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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
ロア編
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ロアの昔話ー2

 スレイさんに連れられた俺は薬草等の独特な臭いが入り混じっている大きめのテントに来ていた。

 テントの中には魔王の軍勢との闘いで負傷したと思われる戦士達大勢いて各々が治療を受けていた。

 そんなテントの一角でその人は横になって休んでいた。

 長髪の白髪に白髭を生やしたおじいさんといっても差し支えなさそうな容姿をしているが、身体つきは老人とはかけはなれた筋骨隆々という言葉がふさわしいような仕上だ。

 ただ、身体の表面に大きな切り傷があるようで胴体全面に巻かれている包帯には傷跡に沿った血の跡が浮かんでいた。


「うわぁ…本当に負傷してらぁ…『流水円武』のセンスイ様がこんなにやられちまうなんて珍しいこともあるんだな。」

「『轟爆連鎖』の若僧か…ワシが負傷したと聞きつけて挑みに来た訳でもあるまいに…何用ぞ?」

「あたりめぇーだ。負傷した相手に勝って納得なんてできるか!今日来たのはもっと大事な用ができたから来たんだよ。」

「大事な横に用とな?御主がにワシの元を訪ねて来てワシに勝つよりも重要な用なんぞがあるとは驚きじゃな。あやつのプレートの欠片が欲しくないのか?」

「それは欲しいし、いつか必ずアンタに勝って手に入れてやる。だが、今日だけは違う。単刀直入に言うぞ。ダインさんのプレートが奪われた。」

「…ワシが持ってる方ではないからダイン本人が持っておる方が。何があったか詳しく話せ。」

「ここにいるダインさんの子供が知らせてくれた。ダインさん本人は先の魔王の軍勢との闘いで戦死。それでこの子に遺したプレートが糞野郎に奪われて行方不明だ。」

「……そうか。ならば行かねばならんのう。」

「オイオイ、その傷は結構な重傷だろ?大丈夫なのかよ?」

「心配してくれるとは以外じゃな。じゃが、どんな傷を負っていたとしても止まる理由にならん。今行かねばワシは大切な戦友を永遠に失うことになる。」

「別に止めねぇーよ。俺がアンタの立場だったとしても止まれねぇだろうし。ただ、歳の割に無茶しやがると思っただけだ。」

「御主…優しいところもあるんじゃな。で、準備はもうできておるのかのう?ダインの件となるとワシ等と共に行きたいと願う者も多いのでさないか?」

「既に選抜は任せて来た。俺とアンタが戻ったら即出発だ。」

「準備が良いではないか。ならば、早速行くかの……おっとその前に…坊や、大人同士でごちゃごちゃと話を進めて悪かったのう。ダインの子か…名は何という?」


 ここまでずっと当事者なのに蚊帳の外にいただけだった俺に、センスイと呼ばれているおじぃさんが話しかけてきた。

 実はセンスイという人の名前にも聞き覚えがあった。

 スレイさんの名前に聞き覚えがあったのと同様に親父が語ってくれた話の登場した人物で、親父が傭兵の国に居た頃に一番お世話になった人だと言っていた。

 親父は魔王の侵攻により廃村となった村から傭兵の国に拾われるという経緯で傭兵の国に加わった、いわゆる戦争孤児というやつで本物の親という者を知らずに育ったそうだ。

 そんな親父が心の中で密かに父と呼び慕っていたのがこのセンスイさんであると親父は語っていた。

 既に死んでしまっている母親の方の生まれははっきりとわからないらしいので、親父を除けば俺に家族と呼べる人はいない俺にとって、このセンスイさんは親父の父親代わりの人、つまりおじぃちゃんにあたる人だと勝手に思っていたのだ。


「ロアっていいます。…センスイおじぃちゃんは父ちゃんの父ちゃんみたいな人だって聞きました。」

「なんと…ダインめ、ワシのことをそんなふうに想ってくれておったのか。………実はのぅ、ワシも密かにアヤツの…坊やの父のことを我が子のようだと想っておったんじゃよ。」


 センスイさんからその言葉を聞いた時、親父が語ってくれた傭兵の国の仲間達との絆が確かに存在していたと感じられ嬉しかった。

 親父が死んでと聞かされて以来ずっと悲しみの中を彷徨っていた心に一筋の光が差した気がした。


「オイオイ、そんなことを言ったら俺も密かにダインさんのことを兄貴だと想っていたんだぜ。」

「そうであったか…ならばワシは御主にも悪いことをしてしまっておったということか。」

「…それとコレとは話が別だ。ダインさんが決めたことにケチなんて付けられるかよ。そんなことより、そろそろ行こうぜ。ボウズもおぶって行ってやるからあんまり暴れないようにしろよ。」


