自分なりの闘い方
魔王の魔力を感知する術式が反応した場所はナイーダ嬢の顔面の近くでした。
ですがナイーダ嬢はメイクやアクセサリーの類を身に付けている様子はありません。
ですが、私は数日前にシャマルから聞いた目の中に入れて視力を矯正する道具の話を思い出しました。
思い返してみると起きていた時に見たナイーダ嬢の目はやたらとキラキラしていました。
上流階級の御令嬢であればあれぐらい目がキラキラしていたとしてもおかしくないと思っていたのですが、改めて考えてみるといくらなんでもあんなに目がキラキラしていたのは不自然でした。
私は確信を得るために閉じている瞼に魔導術を近づけていきます。
すると私の推測通りに僅かだった反応が強くなっていきました。
私が確信を得ているところにサヤさんが話しかけてきます。
「…どうかした?」
「魔王の干渉の痕跡を発見しました。急いで皆で対策を考えなければいけませんね。……そういえばシキシマさんってまだ戻ってないですよね?」
「…もう戻ってる。」
「いつの間に…。」
「…少し前。レリアは寝てた。」
先程私がうたた寝してしまっている間に戻っていたようです。
なにはともあれ、魔王の関与が確定した以上はその事を考慮した脱出計画を立てなければなりません。
「早急に脱出計画について話さなせればいけません。皆さんを呼んで来ますのでナイーダ嬢を観ていてください。」
私はそう言い残して皆を呼んでくるために部屋を飛び出ました。
別室で各々仮眠などを行っていた皆さんを招集してナイーダ嬢を寝かせている部屋に集まってもらいます。
「レリア君、早速だが脱出計画について早急に話さなせればいけない事が発覚した、という話だが具体的に何があったか詳しく話してくれ。」
「はい。今回の事件の裏にいると思われる魔王ですが、魔王の力が込められた触媒を通して対象の夢に干渉することで自分の手駒を作り出す手法が確認されています。」
「確かにギルド長から頂いてた資料にはそんな記載があったな。そのこともあって、私も定期的に魔王の魔力を検知できるという魔道術を発動させてみていたのだが反応は一度も無かったのだが…。」
ダグラス先輩はダグラス先輩で定期的に魔力検知の魔導術を発動させて警戒してくれていたようです。
そんな話をしているとシゲン様も話に加わってきます。
「魔王の関与の可能性は聞いておるが…この地は【星零樹】様の領域じゃ。故に魔王が好き勝手できるような場所ではない。魔王の魔力を【星零樹】様が検知したら森が何かしら動きをするはずじゃが、今も森は静かなままじゃ。魔王の関与なんぞ本当にあるのかのぅ?」
実際に魔王が関与している痕跡を見ていない御二人はまだ魔王の関与に懐疑的な様子です。
「ナイーダ嬢の瞳に魔王の魔力の触媒になっているガラスのレンズが仕込んであるのを確認しました。そちらでも確認してみてください。」
私に促される形でダグラス先輩とシゲン様が眠っているナイーダ嬢を取り囲む形で近づき、閉じられている瞳を調べ始めます。
「本当だ!僅かだが魔力を検知する魔導術に反応がある。」
「なんと!ここまで近づかなければわからなかったが…確かに瞳の辺りから異質な力を感じる。」
御二人が魔王の関与の証拠を確認したので改めてこの後に脱出計画について話し合うことにします。
「このような物が存在しておるとは………これ自体にはそこまで強い力は無いようじゃな。干渉能力を犠牲にすることで外に漏れ出ておる魔力を極限まで抑えておるのか。…もしこれと同じような物がこの里に大量に出回っていたとしたら…事態は思っておったより深刻かもしれん。」
「そうですね…カスケード一派以外にも不特定多数の魔王による洗脳を受けた者達がいることになる。その者達も相手にすることを考慮した計画をたてる必要がありそうだ。」
「いえ、おそらくですが魔王から妨害はないでしょう。むしろ脱出に協力するような動きをしてくるかもしれません。魔王の目的は私達にナイーダ嬢を奪還させてラガンジャ国の中心に自分の手駒となる存在を送り込むことだと思われます。」
「レリア君は魔王の目論見についてもある程度の考察が済んでいるのだな。ではまずはレリア君の考えを聞こう。」
ダグラス先輩から促されたので私の考察を皆に話すことになりました。
「はい。おそらく今回の事件での魔王の目的はラガンジャ国の中心に自分の手駒となる存在を作り出すことにあったのだと思われます。ナイーダ嬢は王家の血筋であるためラガンジャ国の結界を作り出すアーティファクトに近づく機会があるでしょうから、この目論見が成功すればラガンジャ国の守りの要である結界を崩せるかもしれない強力な手駒になるでしょう。」
「なるほど、魔王はカスケード一派の中にも作り出していた手駒を通じて誘拐したナイーダ嬢の瞳にこのガラスを仕込み、その後我々にナイーダ嬢を奪還させて国元に帰させることでラガンジャ国の中心に手駒を送り込む計画というわけか。確かにありそうな話だ。」
