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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
レリア編
49/104

魔王の仕込

「えーっと…愛するジェスター様…というのは?」


 ゼイノビさんが絶句しているので私が代わりに事情を聞き出すことにします。


「ジェスター様はワタクシの運命の人!この地であの方と共に新しい世界と秩序を作っていく事こそがワタクシの運命なのですわ!」


 質問した私に向き直った御令嬢はやたらとキラキラした目でそう力説し始めました。

 いまいち要領を得ませんがなんだか妙なことになっていることだけは理解できました。

 その後も、大層な言い回しながらも妄想に近いようなこ事をベラベラと喋り続けている御令嬢をよそに、近くにいたダグラス先輩とこっそりと話をします。


「ダグラス先輩これってどういう状況なんでしょう?」

「おそらくだが、カスケード一派に囚われている間に何か吹き込まれたんだろう。」

「なるほど、情報操作してこちらの御令嬢が自主的に逃げ出さないようにしたということですね。」

「それだけでは無いと思う。カスケード一派の目的はこちらの御令嬢と自分達とで血が繋がった子孫を作り、血筋を取り込む事にある可能性が高い。」

「えっ?どういうことですか?」

「魔王の侵攻を阻む結界は古代のアーティファクトによって作り出されている。そのアーティファクトの起動と維持には王家の血筋の御方が必要らしい。」


 つまり先程の御令嬢の新しい世界だの秩序だのという発言は、エルフの方々と共謀して現在の王家を追い落として新しく国の支配者になるという意味なのでしょう。


「まぁ、こちらとしてはナイーダ嬢がどのような思想を持っていたとしても我々の目的は変わらない。だが、この様子だと脱出に際して御令嬢の協力は得られそうにない。どうしたものか……」

「ひとまずは寝ててもらうのが一番だろ。オレの魔導術で気絶させておこうか?」

「協力が得られない以上、それが無難ですかね。お願いします。」


 未だに何事かペラペラと喋っている御令嬢にジャドさんが魔導術を使うと、御令嬢は「キュウ」という微妙に情けない声を上げてナイーダ嬢ら意識を失いました。


「これでしばらくは起きないだろう。脱出の計画を練るのは『朧霞』の爺さんが戻ってきてからの方がいいだろうしいったん解散にするか。」

「そうですね。もう夜も遅いですから一旦ここらで各自休憩をとることにしましょう。申し訳ないですが女性陣のどなたかにナイーダ嬢の面倒をお願いしたいんですが。」

「それなら私が。現状で他に役に立てるようなことはないでしょうから。」

「ではレリア君にお願いしよう。」


 こうして深夜の作戦は一応成功という形で幕を閉じました。

 解散になった後でショックを受けている様子のゼイノビさんに声をかけます。


「ゼイノビさん…大丈夫ですか?」

「すまない…ジェスターにもきっと何か事情があってこんなことになっているんだと思うが…ちょっと動揺しているみたいだ。通常ならこの場合、あの御令嬢は私が見ているべきなんだろうが…少し心の整理がしたい。この場はお任せする。」

