ロアの昔話ー1
俺の親父は昔、傭兵の国で闘う戦士だったらしい。
とある闘いで片腕を失い現役を退いたという話だが、親父は熟練した『闘氣』使いであった為、力場の操作により本物の腕のように義手を操っていた。
引退した後に親父が住み着いたのはとある国の辺境の開拓村で俺もその村で産まれた。
母親は身体が弱かったらしく俺を産んだ数日後に息を引き取ったそうだ。
だから物心ついた時からずっと親父との二人暮らしだった。
辺境のド田舎でまともな娯楽というものが存在しない世界だったこともあり、時折親父が語ってくれる傭兵の国で過ごしていた頃の冒険譚と仲間達との絆の話が大好きだった。
親父は村では最も頼りにされている存在で、村の近くに危険な魔物が出ても「任せとけ!」の一言と共に颯爽と狩りに出て必ず勝利して帰って来てくれた。
だから俺にとっては親父はヒーローで、憧れで、誇りだった。
そんな親父は年に何度か酒を飲む日があり、その日にはいつも大事に身につけている半分に割れたプレートを取出しそのプレートと乾杯して静かに杯を傾けていた。
その姿を見て、子供ながらにあのプレートが親父にとって大切な物なんだと感じたていた。
親父の背中を追いかけていればいつか必ず親父のようになれる。
そう信じて疑わず、無我夢中でその背中を追いかけて続けた日々はある日唐突に終わりを告げた。
魔王の侵攻が始まり、俺の生まれ育った村がその進軍経路に重なったのだ。
親父は村を、俺を護る為に志願として防衛軍に従軍し戦場に立った。
俺や村の皆は村から最寄りの防衛設備がきちんとした街に避難することが許され、その街で魔王が討伐されるまで保護されることとなった。
後で知ったのだが、この保護は親父が防衛軍に従軍することを条件に街が約束したものだったそうだ。
だから辺境の開拓村の住人とては破格の待遇で保護を受けられていた。
やがて魔王が討伐され侵攻は終わり、防衛戦で活躍した軍人や戦士達がぞくぞくと街の門を潜り華々しく凱旋してきた。
幼かった俺はその凱旋してくる戦士達の行列に当然のように親父がいると信じていた。
だが、帰ってきた戦士達の行列を隅から隅まで探しても親父はどこにもいなかった。
親父は……帰ってこなかった。
その日の晩、親父を探し続けて疲れ果てていた俺の元に防衛軍で隊長を勤めていたという人が訪ねてきた。
その目的は、親父がいつも大事そうに身に着けていたあのプレートを俺に届ることだった。
その人の口から親父の最後が語られた。
親父が従軍した防衛軍は最初こそ順調に魔物を討伐できていたが、数で攻めて来る魔物の軍勢に次第に劣勢となっていった。
前線の砦が墜ちると結界の効果範囲内に魔物が侵入しやすくなる。
そして結界の効果範囲内に魔物が集まると結界の効果はどんどん低下してしまい、より強い魔物が前線に出てくることになる。
少しづつ戦力を削られ、このままでは前線が瓦解するという瀬戸際に立たされた時、親父が立ち上がった。
「こうなったら大博打だ。次の波を押し返したら俺がこの波をコントロールしている魔将の首を殺りに行く!」
「危険すぎる!それにあんたが抜けたらその後の波に耐えられなくなる。」
「どっちみちこのままだと削り殺されるのを待つだけだ。状況を打開するには頭を潰す以外に道はねぇ。……万が一俺が戻らなかったらこのプレートを俺の息子に渡して欲しい。」
そう言い残して親父は単身で魔将の討伐に向かったそうだ。
そしてその後、魔物の軍勢は明らかに統率が取れていない動きとなり、防衛軍の犠牲者は最低限で済み多くの人達が生き残ることができたそうだ。
その話を聞いた俺は…ただ、泣きながら親父が遺したプレートを握り締めることしかできなかった。
結局その日は泣きながら気絶するようにして眠りについた。
翌日、目を覚ましてもうじうじしていた俺はある瞬間に突然天啓のような閃きをした。
あんなに強かった親父が魔物なんかに殺されているはずがない。きっと怪我をして動けないでいるから帰ってこれていないだけだ。
だって昨日、親父の死を伝えに来た隊長さんは親父の死体を見たとは言わなかった。