話をしていると不意にサヤさんが鋭い視線でナイーダ嬢の方を見て私を庇うように剣に手を添えて戦闘態勢に入りました。
一拍遅れてジャドさんとシキシマさんもサヤさんに倣うような形で戦闘態勢に入ります。
何事かと思いナイーダ嬢の方を見ると、さっきまで眠っていたはずのナイーダ嬢がうっすらと目を開き異様な視線をこちらに向けていました。
「……見られてる。」
サヤさんが小さくそう呟きました。
対峙しているナイーダ嬢との間に緊張感が高まりますが、唐突にナイーダ嬢の体から力が抜けて再び眠りにつき始めます。
それと同時に森全体の空気のようなものが変わったと肌で感じました。
「どうやら、魔王にこちらが魔王の目論見を看破していることがばれたようじゃな。森が警戒態勢に入っておる。魔王が潜伏を辞めて強硬手段に出始めたようじゃ。」
ここにきてまた事態が一転したようです。
魔王が動き出した以上は悠長にしている暇はありません。
手早く方針を決めて動き出す必要があります。
「魔王はどう動いて来るでしょう?」
「わからない。だが、ナイーダ嬢を手中に収めようとはしてくるだろう。筋書きが変わろうともナイーダ嬢を手駒にしてラガンジャ国に送り込むという目的は変わらないだろうからな。」
「では我々はナイーダ嬢を連れて脱出するという目的は変わらないということですね。………なら、ナイーダ嬢の目のレンズは回収して利用するのはどうでしょう?」
「あのレンズを利用する?」
「あの魔王は夢に干渉して本人に自覚が無いままに対象を洗脳することができます。ですがその状態を永遠に維持できるとは思えません。おそらくですが、ナイーダ嬢が国元に帰った後も洗脳状態を維持し続ける為にはあのレンズが必要なんじゃないかと思います。」
「確かに一度洗脳してしまえば後は永遠にその状態を維持できるとは考えずらいな。もしそれが可能ならば世界中に魔王に洗脳された者達が溢れかえっているだろうし。」
「はい。ですからナイーダ嬢とレンズを別々のルートで脱出させるというのはどうでしょう?」
「なるほど、追跡対象を分散させるということか。だが、魔王としては最悪ナイーダ嬢のみを確保できればそれでいいだろうから戦力を分散させてしまうのは悪手ではないだろうか?」
「いや、その案でいくのが良いじゃろう。戦力ならワシらで補強する。こうなった以上はカスケードといがみ合っている場合ではないからの。やつに話を通して協力させよう。」
「カスケード一派に協力を仰ぐということですか?」
シゲン様が衝撃的な提案をしてきました。それができるなら大きく話が変わりますが本末転倒な気がします。
「魔王という共通の敵が動き出し【星零樹】様の領域に魔王の魔の手が迫っておるのじゃ。アヤツもこの状況で協力しないという程に意固地ではないはずじゃ。」
シゲン様は私達が思っているよりも事態を重く受け止めているようです。
何はともあれカスケード一派の協力を得られるならそれを加味した具体的な脱出計画についての話をすることにします。
「エルフの里側の人材で誰が魔王の影響を受けているかわからない以上は下手に護衛のとして側についてもらってもリスクが高い。そこで、そちらの御令嬢を連れて脱出する方法だが抱えて走るよりも『朧霞』殿に御令嬢を連れ出した時と同じ魔導紙を一定距離を置いて配置してもらって、オレの転移術を連続発動させて一気に脱出するの方がいいだろう。この方法なら準備が整うまでここに籠城する事ができる。」
「なるほどのぅ。外部の守りを固める分には魔王の影響を受けた者が混ざっていたとしても影響は少ないじゃろうからいいかもしれん。」
「そういうことならシキシマさんにこのレンズを持ってもらうのも悪手になりますね。魔王も自分の力が込められた物がどこにあるかは分かるでしょうから、シキシマさんの隠密行動の邪魔になります。」
ジャドさんが良い案を出してくれたのでナイーダ嬢を脱出させる作戦はあっさりと決まりました。
「さて、次は魔王の力の触媒であるレンズを持って脱出する方だが………。」
「私が行きます。通常の人間種のダグラス先輩よりも獣人種である私の方が足が速いです。」
「かなりのリスクを伴うことになるぞ?」
「これは私の闘いでもあります。それにダグラス先輩には他にやってほしいことがありますので…。」
「…レリアお姉ちゃんが行くなら護衛に着く。」
ダグラス先輩と話をしているとこれまで黙って成り行きを見守っていたサヤさんが口を開き護衛をかって出てくれました。
こうして方針が決まったので各々が動き出し脱出作戦が開始されました。
つまりラガンジャ国のナイーダ嬢は裸眼じゃないんだってこと…。
キャラクターの名前を考えている時にネタバレが凄い某RPGの影響を受けたことは否めません。




