屑プレート
屑プレートの処理という任務を引き受けた俺は傭兵の国を出て商国と呼ばれる国を目指し、数日移動してようやく人が生活している形跡がある場所にたどり着けた。
獣道というには幅が広い道に靴の跡が残されていた。
(これは…人の靴跡だな。人の活動範囲にはたどり着いたってことか。)
ここまでたどり着くまでの数日は野宿の連続だったので少しずつ疲労が溜まってきてる。
ある程度安全性が確保された屋根がある場所でゆっくり休みたいと思っていたところだ。
少し早足になりながら足跡を辿って進むとそこそこ頑丈そうな柵で囲まれた集落が見えてきた。
見たところ、ぼちぼちの規模の集落で人の気配もそれなりにあるみたいだ。
(思ったより規模がデカい集落みたいだな。屑プレートの情報が手に入るかもしれない。)
集落を囲っている柵がそこそこ頑丈そうなところを見ると、この集落にはそれなりに金がありそうだ。
こういった規模の集落で懐具合に余裕があるということは農業以外に別の収入源があるということなのだろう。
今回の旅の目的地である商国はその名の通り商業が盛んな国で、これは商国が大陸の中央に近い場所に位置していることが関係しているらしい。
大陸に存在する五つの大国はそれぞれ国と国の間に距離があり、その間は魔物が生息する領域になっている。
そして魔物の領域であっても関係なく突き進んでいけるような集団は傭兵の国以外には存在していない。
それ故に外国から流れてくる物品は高額で取引されるらしく、危険を承知で魔物の領域を突っ切って行商を行う商人が一定数いるらしい。
この村はおそらく、そんな彼等が出発前に情報を集めたり行商に出る際の最後の拠点としてこの集落を利用しているのだろう。
そうなると行商人をターゲットにした宿屋や酒場などがあるかもしれない。経験上、そういった場所には色々な情報が集まっている可能性が高い。
規模が小さい集落では物々交換が支流で金銭での取引はできない場合があるが、この規模の集落ならその心配もないだろう。
門の前まで進むと門番をしていた村人から声をかけられた。
「おい!そこのあんた、その場で止まってくれ。」
面倒を起こすつもりは無いので指示に従い歩みを止める。
「見たところ、行商人には見えないが……あんた旅人か?珍しいな。」
「ちょっとした野暮用で旅をすることになってな。俺はこういう者だ。」
こういう時に身分証の代わりにもなる傭兵の国のプレートを懐から取り出して門番に見せる。
傭兵の国はその性質上、国の端にあるような村や集落では歓迎されることが多い。
だが、今回の門番の反応はその例に反して拒絶の色が強かった。
「あんた、あいつらの仲間か?」
「あいつら…ねぇ。その様子だと俺以外にも傭兵の国の人間がここに居るってことか。これはもしかしたら一発目から当たりを引いたかもしれねぇな。」
「なにをブツブツ言ってるんだ!あいつらの仲間だっていうならここを通すわけには……」
「安心してくれ。おそらくだが、俺はアンタが言う「あいつら」ってやつの仲間じゃない。むしろ天敵ってやつかもしれないぜ。」
「……どういうことだ?」
その後、俺が旅をしている理由を話しと門番はあっさりと俺を通してくれて、その上役に立ちそうな情報も教えてくれた。
屑プレートそれは傭兵の国で使われる隠語の一つである。
傭兵の国にある身分証として使われているプレートは、仮登録として使われる木プレートから順番に鉄プレート、銅プレート、銀プレート、金プレート、白金プレートとランクアップしていく。
傭兵の国が発行しているこれらのプレートの種類の中に屑プレートという物は存在していない。
つまり屑プレートとは傭兵の国で発行されていないプレート、偽装された贋作のプレートを指すことばである。
門番をしていた男から聞いたとおりに道を進むと酒場が見えてきた。中からは酒場に相応しい喧騒が聞こえてくる。
「もっと酒を持ってこい!料理も全然足りてないぞ!」
「そんなことを言って…アンタ達はこの前も今見たいにバカ騒ぎした上、ツケだとか言って金を払わずに帰ったじゃないか!これ以上は金を出さない限り何も出さないぞ!」
「な~にぃ?このプレートが目に入らねぇのか?傭兵の国の人間だぞ!?魔王が侵攻してきた時に誰が戦ってやってると思ってるんだ!?」
どうやら傭兵の国の人間を名乗る者が酒場で騒いでいるらしい。
聞こえてきた発言から俺が追っているターゲットの屑プレート共で間違いなさそうだ。
本物の傭兵の国のほとんどの人間は基本的に魔王の侵攻を防ぐ為に闘っている訳ではない。
中には誰かを守るために闘う者もいるのは事実だが、ほとんどは単純に魔王や魔将、魔物を倒して金を稼ぐことが目的だ。
だから俺達はそのことで誰かに恩を着せるような真似はしない。自分の都合で闘うことを選び、己の全てを掛けて挑む。ただそれだけだ。
