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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
ロア編
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ロアの昔話ー3

「皆の者、少し寄り道して帰ろうか。」


 親父のプレートを無事に奪還できた後は、皆で傭兵の国に戻る流れだと思っていたがセンスイさんのその一言で寄り道して帰ることになった。

 誰もどこに行くのかを聞いていないが、後に続く皆は何の疑問も持たずにセンスイさんに続いて移動する。

 足取りは一定方向に定まっているので目的地も無く進んでいるわけではなさそうだった。


「センスイさん、何処に行くんですか?」

「迎えに行くんじゃよ。」


 センスイさんは誰を、とは言わなかった。

 だが、その一言で俺にも何となく向かう先と目的がわかった。




 暫く進むと激しい戦闘の跡が残る場所にたどり着いた。

 まだ戦後の処理がされていないようで、多くの人と魔物の死骸がそこら中に散乱している。

 その中でも一際目立つのは、もし生きていたら人など簡単に一呑みできてしまいそうな位の巨体を持つ蛇型の魔物の死体だ。

 何かに切断されたようにして頭部から上が無くなっているが、遺された蛇体から生前の巨大さが容易に想像できる。

 切断された頭部は近くには転がっておらずどこにあるのかわからないが、今俺達が探しているものはそんなものではない。

 各自が散らばり思い思いの場所を探し始める。

 暫く皆で手分けして探していると、不意にセンスイさんが声を上げた。


「…おったぞ。皆の者、ここだ。」


 センスイさんが示した場所には破損した防具の破片と、もはや原型がどんな者だったのかわからない程にグチャグチャに食い荒らされてた肉片が落ちていた。


「そんなっ…父ちゃん!」


 転がるようにしてセンスイさんが示した場所にやって来た俺は、祈るような気持ちでその肉片を確かめる。

 だが祈りは届かず、認めたくないが確かに肉片に混じっている壊れた防具の破片は親父が出撃前に装備していた防具のそれと酷似していた。


「父ちゃんは……負けちゃたんだ…。」


 この原型すらわからない程にボロボロになった肉塊が本当に親父だというなら、親父は敵に負けてこんな無残な姿にされたということだ。


「ロアよ…それは違う。戦士にとって必ずしも死なないことが勝利条件ではない。ダインにとっての勝利条件は、ロア…お前が生き残る未来を創ることじゃ。」

「俺が…生き残る未来を創る…?」

「そうじゃ。ロア、お前がこうして今も生きている。そのことがダインが勝利した何よりの証なのじゃ。だから…ロアよ、お主は…お主だけはダインのヤツが負けたなどと言ってくれるな!」

「…とう…ちゃん……」


 親父の想いを知り、されどもはや親父に何もしてやれない俺は、親父を想い泣き続けることしかできなかった。




 全員が親父の亡骸のところに集合し黙祷を捧げていると、最後に現れたスレイさんが何かを引きずりながら合流する。


「センスイ爺さん、このダインさんが倒した魔将ってもしかして…アンタに深手を負わせた魔将なんじゃないのか?確か、ナーガ型の魔将とヤリ合ったって腹をバッサリ切られたがその代わりに腕の数本と片目を潰して痛み分けになったって聞いたんだが?」


 そう言いながらスレイさんが引きずって来たのは、人の形に近いながらも決定的に人とは違う異形の亡骸の上半身だった。

 左右に三対、計六本の腕が生えていたようだが半分の三本は引きちぎられており、残りの三本は切断されている。

 その他にも左目を中心として顔半分が潰れていたといった外傷が見受けられるが、致命傷となったのは袈裟懸けに深く入った斬撃のようだ。


「…驚いた。半身の蛇が転がっておったからまさかとは思っておったが、まさしくこの魔将はワシにこの傷を与えて痛み分けとなった、ワシが仕留め損なった魔将じゃ。まさかダインめが仕留めておったとは………因果なものじゃ。」

「だとしたら、やっぱりダインさんは現役を退いたとしても最後まで凄ぇ戦士だったってことじゃねぇか!お前等も何ガラにもなく湿っぽい感じになってんだよ。戦士が自らの願いの為に命を賭け、見事に勝利して願いを果たしたんだ。結果的に最後には力尽きて魔物に食われたとしてもその事実は揺るがない。そんな戦士に最後に手向けるべきなのは涙じゃない!称賛であるべきだ!」


