謎の襲撃者
朝の日差しの刺激を受けて意識が覚醒する。
昨日は酒場で山賊討伐の依頼を受けた後、近くの宿屋で部屋が取れたので一泊することにした。
俺は体質的に朝が弱いらしく起きてから暫くは頭が回らない。
子供の頃から長いことこの体質に苦労させられてきたが、傭兵の国で暮らし始めて俺自身が強くなったことで対策を身につけた。
『獣氣活性』という技術で体の氣の巡りを高めることで身体能力を向上させる技だが、この技を使うと起き抜けでも頭がスッキリするのだ。
だから俺は毎朝のルーティンとして起きた直後に瞑想しなが『獣氣活性』をするようにしている。
目を閉じて身体に『獣氣』を巡らせていると、ボーっとしていた意識が徐々に覚醒し始める。
この技術を習得して本当に良かった。
頭がスッキリしたので瞑想を続けながら今日の予定を考える。
まずは山賊の情報収集をする必要がある。『先触衆』の連中とかなら索敵能力が高いので山賊の居場所ぐらいはすぐに特定できるんだろうが、あいにく俺はそんなに索敵能力が高い方じゃない。
おまけにこの辺りの地理にも明るくも無いから闇雲に探しても山賊の居場所を特定できる可能性はかなり低い。
ではどうやって山賊の情報を得るかだが、ここはやはりこの村の狩人に話を聞くのがベストだろう。
狩人はこの辺りの地理に詳しく周辺の森を監視しているから山賊などが住み着けそうな場所に心当たりがあるだろう。
この後の行動の方針が決まったので早速行動を開始する。
まずは宿屋の主人に狩人の居場所を聞くことから始めよう。
宿屋の店主から聞いた場所に向かうと小さな小屋が見えて来た。
解体された獣の革がなめし台で干されているのでここが狩人の小屋で間違いないだろう。
小屋の中を覗くと良く鍛えられた身体の中年の男が弓の手入れをしていた。
「邪魔するぞ。アンタがこの村の狩人で合ってるか?」
「そうだが…そういうアンタはどこの誰なんだ?」
「突然の訪ねて来てすまない。俺は傭兵の国から来たロアっていう者だ。」
懐からからプレートを取り出し狩人の男に見せる。狩人の男は傭兵の国と聞いて少し眉間に皺を寄せた。
昨日の屑共のせいでこの村の傭兵の国に対するイメージはかなり悪くなっているようだ。
「近くで見てもいいか?」
「構わねぇよ。」
俺のプレートは間違いなく本物なのでいくら見られてもボロが出ることは無い。
狩人の男は俺のプレートを手に取ると軽く力を入れて曲げようとするが本物もプレートがその程度では曲がるはずもなく、俺のプレートは狩人の男の手の中で変わらずに鈍い銀色の光を放っている。
「…本物だな。」
「わかるのか?」
「俺の親父が傭兵の国の出だったんだ。だから親父の本物のプレートを見たことがある。」
意外なところで繋がりがあったようだ。
傭兵の国を引退した者は自分の子に身体の鍛え方技を教えることが多い。
この狩人の男は一般人にしては身体を良く鍛えているようだし、俺のような明らかにカタギじゃないヤツが突然訪問して来ても焦った様子が無かったので父親から色々と教わって育ったのだろう。
「なるほど、本物のプレートを見たことがあったのか。ちなみにその傭兵の国出身の親父さんは?」
「十年前に死んだよ。元々病気が原因で傭兵の国を離れたんだ。」
「そいつは悪いことを聞いちまったな。」
「構わんよ、もう昔の話だからな。……ところで、私に何の用だ?」
「そうだった。本題を忘れるところだった。最近この辺りに山賊が出るようになったって聞いてな、その討伐を引き受けたんだ。奴らが住処にしていそうな場所に心当たりは無いか?」
「山賊……あいつらか。丁度いい、近いうちに何か手を打っておかなければと思っていた。」
「何か知ってそうな口ぶりだな。」
「先日、ここを出発した商人が襲われた痕跡を発見した。この集落は商人達のおかげで潤っているからこんな事が続けば死活問題だ。」
山賊共が活動する以上は当然ながら近くに奪う事ができる獲物がいることが大前提だ。
この辺りの集落は商人が行商に出る拠点として利用されているので、それを狙った山賊が住み着くようなったというのが事の経緯らしい。