 スレイさんはそういうとヒョイと俺のことを持ち上げ肩に担いだ。

 センスイさんもいつの間にか出発準備を終えていたようで、俺達は改めて先程の宴が行われていた会場に戻ることになった。




 宴の会場だった場所に戻るとそこでは何故か、武装した十人前後の戦士達に囲まれて何組かの戦士達が殴り合いの喧嘩をしていた。


「選抜メンバーはどうなったんだ?」


 囲みを作っている戦士の一人にスレイさんが尋ねる。


「戻ったか。今、最後のメンバーを決めているところだ。」

「オイオイ、まだ決まってなかったのかよ?今この瞬間もクソ野郎がダインさんのプレートを持っているって思うと、怒りで頭の血管がブチキレそうになるからさっさと出発したいんだが。」

「ここに集まっている連中全員が同じ想いだろうよ。だからこそ、今殴り合ってるヤツ等も譲れない。もう決着が付きそうだし、少しだけ待ってやれよ。」

「やれやれ、追跡方法もこれから考えようとしているのにとんだ道草だ。先が思いやられる。」

「それなんだが…今回は色々あって『鳥籠』が力を貸してくれることになってな。だから実のところ既に問題のクソ野郎の居場所は割れている。」

「なに!あの堅物の『鳥籠』がか…よく動いてくれたな。」

「上からの指示があったみたいだぜ。向こうから協力を申し出てくれた。」

「『鳥籠』の上ったら…もしかしてハルト様あたりか?」

「それがどうやら…もっと上みたいだぜ。」

「なんだと!ハルト様の更に上ってことは…総大将様!?」


 などというやり取りをしている間に殴り合いに決着が付いたようで、最後まで立っていた戦士達が待機していた者達と合流し二十人前後の集団が出来上がった。


「無駄話はここまでじゃ。皆の者!我らが友の魂を取り戻しに行くぞ!」


 センスイさんが代表となり声を上げて一団は出発した。




 傭兵の国を出発した一団は、先行している薄く発光している鳥形の光を追いかながら凄い速さで駆け抜けていた。

 一団が追いかけている鳥形の光が進む先に親父のプレートがあるらしい。


「にしても…随分な大所帯になったもんだな。相手はどこぞのゴロツキ一人なんだろ?過剰戦力過ぎんか?」

「そう思うなら遠慮しとけばよかったんだよ。」

「馬鹿言うな!ダインさんピンチにじっとなんてしてられねぇ!」

「ここに集まってるバカは全員そう思ってるんだよ。俺も含めてな。」


 戦士達はもの凄い速さで移動しながらも、平然とそんな会話をしていた。

 一方で俺はというと、スレイさんの肩に抱きかかえられて移動していた。

 今まで体験したことがない速さでの移動だったので振り落とされないように必死にしがみつきながら、ボンヤリと「人ってこんなに速く走れる生物なんだ…」みたいなことを考えていた。

 やがで光る鳥が高く舞い上がると一定の範囲を示すようにして上空をグルグルと旋回する動きをし始めた。

 全員スピードを落としゆっくりと進むと、少し開けた場所で一人の男が焚き火をしていた。

 親父のプレートを使う為には本当の親父のことを誰も知らない土地に行く必要がある。

 だから魔王が討伐された影響で魔物の数が激減している今の内に別の街に移動しておきたかったのだろう。


「…いやがった。暢気に野営してやがる。」

「ボウズ、あの野郎で間違いないか?」


 焚き火に照らされた男の顔には親父のプレートを奪った時と同じ薄ら笑いが張り付いていた。

 俺が黙って深く頷くと戦士達は示し合わせたかのように一斉に音も無く移動し、あっという間に微塵の逃げ場も無い包囲網を完成させた。


「随分と上機嫌な様子じゃのぅ。何かいいことでもあったのか?」


 こらからの未来を想像しているのか終始にやけ面になっているゴロツキに対して一団を代表したセンスイさんとスレイさんが正面から姿を見せる。俺も二人の影に隠れるようにして付いて行く。