防衛軍はみんな満身創痍だったからきっと親父がどうなったかを確認せずに帰って来たんだ。そうに決まってる。
なら早く俺が助けに行かなくちゃいけない。
そんな考えに支配された俺は誰彼構わず親父が残したプレートを見せて回って親父がどこに居るのか聞いて回った。
それがダメだった。
当時の俺は知らなかったのだ。親父が遺した半分に欠けた金色のプレートの価値を。
傭兵の国を抜けた戦士なんて者はどこに行っても優遇される。そんな者に成り代われるプレートは上手く使えば自分の人生に負けたヤツ等が一発逆転できる垂涎の品だということを。
そんな物を無力な子供が無警戒に見せびらかしているのだ。目を付けられないはずか無かった。
親父のことを見たと語る街のゴロツキにあっさりと騙された俺は街の外の森に誘導されて簡単に親父のプレートを奪われてしまった。
「俺のことを騙したのか!返せよさ!おれは父ちゃんの大切な物なんだ!」
「その父ちゃんってヤツは死んじまって、もういねーんだろ?」
「そんなこと無い!怪我をして何処かで動けなくなっているだけで、きっとどこかで生きてる!」
「馬鹿かお前は!人が動けない程の重傷を負って何日も生きてられるわけないだろ。もしお前が言うように生き残ってたとしても、それから数日はたった今頃はとっくにくたばってるだろうよ!」
「そんな……」
「だからこれは、俺が今後有効活用してやる。あばよ!」
ゴロツキは俺を置いて森の陰に消えてしまった。
俺は必死になって追いかけたが当時の俺は所詮ただの子供ですぐに見失ってしまった。
勘を頼りに森の中を歩き回り、とうとう帰り道が分からなくなってしまった。
疲れ果てて途方に暮れながら歩いていると森の木々が少しだけ途切れた場所で視界一杯に広がる巨大な何かを見つけた。
俺はすぐにそれが、いつか親父から聞いた傭兵の国での日々の話の中に登場した巨大な亀であることに気が付いた。
親父の昔の仲間達なら親父のプレートを取り返すのに手を貸してくれるかもしれない。
そう考えるた俺は傭兵の国に向かって走り出した。
近くに見えてる思っていた巨大な亀は俺が思っている以上に大きく、俺が傭兵の国にたどり着いたのは日が沈む直前だった。
傭兵の国の戦士達は魔王を討伐した後であったこともあり、大規模な宴の真っ最中だった。
口々に互いの健闘を称え合っては酒を酌み交わし、大量に用意された料理を思い思いに食す集まりが幾つも有り、場所によっては殴り合いの喧嘩をしている者達まで居た。
その喧騒に一瞬気後れしそうになったが、親父のプレートを取り返す最後のチャンスだと思い直し、勇気を振り絞って近くの集団に飛び込み力の限りの大声で訴えた。
「助けて下さい!」
「うおっ!どうしたんだボウズ?お前も混ざりたいのか?一杯ぐらい奢ってやりたいところだが……もうちょっと大きくなってからにした方がいいな。」
「オイオイ、酔っ払ってないでまともに話を聞いてやれよ。なんか頼みがありそうな雰囲気だぞ。で、どうしたんだ?ボウズ。」
「父ちゃんのプレートが悪いやつに取られたんだ!」
俺のこの一言を聞いた戦士達は一様に酒や飯を食う手をピタリと止めた。
「…ボウズ。一応確認するがそのプレートってのは俺達が持ってるようなコレの事でいいんだよな?」
「うん!父ちゃんは昔、ここで…傭兵の国で闘っていた戦士だったんだ!」
「何があったのか詳しく話してくれ。」
この頃には先程まで酒に酔った様子だったはずの戦士達は皆酔いから覚めている様子だった。
後で俺自身も習得した技術だが『獣氣活性』により臓器の働きを強化し高速でアルコールを分解していたのだ。
俺から一通りの話を聞いた戦士達は皆一様に怒髪天をつく勢いで怒っていた。
「随分とナメた事をしでかしてくれたシャバ僧が居るみたいだな!」
「せっかく気持ちよく酔ってたのに台無しだ!これは、落とし前を付けさせてもらわんといかんな。」
口々に物騒な言葉を発しながらヤル気に満ち溢れ始めた戦士達だったが、その中の一人が一石を投じた。
