昨日の敵は今日の友?
クリスの参戦により良くも悪くも戦況は一変することになった。
三つ巴の闘いになったことでお互いに牽制し合い闘いは膠着状態になっている。
この状況では誰が誰を攻撃するかによって均衡が一気に崩れることになるが、実ところ俺にはラットと闘う理由が無い。
ラットが傭兵の国の看板に泥を塗るような行為をしているなら話は別だが、今のところそういう事実は確認されていない。
よって俺が狙うのはクリスになるが、問題はラットとクリスがどう動くかだ。
クリスは以前闘った時と同じように三つの光球を周囲に浮かべており、今のところどちらに対して攻撃してくるかはわからない。
一方でラットの方はというと怒りに満ちた目でクリスの方を見ており、体の向きもクリスの方を向いているのでおそらくクリスを狙っていると思われる。
ラットの攻撃は予備動作も大きく攻撃速度も傭兵の国基準だとそんなに早い方じゃない。
だから先にラットにクリスを攻撃させ、クリスがその攻撃を回避したところを俺が叩く流れが俺としては理想的だ。
だが、そんな俺の算段とは裏腹に先にクリスが動いた。
浮かべていた光球の一つからラットに向かって光線を発射する。
ラットはこの光線を自慢の防衛力を高めた腕で受けるが、光線を受けている途中で防衛姿勢を止めて回避に転じた。
転がるようにして緊急回避に転じたラットが光球を受け止めていた腕には火傷の後が残っていた。
どうやらクリスの光線はラットの防衛に対して有効らしい。
「おっ!効いたみたいだな。お前この前自慢げに防御力がどうのって語ってたけど大したことないな。」
「てめぇ!調子に乗るなよ!これぐらい屁でもねぇし、すぐ直せんだよ!」
その言葉を証明するようにラットは『獣氣活性』で自己治癒能力を高めて腕の火傷を癒していく。
クリスの攻撃がラットにダメージを与えられたのは、クリスの攻撃方法である光線が一種の連続攻撃だからだろう。
同じ場所に継続的に攻撃がヒットするクリスの光線は少しずつラットの防御を削っていき、最終的に防御を貫通できるようだ。
何はともあれ、クリスの挑発でラットの攻撃対象が完全にラットに固定された。
自分の攻撃が通用すると確信したクリスは残していた二つの光球から光線を同時に発射し、ラットに攻撃を開始したのでこの動きに乗じて俺の方も動くことにする。
今のクリスはあの攻撃用の光球を使い果たしているので俺の動きを妨害することはできないはずだ。
一気に距離を詰めた俺は盾での打撃でクリスに攻撃を仕掛けるが、意外なことにクリスは俺の打撃を手のひらで正面から受け止めた。
近接戦闘は苦手だと思っていたが、攻撃を受け止められた感触からしてクリスは見た目以上に筋力があるようだ。
「まあ、ちょっと落ち着けよ。提案なんだが、協力してあいつ倒さねぇか?」
「……悪いが俺が用があるのはお前一人だけだ。」
「プレートを返せばいいんだろ?あいつを倒した後に返すから~。」
「それを信用しろと?」
「嫌ならせめて邪魔しないでくれ。強めの一発であいつをブチ抜くから。」
思いもしなかった提案だが乗る理由が無い。そう思っていたが続くクリスの言葉で状況が変わった。
強めの一発というのはおそらく崖の洞窟の天井をブチ抜いたあの攻撃のことだろう。
そうであるならクリスは街中であの光線をぶっ放すつもりということだ。
洞窟の天井をプチ抜くような一発だ。確かにあの威力ならラットの防御も貫通できそうだが、ラットの体を貫通した後にはこの建物の壁も易々と貫通するだろう。
そして貫通した先にある建物や人もその勢いのまま一緒にブチ抜くことになる。
「待て…わかった。協力する。むしろラットは俺が倒すからその攻撃は撃つな。お前は周りの雑魚の相手でもしてろ。」
ラットの他にもゴロツキ共が数人いる。
大した相手ではないが戦闘中にちょっかいを出されたら面倒だ。
「えー、オレが雑魚の相手かよ。どうせなら歯応えがある方とやりたかったんだけどなー。」
クリスはぶつくさと文句を垂れていたが最終的には納得して、再び周囲に光球を出現させてゴロツキ共への攻撃を開始する。
俺がクリスの側に付いてことでラットは二対一の戦いを強いられる展開になったわけだが、これによりこの戦力差ではこの先の戦闘は一方的なものになるだろう。
ラットもそのことはよくわかっているようで、慌てて俺に交渉を持ち掛けてくる。
