので今日の朝食はコレと堅焼きされたパンに決めた。


「う〜ん…まだ暗いじゃねぇか…もう少し寝ててもよくないか?」

「ダメだ。東の空を見てみろ。少し明るくなってきてるだろ?日が昇り始めたら朝なんて一瞬で来ちまう。」


 クリスのヌルい提案を却下しながら先に朝飯を食い始めることにした。

 他人が飯を食っているところを見ると腹がすくものだから、俺が飯を食っていれば自然と起き出すだろう。

 堅焼きされたパンを薄く切って口に放り込む。

 顎の筋肉を『獣氣』で強化すれば切らずともそのまま食い千切って咀嚼するのは容易のだが、未熟だった頃に身につけた習慣なので未だに意識せずとも自然にやってしまう。

 というのも、『獣氣』による顎周りの強化はピンポイントで顎を強化できなかったら味覚まで強化してしまうからだ。

 保存のために水分を飛ばした食料は大抵の場合不味い。それを強化した味覚で味わっていたのは、文字通りの意味で苦い思い出なのだ。

 だが、今回デニスさんが用意してくれたこのパンは想定していたよりも美味かった。

 もちろん保存用のパンにしては、の話だが。普通の量産品にはない何かの一工夫がしてあるのだろう。

 そんなふうに朝食を食べていると、狙い通りにクリスが起きて来て俺に習って隣で朝飯を食い始めた。

 メニューは俺と同じ堅焼きパンと乾燥果実のようで、早速堅焼きパンに齧り付いた。


「ングッ…………堅ってぇ…お前、よくこんな堅てぇの食えるな。」

「食うのにもちょっとしたコツがあるんだよ。食べにくいなら薄く切って軽く焼くとだいぶマシになるぞ。」


 俺のアドバイスを聞いたクリスは早速とばかりに得意の光線でパンを薄くスライスし始める。

 光線自体が熱を持っているので切った表面がいい感じに焼かれたらしく、今度は問題無く食べられているようだ。

 それにしても、クリスのこの攻撃技は謎が多い。

 俺は魔導術には詳しくないのだが、クリスのあの技は術式とやらの構築速度が早すぎる気がする。

 最初は魔導器か何かの道具を使ってあの技を早く出せるように工夫していると思っていたが、どうにもそんな物を持っているような様子が無い。

 単純にクリスの術式構築速度が速いだけの可能性もあるが、何かしらのカラクリがありそうだ。

 戦闘を生業としている者にとってはこの手の技術は飯の種だ。

 同業者にやすやすと話したりしないのは当たり前だし、奥の手の一つや二つは誰だって持っているものだ。

 連携のためにも少しはクリスが使える技について知っておきたいが、傭兵の国ではこの手の話を根掘り葉掘り聞くのはマナー違反という空気があるので塩梅が難しい。


「おっ!この乾燥果実美味いぞ!お前も食ってまろよ。」


 考え事をしていたせいで食べるペースが落ちていたようだ。

 クリスがデザートの乾燥果実に手を出し始めているので、考え事はやめにして食事に集中することにした。

 クリスの言う通り、乾燥果実は美味かった。




 朝飯を食い終わり野営地を後にした俺達は昨日と同じ移動方法で距離を稼ぎ、【星零獣】のナワバリの目前まで来ていた。


「いいか、ここから先は【星零獣】の領域だ。【星零獣】は基本的にこちらが手を出さなければ敵対してくることはないはずだが、ナワバリの奥地に入り込みすぎると敵とみなされることがある。だからそうならないために、今回採取では奥には行かずナワバリの外周を広く動いて星鈴花を探す。」

