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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
ロア編
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手掛りを求めて

 ダムドの小屋で仮眠し、飯を御馳走になった俺は夜明け前に集落を出てクリスが向かったと思われる街へと向かった。

 この辺りは完全に結界の範囲内に入っている地域なので道中に魔物と遭遇することは無く、日が出ていないので方角が確認しずづらいという問題はあったが概ね問題なく街の門の入り口まで行くとこはできた。

 気が急いていたせいか門が開門するよりも少し早い時間に到着してしまったが、門の近くに俺と同じように開門を待つ人が野営しているのが見えた。

 外から来た人達ならクリスが飛行しているところを目撃している可能性もある。

 時間もあることだし、声をかけて情報収集しておくことにした。


「すまない。少し話を聞いてもいいか?」

「ん?アンタも開門待ちか?」

「そんなところだ。時間を持て余していてな。ところで最近この辺で面白そうなものを見たりしてないか?例えば空飛ぶ人間とか。」

「空跳ぶ人間とはえらく突拍子もないものだな。あいにくだがそんなものは見ていないよ。行商で聞いた旅先の話とかならいくつか話せるが?」

「あー…すまない。実は俺は傭兵の国の人間でな。そういう旅先の話なら間に合ってるんだ。」

「なに?傭兵の国の人間なのか?ならアンタ達には礼を言わないとな。」

「なんの礼だ?」

「行商の時にアンタ達が通った経路の後を追わせてもらった。おかげであまり強い魔物に襲わずにここまでこれた。」

「あんたら『後追い』の連中か。だったら別に礼を言われる筋合いはねぇよ。」


 傭兵の国では移動中に襲ってくる魔物を返り討ちにしてその日の晩飯の材料にし、野営時には周辺の魔物を狩って晩飯の材料にするのが当たり前の日常だ。

 それゆえ、傭兵の国が通った場所の周辺は魔物が少なくなる。

 このことを利用し傭兵の国から着かず離れずの距離を保ちながら付いてくる連中のことを傭兵の国では『後追い』と呼んでいる。

 もちろん彼等は勝手に付いて来ているだけなので俺達が彼等の身を守ってやる筋合いはない。

 だから基本的に後方で魔物に襲われていたとしても助けには行かないし、彼等の為に俺達が目的地を変えるようなこともないので行きたい国の近くま行けるかは運次第になる。


「まぁ、アンタ達はそう言うよな。でも私達がここまで来られたのは間違いなくアンタ達のおかげだ。それに礼を言うのはタダだからな。」

「礼を言うのはタダか。いかにも商人らしい言葉だな。……ところで、アンタ達がここに居るってことは傭兵の国は今この辺に来てるってことか?」

「私達が傭兵の国の後を追うのを止めて別の進路を取ったのは二日前だ。今傭兵の国がどこに居るのかは知らないが、まだ近くに居ると思うぞ。」


 俺が傭兵の国を出たのは五日前だ。それがここから二日程度でたどり着ける距離にいるということは、傭兵の国の本隊は俺が出発した後に俺が進んだ方角へ進路を変えたということになる。

 傭兵の国がどこへ行くかの進路を決めるのは総大将様の意思一つだが、大抵は大きな闘いがある場所を目指して移動する。

(傭兵の国が近くに来ている?他の場所に行くための進路としてたまたまこの近くを通っているだけなら良んだが……。)

 俺が旅立ってから進路を変えたのは、総大将様がこの周辺で起こる大きな闘いの予兆を感じ取ったからである、という可能性がある。

(嫌な予感がしてきた。早めに任務を終わらせて帰還した方が良さそうだ。)

 期待していたクリスの情報は得られそうにないが、現状では待つ以外にできることはないので、『後追い』の商人と他愛無い世間話をしながら開門の時間を待つことにした。




「開門〜!開門〜!」


 開門を告げる伝令の声が響き街の出入り口を閉ざしていた門が開いた。

『後追い』の商人達との雑談を終わらせ街に入る手続きをしている列に並ぶ。

 門が開いて街の中の様子が見えるようになると、街の中から外に出ようとしている商人達が長蛇の列を作っているのが見えた。

 何故これほどの数の商人が街を出ようとしているか一瞬疑問に思ったが、すぐについさっき『後追い』の商人から傭兵の国の本体が近くまで来ているという話をきいたのを思い出した。

