修羅場のかおり
いきなりかけられ罵声に驚いて振り返ると五人程のエルフの集団がいました。
どうやら、その集団のリーダーのような立ち位置のエルフが先程の発言をした方のようでした。
咄嗟に声が出ず何も言い返せないでいると、隣にいたサヤさんが僅かに腰を落として剣に手を添え始めたので慌てて止めに入ります。
私がサヤさんを制止している間にここまで案内してくれたゼイノビさんが代わりに反論してくれます。
「今の発言を取り消せ!こちらの方はシゲン様が正式に招いた客人だ。」
「穢れから産まれた存在をこの里に招くとは、やはり穏健派は我々の崇高な使命を蔑ろにしているんだな。」
「取り消せと言ったぞ!三度目の忠告はない!これ以上侮辱の言葉を吐いたなら我々への宣戦布告とみなす!」
「はん!貴様らには我々と争う覚悟など無いだろうに。」
「貴様っ!」
流れを静観していたらあっという間に一触触発の雰囲気になってしまいました。
どうにかして仲裁できないかと考えていると、思わぬ助け舟が現れました。
「何を騒いでいる?」
「申し訳ありません。神聖なる【星零樹】様の御前にこの穢より産まれた者が近づくのが見えたので…。」
「穢…獣人種か。確かにかの者たちは卑しい産まれだが、大いなる意思はかの者たが今や世界の一部となった事を認め、自由意志の下に己が生命を全うすることを望んでいる。である以上はかの者たちの存在と自由を否定するということは、大いなる意思を我々が否定する行為につながる。」
「申し訳ございません。私はその様なつもりではなく…。」
「害意をもって【星零樹】様に近づこうとしたわけではあるまい。ならば我々が咎める理由はない。この者に謝罪せよ。」
第三者の高位とも思われるエルフが現れて難癖をつけてきたエルフをたしなめてくれました。
エルフの方なので外見からは年齢が想像できませんが周りのエルフの方々の態度からそれなりの立場のエルフのようです。
「申し訳なかった。先程の発言は撤回する。」
先程までの態度と打って変わってあっさりと発言が撤回されました。
仲裁に入ってくれたエルフの方が一瞬、私達の事を観察するような視線を向けてきましたがすぐに視線をそらして他のエルフの一団とともに去っていきました。
「一時はどうなるかと思いましたが、理解ある方が仲裁してくれて助かりましたね。」
「いや……あまり良くないな。」
「なんでですか?」
「さっき仲裁に入った方こそがカスケード殿だからだ。」
ということは、さっきの一連の流れは仕込みでこちらを観察するのが目的だぅたのでしょうか?
真相はわかりませんがマークされているのは間違いなさそうです。
エルフの里の観光を終えた私達はシゲン様の邸宅に戻った後、さっそくダグラス先輩に先程の事の顛末を報告しました。
そして、調査に出ているシキシマさんを除いた全員で作戦会議をすることになりました。
「我々がここに来たのも時期が時期だけに警戒していただろうが、まさかカスケード殿本人が直接探りを入れてくるとは…流石にこちらの動きまではバレていないだろうが、かなり警戒されていると見たほうがいいな。」
「すみません。私が呑気に観光なんかしていたから…警戒されて任務に支障が…。」
「いや、君に非はない。おそらくカスケード一派は遅かれ早かれ我々に接触する機会を伺っていたのだと思われる。カスケード殿からしたら我々が白だった場合は外界から来た者への偏見を諌めて君に好印象を持たせることごできるし、黒だった場合はマークしていぞと牽制することができる。我々の目的が掴みきれていないからこその一手なのだろう。こちら側からもカスケード一派がどこまでこちらのことを把握しているか分かればやりやすいんですが…誰か情報源になってくれそうな方はご存知ありませんか?」
「カスケード側の情報を流してくれそうな人物か。おらんこともないんじゃが…どうかのう。」
シゲン様が言葉を濁しながら意味ありげにゼイノビさんに視線を向けます。
「今は時期が悪いです。ここ最近は私もジェスターとは会えてすらいません。」
ジェスターという名前を挙げたゼイノビさんの声には少し怒気のようなものが感じられました。
ジェスターさんとの間に何かあったのでしょうか?