「ヒッ……アンタ達は何者だ?」


 ゴロツキはこんな場所で人と会うとは思っていなかったのかビックリした表情を浮かべ警戒心を露にする。


「ワシ等は傭兵の国の者じゃよ。最近この辺で魔王の侵攻があったのは知っておるじゃろ?」

「なっ…なんだ。お仲間か…こう見えて俺も昔傭兵の国にいたんだよ。名前は…」


 センスイさんは万が一誤解だった場合、大変なことになるので会話から入りゴロツキがボロを出すように誘導しようとしているようだったが、スレイさんはもはや確認する気すらないようだ。


「黙れ!こっちはお前のクソ下らない三文芝居に付き合う気はねぇーんだよ!いいか!よく聞け!そのプレートに刻まれた戦士の名前はな、自らの想いの為に命を賭けて最後まで闘い抜いた誇り高い戦士の名前だ!断じて!お前のような何者にもなれなかった半端者が気安く名乗っていい名前じゃねぇ!」

「なっ…なんだよいきなり…あっ…お前はあの時のガキ!ちっ…違うんだ!このプレートは本当に俺の物で、そのガキがお前達に噓を吹き込んでるんだよ!」


 センスイさんとスレイさんはゴロツキから見て明らかに格上の存在だ。

 争うことになれば確実に負ける。それがわかっているからか、俺が噓を付いていることにしてこの場をやり過ごす作戦のようだ。

 親父のプレートを取り出して必死に自分の物だとアピールし始めたが、実際に親父のプレートを目にした二人からは隠しようがない怒気がにじみ始めた。


「それは妙な話じゃのう。お主が持っているそのプレートは、ワシが持っておるこの半分のプレートとピッタリ形が合うように見える。ワシの記憶が正しければ、ワシにこのプレートの半分を託して傭兵の国を去った男はお主ではなかったはずじゃが?」


 怒気を含んだセンスイさんの言葉に、ゴロツキのよく回る三枚舌が止まる。

 言いくるめるのは不可能と判断したのか、今度は落ち着かない様子でキョロキョロとあっちこっちに視線を彷徨わせる。

 だが、このタイミングで包囲網を作っていた戦士達が一斉に姿を現し始めたことで自分が完全に囲まれていることを理解したようだ。


「わっ…わかった。このプレートは返す。だから見逃してくれ…頼む。」


 すぐさま親父のプレートを手放すと、そのまま流れるように土下座した。


「見逃してくれだと?俺達の魂とも言える物を弄んでおいて何言ってやがる。駄目に決まってんだろ。」

「待て、スレイ。ロアが見ておるぞ。目の前で殺る気か?」

「人の死なんてそこら中に転がってる。ここはそんな世界だ。今この場で目にするか、後日何かの拍子に目にするかの違いでしかないだろ。」

「だとしても、じゃ。覚悟の上で見るのと、見せられるのとではまるで意味が違う。」

「………はぁ。爺さんはちょっと高潔過ぎるぜ。」


 そう言いながらも納得したのかスレイさんから殺気が消えた。

 後は親父のプレートを回収して一件落着だと思い、俺は不用心にゴロツキが放り出したプレートを回収しようと近づいた。

 だが、ゴロツキはこの期に及んでもまだ諦めていなかったようで、突然襲いかかってくると俺を羽交い締めにして首元にナイフを押し当ててきた。


「ヒャッハッハ、形勢逆転だぜ。オメェ等がどんだけ強かろうと、こうなっちまえば俺がナイフでこのガキを殺す方が速ぇ。このガキの命が惜しかったら道を開けろ!」


 俺を人質に取ったことで活路を見いだしたゴロツキが勢いづく。

 しかし、戦士達は冷ややかな眼差しで誰一人焦った様子を見せなかった。


「やめておけ。そんなことをしたらワシ等も止まるわけにはいかんくなる。」

「うるせー!御託はいいからさっさと…」


 喋っている途中で突然ゴロツキの全身から力が抜けた。そしてそのまま後ろにバタリと倒れて動かなくなった。


「愚か者め……お主がナイフでロアを傷つけるよりも、ワシ等がお主を殺す方が速いに決まっておるじゃろう。」

「あーあ、せっかくの気遣いが台無しいになっちまった。でもまぁ、決定的な瞬間ってやつはギリ見てなさそうだしセーフってやつか?」


 その一言であのゴロツキがどうなったのか察した。

 こうして、終わってみればあっさりと親父のプレートは俺の手元に返ってきた。

二話でも収まりませんでした。

次で終わるはずです。

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