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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
レリア編
52/105

逆転の策

「【星零樹】様この周囲の空間をもっと広げることができますか?できれば私がいるこの場所を中心にして円形に空間を広げてほしいのですが。」


 そうお願いすると私がイメージした通りに周囲の空間がグンッと広がりました。

【星零樹】様は無事に私のお願いを聞いてくれたで、私は早速魔王を迎え撃つ為の切り札作り始めます。

 手に取ったのは、転けた拍子に荷物から飛び出してしまったシャマルから御守り代わりに預かった口紅。

 この口紅の材料になっているパテナという花は魔導器の素材にも使われている素材です。

 そのため、魔導式を書く触媒のインクの代わりとして代用しても導氣を流せるのでらある種の魔導紙のような物として使えるはずです。

 ギルトから支給された簡易テントの布を切って魔導式を描く魔導紙の代わりにします。

 四隅をその辺に転がっている石で固定しシャマルの口紅で魔導式を描いていきます。

 準備が整いうと一息つく暇も無く周囲の木々のざわめきが強くなり何かを警告してきました。

 もうすぐここに魔王がここに来るということなのでしょう。

 私は急いで仕上げに取り掛かります。


「…お願い。成功して!」


 祈るように構築した魔導式に導氣をながして魔道術を励起させます。

 私の祈りが通じたのか魔道術は正常に発動しました。

 その直後、音もなく周囲の空間に罅が入り裂け目が生じて隙間から魔王が出現しました。


「魔王…少し遅かったですね。貴方の触媒はもう別の場所に飛ばしました。」

「そのようですねぇ。最後の嫌がらせしてレンズが私の手に渡らないように転移させましたか。面倒な事を……私はこれから忙しくなるのでこれ以上は貴女達に構ってられません。さっさと死んで下さい。」


 そう言いながら魔王は私に向かって無造作に衝撃波のような何かを飛ばしてきました。

 直撃したら殺されていたでしょうが、私に届く前に何かに阻まれて私に届くことはありませんでした。


「これは……【星零樹】様が……?」

「はぁ……植物風情が面倒な横槍を……少々面倒ですがしかたがありません。力を溜めて防げない攻撃で仕留めるとしましょうか。」


 どうやら【星零樹】様が攻撃を防いでくれたようです。

 魔王は今度は確実に私を仕留められるような強力な攻撃をする為に魔力をため始めました。


「サヤさんをどうしたんですか?」

「当然、殺しましたよ。生かしておく理由なんて無いでしょ?」

「嘘、ですね。先程、貴方は「貴女達に」と言いました。既にサヤさんを仕留めていたなら「貴女」と言っていたはずです。サヤさんは魔力を斬るなんて芸当ができるみたいなので防御に専念されれば致命傷を与えるのにもそれなりの時間がかかるんじゃないですか?確かに生かしておく理由は無いかもしれませんが、サヤさんは時間を大量に消費してまでも殺す価値がある相手でも無いでしょう?」


 出来るだけ自信満々な口調で喋りましたが、今言ったことはただの願望です。

 ですが、案外的を得た発言だったようで魔王は否定の言葉を口にしませんでした。


「否定しないということは、やはりサヤさんを殺して来たわけではないみたいですね。」

「はぁ…貴女は下等生物のわりには賢しいですねぇ。今回の計画にはかなりの時間と労力をかけてきたのに、貴女にレンズの存在がばれてから色々と台無しになりました。貴女のような存在は生かしておくと面倒ですので確実にここで殺しておくとしましょう。」

「下等生物……ですか。以前もそんな風に言ってましたね。」

「以前にも……?ふむ、どこかで殺し損ねていましたか……今後は取りこぼしをしないようにもっと念入りにやらねばいけませんねぇ。」

「その反応。やっぱり私のことは憶えてすらいなかってんですね。」

「当然でしょう?下等生物など一々憶えておく価値などありません。」

「その下等生物に計画を見抜かれて色々と台無しにされているのに?」

「うるさいですねぇ。確かに色々面倒なことになり計画の修正をしなければならない事態にはなりましたが、しょせんそれだけですよ。まだいくらでもやりようはある。王族の娘とレンズを回収して計画を修正すればそれで終わりだ。」

「確かに魔王などという、とんでもない存在の前では私なんてちっぽけなものでしょう。ですがそんな風に見下しているから足元をすくわれるんですよ?」

「……最後の嫌がらせの為にレンズが私の手に渡らないように嫌がらせをしたわけではない?何かに考えがあるとでも?」

「はい。貴方は洗脳したエルフの方を通じて私が把握していない情報を持っているのでようが、私はそんな貴方でも把握していない重要な情報も一つだけ知っています。」


 魔王は既に私を殺すには十分な程度には魔力を溜めているようですが、私の話に興味を持ったようで攻撃の手を止めました。


「私が把握していない情報ですか……興味深いですねぇ。それはいったいどういうものです?」

「それは……。」


 できるだけ時間を稼ぎたいのでもったいぶっていると、不意に魔王が何かを感知したかのような動きをしました。

 どうやら、成功したみたいです。


「どうしました?もしかしてこの辺り全域に逃亡を阻害するような結界でも張られましたか?」

「……貴女、危険ですね。話を聞いてからと思っていましたが、すぐに処分した方がよさそうです。」


 魔王が私を殺そうと魔力を放とうとしますがそれよりもわずかに速く、魔道式を描いた辺りの空間が歪んで向こう側から誰かがこちらに現れます。


「最後になるでしょうから教えてあげます。転移の魔導術って高位の魔導士がその痕跡を見るとその点位を読み取ることができるそうで、どこから送られて来たのかわかるそうです。だから……」