そんな私の疑問を察したのかシャマルさんが続けて口を開きます。
「別に隠すようなことではない。ジェスターと私はいわゆる恋仲というやつだ。ジェスターは私との付き合いを通じて穏健派に近い考えを持つようになってくれた。だだ、ジェスターの親はあのカスケード殿でな。」
つまり、ゼイノビさんとジェスターという方はお互いの立場によって引き裂かれた恋人同士で、ここ最近の騒動で密会することも難しくなったということなのでしょう
まるでどこかの恋愛劇にありそうな展開で、シャマルとかが聞けば喜びそうな話です。
「とにかく、今はジェスターと接触することは難しい。残念ながらカスケード側の動きを知ることはできないだろう。」
「情報が得られないのは残念です。この後の動きはどうしましょう?」
「シキシマ殿の調査結果次第になるだろうが…悠長な動きをしていてはこちらが不利になる一方だ。なんとか先手を打ちたいところ…」
「なるほど、某の情報次第ということですか。」
ダグラス先輩の発言を遮るようにして、そんなに大きな音量ではないのに不思議と良く通るシキシマさんの声が響きました。
声の元を探してにして会議していた部屋を見渡すと、いつの間にか部屋の壁に背を預けるようにして立つシキシマさんの姿がありました。
「シキシマ殿、いつからそこに?」
「さて、いつからでしょうな。それはそうと、某が掴んだ情報が気になる御様子。であれば早速ですが報告させてもらうとしましょう。結論から言うとターゲットの御令嬢の居場所は特定できましたぞ。ただ、どうやら先方は定期に監禁している場所を変えているようてしてな、その候補場所も把握はしておりますが明日の監禁場所は当時にその中から選ぶ方式のようでした。つまり、今日の監禁場所はわかっておりますが明日の監禁場所はまた別で調べる必要があるということですな。」
「なるほど、今晩決行する分には問題ないが決行を先延ばしにするとまた調査からやり直しになるということですか。では次に、警備が強化されてきていると思われます。かいくぐって作戦を遂行することが可能でしょうか?」
「確かに警備の数を増やしている様子でしたな。ただ、それで某の姿を捉えられるようになるかといえば別の話。量を増やしたとこらで無意味。質を上げなければ某を捉えられますまい。奴らの目をかいくぐり見事に任務を果たして見せましょう。」
「流石は『朧霞』殿、頼もしい限りです。ジャド殿、魔導紙の準備は完了していますか?」
「出来てる。こちらはいつ決行してもらっても構わない。それと魔道紙の使用にあたっての注意点だが、使用後はちゃんと使用済みの魔道紙を回収してくるようにしてくれて。今回の術式はその術式上空間を入れ替えた点位の情報が魔導紙に残るからな。術式を解析出来るような実力が居れば何処に送ったかがすくにわかってしまう。」
「それならば処分してしまった方がいいのでは?」
「ターゲットのお嬢さんを回収した後に、この里から見つからずに連れ出す仕事が残ってるだろ。その時に流用するかもしれないから残しておいた方がいい。」
確かにその通りです。あくまでの今から決行しようとしているのは作戦の第一段階で、御令嬢を回収した後はカスケード一派の目をかいくぐって傭兵の国まで御令嬢を連れていく必要があります。
「それと、アンタは導氣は使えるような?別で導氣を少し流せば対となる魔道紙が光るっていう単純な物も準備した。お嬢さんを確保して転送する準備が整ったら使ってくれ。この魔道紙が使われるのを合図にこちら側で術式を発動させる。」
「了解しましたぞ。」
「どうやら全ての準備は整っているようですね。では、決行は今夜ということでいいでしょうか?」
「いいぞ。」
「問題ありませんな。」
「…わかった。」
決行部隊二人+サヤさんが了承したので作戦決行は今夜で決定となりました。
その後は夕食を済めせて作戦決行の時間まで各々時間を潰して過ごしました。
そして夜も深くなり、作戦決行に適した時間になるとジャドさんが用意した魔道紙と対になる魔道紙を設置した部屋に全員が集まります。
「それでは行って参ります。」
そう言い残すとシキシマさんは夜の闇に溶けるようにして姿を消し、後には静寂が残されました。
ここから先は戦闘要員ではない私やダグラス先輩に出来ることは何もないので作戦の成功を祈ることしかできません。
大人しくシキシマさんからの合図が来るまで待つことなります。
談笑するような雰囲気でもないので誰も何も喋らず妙な緊張感と沈黙が部屋の中を支配します。
静寂の中、どれくらいの時間が経ったのかはわからないですが、不意に部屋の中央に設置されている転移用の魔導紙の隣にあった準備完了の合図を出す魔道紙が発光し始めました。
「合図だ。どうやら上手くやったみたいだな。転送を始めるぞ。」
合図を受けてジャドさんが早速術式を起動しターゲットの御令嬢をこの部屋に転移させ始めます。
魔導紙が置かれた空間が一瞬グニャリと歪み元に戻った時には豪華な寝衣を着た少女が残されていました。
この少女がターゲットの御令嬢なのでしょう。
どうやらシキシマは寝ているところをそのまま転移させたようで、御令嬢は転移させられたことも知らずにスヤスヤと眠っています。
「成功…のようすね。」
「はい、一安心です。でも問題の御令嬢は眠っていますね。どうします?」
「一度起こして事情を説明しした方がいいか…いや、既に夜も遅い。騒がれても面倒ですし事情の説明は目を覚ましてからでも…。」
そんな話をしていると睡眠環境の変化からか御令嬢が目を覚ましてしまいました。
「う~ん。なんですの?騒がしい…。」
「目を覚まされましたか。御関心下さい。我々は貴方を助けに来た傭兵の国者です。」
すかさずダグラス先輩が安心させるような落ち着いた声色で話しかけます。
「?……はっ!ここは何処ですの?あなた方は何者ですの?」
「御関心下さい。我々は貴方を助けに来た傭兵の国者です。」
ダグラス先輩は寝ぼけて先程の説明を聞いていなかった様子の御令嬢に再度同じ説明をして理解を得ようと試みます。
「傭兵の国…余計なことを!今すぐにワタクシを元の場所に返してくださいまし。」
「落ち着いてください。貴方を連れて帰らなければエルフの里と貴国で戦争になる可能性があるのです。」
「そんなことはワタクシには関係ありませんわ!ワタクシはこの地で真実の愛と出会ったのです。だからワタクシを元の場所に、愛するジェスター様の元へ帰してくださいまし!」
「…なん…だと…。」
突然出てきたジェスターという名前に事態を静観していたゼイノビさんが絶句してながらもそう絞り出すようにつぶやきます。
…なにやら面倒くさいことになりそうな予感がしてきました。
シキシマの活躍はバッサリと全カット。
シキシマ流の秘奥義の壁抜けなどを駆使した大活躍があったのですが、今章の主人公であるレリアが見ていないので描写がありません。
そして唐突に修羅場の匂いが……