「任せてください。」


 ゼイノビさんも心の整理をするために皆さんと一緒に部屋を後にします。

 結局、部屋には私とサヤさんだけが残ることになりました。


「この場は私が残りますから、サヤさんも休んでてもらっていいですよ。」

「…どこででも休めるから、ここに残る。」


 ナイーダ嬢は眠っていますし何もないとは思いますが、一応私を一人にしないように気を使ってくれているようです。

 ここはサヤさんの優しさに甘えて一緒にいてもらうことにしました。




 気がつくと私はふわふわとした暗闇の中を漂ってにいました。

 ぼんやりとした意識でここはどこだろう?と周囲を見渡すと死んだはずの兄の姿がありました。

 その姿を見たことで今、自分は夢を見ているんだと自覚しました。どうやらいつの間にか眠ってしまったようです。

 久しぶりに見た兄はどこか心配そうな目でこちらをみつめています。


「兄さん…何か私に伝えたい事があるの?」


 そう問いかけますが兄には声が届かないようで依然として心配そうな目でこちらを見つめ続けるだけです。


「兄さん!」


 それでも声をかけ続けていると兄が何かを伝えようと口を開きました。

 ですがその言葉を聞く前に近くで何かが落ちる音が聞こえて、急速にふわふわとした暗闇が晴れていき、現実の世界へと意識が覚醒します。

 ハッとして周囲を見渡すと足元にいつも持ち歩いているペンダント型の魔導術の触媒が落ちていました。

 普段は首からさげているのですが今日は手持ち無沙汰だったので手元に置いて魔導術の術式を構築する練習をしていました。

 ですがどうやら眠ってしまった拍子に手から滑り落ちてしまったようです。


「そういえば、この触媒は兄さんが作ってくれたんでしたね。これも虫の知らせってやつなんでしょうか…結局、兄さんは私に何を伝えたかったのかな?」


 兄が私に何を伝えようとしていたのかはわかりませんでしたが、現在作戦は順調に遂行できているので問題はないように思います。

(あれ?………本当に問題はない?今回の事件には裏に魔王がいる可能性が高い。なのにターゲットのナイーダ嬢の奪還までは魔王からの妨害もなく順調に任務を遂行できている。)


 不意に順調に行き過ぎているという現状に違和感を覚えました。

(そうだ。もしこの事件の裏に魔王がいるなら、魔王からの何かしらの妨害があったとしてもおかしく無い。なのに現状は順調過ぎるぐらいに問題無く任務を遂行できている。)

 もちろん今回の事件の裏に魔王いなかったという可能性もあります。

 ですが、兄さんが残した情報が空振りだったとは思いたくありません。

 だから私は一旦、今回の事件の裏に魔王の企みがあることを前提にして考えをまとめることにします。

(そもそも今回の事件での魔王の狙いって何だろう?)

 そんな疑問が頭をよぎり、私は今回の事件を一から整理することにしました。

 事の発端はラガンジャ国の王家の血を引く御令嬢であるナイーダ嬢がエルフの里の過激派勢力であるカスケード一派に拉致されたこと。

 兄さんの残した情報によれば魔王はエルフの里で暗躍している可能性が高いことから、この拉致事件は魔王が仕組んだ事件ということになる。

 つまり魔王は何かの目的があってナイーダ嬢を手中に収めたかった?なのに今は一転して私達の奪還作戦を全く妨害せずに静観している?

 魔王が事件に関与しているとしたらこれらの行動は矛盾していることになります。せっかく裏から手をまわしてナイーダ嬢を手に入れたのに今度はあっさりと手放そうとしているのだから。

 実は今回の事件には魔王は関与しておらずシキシマさんの潜入とジャドさんの魔導術が完璧だったからここまで何の問題もなく順調だったと考えた方がしっくりくる状況です。

(やはり、今回の事件と魔王は関係が無い?………いや、ここがきっと私の闘いの分水嶺だ。ここで間違えたら私はまた何もできないまま終わる。考えろ!戦闘能力が無い私が魔王に勝つ方法はそれしか無い。)

 魔王がせっかく手に入れた御令嬢をあっさりと手放すことを良しとする理由。

(用済みになって手元に置いておく必要無くなった?いや、その前に魔王はなんの目的があってあの御令嬢を手中に納めたかったのか…まずはそこから考えよう。)

 そもそも、魔王の最終目的は人類の生存圏内への侵攻です。今回の事件でナイーダ嬢を拉致したのもその為の布石なのでしょう。

 では、何故ナイーダ嬢を手に入れたかったのか。それはやはり、ナイーダ嬢が王家の血筋の者であることが関係しているのだと思います。こう言ってはアレですがあの御令嬢の特別と言える要素はそれぐらいしかなさそうです。

(王家の血筋であるナイーダ嬢は結果を作り出すアーティファクトの発動と維持をすることができる。それはつまり、今の王家の方々に何かがあればその代行としてアーティファクトの発動と維持をする役目があるということ。もし仮に代行者としてその役目を遂行することになれば、当然ながら結果を作り出しているアーティファクトの近く行って干渉することになる。)

