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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
ロア編
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星鈴花採集依頼

 少し高級感がある調度品が揃っている見慣れない部屋で目をさました。


「あ~………ここって…どこだっけ?」


 寝起きのせいでイマイチ回らないぼんやりとした頭で自分がどこに居るのかを想い出そうとする。

 身体の内部に獣氣を巡らせて調子を整えると思考にかかっていたモヤモヤが晴れていき昨日のラットを倒した後の顛末のことを思い出した。

 結局、あの後は結構な騒ぎになってしまい色々と大変な目にあうことになってしまった。

 なにしろ、魔王の侵攻の予兆を感じ取り殺気立ち始めた矢先に街中で起こった事件だ。

 街に常駐している騎士団が大挙して押し寄せて来ることはわかりきっていた。

 チックの案内でスラムの住人しか知らないようなルートを通り早々にトンズラすることにした俺達だったが、事件現場から離れられたとしても街の住人ではない俺達はどこに行っても目立ってしまう。

 このままでは騎士団に捕捉されるのも時間の問題かと思っていたが、デミスさんが騎士団よりも先んじ動き俺達を匿ってくれたことで難を逃れられたのだ。

 そして更に事態の収束に向けて情報を流してくれたりして色々と便宜を計ってくれた。

 加えて、アジトでの戦闘に巻き込まれないように逃げ隠れていたチックがしれっとアジト内を漁っていてくれたおかげで、バイヤーとかいう商人が裏でやっていた悪事の証拠を掴むことができたので、今回の事件はデミスさんがバイヤーの悪事の証拠を掴む為に俺に依頼して起こった騒ぎということになった。

 デミスさんはこの街ではそれなりの立場がある商人だったらしく、前々からバイヤーの件には何かしらの決着をつけることを迫られていたらしい。

 だが、どうにかしようにもこの街で集められる戦力には限界があるため強硬手段はとりずらい。

 騎士団は確証がなければ動けないので頼りにならず、さらに悪いことに娘さんが病にかかりそれどころかではなくなってしまった。

 そんな状況で俺という戦力がふらっと現れて、おまけに喉から手が出る程欲しかった星鈴花まで持っていたわけだ。

(やっぱり商人っていう人種は油断ならねぇ相手だな。デミスさんも人が良いように見えたが最大限自分に利益が出るように俺を上手く誘導してたってことだしな。結果的に俺は商人達の裏での権力闘争に上手く使われてしまったわけだが面倒ごとから助けられたのは事実。)

 そんな風に昨日の顛末について回想していると部屋の外に人の気配が近づいてきた。

 気配を隠しているような感じは無いし微かに聞こえてきている足音も素人っぽい歩き方だ。

 とりあえず刺客の類いが来たわけじゃなさそうだし、デミスさんが用意した部屋なので大方使用人が朝食の準備が整ったと告げに来たのだろう。

 その予想は当たっていたようで訪問者は部屋の前で立ち止まるとドアをコンコンとノックして話しかけてきた。


「御客様、起きていらっしゃいますか?朝食の準備が整いましたのでお知らせに参りました。もし体調が優れないようでしたらお部屋までお食事をお持ちすることもできます。」

「大丈夫だ、起きている。丁度腹が減っていたところだから食堂まで案内してくれ。」


 昨日の件でデミスさんには借りができてしまっている。

 借りをそのままにしておくのは俺の主義じゃないので、朝食のついでに借りの返し方についての話をしておきたいところだ。




 使用人に案内されて食堂に到着するとそこには既にクリスとチックの姿があった。

 クリスの方は遠慮など欠片も無いような様子で飯をがっついているが、意外なことにチックの方は服を汚さないように慎重に食事している様子だった。

 俺達三人は今まで着ていた服を洗濯してくれるということになったので、昨日の内にデミスさんから貸与された服に着替えている。

 俺とクリスは普通よりもやや上等位の服を貸与せれているのだが、チックはそれよりも明らかに上等なワンピースを着ていた。

 そのせいでいつものように飯をがっつくことができないのだろう。


「お前等も来ていたか。それにしてもチック、お前随分と小奇麗になったな。」

「…なんだよ、オイラが綺麗な服着てたらおかしいのか?」

「別におかしくはねぇよ。お前の身の回りの環境を考えたら服装に気を使ってる暇なんて無いだろうし、わざと男みたいな口調で性別を悟らせないようにしてるのも察してるから珍しいものが見れたって思っただけだ。」