 スレイさんは敢えて明るくい声を上げてしんみりとした雰囲気を吹き飛ばす。

 親父の死は悲劇ではなく、最後まで闘い抜いた戦士の勇敢な英雄譚なのだと言ってくれた。


「全く…こんな姿になるまで闘いおって…お前というヤツは最後の最後まで立派な戦士だったんじゃな。見ての通り、お主が全てを賭けてでも護りたかった者は無事じゃぞ。」


 戦い抜いて死んだ親父をいたわるような優しい口調で語りかけ、親父の亡骸を先程まで着ていた外套で包んだ。


「ロアよ。ダインは自分が死んだらどうして欲しいか言っておったかのう?」


 何も聞いてないと口に出したかったが口から出てくるのは嗚咽だけだった。代わりに俺は首を横に振って意思表示する。


「…そうか。ならばダインはワシ等が連れて帰っても構わんかのう?」


 親父は傭兵の国の話をした後はいつもどこか寂しそうにしていた。

 きっと本心ではまた仲間達と冒険に行きたかったのだろう。

 だから最後まで戦い抜いたその肉体が仲間達の元で星に還り、その魂は再び彼等と共に旅立つ。

 親父にはそんな結末が相応しい。


「…いい…ょ。どう…ちゃんも…その…方が…きっと…喜ぶ。」


 嗚咽を堪えながらやっとの思いでそう口にする。

 こうして俺達は本当の意味で親父の誇りを取り戻し、傭兵の国に帰還することになった。





 闘いによって死した戦士達は一つの場所に集められ、『送り火の操者』と呼ばれる代表者によって亡骸は燃やされて炎によって灰になり星へと帰る。

 それが傭兵の国での死者を弔う方法らしい。

 センスイさんによって回収された親父の亡骸もこの方法によって弔われるようで、今回の魔王の侵攻によって死亡した他の戦士達の亡骸と共に並べられた。

 そして厳かな雰囲気の中、祭事装束を身にまとった『送り火の操者』が現れて戦士達の亡骸を一人一人丁寧に炎で浄化していく。

 灰となって空に溶けていく戦士達の亡骸を見送りながら、センスイさんがポツリと口を開いた。


「ロアには話しておくべきじゃろう。そもそもダインが傭兵の国を去る原因となった負傷は、ワシを庇って負った傷なんじゃ。とある闘いの中で、ワシは魔物の強力な攻撃を捌き損ねた。動けなくなったところにトドメの一撃として放たれた攻撃をダインが自らの右腕を犠牲にして防いてくれたから、ワシはその闘いで命を落とさずに済み生きながらえることができたのじゃ。ダインには武人としてワシよりも高みに至れる才があった。じゃがワシのせいで片腕を失い至れるはずだった高みに届かなくなった。ワシは申し訳なさからダインと真っすぐ向き合うことができなくなり、変に気を使ってギクシャクしてしまうようになってしまったんじゃ。ダインのヤツはそれを苦にして、ワシにプレートの半分を遺して傭兵の国を出て行ってしもうた。」


 戦士達の亡骸が星へと還って光景を見ながらセンスイさんの独白に耳を傾ける。


「思えばワシはアヤツのことを実の子のように想っていながら、肝心なときに親らしい事をしてやれたためしがない。今回の魔将の件もそうじゃ。ワシがもう少し魔将に深手を負わせることが出来ておればアヤツは命を落とすこと無く魔将に勝てておったかもしれん。」


 泰然自若を体現したようなセンスイさんから出た弱音ともとれるその言葉を聞いて、まだ知り合って間もないというのにそれでもこの人らしくない言葉だと感じた。

 隣にいたスレイさんも同じように感じたようで反論するように口を開く。


「何言ってやがる。アンタらしくない。アンタもあの魔将と対峙した時は殺すつもりでヤリ合ったんだろうが。その上で痛み分けという形になったんだからその結果が全てだろ。」

「それでもじゃ。それでも…もう少しやれることはあったんじゃなかろうか…と考えてしまう。あと半歩深く踏み込み一撃を深く撃ち込んでおれば、あるいはあの一撃をもっとギリギリで捌き反撃でもう一撃くらわせておれば…あるいは…」

「闘いでギリギリを追求し過ぎたヤツは早死にする。それぐらい俺よりも傭兵の国に永くやってるアンタが知らないわけじゃないないだろう。」

「…そうじゃな。じゃが、ワシはもう十分生きた。今まで死に損なってきたワシが最後に命を使う場面はここだったのではないか?という疑念がどうしても拭いきれぬ。」

「生きるために強くなったのに、死ぬために闘いを求めるようになっちゃ本末転倒もいいだろうが!…アンタ、ダインさんが死んじまって随分と弱気になっちまったみたいだな。今のアンタにゃダインさんのプレートを預けておけない。アンタの怪我が治ったら改めて挑ませてもらうぞ。」


 そう言い残すとスレイさんはどこかに消えていってしまった。

 後で知ったことだが、戦士が傭兵の国を去るときに遺した、その人物の魂とも言えるプレートを預けられた人物以外が欲した場合、闘いを挑んで勝ち取る風習があるらしい。

 その闘いで挑んだ相手に認めてもらえると遺されたプレートの一部を受け取ることができ、そのプレートの欠片を自分のプレートに埋め込むことで、自分もその人の魂の一部を背負って闘うことができるようになるそうだ。