 どこから情報を得たのかはわからないが、商人達は傭兵の国の本隊がこの近くに来ているのを知ったのだろう。

 傭兵の国は世界中を渡り歩いているので行く先々でその国の物品を売買している。

 商人はこの傭兵の国が他国で取引してきた物品をなんとか手にしようと我先に傭兵の国に向かっているんだろう。

 街に入る側の列にはそこまで人が並んでいなかったので、列はスムーズに捌かれていきすぐに俺の番になった。


「傭兵の国の者だ。通行料はいくらになる?」


 プレートを取り出し門番に見せながら門番に問いかける。

 傭兵の国と友好関係にある地域では通行料が安くなる場合がある。

 その他にも傭兵の国の者であることを告げておけば、門番が足元を見て不当な通行料を提示してくることを牽制する効果も期待できる。


「傭兵の国か…面倒事を起こすなよ。銅貨5枚だ。」


 今回の門番は一言釘を刺した後に素直に真っ当な値段を提示してきた。

 友好的な態度ではないが邪険にされているわけではないのでクリスについての情報を何か知らないか聞いておくことにする。


「すまないが人を探しているんだ。最近、俺以外に傭兵の国の者が街の中に入ったりしたとかの情報は無いか?」

「……いや、知らないな。」


 知らないと言いつつも一瞬目が泳いでいた。


「…そうか。邪魔したな。」


 この場で追及しても動きにくくなるだけだろう。

 だからこの場は大人しく引き下がり街の中で情報収集することにする。

(何か知っていそうな雰囲気だったがだんまりか…これは何かきな臭いことになっている予感がするな。)

 俺も傭兵の国に来てから色々と経験をてきているのである種の感のようなものが鋭くなっていると自負している。

 その感が告げていた。何か面倒なことに巻き込まれると。




(ひとまずは宿屋で寝床の確保。その後は酒場に繰り出して情報収集だな。)

 大雑把にそんな計画を建てて宿屋を探しながら街を散策する。

 こういう土地勘がない場所では始めにハンターギルドに行けばどこに何があるのか教えてもらえるのだが、俺は傭兵の国の者なのでこの方法をとるのは難しい。

 なんでも、今から数十年前のことらしいが傭兵の国の総大将様と当時のハンターギルドの上層部でイザコザがあったらしく、それ以来傭兵の国とハンターギルドに因縁ができてしまったらしい。

 だから傭兵の国の者がハンターギルドに行くと、ハンターギルドに所属している人達から因縁をつけられて面倒事に発展する恐れがあるのだ。

 とはいえ、クリスが傭兵の国のプレートを身分証として使っているなら、ハンターギルドが何か情報を得ている可能性ほかなり高いはずだ。

 どうにかしてハンターギルドからも情報を得られないかと考えていると突然背後から声をかけられた。


「なあ!にぃちゃんは傭兵の国の人なんだろ?さっき門番のおっさんとやり取りしてたの見たぞ!この街が始めてならオイラが案内してやってもいいぞ!」


 振り返ると粗雑な服を着ている痩せ型の子供がいた。服装や体型からして、おそらくスラムで暮らす孤児なのだろう。

 この子供のように俺みたいな土地勘が無い人を相手取って案内をすることで日銭を稼ぐことを仕事にしているスラムの住人はそこそこ居る。

 中には裏路地に誘導し隠れていた仲間達と一緒に金品を強奪するような質の悪い者達もいるが、今回は俺が傭兵の国の人間であることを知っていて声を掛けてきたのようなのでその心配はないだろう。