「オレは本で読んだ程度の知識しかないんだけど、【星零獣】ってそんなにヤバいのか?」

「ヤバいなんてもんじゃない!闘うという選択肢はそのまま死を意味するような相手だ。だから大前提として遭遇してしまったら全力で逃げるの一択しかない。」

「…ふーん。」

「あまり信じてないな?」

「お前の事を信用してないわけじゃないぞ。ただ、オレは実物を見たことがないからどうしも、な。」

「俺は過去に一度だけ【星零獣】が闘っている姿を見たことがある。…あれは今から数年前の闘いだった。この闘いは珍しく魔王が侵攻を開始する前に先制できた戦で、総大将様を含む精鋭達が魔王の〈城〉に殴り込みを仕掛けていた。俺は傭兵の国の本隊の防衛戦で押し寄せて来る魔物の群れを相手にしていたのだが、その時に戦場に【星零獣】が乱入してきたんだ。まぁ、実際には乱入というよりも総大将様達が魔王と闘っている最前線に行く時に、たまたま俺達が闘ってる場所を通っただげのだったみたいだが、それでもあの凄まじさは今でも鮮明に覚えている。【星零獣】が戦場に現れた瞬間、明確に戦場の空気が変わった。その戦場にいる存在全ての生殺与奪を掌握してるような感覚とでも言えばいいのか…とにかくそんな感じで圧倒的な存在だった。オーラみたいな何かを身に纏っていて、雑魚の魔物なんかは攻撃する必要すら無く近くを通り過ぎるだけで勝手に殲滅されていった。その戦場で指揮をしていた魔将には流石に攻撃してたけど、ほぼ一撃で仕留めていたぞ。」

「そんなにかよ…ちなみにどんな見た目だったんだ?」

「俺がその時に見たのは馬型だったんだが【星零獣】は地域によって見た目が違うらしいから、俺達がこれから踏み込む場所の【星零獣】も馬型だとは限らないぞ。」

「見た目がわからないのか…普通の動物と見間違えて接近に気付けなかったら厄介だな。」

「いや、そんな心配はする必要は無い。どんな見た目だろうと見れば一瞬でわかる。それぐらい【星零獣】って存在は圧倒的なんだ。」

「オーケー。【星零獣】については了解した。遭遇を避るために奥までは行かない、万が一出会ってしまったら全力で逃げる、だな。」

「…それで良い。それと探している星鈴花の見た目だが名前の通り鐘のような形の花弁の花だ。それっぽい形をした花があったらとりあえず俺の所に持ってきてくれ。都度確認するから。」


 事前に話しておくべき注意事項はこんなものだろう。

 説明も終わったので俺達は本格的に【星零獣】のナワバリに踏み込んだ。




 当初の予定通りナワバリの中心地から弧を描くように移動しながら広範囲を探索する。

 成果は思いの外順調で幸先良く数輪の星鈴花が群生している場所を発見している。


「なぁ、コレってどれぐらい集めたらいいんだ?」

「そうだな……多ければ多い程いいんだろうけど、花束をプレゼントするって言っちまったから最低でも十五から二十は必要だろうな。」

「うへぇ〜結構な本数いるんだな。それだけの数必要なら、オレが飛んでここみたいな群生地帯を探す方が速くないか?」

「リスクがデカ過ぎるから却下だ。何のためにこんな手間をかけて広範囲をチマチマと探していると思ってる?さっきも説明したが【星零獣】に見つかる可能性がある行動はやらないのが鉄則だ。」

「チッ…わかったよ。…絶対飛んだ方が早いのに…。」


 クリスはぶつくさと文句を言いながらも大人しく星鈴花探しに戻っていった。

 そんな調子でしばらく採取を続け、どうにか日が暮れる前に必要数以上を確保できた。


「ふぅ、だいぶ集まったな。そろそろ終わりでいいだろう。」

「やっとか、結構手こずったな…………おい…ロア、アレ…何だ?」


 採取した星鈴花を荷物の中にしまい込んでいると、クリスの緊張した声が聞こえた。

 嫌な予感がして振り返るとクリスが示した方角の先にソレはいた。

 まだかなり距離があるのでハッキリとは確認できなかったが、ソレの外見的特徴は羊に類似していた。


「…ッ、【星零獣】だ。このまま刺激しないようにしてゆっくりと下がるぞ。」

「…わかった。」


 二人して嫌な汗をかきながら【星零獣】の動向を見逃さないようにしつつジリジリと後退する。

 幸いなことに【星零獣】からは今のところ敵意のようなものは感じない。

 魔力を持たない生物とはむやみに敵対しないはずなので、このまま後退してナワバリの外まで出てしまえば問題ないはずだ。

 そんな考えがあったので致命的に反応が遅れてしまった。

 頭の両側に生えている角の間にエネルギーを収束させるとカパリと口を大きく開く。

【星零獣】はこちらに敵意を見せていないにのも関わらず無造作に攻撃の予備動作を見せたのだ。

 まさかいきなり攻撃してくるとは思っていなかったたため完全に反応が遅れた。

(ヤバッ…死…。)