 昨日までは食事中に話しかけてもまともな返事が返ってこたなかったが、今日はいつものようにがっついていないので普通に返事が返ってきた。

 今まで特に言及する必要が無かったので気にもしてなかったがチックの性別は女の子だ。

 そのことは栄養状態が悪くて痩せ過ぎな体型で筋肉もろくについていないからわかりづらいが、重心とか歩き方を見ると一目瞭然だった。

 闘いの中に身を置くことで相手の重心や姿勢を観察して先の動きを予想する癖がついので、自然と見ただけでそのあたりのことがわかるようになった。


「チックは素材が良いから将来は美人になりそうだよな。こうなる為にも今の内からしっかりと飯食ってた方がいいぞ。」


 飯をがっつくのが一段落したのかクリスも会話に加わってきた。

 ちなみにクリスがラット達のアジトにいた経緯はバイヤーの悪事の証拠を精査する過程での聞き取りで判明している。

 俺との戦闘の後クリスはその日の内、門が閉まる直前ぐらいにこの街に到着したらしい。

 そこでクリスは奪ったプレートを身分証代わりとして自信満々に門番に見せたわけだが、クリスがプレートを見せた門番はバイヤーが予め緊急事態が発生した時に備えてクリスのプレートを持っている者が来た時に自分に知らせるように買収していた門番だったようだ。

 外で山賊まがいの事をさせているクリスのことを知られたくないバイヤーは連絡を受けて迅速に動き、誰にも知られないように極秘裏にあのアジトにクリスを連れていき匿った。

 この時、アジトに連れて来た時点でクリスが本物のクリスを殺してクリスを名乗っているだけの偽物であることも判明しているが、一触即発の空気をラット達の雇い主であるバイヤーが偽クリスを自分達の仲間に引き入れると主張しラット達が矛を納めるしかなくなった。

 クリスもここ数日間はまともな食事と寝床にありつけていなかったらしく、バイヤー一味を利用するような形で腹一杯食べて丸一日ほど爆睡して過ごしたようだ。

 そしてたっぷりと休息を取った後に外に出たいと訴えたが、当然のように却下されて逃げ出す機会をうかがっていた所に俺がカチ込んだ。

 その騒ぎに乗じて逃げ出そうとしたところで拉致されたチックと出会いどういう経緯かはわからないが、チックから傭兵の国について聞き自分も傭兵の国に所属したいと考えて俺との共闘を申し出て今に至るらしい。

 基本的に傭兵の国は去る者は追わず来る者は拒まずを信条としている組織なので、傭兵の国に来たい思っているなら勝手に行けばいいだけの話だ。

 プレートを悪用することなく素直に返した以上俺がクリスに対して敵意を持つ理由もない。

(クリスは得体の知れない奴だが傭兵の国にはそんな奴は山程いる。むしろ身元がハッキリしているような奴の方が少ないぐらいだ。だから、そこは良いとして…こいつが男なのか女なのかイマイチわからんのはちょっと気にかかるな。)

 クリスは骨盤の形は女性に近いのだがそれ以外の要素、例えば筋肉の付き方などが明らかに女性にしては変なのだ。

 歩き方も男でも女でもないような不思議な歩き方をしている。これに関してはおそらくクリスは常時少しだけ浮いていて重心が変なところにあるためだと思われるが、いずれにしろ男女を判別する要素としてはあてにならない。

 性別なんて見ればわかると思っていたがクリスという例外が現れたので気になってしまっている。

 クリスは俺に同行して傭兵の国に行くつもりのようなのでいつか聞く機会もくるだろう。

 そんなことを考えながら俺も朝食を食べていると、食事が一段落した頃にデミスさんが食堂に現れた。


「みなさん、おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」

「デミスさん、すっかり世話になってしまったな。借りができたら早めに返す主義だから早々に何かしら形で借りを返してしまいたいところなんだが、借りを返す方法は娘さんに星鈴花の花束をプレゼントするってかたちで良いか?」