「なら色々と情報を集めていそうだな。情報をくれれば俺が始末してくる。悪い話じゃないだろ?」
「確かに利害は一致しているな。いいだろう。奴らはどうやら偽装した傭兵の国のプレートとを使って村や集落に入り込んで商人の情報を集めているようだ。」
「なるほど…そいつは随分とナメた事をしてくれてるみたいだな。既に商人を襲っているなら略奪した品を保管している拠点があるはずだ。心当たりは無いか?」
「ここら辺でそういう物品を保管できそうな場所か…北の森の崖下の洞窟が怪しいな。」
「いかにもって感じの場所だな。探しに行く価値はありそうだ。場所を教えてくれ。」
「少し待て。地図を描いてやる。」
狩人の男はそう言うと紙に簡単な地図を描いて渡してくれた。
かなり簡略化されているが道中の目印になりそうな物が簡潔にまとめてあるので地図としての機能は十分ありそうだ。
「うん、これなら迷わずにたどり着けそうだ。念の為に聞いておくけど、この洞窟に一般人が立ち入ることはあるのか?」
「無い。この洞窟は魔物の住処になっているような場所だ。地元の者達はま近寄らない。居るすれば人目が無い事をいいことによからぬことを企んでいるような輩だけだ。」
「わかった。世話になったな。……えーっと……。」
「そういえばまだ名乗ってなかったな私はダムドという。」
「そうか、改めて世話になったな。ダムドさん。」
「こちらこそ、アンタが来てくれなかったら新たな被害者が出る事になっていたかもしれんし、最悪私や集落の者達が命を張ることになっていたかもしれない。闘いの勝利を祈っている。」
こうして無事に山賊の情報を得ることができたので、俺は拠点と思われる洞窟に向かって出発した。
山賊の拠点になっていると思われる洞窟には特に問題無く到着することができた。
道中は何度か低級の魔物を見かけたが今回は魔物狩りが目的ではないので、気配を消して交戦せずにやり過ごすことにした。
交戦を避けた甲斐あって体力の消耗もほぼ無いのでこれからの戦闘に万全の体制で挑む事ができそうだ。
(さて、問題の洞窟だが……隠れているようだが入り口付近に人の気配がある。どうやらここで当たりのようだな。)
隠れているのはおそらく見張りだろう。
こんな場所を隠れながら見張っているということは洞窟の中に見られたらまずい何かがあるということだ。
(ざっと見た感じ洞窟の出入口は見張りがいるあの一ヶ所だけだな。)
逃げられると面倒なので他に出入口が無いか確認しておく。
(気配からして、おそらく見張りは一人だけだ。となると…突入して相手が反応する前に先制が最善手か。)
そもそも俺は隠密行動が得意じゃない。気付かれずに排除するよりは気付かれても相手が何かする前に仕留める方が性に合っている。
早々に方針が決まったので洞窟の入り口から死角になるルートを通って入り口まで近づき、一気に踏み込んで気配がする方向にダッシュする。
突入前に予め片目を閉じて片方の目を暗闇に慣らしておいたのですぐに隠れていた見張りの居場所を特定することができた。
「っ!」
見張りが何か声を発する前に腹に一撃叩き込み、身体がくの字に折れたところを間を置かず喉に上からは肘、下からは膝で挟み込むような同時攻撃で仕留める。
上下からの同時攻撃で逃げ場が無い衝撃が喉を中心にして炸裂し、首の骨を砕いた手ごたえが伝わってきた。
力を失い崩れ落ちた体を横たえ、念の為にちゃんと仕留めたかを確認する。
間違いなく死んでいることを確認しゆっくりと息を吐き出す。
物音も最小限で仕留められたので奥の山賊達にはまだ気付かれていないはずだ。
空気の流れは感じないのでやはり出入口はここの一ヶ所だけのようだ。
死体を通路から見えにくい位置に隠し気配を消して洞窟の奥に進む。
しばらく洞窟の中を進んでいると次第に違和感を感じ始めた。
(……おかしい。入り口にいた見張り以外の山賊がいない。)
洞窟の中をどんどん進んでいるが、入り口で見張りをしていたヤツ以外の山賊に遭遇していない。
山賊の人数が少ないせいで遭遇していないだけの可能性もあるが、それにしては洞窟の中が静か過ぎる。
(何かがおかしい気がする。……慎重に進むか。)
