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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
ロア編
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カチ込み

「ロアにぃちゃん…オイラが殺される前に助けにきてくれよ。絶対だからな!」


 チックは最後にそう言い残してラット達のアジトに向かて行った。

 なかなか良い根性を持っていと認めざるを得ない。

 そんなチックを見捨てるわけにはいかないのでチックの後をつけて俺もアジトの近くまで移動しておく。

 目的のアジトから少し離れた場所でチックの様子を伺うと、チックは当初の予定通りにアジトの近くをウロウロして見張りに見つかっていた。


「おい!そこのガキ!さっきから何をウロウロしてるんだ!」


 声をかけらるとすぐさま一度退散するが、少ししたらまた戻って来てアジトの周りをウロウロするのを繰り返して見張りを挑発する。


「このガキ!いい加減にしやがれ!」


 とうとうしびれを切らした見張りはチックの首根っこを捕まえた。


「捕まえたぞ!さっきからお前は何をしているんだ?」

「ひぃっ…勘弁してください。ここの事を探ったらお金をくれるって人がいたから……。」

「なんだと!…ここじゃまずいか、ちょっと来い!」


 わざと捕まって首尾よくアジトに入り込むことに成功したようだ。

 これでチックが捕まったという情報を得た俺が助けるためにアジトに乗り込むというシナリオが成立する。

 チックが消えたアジトの扉を目指して俺も動き出すことにした。




 ラット達のアジトの扉を蹴破り突入する。

 どうやら扉の近くにゴロツキの一人がいたようで、吹っ飛んでいった扉に巻き込まれて一緒に吹っ飛んでいったが、どの道全員ブチのめすつもりだったので手間が省けた。


「なんだぁ!?何が起こった?」

「カチ込みか!?」


 一拍遅れて状況を理解できていないゴロツキ達が騒ぎ始める。

 ゴロツキ達はすぐさま扉を蹴破った俺に気付き武器を取って俺を囲むように群がってくる。


「俺等に喧嘩売るとはどこの馬鹿だぁ?」

「いきなりやってくれんじゃねぇか!キッチリ落とし前をつけさせてもらうぜ?」

「覚悟しやがれ!」


 俺が蹴破った扉に巻き込まれて気絶している一人を除いて全部で四人。

 どいつもこいつも武器を構えてはいるが一様に姿勢が素人のそれだ。

 この中に俺が苦戦するような相手はいないだろう。


「てめぇ等がチックをここに連れ込んだってネタは上がってんだよ!てめぇ等こそ俺のダチを拉致るとはいい度胸じゃねぇか!」


 このての輩はこちらが萎縮するとドンドン付け上がるのでこっちらもしれなりの態度で返す。

 声に怒気と威圧を込めるとゴロツキ共の重心が一斉に後ろに引いた。

 全くビビッていない俺の態度にゴロツキ共は出鼻を挫かれる形になった。


「ダチ?…お前まさか…さっきのガキの連れか?だとしらた来るのが早すぎんだろ!?あのガキを連れてきてからまだ五分もたってないぞ!」


 ゴロツキの一人から鋭いツッコミを入れられてしまった。

 チックが殺されてしまったら後味が悪過ぎるので早めに救出に動いたのだが、確かにチックが拉致られたという情報を得てから乗り込んで来たにしては突入までが早すぎたかもしれない。