「面白そうな話をしてるな?俺も混ぜてくれよ。」
そう言いながら酒場入り、酒場の店主と傭兵の国の人間を名乗る者の言い争いに乱入する。
酒場の中には店主の他に二人組の男達がいてそれぞれ首から下げているプレートを見せびらかすように誇示していた。
「誰だ?おめぇは?」
「お前らと同郷だよ。」
そう言いながら俺も懐から自分のプレートと取り出して見せる。
「なんだ。俺等の同類か……。」
突然の乱入者に困惑しながらも俺が同郷だと言ったことで自分達と同類だと思って安心したようだ。
「お前等が本当に傭兵の国の人間ならな………ところでお前達のこのプレート…俺のプレートと違って脆いな。」
隙だらけの男達に歩み寄り首からぶら下げているプレートを奪い取り握りつぶす。
「知ってるか?傭兵の国のプレートは特殊な素材で作られていてそう簡単には傷つかない。だからこんな風に握った程度で形が変わったりはしないんだぜ?」
「おっ……お前っ…。」
「俺達のプレートはな……戦士として生きた証で誇りそのものなんだ。断じてお前等のような屑共が自分の弱さを偽る為のアクセサリーなんかじゃないんだよ!」
俺の放つ怒気に圧倒されて屑共の膝が震え始める。
この程度の威圧で動けなくなるっているところを見ると、この男達は多少ガタイがいかついだけで戦闘の心得は無いようだ。
大方何か問題を起こして地元に居ずらくなったはみ出し者が、楽をして生きていくために傭兵の国の人間だと名乗っているだけなのだろう。
出来心だったのかもしれないが、俺達の戦士としての証を玩具にしてこの先ものうのうと生きていけると思われては傭兵の国の沽券に関わるし、同じ事をやりだす馬鹿な輩が増えることになる。
「店主、邪魔したな、俺達はちょっと村の外で話をしてくる。」
蚊帳の外になっていた店主にそうことわりを入れて屑共を連れて外に出る。
傭兵の国がナメられるようなことがあってはならない。
ナメたヤツはわからせろ、それが傭兵の国のルールだ。
一仕事終えた俺は再び酒場に戻って来た。
今度は仕事ではなく、仕事を終えた後の飯食事が目的だ。
店主は快く俺を迎えてくれた。
「アンタはさっきのにぃちゃん。あいつらはどうしたんだ?」
「潰した。あいつらがもうこの辺を荒らすことはないぞ。」
「……アンタは本物の傭兵の国の人間ってことか。」
「まぁ、そういうことだ。ああいう連中が居るって情報が入ったからな。野放しにしてナメられたら傭兵の国全体の評価が悪くなって色々とやりにくくなるから、俺みたいなのが潰しに行くことになってるんだ。」
「そうか……アンタが本物の傭兵の国の人間なら一つ依頼がある。」
「依頼?」
「ああ、最近この辺に山賊が出るようになったんだ。何とかしてもらえないか?」
こういった依頼は基本的にはその国のハンターギルドに優先して出されるが傭兵の国に来ることもそれなりにある。
(俺達がやったことじゃないとはいえ、あの屑共が好き勝手してくれたせいでここらでの俺達の評判が下がっているのは事実。本物の傭兵の国の人間が協力的な姿勢を見せることで評判を回復するっていうのは悪い話じゃないか、それにちょっと気になることもあるし。)
気になる事というのはさっきの屑共が持っていた偽物のプレート、偽物ではあったが見た目だけは本物のプレートにかなり近い作りになっていた。
仮登録の木プレートや下級の鉄プレートなら比較的簡単に手に入れることができるが銅プレートから上のプレートを手に入れるにはその強さを周りから認められなければならない。
従って銅プレート以上の傭兵の国のプレートはそこら辺にありふれているような物ではない。
贋作を作ろうにも見本となる本物のプレートはそう簡単に手に入らないはずなのだ。
だがさっきの屑共が持っていたプレートは銀プレートの贋作だった。
つまりあいつらが持っていた贋作の銀プレートを作る見本になった本物の銀プレートを持っている傭兵の国を抜けた者がいる可能性がある。
傭兵の国で中途半端に力を付けたが、戦場で死ぬことが怖くなって国を抜けた者が行き場を無くしそのままそのまま山賊になるというのも珍しい話ではない。
そいった者達を始末するのも俺のような『獄卒衆』の役目の一つだ。
「わかった。その依頼受けさせてもらう。」
「本当か!あいつらは魔物の領域を根城にしているみたいで国の騎士団も真剣に対応してくれないし、ここら辺のハンターギルドの連中はあんまり頼りになる人が居なくて手詰まりだったんだ。引き受けてくれるなら飯と宿は提供させてもらう。」
思わぬところで飯と宿の心配が無くなった。
どうやら俺の任務はもう一波乱ありそうだ。
ひとまず今日の所はやっくり休ませてもらい明日から動くことにしよう。
最近忙しく時間の確保ができないので少し短めです。




