エピローグ
一連の事件の事後処理もあり、私達がエルフの里を出発したのは魔王が起こしたの騒乱が収束した二日後の昼になりました。
今回の事件でエルフの里側にはそれなりの被害が出てしまいエルフの里の皆さんは忙しく動き回ることになりましたが、基本的に部外者でしかない私達に出来ることはありません。
ですのですぐに出発する予定だったのですが、予定外…というか、想定外の修羅場に巻き込まれたりして出発が少し遅れてしまいました。
私達が巻き込まれた修羅場、それは一連の事件が収束したので寝かせておく必要がなくなったナイーダ嬢を起こして事情を説明したときの事。
事情を説明してもジェスターさんにのぼせ上がっていたナイーダ嬢は私達の説明を聞いても納得してくれず、「二人の愛を引き裂く陰謀などに惑わされたりしませんわ!」と一人で盛り上がって大騒ぎ。
私達だけではどうにもならないと判断してジェスターさんを呼んできてもらい本人から直接説明してもらうことになりました。
ジェスターさんはやはり父親であるカスケード殿の命令で動いていただけで、ナイーダ嬢が主張していように愛し合っていたという事実は無かったようです。
「勘違いさせるような思わせぶりな言動をして申し訳無かった。僕には他に愛する女性がいるので貴女が望むように共に生きることは出来ない。」
「ワタクシの純情をもてあて遊んだということですの!?許しませんわ!」
その後は激怒したナイーダ嬢が大暴れし騒ぎを聞いたゼイノビさんが現場に現れて事態を収拾しようとしましたが、ジェスターさんの想い人がゼイノビさんであることがナイーダ嬢にばれて修羅場の幕が上がりました。
「貴方がジェスター様の想い人~?ワタクシの方が断然美しいですわね。貴方、ジェスター様を脅迫でもしているんじゃないですの?」
「……初めて見た時から思っていたのだが、何なのだ貴女は!人の恋人を運命の人だのなんだのと一人で盛り上がって……いい加減にしてもらえないだろうか!私とジェスターは想い合っている。変な言いがかりはやめてもらおう!」
「だっておかしいじゃありませんの?貴方も多少は美しいですがワタクシのほうが、ダ・ン・ゼ・ン・美しいですもの!ジェスター様がワタクシよりも貴方を選ぶなんて不自然ですわ!」
「ジェスターは見た目だけで愛を語るような薄っぺらいヤツではないんだ!そんなこともわからない貴女がジェスターから選ばれないのも当然の話だ。」
「なんですってーーー!」
「僕が言えた立場でないことを承知で言うが、二人共少し落ち着いてくれ。」
「ジェスターは少し黙ってろ!」
「ジェスター様は首を突っ込まないでくださいまし!」
二人はなんとか仲裁しようとしたジェスターさんを瞬時に一刀両断しヒートアップしていきました。
そんな修羅場でしたが、最終的に介入した第三者の登場でなんとか収束しました。
「随分と元気が良いみたいですが…淑女には優雅さも必要な要素ですよ。」
激化する騒ぎを聞きつけてセイジさんが様子を見に来きました。
「誰ですの?今ワタクシは女として引けない闘いの真っ最中ですのよ。」
そう言いながら振り返ったナイーダ嬢がセイジさんの姿を瞳に捉えた瞬間固まり頬がポッと染まります。
「………貴方様の御名前を教えて下さいまし。」
数秒前までは烈火の如く怒っていたのが噓のような変貌ぶりでした。
後からわかった事ですがどうやらナイーダ嬢はいわゆる極度の面食いだったようでした。
ジェスターさんもかなり顔立ちが整っている方だち思いますが、セイジさんもかなり顔立ちが整っています。
好みの問題もあるでしょうがぶっちゃけた話、第一印象だけで二人のうちどちらがイケメンかと問われれば多くの女性がセイジさんを選ぶでしょう。
