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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
ロア編
59/105

奪われたプレート

 〝クリス〟と名乗ったその人物は中性的な顔立ちで、パッと見では男か女かわからない外見をしていた。

 身体は多少鍛えているようだが、俺のような戦闘の為にガッツリと鍛えているようには見えない。

 おそらく、事前の見立て通り魔導術を主体にして闘うタイプなのだろう。

 外見的な特徴はさておき、奪ったプレートに書かれた名前を読みながら〝今日からクリスだ〟と名乗ったのは気にかかる。

 状況からいって〝クリス〟という名前は明らかに偽名で、殺されてプレートを奪い取られている人物こそが本物のクリスなのだろう。

 プレートを奪い取り自分のことを〝クリス〟であると言っていることから、今後こいつが〝クリス〟として生きていくつもりなのが窺えた。


「〝クリス〟ってのはそこに転がってるやつの名前だろ?俺はお前が誰なのか聞いてんだ。」

「察しが悪いヤツだな~。それを奪ったから今日からオレが〝クリス〟なんだよ。」


 一応、確認の為に問いかけてみるが、帰ってきたのは予想通りの言葉だった。

 別にこいつがどこの誰であろうと何の問題もないが、傭兵の国のプレートを見せびらかしながら山賊共を殺して回ったようにカタギの人間を殺して回るようなことになれば大問題だ。


「わかった。別にお前がクリスでも誰でもいい。だが、そのプレートはこちらに渡してくれ。それは俺達にとっては大切な物なんだ。」

「やだよ。これって下界の身分証みたな物なんだろ?これからオレが下界で生きていく上でこういうのがあった方が良さそうだからな。」

「どうして、それを渡す気は無いのか?」

「くどいな。これはもうオレの物だ。」


 どうやら大人しくプレートを渡す気は無いらしい。

 ならば仕方ない。


「そうか…ならお前がそうしたように、俺も闘って奪うことにする。」

「丁度いい。こいつ等は手ごたえが無さ過ぎてイマイチわからなかったんだ。下界のヤツ等がどの位強いのか、下界で今のオレの力がどれ位通用するのか試させてもらうぜ。」


 結局、交渉は決裂し闘うことになってしまった。




 こちらが戦闘の意思を見せた途端に、クリスは空中に光の球のような何かを三つ出現させた。

 やはり当初の見立て通り、魔道術をメインの攻撃手段としている魔導士タイプのようだ。

 対して俺は『闘氣』と『獣氣』を使うゴリゴリの戦士タイプ。

 魔道術は遠距離からの攻撃を得意とするので今の間合いではクリスの方に分がある。

 俺も遠距離攻撃手段が無いわけではないのだが接近戦の方が闘いやすい。

 わざわざ相手の得意な間合いでやり合うメリットは何もないので『獣氣活性』で身体能力を強化し、間合いを詰めるべく踏み込む。

 こちらが踏み込んでくる態勢に入ったのを見て、クリスは周囲に浮べていた光球の一つから光線を放ってきた。

 真っ直ぐにこちらに向かって突き進んでくる光線の弾速はそれなりの早さだったが、身体能力を強化している状態のなので身を捻って回避しなが間合いを詰めることは可能だ。

 距離を詰める事を優先し回避の動きは最小限で踏み込む。

 俺の体を掠るようにして光線が通過していき、そのすれ違い際に俺はある事を確認しておく。

 俺の目論見は成功し、この光線はどうにか防げそうなことがわかったので俺の次の動きが決まった。

 クリスは一発目の光線が躱されたのを見てすかさず俺が踏み込んだ先を狙い二発目を放ってきた。

 この二発目の光線を無理に躱すと態勢が崩れてしまうので、そこを狙って三発目の光線を放って仕留めるつもりだろう。

 このままクリスの想定通りの行動をしてしまうと闘いの流れを一気に持っていかれてしまう。

 逆に流れをこちらに引き込むには相手の想定を上回る動きをする必要がある。

 だから俺はこの二発目の光線を避けない。

 先程一発目の光線を躱した時に体の表面に展開していた『闘氣鎧』で光線に干渉できるか確認しておいたのだ。

 その結果、光線は俺の『闘氣鎧』で僅かに軌道を曲げることができた。曲げることができるなら『闘氣』の力場の出力を上げれば弾くこともできるはずだ。

 今更ではあるが、俺の武装は両腕に装備したバックラーと呼ばれる小型の円形の盾である。盾の内部に『闘氣』の力場で動作する機構を内蔵している特殊な武装だ。

 今回は盾の内蔵機構を使わずシンプルに表面に集中させた『闘氣』の力場、『闘氣装甲』で光線の軌道を大幅に曲げて光線を弾きながら間合いを詰めていく。


「うおっ!マジか!」


 狙い通りに俺の行動はクリスの想定を上回っていたようで、クリスは慌てて後方に大きく跳び退き距離を稼ぎながら三発目の光線を牽制として放ってくる。

 だが、二発目の光線を弾いたことで要領がわかったので三発目を弾きながら間合いを詰めるのはそんなに難しくことではない。

(このまま間合いを詰めて着地を狩る。)