なんとなくだが、第六感のようなものが警戒を強めた方がいいとささやいている気がした。
経験上、この手の感覚は無視しない方がいい。
警戒を強めながら進むと、別れ道になっている通路の付近でついに二人目の山賊を発見した。
だが様子がおかしい。
微動だにしていないし、そもそも気配が無い。そして何か肉が焼けたような臭いが漂っていた。
ゆっくりと近付き山賊の状態を確認する。
(…死んでるな。……頭の側面に貫通している小さな穴が空いている。これが致命傷になったのか。傷口から血が流れている様子が無い。これは……傷口が焼けてるのか。)
高温の熱光線のような何に頭の側面をブチ抜かれて殺されたようだ。
(おそらく、殺ったのは魔導士だろうな。魔導術ならこんな殺し方も可能だろう。見張りは普通に生きていたぞ。となると……仲間割れか?…もしくはこの洞窟に元から住んでいた魔物の仕業の可能性もあるか。)
俺のような外から来た侵入者が殺ったのなら見張りが生きていたのは不自然だ。となると洞窟の内部に元からいた何かが殺ったことになる。
(この山賊は壁に寄りかかるようにして死んでいた。そして、致命傷になった傷は頭の側面を貫通している。この頭の側面の傷からして致命傷になった攻撃の発射地点は別れ道のこっち側だろうな。)
状況からして、この山賊を殺したヤツは別れ道の片方から現れたようだ。
(俺とこの山賊を殺ったヤツが遭遇していないということは、犯人はもう片方側の方に進んだってことか。)
ここでどちらに向かって進むか少し悩んが、一旦山賊を殺った犯人が来たと思われる方に進むことにした。
この先で犯人と対峙することになった場合、事前に何かしらの情報を得られていた方が有利に立ち回れると判断したからだ。
犯人が来たと思われる方へ進むと、こちらの方はそれ程奥行が無かったようですぐに行き止まりになっており、そこには商人から略奪したと思われる物品が保管されていた。
(略奪品がここに置かれているってことはこの洞窟に元から居た魔物が殺った訳じゃないみたいだな。となると、やはり仲間割れか?………ん?これは……。)
犯人のことを考えながら略奪品が置かれている辺りの周囲に視線を巡らせていると気になる物を発見した。
それは鎖と拘束具の残骸だった。高温の何かによって焼き切られてたような痕跡が見て取れる。
(拘束具の残骸…つまり山賊が連れて来た何かが拘束を破壊して暴れ出したってことか。何にしても、人体をブチ抜き拘束を焼き切るような攻撃ができる何かがこの洞窟を徘徊してるってことだ。『闘氣』で防衛を固めておいた方がよさそうだな。)
俺は警戒のレベルを一段階引き上げ、来た道を引き返して犯人が向かったと思われる方に足を進めた。
結局、それから生きている山賊と遭遇することは無く、道中では六人の山賊の死体を発見した。
いずれも最初に発見した山賊と同じ様に熱光線のような何かに撃ち抜かれて絶命しており、その内の数人は反撃を試みたような痕跡があったが大した成果は上げられなかったようだった。
おそらくだが、山賊は既に全滅しているだろう。
洞窟の奥の方に通常の人とは何かが違う感覚がある気配が一つだけ残っていた。
俺は意を決して山賊を始末して回った犯人と対峙すべく洞窟の奥に踏み込んだ。
洞窟の奥には山賊の頭目と思われる男の死体があり、それを物色している人物がいた。
こちらに背を向けていたので犯人の顔を見ることはできなかったが、犯人の手元に何か光るものが見えた。
注視しると、それは鈍い光沢で光を反射している傭兵の国の銅プレートだった。
どうやら殺されている山賊は元傭兵の国の者だったようだ。
「お前、何者だ?」
そう問いかけると、ソイツはゆっくりとこちらに振り返り、元傭兵の国の者だった山賊から奪ったプレートを眺めながら口を開いた。
「えーっと…この字は何て読むんだっけ?………あっ、そうだ!思い出した。オレは〝クリス〟だ。今この瞬間からな!」
前話まではフワッとした表現でぼかしていましたが、今回の話から本格的に人対人の戦闘での残酷な描写が入るようになりました。
苦手な人は細かい描写を読み込まずにフワッと流し読むようにして下さい。