「待て!クリスの偽物じゃなくて俺に付かないか?そうしてくれるなら今回のカチ込みの件もガキの件もなにもかも水に流す。」
こちらの提案も俺にとっては悪くない話だ。
今ラットと闘っているのは成り行きでしかなく、本来は俺がラットと敵対する理由は無い。
だからラットと協力してクリスを倒しプレートを回収するのも俺としては全然有りな話だ。
「おっと、それは勘弁だ。アンタこのプレートを回収したいんだよな?オレとしてもこのプレートを持っててもメリットよりデメリットの方が大きいっぽいから返すよ。これでアンタとオレが敵対する理由は無くなったよな?」
俺が迷っているのを察したクリスは、首から下げていたプレートを外してあっさりとこちらに投げてよこした。
あれほど苦戦していたのにあっさりと目的を達成できてしまった。
こうなると俺にはもうクリスともラットとも闘う理由が無くなってしまった。
「あ〜…俺の用は今済んだし、もう帰っていいか?」
「「いいわけねぇだろ!」」
クリスとラットに同時にそうツッコミを入れられしまった。
まぁ、実際問題このまま二人を放置して帰るわけにもいかない。
クリスとラットが本気でやり合えば確認に街に被害が出てしまう。
傭兵の国と全く関係が無い二人がどう争おうと俺には関係無い話だが、悪いことに俺は既にゴロツキ共のアジトにカチ込みをかけてしまっている。
この状況では流石に知らんぷりはできない。
では改めてどっち側に付くかという話だが、この場合はクリスに付く方がいいだろう。
ラットはこの街で何か後暗いことに手を染めているという話だが、クリスはまだこの街に来たばかりなのでそういったことに加担していないはずだ。
そうなると人情的に気持ちよくぶん殴れるのはラットの方だ。
方針が定まったので改めてラットと対峙する。
ラットは俺の説得が難しいと踏んで、今度はクリスに対して説得を試み始めた。
「おい〝クリス〟!さっきの事は忘れてやるからこっちに付け!そうすればお前がある程度この街を歩き回れるようにバイヤーに掛け合ってやる!」
「え〜ヤダよ。オレはさっさとこんな街を出て傭兵の国ってところに行きたいんだ。」
「傭兵の国だと!」
「おう、さっきお前らが連れてきたチックとかいう子供に聞いたんだ。壁の中に引き篭もらずに世界中を旅して周る集団なんだってな。毎日新しい景色を見て、毎日新しい経験をする。オレはそういう刺激に満ちた生き方がしたくって下界に降りて来たんだよ。」
クリスが急に敵対するのを辞めた理由が判明した。
たしかに今後クリスが傭兵の国で生きていくつもりなら今持っている奪い取ったプレートは邪魔にしかならない。
「辞めとけ。あそこはそんな生半可な覚悟で足を踏み入れていいような世界じゃない。人にはそれぞれ身の丈ってもんがあるんだ。平穏に暮らせる場所でやっていく方がいいんだよ。」
ラットはクリスをなんとか勧誘しようとしているが、説得の言葉はどこか自分に言い聞かせているようにも聞こえた。
「そういえばお前は昔傭兵の国にいたんだってな。なんで抜けちまったんだ?」
「………お前には関係ねぇ話だ。」
ラットはそう言って口を噤んだ。
だが俺は今まで『獄卒衆』としてラットみたいなやつらと関わってきた経験があるので、その表情からなんとなくラットが傭兵の国を去った理由に予想がついた。
…だが今はそんなことはどうでもいい。
魔王の侵攻が迫っているので早いとこ今回の件にけりをつけたい。
「話はもう終わりでいいな?悪いがこれ以上は付き合っていられないから再開させてもらうぞ。」
「…糞がっ!やってやるよ。お前等程度になら俺は負けねぇんだよ。」
こうして三つ巴の様相を呈していた戦況は最終的にラット+ゴロツキ数人対俺、クリスの即席コンビでの闘いになることになった。
戦闘を再開するにあたり、ラットを仕留めるにはあの防御を突発する必要がある。
問題なのはその方法だが、クリスの光線が効いたのを見てその方法を一つ想いついた。
(攻略の鍵は同じ部位への連続攻撃。ならもう一つの機構を使ってみるか。)
作戦は思いついたが、確実に攻撃を当てるために一工夫する必要がある。
どうしようかと考えていると敵側の陣営に動きがあった。
「ラットさん!忘れてた獲物を持って来ましたよ!」
その言葉と共に部屋の奥から新たに現れたゴロツキがふらつきながら身の丈ほどある大斧を持って姿を現した。