 だが細かいことはこの際どうでもいい。

 俺がカチ込みをかける大義名分ができれば何の問題も無い。


「おい!あいつは連絡が来てた傭兵の国のヤツなんじゃないのか?」

「だとしたらヤバいぞ、俺達じゃ話にならねぇ。ラットさんも相手にするなって言ってたし。」


 そうこうしているとゴロツキ共は俺の正体に勘付いたのかコソコソと相談し始めたようだ。

 あらかじめ俺についての話を聞いていたようですぐに結論が出たようだ。


「わかった。あのガキは返す。だからそれで手打ちだ。」


 それでは俺が困るので少々強引にいかせてもらうことにする。


「お前達のような半グレとは交渉しない!」

「いや、返すって言ってんだろ!」

「問答無用!」

「駄目だ!コイツまるで話にならねぇ!誰かラットさんを呼んで来い!」


 ゴロツキの一人が建物の奥に向かって走り出したが、最終的には全員ブチのめすので慌てて追う必要はない。

 とりあえず俺を取り囲んでいるゴロツキの一人の懐に踏み込み腹に一発叩き込む。

 予想していた通りゴロツキ共は大して鍛えていなかったようで拳の一撃で簡単に沈んだ。

 残ったゴロツキ二人は改めて俺という脅威を目の当たりにしたことで、ただでさえなってなかった構えがさらにへっぴり腰になった。

 ゆっくりと間合いを詰めながら歩み寄るとプレッシャーに耐えられなくなった一人が武器を出鱈目に振り回すが、及び腰になっているせいで武器に全然体重が乗っていない。

 装備しているバックラーで軌道を逸らすと簡単に懐に入り込むことができた。

 先程と同じように腹に一撃叩き込むと苦悶の声を漏らして崩れ落ちる。

 このままの流れで最後の一人に視線を向けると後ずさりし始め最終的には背を向けて部屋の奥に逃げ出した。


「ひぃ…ラッ…ラットさん!敵襲です!早く来て!」


 そう叫びながら部屋の奥に消えていたゴロツキだったが、魔を置かず何故か部屋の奥から吹っ飛んで戻って来た。


「やかましい!そんなに騒がんでもカチ込みくれた馬鹿がいることぐらいわかっとるわ!」


 吹っ飛んで戻ってきたゴロツキに続いて部屋の奥から大柄の男が現れた。

 状況的にこの男が部屋の奥に逃げ込んだゴロツキを殴り飛ばしたのだろう。

 今までのゴロツキとは明らかに体格と姿勢が違う。

 なにより、以前『獄卒衆』の回覧板で見た似姿図と特徴が一致しているのでこの男がラットで間違いない。

 さらにラットの後ろから追加のゴロツキが三人姿を見せてきた。


「随分な挨拶をしてくれたな!ここは傭兵の国が乗り込んでくるような場所じゃねぇぞ?」

「それがそうでもない。俺のダチがお前等に拉致られたからな。」

「何ぃ?おい!どういうことだ?」

「すんませんラットさん!アジトの周りをガキがうろちょろしてたもんで、ナメられたちゃいけないと思ってつい…」

「馬鹿が!まんまとハメらてんじゃねぇか!傭兵の国が来てるから関わらないようにしろって言ったよな?」

「すんません!まさかこんな強引手段で乗り込んでくるとは思わなくて…」


 ラットはまだ話の途中だが待ってやる義理は無い。

 こちらへの注意がされている内に先制攻撃させてもらう。

 ダッシュで間合いを詰めて勢いを乗せた拳を腹に叩き込む。

 やはりゴロツキ共とは鍛え方が違うようで、殴ったり俺の拳が逆にダメージを受けるような硬い感触が返ってきた。

 想定よりも防御が硬い。というか予想外に硬すぎる。


「おうおう、元気は良いみたいだな?だがその程度じゃ俺の防御は抜けないぜ?」

「この硬さ…『血気硬化』か…。」

「御名答だ!」


『血気硬化』は獣氣によって身体能力を向上させる『獣氣活性』を発展させた技で、身体の一部を硬化させて防御力を爆発的に高める技だ。

 硬さが厄介だが常に体を硬化させ続けているわけではないはずだし、全身くまなく硬化できているわけでもないはずだ。


「大した硬さだ。こいつは…きり崩すのはけっこうな手間になりそうだ。」

「ハンッ、お前ごときじゃ無理だ。」


 こうして本格的に闘いが始まった。




 倒すにはまず、攻撃が通る場所を探す必要がある。

 狙うならやはり人体の構造上の急所になるが、『血気硬化』で物理的に硬くなっているラットの体に通じるかはやってみなければわからない。

 対面しているラットは顔面への攻撃を警戒すしているのか顔の前で縦にした両腕を構えている。

(あの構えから見て、眼球とかの感覚器官はさすがに硬くできてはいないみたいだな。とはいえ、警戒して守りを固めている以上は簡単に攻撃は通らないだろうな。となると、防御の意識が薄い急所を狙うのが一番か…)


「来ないならこっちから行くぞ!」


 攻略方法を考えていると先にラットが顔の前に腕を構えたままの姿勢で突進してくる。

 さっきまで相手をしていたゴロツキ共とは比べ物ならないくらいには速いが、傭兵の国で普段闘っている魔物にはもっと速く動くやつらもいし、このぐらいの速さなら俺の方が速い。

『闘氣』で力場を作り出し盾に仕込んである機構の一つを起動させて仕込み刃を出す。

 その後、ギリギリまでラットを引き付けて斜めに踏み込んで突進を躱しながらすれ違いざまに刃で首を切り裂く。

 刃の表面を『闘氣刃』で覆った上での一閃だったので、それなりのダメージを与えられると期待していたが予想に反して切れたのはラットの首の薄皮一枚程度だった。


「おーおー、怖ぇ怖ぇ。そんな危ない物も仕込んでいたのか。だが残念!それも通らない!」


 今の攻撃が通じなかったのはラットが『血気硬化』だけではなく『闘氣装甲』も併用していたからだろう。

 俺が刃に纏わせていた『闘氣刃』はラットが展開していた『闘気装甲』でその威力のほとんどを相殺されて、『闘気装甲』を貫通した頃にはラットの首を薄皮一枚を削る程度しか残っていなかったのだ。