 私の話を最後まで聞かずに魔王が攻撃を放ってきますが、転移してきた人物によってその攻撃はあっさりと防がれました。


「いやはや、驚きましたよ。まさかレリアさんがここまでの状況を作ってくれるとは。随分と無茶をしたんじゃないですか?」

「無茶ぐらいしないと、魔王には届きませんよ。ここから先はお願いしてもいいでしょうか?」

「はい、もちろんです。」


 私の転移術からこの場所の点位を読み取ってこちらに転移してきた人物、セイジさん力強くそう返事をしてくれました。




「また面倒そうなのが……。なんなんですか?貴方は?」

「初めまして、になりますね。わざわざ聞かなくても察しは着いてるんじゃないですか?貴方の敵で、貴方にとっての死神ですよ。」

「そうですか、では死んで下さい。」


 すかさず魔王が再び魔力を放って攻撃しますが、セイジさんは今度の攻撃もあっさりと防いでしまいます。


「この程度の攻撃は通りませんよ?なにせ私は貴方と対峙するこの時に備えて色々と念入りに準備していましたからね。『天位術式・壱番から五百五十五番までを励起』、続いて『セイネルの不可視なる盾』。」


 私の周囲で不可視の力が渦を巻いているのを肌で感じました。

 どうやらセイジさんは私に魔王の攻撃が届かないように防御の魔導術を使ってくれたようです。

 セイジさんが想定よりも強い相手だと理解したのか魔王は闇雲な攻撃は控えて周囲に視線を巡らせます。


「逃げ道でも探しているんですか?無駄ですよ?レリアさんがレンズと一緒に魔王を逃がさないようにしてくれと手紙を飛ばしてくれましたからね。この場所に転移してくる前に結界を張らせてもらいました。」


 逃げられないと知った魔王は先程の動きから打って変わり殺気をまき散らしながら猛攻を始めます。

 ですがセイジさんは涼しい顔のままその全てを防ぎ、躱し、捌き切ります。


「ふむ、段々と貴方がどんな魔王かわかってきました。分体であることを差し引いても貴方は魔王にしては随分と弱い。察するに貴方は戦闘に特化した肉体を持たないタイプの魔王…ですね。」


 セイジさんの言葉が魔王の逆鱗に触れたのか攻撃の激しさが増します。

 更に割れたままだった空間の裂け目から黒い靄が流れ込んできてそれを魔王がどんどん吸収して力が増していきます。


「弱いと言われて随分とお怒りの様子、…図星みたいですね。力を搔き集めているようですが、元々こういった戦闘を前提に創られていない貴方ではたかが知れています。」


 その言葉を証明するように激しさを増した攻撃の中でもセイジさんの余裕は崩れません。


「貴方はどうせその身体が本体からの切り離した末端だから、最悪倒されてもいいと考えているんでしょうがそうはいきませんよ。そういった存在に対して有効な手段もありますからね。『エンデの滅びの月』。」


 セイジさんがその魔導術を発動させた直後、魔王の身体が末端から少しずつポロポロと崩れ始めます。


「ッ!これは……!?」

「『エンデの滅びの月』っという話を知っていますか?この話は南西の地域に伝わっている童話で……話し終わる前に死にそうですね。手短に話すと神の怒りに触れてしまい月の光に触れると身体が少しずつ消えていく呪いを受けてしまった少年の話なんですが……もっと端折らないと持ちませんね。結論から言うと今私は月に貴方の魔力を祓う効果を付与しました。これにより今後この世界において月の光は貴方を攻撃する効果を得ました。故にもう貴方にはこの世界に逃げ場は………もう聞こえてないみたいですね。」


 こうしてあっけない程あっさりと魔王は倒されてしまいました。




「ありがとうございます。それにしてもあんなにあっさりと魔王を倒すなんて……。」

「元々戦闘に特化していない魔王でしたしね。それにレリアさんが勝てる状況を作ってくれたのでスムーズにできました。」

「倒せる状況…ですか?」

「はい、『エンデの滅びの月』は対象の指定が細かければ細かい程その効果が強くなります。だから魔王が逃げられない状況でじっくりと魔王の魔力の波長を分析できなければあそこまでの効果は得られませんでした。」

「あの魔王はこれで完全に滅んだんですか?」

「完全に滅んだという保証はありうませんが、あの魔王は今後月の光を浴びると身体が消滅するようになりました。今後は生きていたとしても大したことは出来ないでしょう。」

「そうですか………では、私は魔王に一矢報いることができたということでしょうか?」

「一矢報いるどころか大金星ですよ。あの魔王はレリアさんに長年かけて進めていた計画を台無しにされたあげく、今後まともに動くことすらできなくなったわけですから。」

「そう……ですか。なんだか実感がわきません。」

「あっさりとした幕切れでしたしね。でもこれは事実で、レリアさんは間接的にですが魔王に勝ったんですよ。」

「そっか……私、勝ったんだ。あの魔王に………。」


 未だに何の実感もありませんが、こうして私の闘いは幕を閉じたのでした。

丁寧な口調のキャラが三人も集まってしまい文章が読みなくくなってしまってしまいました。

魔王との戦闘は語り部であるレリアが戦闘職ではないので、激しいものにするとほとんど何が起こったか描写されずに終わりそうだったのであっさりにしました。

ちなみにセイジの使う魔導術の技名の『~~~の~~~』というのはこの世界の星座などに関わる童話に出てくる人物や道具、出来事の名前です。

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