どうやらラットが普段使っている武器を持って来たようだが、その武器は明に狭い室内で使うには余りに大きすぎて小回りが利きそうにない代物であった。
「馬鹿が!こんな狭い場所でそんなモン使えるわけねえだろ!忘れてきたんじゃなくて置いてきたんだよ!」
元々ラットは生半可な攻撃が通用しないほど身体能力を強化して、あの大斧で大暴れする戦闘スタイルだったのだろう。
(つまりラットは本来の慣れた立ち回りを封じられた状態で俺とあれだけ闘えていたということか。…踏み超える勇気が持てていればもっと上まで行けただろうに。いや…諦めてしまった時点で上に行ける資格はなくなっていたか。それはそれとして、あの大斧…使えるかもしれん。)
ラットはあの大斧を使うつもりが無い様だし、立ち位置的に俺が取りに行けない場所ではない。
俺はラットが行動するのに先んじて動きゴロツキから大斧を奪い取ると勢いをつけて投擲する。
目的は攻撃ではなく目隠しを作る事。だから刃が立つ縦方向にではなく団扇で仰ぐような横方向での投擲だ。
これにより大斧によって視界が遮られラットは俺の姿を一瞬見失った。
この一瞬を使い俺は闘氣の力場を操作して盾に搭載しているもう一つの機構を起動させる。
闘気の力場を受けて盾本体と腕に盾を固定している部分のロックが外れて分離する。
そしてそのまま腕から浮いた形となった盾をブーメランのように投擲した。
ここでようやくラットは視界を遮っていた大斧を叩き落としたが、既に目の前には俺の盾が迫っていた。
この時の態勢的にラットには盾を迎撃する時間は無い。
ラットは自慢の防御力が宿った腕で盾を受け止めようとしたが、俺の狙いは始めからこの攻撃をラットに防御させることだ。
俺が投擲した盾は手元の盾の持ち手の部分と強度がある鋼線で繋がっている。
ラットに盾が接触する直前に鋼線を通して闘気を伝わられて盾全体を闘気で覆う。
遠隔での闘気刃で盾の側面に切断する力場を形成し、更に闘気刃とは別に盾内側に回転運動する力場を形成する。
盾が鋼線と繋がっている部分は、時計回りに回転する時には空回りして鋼線を巻き取らない仕組みだ。
これにより俺の盾は闘気刃を纏った回転ノコギリに変貌する。
「なにィ!」
ラットは驚愕しながら『闘気装甲』と『血気硬化』でこの攻撃を受け止めようとするが、俺の回転ノコギリは止まらない。
次から次に連続して繰り出される『闘気刃』による力場はラットの『闘気装甲』を切り裂き『血気硬化』で強化されている腕の防御力を上回って少しずつ肉を削いでいく。
このままいけば俺の回転ノコギリはラットの腕を両断し致命傷を与えるだろう。
だがそうなる前に横槍が入った。
「おっ!動きが止まったな。チャ~ンス…ぶっ飛んじまえ!」
「おい!手を出すなって言ってただろ!」
いつの間にか強力な攻撃をするための溜を終えていたクリスが、防御するので手一杯で動けないラットに向かって極太の光線を発射した。
俺の攻撃で消耗し始めていたラットにこの攻撃を耐える余力は無かったようで直撃を受けて光の中に消えて逝く。
そしてその余波は懸念していたとおりにアジトの壁をぶち抜きその先にまで突き進んでいった。
こうなってしまえば、もはや光線が突き抜けた先に人や物が何もなく被害がで出なかったという奇跡を願うしかない。
「馬鹿野郎!なんで撃った!」
「ここ数日外出禁止とか言われてストレスが溜まってたんだよ。いや~スッキリした。あっちなみに威力は調整したし、角度も工夫したからそんなに被害は出てないはずだぞ。」
その発言を一旦信用して恐る恐る壁に空いた穴から外の様子を伺うと見事に近くの建物の天井の一部が消失していた。
「被害は出てないはずじゃなかったのか?」
「あっ……やべ。」
俺に続いて自分が消し飛ばした建物の天井を見たクリスが小さく呟いた。
二つ目の機構は簡単に言うと超◯磁ヨーヨー
この世界では闘氣の達人クラスになると紐のような形状の物を力場の操作で触手のように操れるようになる。
今章の主人公であるロアはまだこの領域にはいたっていないのでそこまで自由自在に操ることはできないが、ある程度の操作は可能なぐらいの練度はある。
敵の意表をつく攻撃が可能なので切り札として使っているが、使用にはかなりの集中力を要するので気軽に連発はできない。