おそらく、元々ナイーダ嬢はゼイノビさんとジェスターさんを取り合っても勝ち目がないことはないわかっていたのでしょう。
それでも自分が振られたという事実が気に食わなくてゼイノビさんと争っていたのだと思われます。
ですがそんな事がどうでもよくなるような自分好みのイケメンが突然現れてたので争っている場合ではなくなったみたいです。
完全にセイジさんをロックオンしたナイーダ嬢が猛烈な勢いで距離を詰めてくるのを感じたセイジさんは、若干顔を引きつらせながらナイーダ嬢の相手をすることになりました。
こうしてセイジさんが犠牲になることでナイーダ嬢がおとなしくなり出発の準備を進めることができたのでした。
「貴殿達には色々と助けられた。今回の件で受けた恩をエルフの里は忘れない。総大将殿にもよろしく伝えてほしい。」
エルフの里を代表してシゲン様が別れの挨拶をして声をかけてきます。
「御力になれて良かったです。今後も傭兵の国をよろしくお願いします。」
こちらもダグラス先輩が代表となって挨拶し、握手をして別れました。
ちなみに先行してエルフの里を出たシキシマさんはあの後合流せずに一人で別行動で傭兵の国に帰還する手筈になっています。
行きは馬車で数日の旅だったので帰りは人数が増えたこともあってもっと時間がかかると予想していましたが、セイジさんが私達と同行して久しぶりに里帰りすると言い出したので帰りはグッと楽になりました。
「皆さん、忘れ物などは無いですね?では……跳びますよ。」
セイジさんが長距離転移術式で運んでくれる事になったからです。
「『天位術式・五十四番と六系統二十八番を接続』」
そういえばセイジさんのこの魔導術で転移するのは二度目になります。
あの時のように昼間であるにも関わらず空の星々が煌めいき始めます。
この現象は転移が発動する予備動作のようなものなのでしょうか?
相変わらずどういう理論で術式が構築されているのかさっぱりわかりません。
「『クルニークの抜け道』」
まともに考察する暇すら無く術式が発動し瞬時に視界ががらりと切り替わります。
傭兵の国の目印となっている亀龍の巨大な甲羅が見えました。
どうやら傭兵の国からはそれ程離れていない場所に転移したようです。
「……これほどの距離をこんな大人数で転移させるなんて……流石、総大将様の血筋。バケモノじみたことをいとも簡単そうにやってくれる………。」
近くにいたジャドさんがボソリとそんな言葉を漏らしました。
やはり空間系統の魔導術使いから見てもこの転移術は異常な事のようです。
「流石はワタクシのセイジ様ですわ!これ程の御技をあっさりとやってのける御方ならきっとお父様もワタクシの相手として相応しいとお認めになるはず!」
ナイーダ嬢もなにやらまた一人で盛り上がっていました。
転移先から傭兵の国までの移動は馬車があった事もあって、何の苦労も無く迅速に移動できました。
ナイーダ嬢と同じ空間に居たくなかったのか、セイジさんが馬車の御者を有無を言わさなぬ感じの圧を放ちながら買って出て、その上でなにやら馬車自体にも何かの魔導術を使ったようで馬車へ風のような軽快な速さで傭兵の国に一直線でした。
「さて、無事に着きましたね。私は久しぶりの帰還ですので父上に挨拶して参ります。」
「セイジ様の御父上に挨拶…ワタクシも参りますわ!」
「物事には順序というものがあります。ここでは完全に部外者である貴女はまず始めにギルドに行って諸々の手続をするのがルールです。女性のわがままといいうのは基本的には可愛らしいものですが、ルールを守らずに騒ぐのはわがままの範疇を超えています。」
「セイジ様……わかりましたわ!貴方達、さっさとワタクシをギルドとやらに案内して下さいまし!」
セイジさんはナイーダ嬢を上手く言い包めて別行動する事に成功していました。
