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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
ロア編
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野営

【星零獣】の縄張りに星鈴花を取りに行く俺達の旅は今のところ順調の一言だった。

 まず最初の街を出るまでの準備段階ではクリスが俺に同行することが確定した時点で、デミスさんが始めから必要になりそうな物をあらかじめ準備していてそれを取ってきたぐらいの早さで俺とクリスの装備を整えてくれた。

 …というかデミスさんのことだから実際にこうなることを見越してあらかじめ準備しておいたのだろう。

 何はともあれ、必要な物が揃った俺達は早速街を出ることにしたのだが、驚くべきことに街を出る手続もスムーズの一言だった。

 通常、魔王の侵攻が迫っている地域では防衛の為の戦力確保の目的で色々と理由を付けて街の外へ出ていくのを引き留められることが殆どだ。

 俺のような傭兵の国に所属している者は総大将様が各国に話を付けてくれたおかげで強引に引き留められた場合はこちらもそれなりの手段に出ることができるが、クリスはまだ傭兵の国の者ではないのでこの限りではない。

 そのため、街を出るまでに一悶着あるだろうと半ば覚悟していたのだが、いざ門番のところまで行くと「話は聞いている。通ってよし。」の一言だけで簡単に外に出れてしまった。

 おそらくこうなったのも、デミスさんがあらかじめ話を付けておいた結果なのだろう。

 次に街の外に出てからの移動だが、こちらは協力的になったクリスが大活躍してくれた。

 魔王侵攻によりこの辺一帯は魔物と遭遇する可能は極めて低くなっている。

 そのためこの状況だと索敵は最低限でよくなりその分のリソースを移動に使うことができる。

 だから二日もあれば【星零獣】の縄張りにたどり着ける目算だったが、いい意味でクリスが俺の計算を覆してきれた。


「まずは進むべき方角を確認したい。ところでお前って地図は読めるよな?」

「ナメんな。それぐらいの教養はある。見てくるからちょっと地図を貸してみろ。」


 クリスはそう言うと俺から地図を奪い取りふわりと浮き上がった。

 あの地図はデミスさんが事前に準備してくれていた地図に俺が目的地をメモした物なのだが、目印になりそうな特徴的な物が書いてある簡略化された地図ではなく、きちんと測量された情報を基に書かれた本格的な地図だ。