 当たったら確実に死ぬ威力の攻撃が凄まじい速さで眼前に迫る。

 これは死んだと思ったが、突然視界が空に切り替わり気がつくと宙を舞っていた。

 攻撃の余波に揉みくちゃにされながら必死に何が起こったのか把握しようとする。

『獣氣』の流れを制御し頭の回転と五感を強化強化すると一瞬視界の端にクリスの姿が見えた。

 どうやら攻撃が来るよりも一瞬早くクリスが反応して俺を掴んで空に逃れていたようだ。


「ぼさっとするな!死ぬぞ!」

「すまん!」


 宙を舞いながら短く謝罪し離脱のための方法を思案する。

 不思議なことに【星零獣】は攻撃してきてはいるものの、俺達には敵意のようなものを持っている感じがしない。

 だからナワバリの外まで逃げられれば見逃してもらえる可能性がある。

 現状で生き残るにはこの可能性に賭けるしかない。

 最速で離脱できる方法を死ぬ気で模索する。

(このままクリスに飛んで移動してもらっても、【星零獣】があのエネルギー波みたいな攻撃を放ちながら薙ぎ払うように首を振られた一瞬で消し炭にされる。だからもっと速く移動する必要がある…空中で素早く移動する方法………!)

 全力で思案した結果、一つの奇策を思い付いた。

 かなりの無茶だが今はこの方法しか思いつかないからやるしかない。


「クリス!あの洞窟をブチ抜いたやつ撃てるか?!」

「撃てるけどたぶんアイツにはたいして効かねぇぞ!」

「そっちじゃない!俺に向かって撃つんだ!」

「はあ?頭いかれたか?」

「悠長に説明している暇はない。とにかく撃て!」


 言い放ちながらクリスを背に庇うような位置取りをして盾を構える。


「そういうことかっ!」


 クリスは実戦経験が少なそうだが戦闘のセンスは高い方だ。俺の行動から何をしたらいいのか察して即座に行動に移る。

 周囲に浮かべていた三つの光球を合体させて構えている盾の前に移動させる。


「ぶっ放すぞ!」

「やれ!」


 至近距離から盾に向かって放たれた光線を盾の表面に展開した『闘氣装甲』で受け止める。

 これにより俺とクリスは光線に押されるような形で後方に向かって思いっきり吹っ飛ばされる。

(思ったより光線の威力が強い!展開している『闘氣装甲』がゴリゴリと削られていく。だが、狙い通り普通に飛ぶよりも格段に速く移動できている。

【星零獣】の方も、突然俺達が仲間割れを始めたように見えたからか、状況確認のために攻撃の手を止めているようで追撃が来ない。


「追加だっ!」

「ちょ…まっ…」


 一発目の光線を受け止め切った直後、クリスが言葉通り追加でさっきと同じ威力の光線を放つ。

 相談も無しに撃たれ、俺は慌てて再び盾に『闘氣装甲』を纏わせて受け止める態勢に入ることになった。

 文句の一つでも言ってやりたいところだがさっきの一発だけでは微妙に【星零獣】のナワバリから離脱しきれていなさそうだ。

 この光線をさっきと同じように受け止めれば確実に【星零獣】のナワバリから離脱できるので判断としてはそこまで間違った行動ではない。

 問題は俺がこの二発目を受け止めきれるかどうかということだ。


「糞がっ!やってやるよ!」


 気合いで『闘氣』をひねり出し盾に纏わせて光線を受け止める。

 どうにか二発の光線を受け終わり、クリスと二人で無様に地面を転がった。

 精魂尽き果て平衡感覚も麻痺した状態だが、どうにか顔を上げて周囲の状況を把握しようと努める。


「どう…なった?」


 そして、視界の端にあの【星零獣】の姿が見え絶望した。

補足資料

星鈴花

原種の鈴花は元々そんなに珍しい物ではなく地域によってはありふれた植物だが、星零獣の縄張りなどの星の力が強い場所に自生した物は特別な力を持つようになる。

通常の鈴花よりも1.5倍くらい大きく育ち独特なオーラのようなものがある。

薬の効果を高めると共に滋養強壮に良く身体に活力を与えてくれる。

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