「お前はこの街に詳しいのか?」

「お前じゃない!オイラはにはチックって名前があるんだ!」

「そいつは悪かったな。それで…チックはこの街に詳しいってことでいいんだな?」

「ああ、オイラは生まれも育ちもこの街、ウリーカだ。」

「へぇ、この街ってウリーカっていう名前だったのか。」

「にぃちゃん…そんなことも知らないでこの街にきたのか?」

「この街に来たのは完全成り行きだ。だから下調べも何もしてこなかったんだよ。それと、俺の名前はロアだ。」


 この街はそこそこ規模が大きい街なようなので一人での情報収集では時間がかかり過ぎる。

 現地の協力者を得られればクリスを迅速に捕まえる助けになるはずだ。


「それで、ロアのにぃちゃんはオイラを雇う気はあるのか?」

「ああ、まずは宿屋に案内してくれた。それと、この街にいるはずの俺以外の傭兵の国の人間の情報が欲しいんだが、それについても協力してくれる気ははあるか?」

「ロアにぃちゃん以外の傭兵の国の人間?まぁ追加料金次第で何でもするけど…。」

「まずは宿屋まで案内してくれ。俺の事情はその道中で話す。」

「わかったよ。付いてきて。」


 街に入ってすぐだが情報を得られそうな協力者のあてができた。

 幸先が悪くないスタートを切ることができそうだ。




「それで…もぐもぐ…ロアにぃちゃんは……ゴクゴク…そのクリスって人の……ガブガブ…ことを探してってことか。」

「まぁ、そんなとこだ。つうか、もう食ってから喋れよ。」


 チックの案内で宿屋にたどり着いたはいいが、思いの外早く宿屋に着いてしまったので事情の説明が終わらなかった。

 そこから流れを上手く誘導され、チックに昼飯を奢りながら話の続きをすることになり今に至る。

 チックが食べ終わるまで待ちその間に俺の方も食事を終わらせておく。

 程なくしてチックが料理を全てたいらげたので話を再開した。


「ぷはぁー……食った食った。えーっと…それで…なんの話だったけ?」

「クリスとか名乗ってる男だか女だかわからんヤツについて何か知らないかって話だ。」

「そうだった。飯奢ってもらっといて悪いけど、クリスってヤツには心当たりはないよ。でもオイラの仲間達なら何か知ってるかもしれないし、仲間達と協力すれば何かしらの情報を持ってこれると思う。もちろん報酬次第ではあるけど。」


 ここまでの話の流れは予想通りだ。

 傭兵の国では俺のような中堅クラスの強さになると稼ぎも安定してくるし、あまり金を使う機会がないので金が溜まっていく傾向にある。

 俺もその例にもれずそこそこ金を持っている方だが持ち歩いている現金自体はそこまで多くない。

 追加報酬を支払うことになるのは今の懐具合的には少々痛手だがここは報酬をケチる場面ではない。


「わかってる。で、具体的には幾ら位で引き受けてくれんだ?」

「あっ、いや、その、報酬は金じゃなくていい。もちろん金もくれるってんなら遠慮なく貰うけど、それよりもオイラ達を傭兵の国まで連れて行ってくれないか?」

「……そういう話か。」


 スラムで暮らす孤児が傭兵の国で一旗揚げようと考えるのはよくある話だ。

 国の広さは結界の範囲と同じ程度までしか広げられない。

 それゆえに国に住める人間の数も限りがある。

 国家に所属している人間は安全に守ってもらえる国民という席を奪い事になる。

 そんな社会構造では当然ながらスラムの住人というのは真っ先に排除される対象になる。


「無茶な事を要求しているって自覚はあるか?複数の子供を連れての旅がどれだけ負担になると思ってるんだ。」

「それは……でも…多分これがオイラ達が生き残る最後のチャンスだと思うんだ。だからお願いだ!オイラ達必死でやる!必ず役に立つ!」

「……お前達の成果次第だ。しっかりやれば考えてやる。」

「本当か!約束だぞ!後で気が変わったとかはなしだからな!オイラ早速情報を集めてくる。明日の朝には一旦報告に来るから宿にいといて!」


 チックは一方的にそう言い残すと走り出し、あっという間に街の喧騒の中に消えてしまった。


「おい!朝って何時ぐらいだよ!あ〜…だめか。もう近くには居そうにないな。」


 チックにはああ言ったが、実のところ傭兵の国の本隊が近くまで来ている今このタイミングであれば旅はそこまでの負担では無い。

 それでもあえてさっきのような言動をしたのはチックの覚悟と適正を試したかったからだ。

(俺が連れて来たヤツ等が馴染めずに野垂れ死にしたんじゃ目覚めが悪いからな。)

 俺から言質を取った後は他の条件が付けられる前に即座に撤退。

 自然に飯を奢らせる流れを作った手腕も大したものだった。

 俺という人間を観察してその上で勝負所と判断して仕掛けてくる辺り、チックは傭兵の国でやっていくしたたかさを持っていそうだ。

 いつまでもチックが消えていった方角を見続けていも仕方がないので俺は俺で動き出すことにする。

(まずは酒場で情報収集だな……しまった…酒場の場所聞いてねぇ……)

 そこそこ順調だと思っていたが、やはり何もかもが順調とはいかないようだ。

更新頻度を上げてからの初回投稿。

更新ペースを維持できるように頑張ります。

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