 ちゃんとした知識がないとまともに使いこなせない物なのだが俺の懸念は考えすぎだったようだ。


「大体把握した。掴まれ、チマチマ地上を走るよりこっちの方が絶対速い。」


 クリスはそう言うと俺の手を取り再びふわりと浮き上がり俺を連れて飛行し始めた。

 こうして俺は人生初の飛行を行ったわけだがその感覚は不思議なものだった。

 感覚的にはまるでクリスの手を取った瞬間にまるで重力が消失したかのように身体から重さが消えたよに感じた。

 そしてそのまま目的地である【星零獣】の縄張りに向かって進み始めたのだが、移動速度が思いの外速くおまけに空中には障害物という物が存在しない。

 正直ちょっと悔しいが、俺が全力で走ったとしてもここまでのスピードは出せないだろう。


「結構スピードが出せるんだな。これが最高速度か?」

「ん?何か言ったか?すまんがほとんど聞こえないぞ。」


 クリスが最大でどれぐらいの速さで飛べるのか聞こうと思ったのだが、どうやら俺の声は風の音でかき消されて聞こえていないようだ。

 俺は索敵のために『獣氣活性』で聴覚を強化しているのでクリスの返事は聞こえているのだが、こちらの言葉が聞こえてないなら会話はできないだろう。


「何でもない!飛ぶことに集中しろ!」

「だから何言ってんのか全然聞こえないって!」


 少し声のボリュームを上げてみたがやはり聞こえないようだ。

 仕方が無いので手を降ってジェスチャーで気にするなと伝えてると今度は何故か通じたようだった。

 そのような形で暫くは空の旅という稀有な経験をしていたのだが、数時間進んだところでクリスが減速し始め最終的には地上に降りてしまった。


「どうかしたか?」

「ちいっと疲れた、交代してくれ。」


 そう言うとクリスは俺が背負っている荷物の上に飛び乗り腰を下ろした。

 こうして、ここから先は俺がクリスを運ぶ番になったがここでもクリスは地味に活躍してくれた。

 背負っている荷物から重さが消えたのだ。

 どういう原理かはサッパリわからないが、おそらくクリスには自分を含めた触れている物を軽くする力があるのだろう。

 この仮説が正しいならクリスの飛行能力は、飛ぶというより浮くという方が正しいのかもしれない。


「目的地の方角に光球を固定しておいた。光球の方角に向かって進めば大きく進路がズレることはないはずだ。」


 試しにその場で反転してみると光球は動かずにその場に留まったままになったので、この光球はクリスとの位置関係を一定に保ち続けて浮遊しているようだ。

 これならイチイチ方角を確認する手間が省ける。


「ってことでオレはちょっと昼寝するから、後はよろしく〜。」


 クリスは早速、器用に俺が背負っている荷物の上で寝始めた。

 荷馬のように扱われて癪だが、ここまでの活躍をされては文句も言えない。


「振り落とされんじゃねぇぞ!」


 一方的に有能さを見せつけられてちょっと悔しいので、俺も機動力ではそんなに遅れを取っていないと証明すべくバテ上がらない程度に体力調整しながら走り出した。




 結局その後、俺とクリスはお互いを運び合う移動法を交互に繰り返しながら日が落ちるまで進んだ。

 そのかいあって今日一日で当初予定していたよりもかなり先まで進むことができた。

 やはり魔王の侵攻が始まる前というのが大きかったようで、道中で魔物や野生動物と遭遇することは一度も無かった。


「今日はもう進まないのか?オレの光球は光り方を強くも出来るから空を移動すればもう少し進むこともできるぞ。」

「いや、今日一日で予定の倍以上を進むことができた。もう少しで目的地の【星零獣】の縄張りが見えてくるから今日はここまでにしよう。野営の準備は完全に日が落ちる前に済ませておくが鉄則だし、ここから先は下手に視界が悪い中を進むと【星零獣】に出くわす可能性もある。」

「【星零獣】は基本的に自分の縄張りを出ないって聞いているけど?」

「それは通常時の話だ。魔王の侵攻が始まろうとしている今は普段と違う行動をしていてもおかしくない。」

「なるほど、そんならとっとと寝床の準備だな。」


 俺の説明に納得したクリスも野営の準備を始める。


「これをこうして…いや、こっちの部品じゃないのか?だったら…こっちを…」


 手早くテントを組み立てた俺と違い、クリスは明らかに慣れていない手つきで四苦八苦しながらテントを組み立てようとしている。

 クリスのテントはデミスさんが用意してくれた物なので使い慣れていない物ではあるはずだが、その事を差っ引いても手際が悪い。

(改めて考えてみてもクリスは謎が多いな。地図を読んだりできる教養はあるのに、一般常識に欠けているようにも見える。さらに言えば街の外にいたのに明らかに旅慣れしていない。まるで旅をするために知識だけはつけていたが実際にはやったことが無いみたいなチグハグさだ。)


「おい!組み立て終わってるならオレのを手伝ってくれよ!」

「ああ、悪い。少し考え事をしていた。」


 クリスから手伝いを依頼されたので考えるのは後にして俺も組み立てに参加する。

 二人がかりで組み立て始めたこともあり、テントはすぐに組み上がった。

 次に晩飯の準備だが、これに関してはデミスさんが準備してくれた荷物の中に弁当が含まれているので、今日のところは狩りや採取で現地調達する必要が無い。

 さらに、デミスさんが用意してくれた荷物の中には固形燃料もあったので薪を拾いに行く必要すらなかった。

 というわけで、これで野営の準備は完了したので二人で火を囲みながらの晩飯となった。

 せっかく同じ火を囲んで飯を食っているのだから、話しかけて色々と聞こうと思っていたがクリスが先手を打って話しかてきた。


「チックから傭兵の国ってとこの概要は聞いたけどさ、具体的にはどんな所なんだ?」

「どんな所って聞かれてもな…結界の中で引き籠もって暮らすのが性に合わなかったヤツ等が集まって出来た集団が大きなって、そこに国元で居場所が無いがヤツ等がくっついてきて規模が更に大きくなった。…みたいな?」