 クリスは距離を稼ぐために後方に大きく跳んだ事で移動先が確定している。

 周囲に浮かべていた光球はもう使い果たしているので光線はすぐには撃てないだろうから反撃の手段はなさそうだ。

 クリスがこれ以上何か行動を起こすより俺が着地地点に走り込んで一撃を叩き込む方が早い。

 そう考えていたが、クリスも俺の想定を超える動きで俺の攻撃を不発に終わらせた。


「…なんだそりゃ。」


 クリスは後方に跳んだ後、そのまま空中に浮き上がり降りてこなかったのだ。




 お互いに相手の想定を上回る動きをしたこともあり、最初の攻防はどちらにもダメージが入らない形で終わった。

(さて、これは流石に予想外だな。浮かんで降りてこないってことは、常に上を取られていることになる。厄介だ。)

 闘いにおいて相手の上を取れるというのは大きなアドバンテージになる。

 さらに厄介な事に俺は『空踏み』のような空中を駆ける技を習得していない。

 だから空に逃げられたら攻撃手段がかなり限定さてしまうことになる。

(幸いな事にここは洞窟の内部だ。天井はそれ程高くない。だから闘いようはある。)

 洞窟の内部では飛べるというアドバンテージを最大限に活かすことはできないはずだ。


「まいったな…。あの攻撃を弾けるのか…お前って思っていたより強いんだな。」


 攻撃が通らなかったことでクリスも俺を厄介な相手だと認識したようだ。

 ここでクリスがチラリと俺が入ってきた唯一の出入口に視線を向けた。

 どうやらクリスは逃走という選択肢も視野に入れているようだ。

 クリスが飛べるということがわかった以上、洞窟の外に逃げれればプレートを取り戻す難易度は跳ね上がる。

 洞窟という飛行のアドバンテージを活かしきれない洞窟内で決着を付けるのが最善手だ。

 故に当然ながら俺に逃がす意思は無い。

 逃げられないように一旦出入口側に移動し退路を断つ。

 だが、俺がそんな行動をしている内にクリスが動いた。

 再び周囲に光球を出現させながら俺と距離を取るように飛んだクリスの手には、いつの間にか半透明の羽のような何かが数本握られていた。


「下界の人間の強さも少しはわかったし、今日はこれぐらいで退散させてもらおう。」

「逃がすと思うか?退路は抑えているぞ。」


 クリスはニヤリと不敵に笑った。

 手元の半透明の羽が溶けるようにしてポロポロとお崩れ落ち、同時にクリスのから感じる力のようなものが膨れ上がった。


「退路?確かに塞がれてるな。だがそんなの、無いなら作りゃいい!」


 クリスは手を頭上に掲げてい言い放つ。


「ドカンだ!」


 そう言うと同時に掲げられた手元から今までの攻撃とは比較にならない程の威力と規模の光線が放たれ洞窟の天井をブチ抜いた。


「っ!お前!」

「そこそこ楽しめたぜ。いい勉強にもなったしな、あばよ。」


 そう言い残すとふわりと上昇し始め、崖下の上まで貫通した新しい出口を通って悠々と戦線を離脱しはじめる。

 ここで逃げられたら面倒なことになる。

 幸い空けられた穴の直径はそこまで大きくないので連続して壁蹴りすればまだ追いかけることも可能だ。

 もはや守る必要が無くなった出入口からダッシュして空いた穴を駆け上がる。


「待て!」

「うぇぇ!追ってくんのかよ?しつこいな!」


 クリスは周囲に浮かべていた光球から光線を放って俺の追跡を妨害しようとしてくる。

 感覚的には連続の壁蹴りでギリギリ追いつけそうな感覚はあったのだが、これにより最適経路での追跡が妨害され追いつけるか分からなくなってしまった。


「あーもう、また使うはめになるとはな…。流石にこれじゃ大損だ。」


 クリスは上昇しながらもどこからかまた半透明の羽を一枚取出し握り潰した。

 同時にクリスの上昇スピードが一気に上がり距離を離されてしまった。


「くっ……そ…。」


 クリスが作り出した崖下をブチ抜いた縦方向のトンネルが終わってしまい、蹴る壁がなくなったのでこれ以上跳ぶことができなくなった俺は最後のあがきで精一杯手を伸ばすがまったく届かなかった。