「借りだなんてとんでもない。貴方の行動で私もしっかりと利益を得ていますからそんなに気負わないでください。」

「デミスさんがどう思っていようが、俺が借りができたと思った時点で俺にとってはそれが事実だ。それに、星鈴花は早めに取りに行った方がいいかもしれない。なにせ魔王の侵攻が始まろうとしているからな。」

「【星零獣】と魔王は敵対関係にあると聞いたことがあります。もしそれが事実なら【星零獣】はいつもよりも興奮状態にあるのでは?今縄張りに入るのはリスクが高いと思いますが…」

「急がなきゃならない理由はまさにそれだ。魔王は侵攻の際に近くに【星零獣】がいる場合戦力の一部を差し向けて足止めを試みる場合がある。そうなった時に戦場が【星零獣】の縄張り内だったら侵攻が終わった後に星鈴花が残っている保証は無い。加えて、確かに興奮状態にある可能性は高いが【星零獣】は魔王を第一の攻撃目標に定めているはずだ。だから魔王の動きに注意を払っている可能性が高い。上手く立ち回れば戦闘を避けられるチャンスでもある。」

「…なるほど、その可能性は考えていませんでした。であるならば、私が門番に話を通しておきます。だから準備が済み次第ロアさんのタイミングで出発していただいて構いません。娘をよろしくお願いいたします。」

「というわけだ。これはお前が作った借りでもあるんだから一緒に来い。」


 この後の動きが決まったのでクリスも巻き込んでおくことにする。

 クリスが吹き飛ばしてしまった建物の天井の修繕費はデミスさんが負担してくれているのだ。

 だからクリスはデミスさんに負債を肩代わりしてもらっている状態なので、その分は何かしらの働きをしてデミスさんに返すのが筋だ。

 それに、クリスは空が飛べるので空中から現在や目的地を確認できるので同行させれば最短距離で迷わずに目的まで行ける。


「えーーーやだよ。ようやく自由に外を歩き回れるようになったんだから、オレはこの後は街の中をぶらつく予定なんだけど。」

「そういうのはちゃんとやるべき事をこなした後だ。それにグダグダしてたな街の門が閉まるぞ。そうなれば暫くは街から出られなくなる。」

「また閉じ込められるのか…それは勘弁だが……ならお前先に出発してていいぞ。オレは今日一日この街を楽しんだ後に追いかける。オレの方が移動が速いからそれでも追いつけるはずだ。」


 微妙に実現できそうな折衷案を出してきやがった。

 確かにクリスの移動方法ならやり方次第で明日出発したとしても俺に追いつくことも可能だろう。

 だがそのやり方だと目的地までの到着が遅れるし、なにより方角やルートの確認といった雑事が増えるだけで俺にメリットが全くない。

 どうにか説得したいところだが、クリスはけっこう頑固そうだから簡単に街の散策を諦めたりはしないだろう。

 だから別の方向に興味を向けさせて釣り出す。


「そうか…星鈴花を採取し終わったら一度傭兵の国に寄ろうかと思っていたんだが、採取に時間がかかるならやめておくか。」

「なに!傭兵の国に行くのか!」

「最初はそのつもりだった。魔王の侵攻状況とか色々と情報があるだろうから余裕があれば寄って行った方がいいだろうし。その時ついでにお前のことを傭兵の国に登録する手続をしようと思っていたが、採取に時間がかかり過ぎるなら後回しだな。」

「オイオイ、それなら話は変わってくるだろ!さっさと行こうぜ!」


 予想通り食いついて来た。

 先程からとは一転して俺を急かし始めたクリスを宥めて装備の確認等の準備を済ませる。

 こうして俺とクリスは星鈴花を求めて【星零獣】の縄張りに向かうこととなった。

ちなみにチックが着ていた上等な品質のワンピースはデミスの娘のお古です。

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