 ここまで考察して今度はあの魔王の手口について考えることにします。

(あの魔王は夢に干渉する力があるという話でした。兄さんはいつの間にか手にしていた魔王の魔力が込められていた本を触媒にして意識を誘導されていた。…思い返してみると兄さんは研究に没頭するあまりあの本を枕にて机に突っ伏すようにして寝ることが多かった。…もしかしてあの魔王が夢に干渉するためには、干渉したい対象が寝ている時に近くに触媒がある必要があるのでは?だとしたら既にナイーダ嬢の夢に干渉する為の触媒を仕込んだからもう手元に置いておく必要が無くなった。もしそうなら、このまま私達がこの御令嬢をラガンジャ国に返したら国の中枢部に自分の息がかかった手駒を送り込める。)

 こう考えると魔王がせっかく手に入れたナイーダ嬢をあっさりと手放す事を良しとした理由に説明が着きます。むしろここまで順調過ぎるぐらいにスムーズに作戦が遂行できたのは、私達にナイーダ嬢を奪還させたかったからで、そのために魔王はカスケード一派側の方を妨害していた可能性すらあります。

 この考えが正解だったなら現在も魔王の魔力が込められた触媒となる何かをナイーダ嬢が所持していることになります。

 私はこの推測を確かめる為にナイーダ嬢を調べる事にしました。

 まずはナイーダ嬢が身に付けている物について調べます。ですがナイーダ嬢は高級そうな寝衣姿でアクセサリーの類ほ身に付けている様子はありません。

 虎の子のトリア様から教わった魔王の魔力を感知する魔導式も起動させてみますが反応はありません。

(魔導術に反応は無いし、寝衣以外で何かを身に付けている様子も無い……私の推測が間違っていた?)

 予想に反して調査の結果は白で、魔王の魔力が込められた触媒を発見することはできませんでした。

 魔王の魔力が込められた触媒がない以上はこれまでの推測はただの私の妄想だったということになります。

 私は落胆しながら近くの椅子に腰を下ろしました。

 一連の私の行動を黙って見ていたサヤさんが私の落胆した様子を心配したのか声をかけてきます。


「…どうかした?」

「いえ…なんでもありません。」


 サヤさんにはそう言ったものの、やはり違和感と言うかすっきりしない感覚が残ります。

(やっぱり何かが引っかかる…でもさっき調べた限りでは何も見当たらなかったし、教わった魔導術にも何の反応もなかった。何かを見落としいる?)

 そう思いながら改めて魔王の魔力を探知できる魔導術を発動させてみますが、やはり何の反応もありません。

(やっぱり反応は無い。……よく考えたら私はこの魔導術の術式についてはほとんど何も理解していない。トリア様から術式を教わっただけだから効果範囲も反応する条件も理解せずに使ってる。術式に反応が無いのはもしかしてそのせい?)

 探知の術式を正常に使えていなかった可能性を考慮し、どうしても諦めきれなかった私はもう一度ナイーダ嬢を調べることにします。

(やっぱり外観を見た限りで魔王の魔力の触媒になりそうな物は身に付けていない。皮膚の下に埋め込んでしまっている可能性もあるけど…そんなことをすれば埋め込まれている箇所の皮膚が盛り上がっていそうだし外傷だって残ると思う。だけどナイーダ嬢にはぱっと見た限りだとそんな様子はない。いっそ服を脱がして調べるべきだろうか…。)

 そんなことを考えながら起動させたままにしておいた魔導術をナイーダ嬢の身体に触れるぐらいに近づけながら全身を観察します。

 そうしているとナイーダ嬢のある部分に魔導術を近づけてた時に僅かな反応がありました。


「反応があった!どもここには触媒になりそうな物なんて何も………そうか!魔王はここに触媒を隠したんだ!」


 遂に答えに辿り着いた私は思わず声を上げてしまいました。

レリアさん、兄からの虫の知らせを受けて急に覚醒。

魔王が何処に触媒を隠したのかの答えは次回まで引っ張ります。

読者の皆さんも魔王が触媒を何処に隠したのか考えてみて下さい。

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