「今度こそ、あばよ!」


 クリスはそう言い残して今度こそ一目散に飛び去っていく。

 現状で俺にこれ以上クリスを追う手段は無い。

 完全に逃げられてしまった。






 クリスに逃げられた俺は、ひとまず受けた依頼の報告の為に集落に戻っていた。

 依頼を受けたのは酒場の主人だが、俺は報告の前に狩人のダムドの所に行くことにした。


「早かったな。戻って来たってことは依頼は終わったんだよな?」

「ああ、山賊は全滅した。まあ、始末したのは俺じゃないんだがな。」

「ほう、何があったんだ?」


 俺は事の顛末をダムドに話た。


「ーーーというわけでソイツには逃げられちまった。方角はこっちの方に飛んで行ったんだが、この方角には何がある?」


 先にダムドの所に来たのは少しでも早くクリスが向かって先についての情報が欲しかったからだ。

 どのみち、依頼の報酬は俺の報告の信憑性を確認してから支払われることになるだろう。

 だが俺はクリスを追うことを優先したいので、報告の信憑性が確認されるのを悠長に待つつもりは無い。


「その方角には商人達が行商で手に入れた商品の売買をする街がある。それなりに大きな街だ。」

「そうか。悪いんだが、俺は逃げた犯人を追いたい。酒場の主人への報告を代わりに頼んで良いか?」

「報告を引き受けるのは良いが、今から追うつもりか?」

「ああ、時間が惜しいからな。追跡は時間との勝負だ。まして空を飛べるようなヤツを追いかけるならもたもたしてたらあっという間に逃げられる。」

「気持ちはわからんでもないが、今から追うのはオススメしない。お前さんの目的地の街は出入りできる時間が決まっている。だから今から行っても明日の早朝の開門時間までは入れないぞ。」

「そうなのか?」

「ああ、今回の件の礼代わりじゃないが飯を準備しよう。この小屋も俺が獲物の処理の為に建てた物だからゆっくりしていってくれて構わない。」

「……少し焦り過ぎていたかもしれない。好意に甘えさせてもらおう。」


 こうして俺はダムドの小屋で少し休むことにした。




 休んでいる間に今日の戦闘を振り返っておく。

 闘い分水嶺になったのはやはり俺が逃走を警戒して退路を抑えに行ったことだろう。

 あの時はクリスの視線が出入口をチラリと見たので退路を抑えに行ったが、結果的にそれがクリスに大技を撃つまでの時間を与えることになってしまった。

 あの場面で退路を抑えに行かず攻撃を仕掛けていれば逃げられることもなかったかもしれない。

 それと、その他に振り返っておかなければならないのは、もしクリスがあの洞窟の天井をブチ抜いた光線を俺への攻撃として放っていた場合のことだ。

 俺の戦闘スタイルは盾を武器に選んでいることからもわかる通り、敵の攻撃を捌いてから反撃を繰り出すカウンターを主体としものだ。

 それ故に俺は攻撃よりも防衛の方が得意だ。だからあの光線を受けていたとしても防ぎきる自信はある。

 だが、防いだ後にまだ戦闘を続行してクリスを倒せていたかと問われれば……わからない。

 クリスは天井をブチ抜いた後にすぐ光線を放つのをやめていたが、あの光線を長時間放ち続けられるのなあらば防御を抜かれていた可能性もある。

 もちろん、馬鹿正直に正面から受け止めてやる必要なんてないので回避して懐に潜り込み攻撃するなど闘いようはいくらでもある。

 それでも、あの闘いで俺は負けていた可能性があるというのは事実なのだ。


「クソッ……次は絶対勝つ!必ず取っ捕まえてプレートを奪い返してやる!」


 決意表明の意味も込めて意図的に口に出してそう宣言した。

せっかく闘氣などの能力を考えたので、それによって動作するギミックが搭載された武器があっても面白いなと思いロアの武器はこうなりました。

転職してしばらたち仕事にも少し慣れてきたので、次回から更新頻度を5の倍数の日(5、10、15、20、25、30日)に変更して頑張ってみようと思います。

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