 スレイさんがセンスイさんと知り合いだったのも、以前からちょくちょく親父のプレートを賭けて挑んでいたという経緯があったらしい。

 やがて全ての戦士達の亡骸が灰になり葬儀が終わった。

 俺は葬儀が終わったこのタイミングで意を決してセンスイさんに話しかける。


「センスイさん、俺このまま傭兵の国に残って父ちゃんみたいな戦士に、そして今日父ちゃんのために集まってくれた皆みたいな仲間の誇りを護れる男になりたい!だからセンスイさんがこの先死に場所を求めて闘いを続けるぐらいなら、その残された時間を俺にくれよ!」


 それは、どこか死に急いでいる印象を受ける今のセンスイさんを親父が見たらきっと悲しい顔をすると思い、それを何とかしたくて出た半分以上思いつきの言葉だった。

 だが、口に出してみると今後傭兵の国で立派な戦士になるという俺自身の目標にも合致するいい案のように思えた。

 突然こんな提案をされてセンスイさんも最初は少し困惑していた様子だったが、やがて自分の中で何かの答えにたどり着けたのかにこやかに了承してくれた。


「最後の命の使い道…死に場所を探すよりもダインの息子を導くことに使う方が良いか…。あいわかった!このセンスイ、命尽きるまでお主の前に立ち先達として導こう!」


 こうして俺は晴れて傭兵の国の一員となったのだった。






「ーーーーーと、まぁこんな感じで俺は傭兵の国に来て今日まで己の心と体を鍛えてきたわけだ。」


 俺が傭兵の国に来ることになった経緯を語り終えると、黙って聞いていたクリスが気まずそうに口を開いた。


「お前さぁ……あのプレートがそんなに大事な物なんだったら先に言っとけよ!知ってたらあんなに軽々しく扱わなかったてのに。」

「傭兵の国のプレートなんて有名な話だろ?まさか知らないヤツがいるとは思わなかった。……そういえば、お前の本当の名前はクリスじゃないんだよな?」


 思わぬ方向から責められたので困惑しながらも話を逸らすように別の話題をふる。


「…確かに本当の名前は別にある。傭兵の国に登録してプレートに刻む名前は本名じゃなきゃいけないのか?」

「いや、そんな決まりは無い。己が何者なのかも自分で決めるってのが傭兵の国の基本スタンスだからな。だから成り行きで名乗っているクリスっていう名前に特に思い入れが無いならしっくりくる名前を考えておいた方が良いぞ。」

「己が何者であるかも自分で決めろ…か。いいな、それ。今はまだピンとくる名前は思いつかないけど、傭兵の国に到着するまでには何か考えとく。」

「それが良い。…随分と話し込んでしまったな。明日は日が昇ったらすぐに動きたいから交代で見張りをたてて今日の所はもう休もうぜ。」


 話し込んだというよりは俺が一方的に話してばかりだった気がするが、そろそろいい時間になってしまったので今日はお開きだ。

 本当はクリスについて色々と聞きたかったのだが、さっき話した通り明日は視界が良くなったらすぐに動いて星鈴花を確保しに行きたいのでまたの機会にすることにする。

 クリスも話してみると常識が無いだけで悪いヤツじゃないことがわかったし、個人的には面白い戦闘スタイルをしているので仲間になったのなら心強いヤツだ。

 こうして新しい仲間を得た夜は更けていった。


後書き捕捉


とある戦士の旅立ち

最近、俺の師であり恩人でもあるセンスイさんが笑わなくなってしまった。

原因はおそらくこの前の闘いで俺があの人を庇って右腕を失ってしまったからだろう。

俺としては片腕を失ったとしても一番世話になった人の命を護れたのだから後悔は無い。

だが、あの人は根っからの戦士で、傭兵の国以外の世界で生きること以外を知らない不器用な人だから、自分を庇ったことで俺が戦士としての全力で闘えない身体になってしまったことに強い負い目を持ってしまっているのだろう。

でも俺は武人として大成することだけが幸せの形ではないと思っている。だから俺は戦士として以外の生き方で幸せになって、俺が別に片腕を失ったことで不幸になったわけじゃないことを証明したいと考え傭兵の国を離れることを決意した。

パートナーを探して恋の一つでもしてみて、子供と愛する人を連れていつか傭兵の国を訪れる。

その時に最高の笑顔を見せられれば、俺の腕と共に失ったあの人の心からの笑顔を取り戻せる。

我ながら完璧な作戦だ。

俺のことを慕ってくれているヤツ等には少し悪い気はするが、これが俺自身が幸せになってその上であの人の笑顔を取り戻すという俺が決めた新しい戦場だ。

「みんな!またな!」

おつか再会することを心に決め、俺はそう言い残して傭兵の国から旅立った。

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