「お前ら一旦落ち着けよ。まだ一番大事な事を聞いてないだろ?お前の親父さん、なんて名前なんだ?」
「父ちゃんは村の皆からダインさんって呼ばれてた。」
「ダインか…誰か知ってるか?」
「いや…そういう名前のヤツは結構いるからな。それだけじゃ特定できん。結構昔に抜けた人ならなおさらだ。」
口々に親父についての情報交換を始めた戦士達だったが、最初に俺が話しかけた戦士が突然、今日一番の怒りと共に立ち上がった。
「ダインだとっ!その人はもしかして右腕が肘の辺りから無くなっていて、左の頬に傷がある大男じゃないのか!?」
「っ…そうだよ。」
あまりの剣幕にすくみ上がってしまったがなんとかそう答えると、立ち上がった戦士は自分の得物の状態を素早く確認すると黙って何処かに行こうとした。
「おい!待てよ。そのダインって人を知ってるのか?」
「知ってるなんてものじゃない!『断頭盾』のダイン!恩人だ!あの人は俺がまだ跳ねっ返りだった頃にウッカリ引き際を見誤って魔物に囲まれて死にかけた時に、単身で俺の隣りまで敵陣を切り裂いて来てくれて、その後は最後まで俺の背中を護って闘ってくれた人だ!」
それと同じような話を俺も以前親父から聞いたことがあった。
引き際を見誤った若者が魔物の群れに囲まれて絶体絶命のピンチに陥った時に助けに行った話だ。
助けに行けば十中八九自分も一緒に囲まれることになるが、父ちゃんは気づいたら魔物の群れの中に飛び込んでいたそうだ。
その時、どうしてそんな事をしたのかと聞くと父ちゃんは「さて、どうだったかな?あのスレイっていう若造が魔物に囲まれて絶体絶命なのにこんな所で死んでたまるか!って感じのいい目をしてたから死なせるには惜しいなって思っちまった…みたいな感じだった気がする。」と語ってくれた。
また、この話には続きがあってその若者が一人前になった後も事あるごとにこの話をこすり続け、「もう勘弁してくれ」と言われたので「俺がピンチになった時に助けに来てくれたらチャラいしてやるよ」と返したら後日親父がピンチに陥った時に本当に助けに来てくれた、という事があったらしい。
俺は親父が語ってくれる傭兵の国時代の話が大好きだったので語ってくれたエピソードは登場人物の名前も含めて詳細に記憶していた。
この話の登場人物で親父に助けられた人物は確かスレイという名前だったはずだ。
「おじさんはもしかして…スレイさん?」
「ボウズ、なんで俺の名前を知ってるんだ?」
「父ちゃんが話してくれたんだ。昔、そんな名前のルーキーを助けたらそいつが強くなって今度は逆に助けられたことがあるって。」
「そうか…」
「父ちゃんはこの話を俺にしてくれた時、なんか嬉しそうだったからよく覚えてるんだ。」
「…ダインさん…」
俺とスレイさんがそんなやり取りをしている隣で『断頭盾』というキーワードが出たことで急速に特定が進んでいた。
「『断頭盾』…思い出したぞ!かなり面倒見がいい人だった覚えがあるから助けられた人も多いんじゃないか?」
「そうなるとプレートを奪い返しに行くメンバーの立候補者も膨れ上がるぞ。…そういえば抜けたってことは誰かが半身を持っているんじゃないか?」
「確か…『断頭盾』はセンスイ殿が半身を受け取っていたはずだ。おいスレイ、このことで動くつもりならちゃんとセンスイ殿には筋を通さないと後で何を言われるかわからないぞ。」
「…それもそうか。そういえば魔王との決戦後にあの人を見てねぇな。誰か何処に居るか知ってるか?」
「センスイ殿なら先の闘いで魔将と派手にやり合い勝ちはしたものの負傷して治療を受けていたはずだ。」
「あの爺さんが負傷とかどんな化け物とやり合ったんだよ!まあいい。俺はボウズを連れてセンスイ爺さんに合ってくる。戻ったらすぐに出発したいから、お前等は一緒に行きたいってヤツ等を適当に選抜しといてくれ。ってことでボウズ、悪いけどちょっと付き合ってくれ。」
こうして俺はスレイさんに連れられてその後の俺の人生に大きな影響を与える人物に会いに行くことになった。
過去編は一話で終わらそうとおもってたが、書きたい場面が多かったたので収まらなかった。