「『血気硬化』に加えて『闘気装甲』…本格的に硬いな、お前。だが、使う技がどちらも防御技…お前ひょっとしてまともな攻撃技が無いのか?」


 挑発されっぱなしで苛ついたので俺も少し挑発し返す。

 だが実際問題、闘いというのは死んだらそこで終わりだ。

 だから簡単に死なないように防御技を習得するというのは理に適った選択と言える。

 それにラットは『闘気装甲』を使っていた。『闘気装甲』と『闘気刃』技の原理が同じで闘気による力場の形が違う程度しか差がない。

 つまり『闘気装甲』が使えるやつは大体『闘気刃』も使えのでラットも『闘気刃』は使えると見ていいだろう。


「うるせぇ!そんなに俺の攻撃技が見たいなら見せてやるよ!」


 予想外に俺の挑発が効いたようで、ラットは声を荒げると再び突っ込んて来た。

 今度は左手は先程と同じ様に顔の前に置いているが右手は腰元まで引いた構えで距離を詰めて来ている。

(激昂して攻撃して来てるのに防御に対する意識が残っている。やりずらいな。)

 俺の戦闘スタイルは相手の攻撃を躱してからのカウンターが主体だ。

 ほとんどのヤツは攻撃時には多少なりとも攻撃することに意識を持っていかれるので防御に隙ができる。

 だかラットは攻撃して来ている時でも防御に対する意識が強い。

 意識のリソースを優先的に防御にある程度振っておき、残ったリソースを攻撃に回しているような印象だ。

 こういう相手にはカウンターが通りずらい。

 ラットの攻撃は五本の指それぞれに『闘氣刃』の力場を纏わせた状態での抜き手だった。

 おそらく、『血気硬化』で指先を硬化させているだろうから、言ってしまえばラットの腕は先端が五又に別れた槍のようなものだ。

 これに対し俺は、手首に盾を当てて軌道を逸らしつつ懐に入り込んで顎を狙って打撃を放つ。

 ラットは目や鼻を狙ってくると思っていたようで、防御に回していて左手が顎を守るのは一瞬遅かった。

 刃を閉まった状態の盾を鈍器代わりにして顎を掠めるような軌道で腕を振り抜く。

 脳を揺らすのを狙った一撃で狙い通りに決まったのだが、ラットはバランスを崩すことも無く平然と立っている。


 効果があれば追撃も考えていたがこの様子では無理だろう。

 体格的に組み合うことになれば不利になりそうなので一旦距離を取っておくことにする。

 今回の攻防でわかったがどうやら俺のカウンター狙いの戦闘スタイルと、ラットの防御に対する意識を残したまま『血気硬化』と『獣氣活性』の合わせ技で身体能力を向上させてからゴリ押しするスタイルは相性が悪いようだ。


「今のも効かないとなるとマジで厄介だな…お前。」


 思わず愚痴を吐き出していると部屋の奥から新たに誰かが現れた気配がした。


「おー…やってんなー。」

「〝クリス〟か!お前も俺等の仲間になるんだったら手伝え!」


 どうやら増援としてクリスが来てしまったようだ。

(ラットは前衛としては理想的な耐久力を持っているし、クリスは後衛としては火力もあって攻撃速度が早い光線を連発できる。二人同時に相手するのは流石にキツイか……)

 ラットとクリスはお互いに戦闘スタイルが嚙み合っている。

 二人が協力関係なら撤退も視野にいれなければならない。


「ん~~~どうしよっかな~。」

「おい!てめぇ、ふざけてんのか!」

「いやな、オレさぁ自由にやりたくて下界に降りて来たんだよ。そんで…お前等と一緒にいてオレは今後自由にやっていけんのか疑問なんだよな。」

「……つまり手伝う気は無いってことだな?」

「手伝う気がないつーか…そもそもオレの自由を邪魔するヤツは全員敵なんだよ!」


 クリスはどうやらラットに加勢する気は無くむしろ敵対しているような様子だ。

 つまり、ここから先の闘いは三人での三つ巴の闘いになるということだ。

(二対一でやり合うことになるよりだいぶましだが、またややこしいことになりそうだ。)

 こうして闘いは新たな局面を迎えた。

主人公の当たり屋ムーブが炸裂、街のゴロツキ共に大ダメージ。


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