「オレが聞きたいのはそういう成り立ちみたいな話じゃなくてだな……なら、面白いヤツとかはいるか?皆お前みたいな堅物じゃないよな?」

「おい待て、俺は別に堅物ではないぞ。…その目は信じて無いな。…まぁ、いいか。面白いヤツの話か…傭兵の国には色々な理由で集まった多種多様なヤツがいるからな。お前の面白さのツボがどんなのかは知らんが、誰かしらがお前の琴線に触れるとは思うぞ。」

「そうか、まぁ行ってみてのお楽しみってことか。…ちなみにお前が出会った中でなら、面白かったヤツはどんなヤツがいるんだ?」

「う〜ん…そうだな…『肉体火』って通り名を持っている上級戦士の人がいるんだが、その人は身体を鍛えるのが趣味でな。その上である意味でナルシストな人でもあるから、それが行き過ぎて各筋肉の部位に気に入った女性の名前を勝手に付けて、たった一人でハーレムを創ろうとしているちょっと頭がオカシイ人なんだよ。それでこの前…」

「ちょっと待て…面白いを通り過ぎてもはやちょっとしたホラー話だろ、それ。正直、ちょっと引いたわ。もうちょっとマイルドなの無いのか?」


 俺的にはかなり面白い人だと思っていたがクリスの琴線には触れなかったようだ。

(外したか…確かにこれから話そう思っていたあの人のエピソードは、スクワットしながら「あぁ…キャサリン、レイチェル二人がとても喜んでいるのを感じるよ。アニー達も嫉妬は良くない。スクワットが三セット終わったら次は君たちと語らう番だからそれまで待っていてくれ。」って言ってたのを目撃した時の話だかた若干ホラー話って言われても否定できないな。)

 初手で持ってくるにはキャラが濃ゆすぎたかもしれない。

 反省して今度はもっと身近にいる人の話をすることにした。


「そうだな…それなら、俺の同僚にガシュテムってヤツがいるんだが、そいつは真性のシスコンでな。身体が弱かった妹の面倒を見る為に傭兵の国で戦士になって稼ごうとしたんだよ。だが皮肉なことに戦士としての才能があったのはむしろ妹の方でな、身体が弱かったのも鍛えることで克服してしまって今では妹の方が数段強くなってしまっている。それでも自分は兄貴だからって強くなることを諦めない好感が持てるヤツなんだが、この前とうとう妹さんが彼氏を連れてきてたみたいでな。その連れて来た彼氏ってのが『雷獣』って通り名で呼ばれ始めてる若い癖にもう少しで上級戦士に上がれそうなエリートだったんだが、なのにアイツは何をトチ狂ったのか「妹と付き合いたいなら俺を倒して見せろ!」って啖呵を切っちまったんだ。で、まぁ…模擬戦することになったんだけど普通に五秒位でノされて、目を覚ました後にアイツ男泣きしながら「俺はお兄ちゃんなんだぞ~」って言いながらどこかへ走り去って行ったんだ。あれは流石に申し訳ないが笑っちまった。」

「おっ、そういう日常の話を聞きたかったんだよ。……それにしても…兄弟の面倒見るために単身で危険な世界に飛び込んでいく…か。オレにはわからん感覚だな。」

「別にわからなくてもいいんじゃないか?何の為に闘うのかなんて人それぞれだ。闘い始めるきっかけも、闘い続ける理由も戦士の数だけあるものだろう。」

「まぁ、それもそうだな。…そういえばちなみに、お前って何で傭兵の国って所にいくことにしたんだ?」

「そんなに面白い話じゃねぇぞ。」

「いいさ。時間は有るし、これかつるんでいくお前のことを知っておきたいって思ったんだよ。」

「まぁ、隠すような話でもないか……あれは、そう。俺がまだガキだった頃の話だ……」

ちなみに、キャサリンが右の大腿四頭筋でレイチェルが左の大腿四頭筋らしいです。

次回はちょっとしたロアの過去話です。

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