多分この後は上手い具合に隠れてもう会わないようにするつもりでしょう。
「そんじゃ、オレ達もここで解散ってことでいいよな。」
「はい。ギルドへの報告は我々で行いますので任務の完了手続等は不要です。今回はありがとうございました。」
「……またね。レリアお姉ちゃん。」
ジャドさん、サヤさんとはここで分かれて私とダグラス先輩はナイーダ嬢を連れてギルドに報告すべくギルド本部を目指します。
ギルド本部に到着するとシャマルを見かけました。ギルド長への報告を済ませてから声をかけようと思っていると、ダグラス先輩が気を利かせてくれました。
「レリア君はシャマル君と仲が良かったな。この時間帯、ギルド長は定例会議でお忙しいはずなので少し時間がある。ちょっとぐらい話をしてくるといい。」
そんな訳でちょっとした空き時間ができたのでシャマルにあいさつしに行きました。
「シャマル…ちゃんと戻って来たよ。」
「レリア!無事で良かった!」
「シャマルが貸してくれたお守、効果抜群だったよ。忘れない内に返すね。」
魔王と対峙した際に切り札となってくれた口紅をシャマルに返します。
口紅を受け取ったシャマルが口紅を確認し驚きの声を上げます。
「ちょっとあんた!この口紅滅茶苦茶減ってるじゃない!どう使ったらこんな減るのよ!」
「ごめん。でもそれが無かったらきっと私帰ってこれなかったよ。」
「…何をしたのか知らないけど…役に立ったなら良かったわ。お帰り、レリア。」
「ただいま。」
自然とそんな言葉が出てきて、不意に私は私が返って来る場所はもうここなんだと実感しました。
兄と二人で狭い世界で生きてきた私が、兄の死という決してポジティブなことではないことがきっかけで外の世界に出ていくことになったわけですが、どうやらこの場所はちゃんと私の新しい居場所になっていたようです。
思えばあの隠里から出た理由は兄との想い出から逃げたかっただけだったのですが、外の世界に踏み出して自分なりに精一杯やれることをやった結果、今は清々しい気分でいられています。
隠里を出てからは兄のことを想い出すと何もできなかった後悔に胸が押しつぶされるばかりで辛いだけだったのですが、今の私はようやく兄の笑顔を素直に想い出せるようになりました。
きっと今の私なら兄も安心して見守ることができると思います。
「レリア君、ギルド長の手が空いたみたいだ。報告に行こう。」
「はい。今行きます。」
私は自分でつかみ取った新しい日常を生きていくために足を踏み出しました。
どことも知れない場所の洞窟の奥に隠されるようにして作られた研究施設。
その場所はとある狂った……いや、狂わされた研究者が最強の魔物を造るという目的の為に用意した場所で、その研究者が用済みとなって始末された後も施設だけは今も目的を完遂すべく稼働し続けていた。
夢を通じて対象に忍び寄り暗躍する魔王は魔力に身体を構成しており、エルフの里で起こった攻防によってこの魔王にとっては致命的となる攻撃を受けてしまっていた。
魔王は今この瞬間も継続している攻撃により溜め込んでいた力を失い続け、消滅の危機に瀕していた。
そんな魔王が生き残る為の活路として見出したのが、以前から準備していた自分専用の戦闘のための肉体。あゆる魔物の性質と特性を複合させた最強の魔物。
その肉体と融合して今も続いている攻撃の影響から抜け出すことだった。
魔王は敗北の屈辱を味わいながらも残った自分という存在をこの肉体に流し込み融合を進めていく。
魔物の肉体と融合したことでもはや魔王と呼べる存在ではなくなってしまうが、この魔王に残された生き残る手段はこれしかなかった。
やがて融合は完了し、どこともわからぬ場所でそれは目を覚ました。
三章はこれにて終了です。
次は登場人物紹介を挟んで四章となります。




